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九戸政実、異世界で国を興す! ~今度の家臣はエルフとドワーフと、いたずら好きの妖精です~  作者: 凡夫 成


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第6話 殿、城より飯が先です!


マサザネの国づくりは、まさかの共同便所から始まりました。


ようやく築城に取りかかれると思った矢先、今度は深刻な食料不足が発覚!


戦国武将の兵糧管理と異世界の魔法で、この危機を乗り越えられるのでしょうか?


「完成じゃあああ!」


朝の丘に、ガルドの雄叫びが響き渡った。


その前には立派な石造りの建物。


頑丈な壁。雨を防ぐ屋根。男女で分かれた入口。内部には水が流れる仕組みまで備わっている。


政実は腕を組み、満足げに頷いた。


「見事なものじゃ」


「だろう!」


「まさか、これほど立派な厠ができるとはのう」


「厠じゃねえ! 俺の最高傑作だ!」


「厠じゃろうが!」


ピピが建物の屋根に降り立った。


「ねえねえ! これ、お城の名前にしようよ!」


「なんと?」


「おトイレ城!」


「却下じゃ!」


リシアが隣で小さく笑っていた。


「でも、衛生設備を先に造ったのは正解ね。人が集まれば病気も広がりやすいもの」


「うむ。ガルドの判断は正しかった」


「お、おう……」


褒められたガルドが、照れ隠しに髭を撫でる。


そこへベルンが駆け込んできた。


「大変だ! マサザネ!」


「なんじゃ。また魔物か?」


「違う!」


「橋がさらに壊れたか?」


「違う!」


「では、厠が詰まったか?」


「完成したばっかりだろ!」


ベルンは肩で息をしながら言った。


「食い物がねえ!」


政実の顔から笑みが消えた。


*


丘の広場に、残っている食料が並べられた。


麦の袋が三つ。


干し肉が少々。


硬い黒パンがいくつか。


野菜は、しなびた根菜が籠に半分。


「……これだけか?」


「これだけだ」


ベルンが答える。


「村の倉庫はオーガにぶっ壊された。逃げるときに持ち出せたのが全部だ」


政実は食料と村人たちを見比べた。


七十余名。


老人も子供もいる。


「一日どれほど食う?」


「普通に食えば三日、薄く分けても五日ってところだな」


「五日か……」


政実は腕を組んだ。


前世でも、兵糧の不足は幾度となく経験した。


いかに強い兵でも、腹が減れば戦えぬ。


そして兵糧が尽きた城の末路を、誰よりも知っている。


「まずは食を分ける。働ける者は仕事を分担し、食料を確保する手段を探すのじゃ」


「待って!」


ピピが手を挙げた。


「なんじゃ?」


「あたしのおやつは?」


「ない」


「ええええっ!」


「皆の飯が足りぬのじゃぞ!」


「じゃあ、あたしの干し肉三倍は!?」


「まだ覚えておったのか!」


「約束は大事!」


「そもそも、わしは約束しておらぬ!」


ピピは両手で顔を覆った。


「ひどい! 国ができる前から増税だ!」


「何の税じゃ!」


リシアが吹き出した。


ガルドは腹を抱えて笑っている。


「がはは! こりゃ先が思いやられるな!」


政実は深いため息をついた。


国づくりとは、城を造る前から騒がしいものらしい。


*


「食料を増やすには、畑じゃな」


政実は村の地図を広げた。


元の村には畑が残っている。


だが、橋は落ち、オーガが戻ってくる危険もある。


「収穫できる作物はあるか?」


「地芋と豆なら少しある」とベルン。


「地芋?」


「知らねえのか? 土の中にできる芋だ」


「ほう。食えるのか?」


「当たり前だろ!」


「この世界では、何が食えるか分からぬからのう」


そう言うと、ピピが得意げに飛び上がった。


「森には食べ物いっぱいあるよ!」


「本当か!」


「木の実! キノコ! 甘い実! それから虫!」


「最後は遠慮したいのう」


「焼くとおいしいよ?」


「ますます遠慮する!」


リシアが手を叩いた。


「森の食べ物なら私が案内できるわ。ただし、採り尽くすのは駄目よ」


「承知した。来年も生えるだけ残すのじゃな」


「ええ。それと、毒のあるキノコも多いから、勝手に採らないこと」


「聞いたか、ピピ」


「聞いたー!」


「おぬしは昨日、赤いキノコを持ってきたじゃろう」


「あれは飾り!」


「わしの枕元に置くな!」


「かわいかったのに!」


リシアは笑いながらも、真面目な顔に戻った。


「森の恵みだけで七十人を養うのは無理よ。畑に戻る必要があるわ」


「うむ。ならば、双方を同時に進めよう」


政実は地図に二本の線を引いた。


一つは森へ。


もう一つは元の村へ。


「食料を集める者と、それを守る者を分ける。魔物が現れたら戦わずに退く」


ベルンが頷いた。


「それならできそうだ」


「ただし、種まで食ってはならぬぞ。次の収穫がなくなる」


そこへ年配の女が口を挟んだ。


「坊や、畑のことは私たちに任せな」


「坊や……」


「私はハンナ。畑を四十年やってきた。種をどれだけ残すかくらい、あんたより知ってるよ」


政実は一瞬黙り、それから頭を下げた。


「では、ハンナ殿。頼む」


「殿なんていらないよ。ハンナで十分さ」


「……承知した」


ピピが笑う。


「マサ、おばあちゃんに負けた!」


「負けたのではない! 適材適所じゃ!」


*


昼前。


食料確保のため、三つの組が動き始めた。


ハンナとベルンは、元の村の畑へ。


リシアは村人数名を連れて森へ。


ピピは空から魔物の動きを見張る。


そして政実は――。


「なぜ、わしだけ芋を洗っておるのじゃ」


沢のそばで、泥だらけの地芋を洗っていた。


ガルドが隣で笑っている。


「がはは! 大将が芋洗いか!」


「おぬしも働け!」


「俺は食料庫を造ってんだよ!」


ガルドは丘の斜面を指さした。


そこには土魔法で掘られた小さな穴がある。


「涼しくて乾いた場所を選んだ。食料を置くには悪くねえぞ」


「ほう。よくできておる」


「だろ!」


「厠より立派にしてはならぬぞ」


「なんでだ!」


「食料庫のほうが小さいと、おぬしが怒りそうでのう」


「誰が便所と張り合うか!」


ベルンが遠くから叫んだ。


「おーい! 芋、追加だ!」


荷車には土のついた地芋が山積みだった。


「これだけあれば、しばらく食いつなげる!」


政実は思わず立ち上がった。


「見事じゃ!」


「ただし、まだ畑には残ってる。全部運ぶには道を直さねえと駄目だ」


「なるほど。やはり道か」


政実は地図を取り出した。


「ガルド、元の村まで安全に通れる道を造れぬか?」


「橋が落ちてんだろ?」


「浅瀬を通す道ならどうじゃ」


「地面を固めるくらいならできる。ただし魔力を使う。今日中に全部は無理だ」


「ならば、少しずつでよい」


ガルドは不思議そうに政実を見た。


「お前、本当に城を造りたいのか?」


「無論じゃ」


「さっきから畑だの道だの、そんな話ばっかりじゃねえか」


政実は芋を一つ持ち上げた。


「城を造るのは、民を守るためじゃ」


「おう」


「民が飢えておれば、いかに立派な城があろうと意味がない」


ガルドはしばらく黙った。


そして、にやりと笑った。


「……気に入った!」


「何がじゃ?」


「お前の城造りだよ。見た目より中身ってわけだな!」


「そういうことじゃ」


「よし! なら俺が大陸一の食料庫を造ってやる!」


「大きすぎるものは要らぬぞ!」


「地下五階くらいでどうだ!」


「芋をどれだけ貯めるつもりじゃ!」


*


夕方になると、森へ向かったリシアたちも戻ってきた。


籠には木の実、食べられるキノコ、野草が入っている。


「これだけあれば、今夜は温かいスープが作れるわ」


「ありがたい!」


「ただし、調理の仕方を間違えるとお腹を壊すから気をつけて」


ピピが飛び込んできた。


「お腹を壊す!? それなら敵に食べさせれば――」


「やめぬか!」


「まだ何も言ってない!」


「言わずとも分かる!」


リシアが首を傾げた。


「この子、いつもこうなの?」


「いつもじゃ」


「ひどい!」


「事実じゃ!」


そのとき、ハンナが大きな鍋を運んできた。


「ほらほら! 喧嘩してないで飯にしな!」


鍋の中には、地芋と野草、少量の干し肉を煮込んだスープ。


香ばしい匂いが広がった。


村人たちが次々と集まってくる。


「うまそうだ!」


「久しぶりに温かい飯だ!」


子供たちが嬉しそうに器を差し出した。


政実はその光景を静かに眺めた。


かつて九戸城に籠もったとき、兵糧の不足に苦しむ者たちを見た。


食べ物がなくなれば、誇りも武勇も役に立たぬ。


だが、今は違う。


エルフが森から恵みを運び、ドワーフが食料庫を造り、人間が畑を耕す。


誰もが、自分にできることをしている。


「……よいものじゃな」


思わず呟いた。


するとピピが肩に止まった。


「マサ、どうしたの?」


「いや。皆が飯を食う姿は、見ていて飽きぬと思うてな」


「じゃあ、あたしもいっぱい食べる!」


「おぬしは先ほど食べたじゃろう」


「別腹!」


「その小さな身体のどこに別腹がある!」


*


食事が終わる頃、ベルンが政実の隣に座った。


「なあ、マサザネ」


「なんじゃ?」


「今日集めた食料、何日分になる?」


「節約して十日ほどじゃろう。明日も収穫できれば、もう少し延びる」


「十日か……」


「安心するには早い。冬まで三か月ある」


ベルンはため息をついた。


「やっぱり厳しいな」


「うむ。じゃが、一つずつ進めればよい」


「……お前、時々すげえ年寄りみたいなこと言うな」


「気のせいじゃ」


「昨日なんか、『昔の戦では』って言ってただろ」


「昔話が好きなのじゃ」


「十歳の昔話って何だよ!」


政実はそっぽを向いた。


正体を明かすには、まだ少々早いようである。


そこへハンナがやってきた。


「マサザネ。明日から、食料の管理は私に任せな」


「よいのか?」


「あんたは城を造るんだろ? だったら、飯のことまで全部抱え込むんじゃないよ」


政実は驚いた。


前世では家臣に仕事を任せることも多かった。


それでも今は、すべて自分で確かめねばならぬと思っていた。


守れなかった命への悔いが、知らず肩にのしかかっていたのだろう。


「……そうじゃな。頼りにしておる」


「任せときな!」


ハンナが笑う。


政実も、ようやく肩の力を抜いた。


*


夜。


皆が眠りについた頃、ピピが政実の枕元へ飛んできた。


「マサ! マサ!」


「……なんじゃ。今度こそ厠が壊れたか?」


「違う!」


「では、食料庫か?」


「違うってば!」


「ならば寝かせてくれ……」


ピピは政実の鼻をつまんだ。


「むぐっ!」


「大事な情報!」


「分かった! 放せ!」


ピピは真剣な顔で囁いた。


「森の向こうに、誰かいるよ」


「人か?」


「うーん……人みたいだけど、耳が変!」


「耳?」


「頭の上に、ぴょこんって!」


政実は身体を起こした。


「エルフとは違うのか?」


「違う! あと、尻尾もある!」


「……尻尾じゃと?」


ピピは頷いた。


「それに、すっごく速いの! あたしが空から追いかけても、木の間をすいすい走っていくんだよ!」


政実はしばらく考え込んだ。


エルフ、ドワーフ、ピクシー。


この世界には、まだ知らぬ種族がいくらでもいるらしい。


「何をしておった?」


「食べ物を運んでた!」


「ほう」


「大きな鹿を担いでたよ!」


政実の目が光った。


「鹿……!」


「うん!」


「それは、実によい情報じゃ!」


「え?」


「食料に詳しい者なら、狩りの仕方を知っておろう!」


ピピは首を傾げた。


「でも、怖そうだったよ?」


「恐ろしいのは魔物だけで十分じゃ。まずは話してみねば分からぬ」


政実は立ち上がった。


「明日は、その者たちを探すぞ!」


「今から行かないの?」


「夜は寝る!」


「ええーっ!」


「腹が減っては戦はできぬ。眠らずして国も造れぬ!」


ピピは納得したのか、政実の枕に潜り込んだ。


「じゃあ、おやすみ!」


「……なぜ、わしの枕で寝る」


「柔らかいから!」


「自分の寝床に戻らぬか!」


「ここがいい!」


政実は天井を見上げた。


城を造るために、まず厠を造った。


国を造るために、まず飯を確保した。


そして明日は、尻尾の生えた者たちに会いに行くらしい。


「……異世界の国づくりは、まことに忙しいのう」


そう呟いた政実の隣で、ピピはすでに寝息を立てていた。


かつて奥州で五千の兵を率いた武将。


今や、その寝床は小さな妖精に占領されている。


天下泰平への道は、まだまだ遠かった。


――第6話・完――



第6話をお読みいただきありがとうございます!


今回の主役は、まさかの食料問題!


立派な城があっても、食べるものがなければ暮らせません。


マサザネも少しずつ、戦国武将から国づくりの指導者へと変わり始めています。


そして今回、新たにハンナが登場しました! 食料管理や農業を支える、頼もしい存在になりそうです。


さらに、森の向こうには謎の尻尾を持つ種族が……?


次回、第7話「獣人は話を聞かない!」


今度は身体能力抜群の獣人たちが登場!


戦国武将マサザネと、力自慢の獣人たち。果たして話し合いは成立するのでしょうか?


次回もお楽しみに!

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