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150 オペレーション・エクスクルード 状況開始


  ■事件発生から三日目 十一時三分

 ホテル・ベシュナイテバーグ二階の中ホールにある統合本部とは別に、二階の関係者用控室……窓越しにアムセルンド公国領事館側を見渡せる部屋に、作戦実行本部が設立される。

 これは、統合本部では市側や警察や軍部の高官など多数の者たちが詰めている事から、関係各所の政治的な思惑を一切排除する必要があったのだ。

 つまり、部外者から横ヤリを入れられない、純粋な作戦指揮所の設置をオレルが提案してそれが認められたのだ。


 その『作戦実行本部』には今現在、四人の人物が詰めている。

 軍事アドバイザーとしての立場から、いつの間にか実行部隊の最高責任者に変わってしまったオレル。

 そして現地北西州軍で警備隊を編成した州軍のベルメル大佐。彼は領事館を警備隊で取り囲み、警察力よりもより強い武装と組織力を持って周辺警戒の指揮を執る。

 更に、オレルとベルメル大佐を二本柱とする実行本部と、二階中ホールに設営された統合本部との連絡係を任されたオスティン・フリートラント。

 最後に、オレルの麾下にあるマザーズネストが通信担当者として配置されていた。


 “領事館の見取り図は手に入れたものの、屋内の情勢がまるで掴めていない”

 ラムダ班を突入させ、無事に人質を救出させるためにも、今現在の領事館内の様子を把握する必要性がある。これを大前提とする事で意見を一致させた彼らは、隠密での情報収集作戦を開始させる手はずを整えた。

 何故この場にカール“ジョーカー”オーウェンミュラーとレベッタ“ロッタ”ハウトリムセン、そして魔法使いの少年ファウストの三課メンバーがいないのかと言えば、つまりはそう言う事。オレルの命令で既に作戦配置についていたのである。


「マザーズネストよりオールユニットへ、コヨーテより通達送る。情報収集作戦“オペレーション・エクスクルード”の実行が統合本部で認可された。これよりオペレーション・エクスクルードを実施する。各ユニットは所定の位置に付き次第コールせよ」


 作戦実行本部の室内中央に据えられた大きなテーブルの上、アタッシュケースの蓋を開けて中身の機材を剥き出しに、マザーズネストは三課のメンバーたちに呼びかける。

 断続する電気信号音をスピーカーで拾い、その音を文字化する通信手段が普及されたばかりの世界で、自身の言葉と相手の言葉そのもので会話交信するこの「念話交信機・送受信機」を目の当たりにしたベルメル大佐とオスティンは、目をまん丸にしながら興味深そうにマザーズネストを見詰めている。


(こちらロッタ、領事館正門前についた。拡声器の準備は完了、現地軍警備隊も私の護衛に就いてもらっています)


 オレルの正規軍服を仕立て直して着込んだロッタは、襲撃者たちが乗って来て破壊し、領事館正門を通せんぼしてしまった輸送トラックの前にいる。

 厳密に言えば、動かせない輸送トラックの道路側に現地警察が「やぐら」を組み立て、そのやぐらに登る準備をしている。──凛々しい軍服を来た彼女が、やぐらの上から領事館に向かい、拡声器で呼びかけるのだ。


(こちらファウスト、裏門の鉄柵前です。こちらの裏門に敵はいませんが、領事館の裏口についた二人の敵がこちらを監視しています)


 領事館裏口側の壁に張り付き、息を殺しているのは魔法使いのファウスト。使い魔のウサギを抱え、静かに中の様子を伺っている。


(こちらジョーカー、準備完了。所定位置についている)


 ジョーカーはホテルベシュナイテバーグ二階の一番北側にある部屋にいる。室内にある剥き出しの梁にロープを結びつけ、少しだけ開いた窓に向けて垂らす準備を終えていたのだ。


 これは、アムセルンド公国プロニスラフ領事館の駐在武官であるロッタを主軸とした陽動作戦。

 拡声器を使うロッタが、領事館に向けてガンガンと大きな声を飛ばして、その騒音に紛れてファウストとジョーカーを工作員として領事館内に送り込み、情報収集を行わせようとしているのだ。

 どうやら敵の武装集団は古代宗教の原理主義者で、アムセルンド人を極度に嫌っているらしい ──数日前の深夜にカールとレベッタが襲われた時も、彼らはアムセルンド人を汚らしく罵っていた

 事件発生直後から、地元警察が人質解放の要求交渉を行って来たが、領事館内からは一切の反応は無かった。だが、当事者のアムセルンド人でもある公国領事館の駐在武官が交渉役として言葉を発すれば、籠城している敵も何かしらの反応を起こすとオレルは考えたのだ。まさしくこれが潜入の絶好のチャンス。


 ロッタの交渉が始まり、敵の注意が正面門に行ったところで、ファウストは使い魔のウサギ『エルチェ』を領事館敷地内に放ち、領事館の魔力探知を行う。──事件発生から三日が経過しても、屋内から悲鳴や鳴き声が拾えないのは、鎮静化の魔法が作用しているのではと考えたのだ。

 敵が人質に魔法行使したかを確認し、救出作戦が開始された際には敵にカウンターの魔法が有効かを模索するための単独行動。魔法使いの少年はパルナバッシュ政変をその身で経験し、オレルも信頼するエージェントに成長していたのである。

 そしてロープを使って領事館敷地内に降下するジョーカーは、降下先が木陰になっており、領事館側からは死角となっているのを幸いとして、そこを拠点に領事館へと潜入する。


 魔力探知とカウンターマジックの可能性はファウストが、そして実際に潜入して自分の目で確かめるのはジョーカー。

 彼らが無事に作戦を遂行して生還するためにも、ロッタは精一杯知恵を絞りながら、声を張り上げ続けなければならないのであった。


「こちらマザーズネストよりオールユニットへ。コヨーテからオペレーション・エクスクルード開始の指示が出た。十一時五分、状況開始せよ!」



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