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148 軍事アドバイザー


  ■八時三十二分

 ホテル・ベシュナイテバーグの二階中ホールに設立された統合本部において、籠城事件解決に向けた第一回目の合同会議が行われた。

 今現在関係各所が入手している情報は共通認識を持つために、この会議の場で報告された。

  以下の通り

 ・武装集団の総数は、推定で三十人

 ・武装集団の構成は人間、獣人、亜人など雑多である

 ・籠城を開始してから三日が経過したが、人質の安否は不明

 ・人質の人数はアムセルンド人約三十名と領事館職員として働くフォンタニエ人二十名

 ・武装集団側からの要求は一切無く、拡声器で呼びかける警官にも一切反応しない

 ・領事館内から外部を監視しており、警官隊が領事館の敷地内に踏み込もうとすると、威嚇射撃される


 これらが報告された内容なのだが、正直なところ誰もが発生から三日も経過しているのにこの程度なのかと感じるほどに、極めて情報は薄い。

 もちろん、この場でフォンタニエ中央軍FDIAのオスティン・フリートラントは、武装集団が古代宗教の信者たちで構成されていると言う内容を伏せている。それが何を意味しているのかさっぱり分からないと言うのが彼の本心であり、いたずらに原理主義の団体名を発表し、憶測の応酬が始まるのを嫌ったのだと考えられる。

 また、武装集団がアムセルンド公国人でないのは明白なのだが、フォンタニエ人で構成されているならば、公国との外交関係上保障問題に発展する事から、報告は時期尚早と判断したのかも知れなかった。

 当然、この会議の後にオスティンはオレルにこの事を報告するのだが、オレルは統合本部の会議前に面会したカールたちから聞かされていたのであった。


 統合本部の方針としては、間違い無く最優先で問題解決を図る事。それに対して関係各所は最大限の協力体制を確立させる事で一致したのだが、やはりフォンタニエ側は奥歯に物が挟まったような表現に終始している── これはオレルが感じたアムセルンド公国側への配慮だ

 武装集団側との交渉が始まったとしても、身代金として金品を要求して来るならばそれに応じなければならないが、果たしてフォンタニエと公国との拠出金割合がどの程度になるのか。

 また、人質救出作戦を強行したとして不孝にも被害者が発生した場合、フォンタニエと公国どちらが遺族に賠償金を払うのか。その拠出金の割合など。

 いずれにしても領事館はアムセルンド領土となるため、下手に判断して動いて失敗するよりも、オレルを代表者とする公国側の指示や要請に出来るだけ従い「公国側の意向で動いたのですよ、だから過失割合は低いですよね?」と言える環境を目指しているのだと判断される。


 だが、フォンタニエ側とのそんな及び腰が、オレルにとっては好都合だったのだ

 人質救出作戦を強行する可能性が高いこの状況下において、人質救出の実働部隊を提供するフォンタニエ側に釘を刺せば、及び腰のフォンタニエ側が余計な詮索をしなくなる。

 つまり「あの部屋には突入するな!」「このエリアでは発砲するな!」と、いちいちオレルが注文出来るのである── これはオレルがフォンタニエ行きの特命を受ける際に、ヤーズフェルト公から受けた謎の命令が起因している。

 “人質の生命よりも、領事館の建物及び資産を優先せよ”

 ヤーズフェルトの命令が果たして裏金なのか、それとも何かしらの秘密めいた財産なのかは今現在分からない。

 だからこそ、それらの状況全てに対応出来るよう、オレルは会議の席で声高らかに主張したのである。


「アムセルンド公国領事館は、公国領土である。人質籠城事件の一刻も早い解決のために貴国が全面協力を申し出てくれたのは心より感謝する。だが公国領土において作戦活動するならば、公国の臨時代表者である私の指示に従ってもらいたい」


 主導権を握り、事件の解決を目指しながらもヤーズフェルトの謎を暴こうとするオレル

 国際問題に発展する前に事件解決を図りたいが、能動的に動いて失敗し、公国側から後ろ指を刺される愚を何とかして避けたいフォンタニエ

 ──これで、互いの思惑は一致したのだ──


 会議の席でオレルは先ず提案する

 領事館の見取り図が欲しい、建物の間取りが分からなくては救出部隊を突入させても犬死にが増えるだけ。よって、フォンタニエ側が保護した公国領事館の駐在武官レベッタ・ハウトリムセン少佐を協力者として立場を保障し、見取り図の作成を行わせる。

 その後に、彼女はネゴシェイター(交渉人)として武装集団との交渉役にさせるので、地元警察側で彼女の警護隊を編成して欲しい。

 また、いくら見取り図を作ったとしても、どの部屋に武装集団が潜んでいて、どの部屋に人質たちが軟禁されているのか分からなければ、救出作戦自体構築出来ない。よってアムセルンド公国側で潜入調査を開始する。

 アムセルンド側では潜入調査に適した公国人の人材を確保しており、魔法使いも随行させて来た事から、領事館内部の情報を大至急調査させる。


「また、人質救出作戦が具体的に発動した際や、武装集団側との交渉が進み人質が解放されるケースを想定して、プロニスラフ市と警察側に、人質たち全てが収容出来る規模の救護所設立をお願いしたい。無論、救急救命が必要な状況も考えられる事から、複数名の医師と看護師の確保も要請する」


 オレルは市長と警察署長から視線を移し、北西州軍のベルメル大佐とラムダ班の指揮官であるトビアス・ブルック大尉を見据える。


「ベルメル大佐殿に特にお願いしたいのは、ラムダ班が突入訓練を行える場所の確保です。駐在武官のハウトリムセン少佐が作成した見取り図、そして潜入調査の結果をいち早く情報提供しますので、現地軍による訓練場所の確保を早急に行い、ラムダ班の突入訓練に充ててもらいたいのです」


 このオレルの要請に対して、ベルメル大佐とブルック大尉は快諾する。まさしく"机上の空論"では存分に力が発揮出来ない事を知っていたからだ。


「領事館から悲鳴や物音が聞こえないのが不気味です。恐ろしいほどに静まり返っているのが非常に気になりますが、武装集団の忍耐力や人質たちの気力体力を鑑みても、もってあと三日。悲劇的な結末にならぬよう、皆さんの協力をお願いします」


 方針は立った。一筋の光明が差すように具体的な行動も見えた。

 ヤーズフェルトの謎を含みながらも、いよいよ救出作戦は終着駅が先に待ち構えるであろう、レールの上を進み始めたのだ。


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