146 プロローグ ~集結~
神聖デルフィーヌ教 サイトス原理主義 バルテレミー派と推定される、謎の武装集団による領事館襲撃 人質籠城事件が発生してから三日目の朝を迎えた。
未だに犯人側からの要求や政治的主張などの公式発表は無く、また領事館を取り囲む地元警察が犯人側との接触を試みても一切無視されており、アムセルンド領事館は不気味なほどに沈黙を保っている。
事件発生から三日目
■ 七時三十五分
アムセルンド領事館隣のホテル・ベシュナイテバーグ前に、六台の軍用トラックが到着。中から武装したフォンタニエ陸軍の兵士たちが次々に降り立ち、ホテル内へ持って来た荷物を運び込む姿を市民が目撃する。
──これは、人質救出部隊としてフォンタニエ首都から派遣された、フォンタニエ陸軍治安介入部隊ラムダ班の兵士たちである。
昨年に新設されたフォンタニエの特殊部隊『陸軍治安介入部隊』から選抜された兵士たちを主軸に、陸軍工作部隊や狙撃部隊の選抜兵士を合わせて三十人規模の時限特殊小隊を編成。今回の人質救出作戦にのみ有効となるラムダ班としてこの地に赴いたのである。
ホテル・ベシュナイテバーグの二階中ホールを接収し、統括本部と定め、プロニスラフ地元警察幹部とプロニスラフ市長、フォンタニエ陸軍地元管区参謀部のウルリッヒ・ベルメル大佐、更にはフォンタニエ中央軍防諜部隊FDIAのエージェントであるオスティン・フリートラントが詰めている。
そして到着したラムダ班は、接収したホテルの一階大ホールを駐屯地とし、中ホールの統括本部から下りて来るであろう出動命令を前に、着々と出動準備を始めていたのである。
■同日 七時四十八分
ベシュナイテバーグの二課中ホールにある統括本部において、人質救出作戦に際しての指揮命令系統と編成が最終的に決定した。
アムセルンド公国との外交関係を重視する立場上、政治的配慮も必要と言う事で、各種の作戦発令命令……つまりゴーサインを出すのは、統括本部責任者のプロニスラフ市長が行う事になった。
現地軍情報将校のベルメル大佐とFDIAのオスティン・フリートラントは、オブザーバーとして市長に助言を与える立場にとどまり、その現地軍と地元警察は突入作戦には関与せず周辺警戒部隊として展開する事で合意。
なお、ラムダ班の指揮官であるトビアス・ブルック大尉は、ラムダ班兵士への直接行動指揮権を持つが、領事館敷地内においての部隊展開の命令下達については、アムセルンド公国より派遣される軍事アドバイザーの合意が無ければ許可されない。つまり他人の家に土足で上がるならば、家の縁者の許可が無ければ許されないと言う図式になった。
このアムセルンド公国より派遣される軍事アドバイザーは、人質救出作戦に直接的に介入出来るほか、統括本部においても発言権が有される事が保障された。
つまり公国側の軍事アドバイザーは、救出部隊に直接指揮権を発動出来る事が認められつつ、統括本部に対しても方針について意見出来る立場が保障されたのだが、なぜこれほどまでに「赤の他人」が優遇されるかには、フォンタニエ側の思惑がある。
もし人質救出作戦が失敗して多数の死者が出たとしても、公国側に申し開きが出来るのだ ──お宅の軍事アドバイザーに従っただけだと
その思惑があるからこそ、フォンタニエ側はカールとレベッタの関係者二人をホテルに招き入れ、情報を求めた際は協力して欲しいと言って二人を手厚く匿っているのである。
かくして、現地側での体制は整った。
指揮系統は確立され、実行部隊の準備も整った。
後は最後のピースである公国側軍事アドバイザーの到着を待つだけ……
■同日 八時十五分
プロニスラフ現地警察の車両に先導され、ホテル・ベシュナイテバーグに政府車両が到着。アムセルンド公国からの軍事アドバイザーが降り立った。
二階中ホールの統括本部へ招かれたのだが、軍事アドバイザー"一行"を見た地元関係者たちはどよめいてしまう。
なぜならば、公国が派遣して来たのはいかつい制服で身を固めた陸軍の高級将官ではなく、略式ベレー帽を被った若き青年将校と少年少女の三人組であったからだ。




