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143 異例のブリーフィング ~征く者と留まる者~


「総員、気をつけっ!」


 レイザーの凛とした号令が広間の隅々にまで響き渡り、その場でくつろいでいたメンバー全てが反射的に立ち上がり、直立不動で入室して来たオレルを迎える。


「総員、我らが指揮官殿に敬礼!」


 背筋のピンと伸びた一糸乱れぬ敬礼に答えながら、オレルは手のひらを床に向かって軽く振り"着席せよ"とジェスチャーで指示を出す。

 ここは公国首都バルトサーリの市街地にある三課のセーフハウス。陸軍総局に呼び出されて特命を受けたオレルは、セーフハウスへ戻るや否や、部下たちに対して緊急のブリーフィングを開いたのである。


「諸君、陸軍総局 軍令部長通達で最優先指令が下された。もちろん秘匿命令が出ているので、この場で私から聞いた事は一切の口外を禁ずる!」


 ──昨日の十四時頃、自由貿易王国フォンタニエの主要都市の一つであるプロニスラフにおいて、人質籠城事件が発生した。発生した場所はプロニスラフにある公国領事館、謎の武装集団による襲撃により、約五十名ほどの公国職員が人質となっている。


 ブリーフィングにおいてこの旨の説明が発表されたと言う事は、我々三課の兵士たちはフォンタニエに赴いて人質解放作戦を行うのだ……この場にいる誰もがそう感じ、気持ちを引き締め始めている。


 ──今現在はプロニスラフの現地警察が人質解放交渉を行なっているが、武装集団側は未だに沈黙を貫いており要求などは発していない。

 近日中に現地警察に引き継ぐ形で、フォンタニエ中央軍特殊作戦グループがこの籠城事件を担当する事が決定した。しかし、領事館敷地内は公国領土である事から、このフォンタニエの特殊部隊が単独行動を行うのは、外交上の問題行為であると判断。政府間交渉を経て、総局より三課に命令が発せられた。


 なるほど、今回はフォンタニエの特殊部隊と合同作戦なのか と、三課の誰もが確信した瞬間、オレルは皆が想像していた状況を軽々と超える驚きの発表を行なったのだ。


「公国とフォンタニエは国際法規上、他国の部隊を国内に招き入れられる関係ではないとして三課の投入は白紙化され、あくまでも軍事アドバイザーの立場で若干名の入国が認められ、フォンタニエ陸軍の人質救出作戦を見守る事となった。現地に向かうのは、私とマザーズネスト、そしてファウストの三名に限定する!」


 これにはさすがのメンバーたちも驚いた

 バイパーとグリズリーは「おい、聞いたか?」とばかりに目をまん丸にして互いを見やり、シルバーフォックスはレイザーを見詰めて「あなたは知ってたのか」と責める。

 ハルヴァナとフルモナは自分たちの名前が呼ばれなかった事に心底ガッカリしたのか、極度の撫で肩のようにストンと肩を落とし、呼ばれた当の本人であるマザーズネストとファウストは、何で“本職”の人たちではなく自分なのか? と、蒼ざめた顔で慌てふためき目が回遊魚のように泳いでいる。

 

「マザーズネスト、ファウストの両名は三十分で支度を整えろ!ヒトハチマルマル発のプロニスラフ行き夜行寝台特急に乗車する」


 オレルは軽く敬礼する事でブリーフィングの終わりを告げ、察したレイザーが「気をつけっ!」と起立を促した。

 釈然としない顔付きで敬礼する三課のメンバーたちを尻目に、オレルは超然とした表情で広間を出て行くのだが、ふと何かを思い出したのか、レイザーに視線を合わせてこう言った。


「レイザー、私の部屋に」


 公国を統べる五大貴族の一つ、ヤーズフェルト家の当主フィリクスから陸軍総局を経て命令された内容。そしてその命令に対してのオレルの考察。

 そして何故主力の打撃メンバーではなく戦闘補助の人員を引き連れて行くのか──


 全てはこの後、レイザーに明かされる事となる。

 そしてその話の内容は人質籠城事件の解決のみにとどまらず、今後の公国と参謀情報部三課の未来にまでも広がるのであった。



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