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凛として外道のごとく 『ワレ、異世界ニテ特殊部隊ヲ設立セントス』  作者: 振木岳人
◆ プロニスラフの暗闇から見つめる者 編
133/157

133 印象と本質 ~邪教と言う名の正教~


 カールとレベッタが国立図書館に通い始めて四日が経過した。

 エルフなどの亜人にのみ広がった宗教に焦点を絞り、それに関連する書物を片っ端から紐解いているのだが、残念ながら未だに答えにはたどり着いていない。


 あの奴隷少女たちのタトゥーを見た際に、レベッタは「どこかで見た事がある」と話した。自身の記憶領域がムズムズするのを実感して、宗教的なシンボルマークなのだと直感で言い当てたのだが、たまたま昨日、調査中にとある宗教書で見つけたシンボルマークは、似ても似つかないものであった。

 図書館に乗り込んだ当初は意気揚々と調査に没頭していたのだが、四日目の今日は完全に意気消沈しており、めくるページのスピードも明らかに遅くなっていた。


 “不本意ながら”何事も無く午前中が終わってしまい、気分転換も兼ねて食事をしようと、二人は図書館のホールに隣接するカフェへと赴く。本日のランチタイムは羊肉と根野菜と香草のテリーヌ。魚や肉のゼラチンを利用し、箱型の容器に材料を入れて固めた保存食だが、具材を凝らして作り上げたそれはもう家庭の味ではなく、この寒い時期の御馳走として市民の胃袋に収まる逸品だ。


「領事館のお決まりの料理に飽き飽きしていたのだ。カールと一緒に行動を始めて、やっとフォンタニエの郷土料理に出会えた気分だ。外国に来た実感が湧いて来たよ」


 領事館の箱入り娘はほっぺを朱色に染めながら、満面の笑みを浮かべてほうばるのだが、対照的にカールは何やら物思いに耽っているのか、なかなかにナイフとフォークが進まない。テリーヌにかかっているソースを小さく千切ったバゲットですくい、口の中に放り込むのがせいぜいで、視線は雪化粧した街を焦点を合わさずに眺めているだけ。

 すると、どれだけの時間が過ぎたのかは定かではないが、女性のクスクスと言った笑い声が聞こえて来た。ハッとしたカールが背筋を糺すと、なんとレベッタが自分を見ながら笑っているではないか。


「どうしました?何かおかしい事でも?」

「なるほどなるほど、カールはまだ気付いていないようだな」


 ポカンと呆けた顔で見返すカールを、レベッタは上品に笑いながらからかっている。しかし、この後彼女の口から出た言葉は、なかなかにカールを唸らせる内容の言葉であり、レベッタの洞察力の鋭さを物語っている言葉であったのだ。


「多分、私が推察するに、君は公国陸軍内にある秘密諜報部隊の一員だと思う。その推察は前にも言ったよね?それでだ、君は諜報部員として一流の教育を受けたからこそ、この国で単独作戦の任務に就いているはずなんだ」

「否定はしませんが肯定もしません。私は民間委託の経済調査官として、今の仕事に従事しています」

「いや、それはそれで良いんだよ。私が言いたいのは別の視点からの事でね。その何と言うか……一流の教育を受けた君は、強靭な精神と不屈の闘志を武器に、常に超然とした態度を取っていると思っている。計算され尽くしたね。だが君は今、ぼんやりと物思いに耽る顔を私に見せてしまった」


 彼女の言葉にハッとして一瞬凍りつくも、情け無い表情で頭をポリポリとかく姿は、どうやら降参の意味。口に出してしまうと本当に負けた気分になってしまうので、ジェスチャーで示す彼の最後の抵抗だ。


「いやいや気を悪くせんでくれ。私はね、嬉しいのさ。四面楚歌で闘い続ける諜報部員が、私の前だけは自然体でいてくれる。それが嬉しい事でなければ、一体何だと言うのだね」


 ──終始マイペースで笑顔を絶やさないこの人こそ、どこまで本気で言っているのやら と、まるで愛の告白のようなレベッタの言葉に肩をすくめる反応で返すカール


「ところで話は変わるのですが」

「おいおい、今一番良いところだったのに話を変えちゃうのかい?」

「駐在武官殿に手を出せば、副領事が伝説の剣を持って襲いかかって来そうなので、話題を変えます。調査内容の方針変更についてです」


 素っ気無く話題を変えられたレベッタは、そこは伝説の盾で立ち向かえよとブツブツ呟きながら、渋々と話題の変更に承諾をした。

 カールが打ち明けたのは、このまま亜人の宗教について書物を読み漁っても、肝心なあのタトゥーの印にたどり着けないのではと言う危惧。あれは間違いなく何かのシンボルマークであり、宗教的な拠り所があって成立しているのであろうが、調査の着手点を考え直さなければならないのではと告白したのだ。


「占星術にも出て来そうなタトゥー、魔法陣などにも描かれていそうなタトゥー。どこにでもありそうな雰囲気を醸し出しておきながらも、その印は調べてもまるで無かった。だが、タトゥーにするほどなのだから、よほどの誓いや願望があるはず……」

「我々が見落としているジャンルがあるのかも知れません。シンボルマークよりも、タトゥーにこそ意味があるのかも」

「タトゥーは呪文や呪文を圧縮した波形を模様にして身体に彫り込む呪術の一つ。その影響で体調や精神状態が変わり、戦士にも死者にも変わると言うが……。あの小さなマーク一つではなあ」

「ならば、あの小さなマークは、何かの組織やギルドのメンバーの証なのでしょうか?」

「いや、それは無いだろう。だって考えてもみたまえ、他言無用の秘密の組織が、タトゥーを彫って自分からバラすかね?」

「ならばやはり、何かの象徴と見るべきなのでしょう。私はこの象徴の庇護下にあると言う」


 食後のデザートで出されたカスタードクリームのミルフィーユを、パリパリと音を立てて割りながら口に運ぶレベッタ。せっかくのご当地甘味を口にしているのに、脳みそがフル回転でオーバーヒート目前である事がシャクに触るのか……こうも見つからないと、何か逆に怪しい気配を感じるな、邪教か!……と言い放つ。

 もちろん、古来より大多数の人々が信じる宗教側から他方の宗教を見れば、自分たち以外全てが邪教と言う風潮や観念はあったものの、決して暗黒の破壊神復活を望むような宗教は有史以来無かった。人間以外にも様々な亜人たちが肩を並べて生きるこの世界では、邪教の定義付けそのものがナンセンスだったのである。

 だが、彼女の苦し紛れの一言を、カールはバッサリと切り捨てなかった。もちろんそれに同意した訳ではなく、邪教と言う言葉に関連するワードを一つ一つ確認しただけなのだが、そこで気になる言葉を一つ、ポロリと口にしたのだ。


「……邪教ではないかも知れませんが、正教の可能性はあるかも知れませんね」

「うん?何だ、君は一体何を言っている?」

「プロニスラフの裏社会で見つけた亜人の奴隷少女、彼女たちの顔には宗教的意味合いがありそうな、謎のタトゥーが彫られていた。そしてこの街には宗教的意味合いのある施設がある。レベッタ、プロニスラフは近代工業の盛んな街であると共に、どのような意味合いを持つ街でした?」

「……神聖魔法発祥の聖地。まさしく君の言う正教か……」

「我々が調べるだけの価値はありそうですね」


 カールの表情に生気が戻って来た。

 彼は先ほどからかわれたお返しだとばかりに、両肩をすくめながら手のひらを左右に広げる。そして“どうだ”とばかりに、茶目っ気たっぷりのウィンクを放ったのであった。



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