↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/157

107 サタニック・スキル 『そうあれかしと願う人よ』 後編


 “万物と五大元素の祝福を受けて、今、我が身体に宿りし魔力の一片よ、我が命に従い発現せよ……ヒューマン・イグニション”


 マファルダの屋敷の奥深く、石壁に点々と据えられたオイルランプだけが、かろうじて進む道を示す地下通路で、オレルはそう呟いた。


 屋敷の正面側を起点として作戦展開する部下たちとは全く逆の方向から、単独でアタックを仕掛けたオレルは、裏口に立っていた警備員二名をその拳で行動不能にして門を突破。そしてたまたま巡回していた警備員二名に発見されるも、これも己の拳で切り抜けて屋敷の裏にたどり着いた。

 そこで発見したのは地下牢へ直通で降りる事の出来る通用口。事前に使い魔を差し向けて偵察していた、アンナベッラの報告通りであった。

 その赤錆に覆われた鉄製の扉を開けて、地下へ続く階段を静かに下り始めたのだが、暗闇に潜む敵の気配を察知して、いよいよ魔法の呪文を唱えたのである。


 使うはもちろん魔法拳。様々な前世で、様々な才能に恵まれたとしても、今のオレルが繰り出せる精一杯の合わせ技。

 若き大魔導師、そして拳聖の片鱗をかき集めて繰り出す……まるで祭りの後の余韻のような些細なスキル、正直なところ残りカスを集めたようなスキルであるのだが、これが実は強かったのだ。


(一本道のこの通路、数十メートル先のホールに繋がる。そしてそのホールには屋敷内から直通だ)


 屋敷に侵入した際は、敵の排除よりも敷地内に侵入する事を最優先としたため、殴る蹴るで相手を一瞬で気絶させて無力化したにとどめていたが、この地下牢においては、人質を救出したとしてもバイパーたちの合流をもって人質搬出を行わなければならない。

 つまりこのフロアにいる敵は、意識を取り戻して反撃して来ないように、完全に沈黙させる必要があるのだ。


(守衛の気配は二人……だな。まだこちらの動きに気付いてはいない)


 中腰の姿勢を保ち、足取りもしなやかに通路を進むと、守衛同士の会話が聞こえて来る。どうやら地上階で起きている異変に動揺しているようだ。

 確かに、防音性に優れた地下ではあるのだが、地上の建物に通じる階段から銃撃戦の様子が聞こえて来る。──近衛の警備員が装備するコッキング式単発ライフル銃の音はまばらで、三課の装備する自動拳銃の音の方が数で優っている事から、屋敷内の情勢は推して知るべしと言ったところ。まるで心配は感じられない。


(敵の位置は掴んだ、距離も近い)


 地下通路から顔の半分をスッ出して、ホールの様子を伺ったオイル。情報通り、そして気配の予測通り二名の守衛しかいないのを確認した瞬間、オレルの身体は引き絞った弓から放たれた矢のように、守衛に向かって飛びかかった。


「何だ?」

「誰だ貴様は!」


 電光石火の早技の如く、突如目の前に現れたオイルに対して、二人の守衛は反射的に身構えるも、長いライフル銃をオレルに向けるだけの猶予は与えられなかった。

 「……ふうんっ!」と言うオレルの掛け声とともに、彼は右足を大きく開いて守衛の前にズドンと置き、渾身の力を籠めて右手の平で守衛の腹を打ち抜いたのだ。そして、その前のめりになった勢いを殺さぬように、今度は大地を噛んだその右足を軸として瞬時に力を溜めて左側に前方向ジャンプ。もう片方の守衛の目前に距離を詰めながら、今度は左足でドンと地面を叩きながら、半身の体制で左ヒジをカチ上げる。──左ヒジのアッパーカットを、守衛のみぞおちにめり込ませたのだ


 方や腹に平手打ち、方やみぞおちにひじ鉄。これだけならば、守衛は苦悶でのたうち回るだけのダメージで済むのだが、それをオレルは許さなかった。オレルの一撃を喰らった二人の守衛は、呼吸の出来ない地獄の苦しみとは全く種類の違う苦しみ、、、まさに全身に火箸(ひばし)を押し付けられたかのような、鮮烈で鋭く、そして燃えるように熱い痛みを覚え、そのまま「ぎゃああああ!」と悲鳴を上げながら全身が火に包まれたのである。


 【魔法拳 ヒューマン・イグニション】

 火の属性波動による人体破壊技

 人の体内には大なり小なり必ず魔力が存在する。その魔力の波動を強引に火属性魔力に書き換えて暴走させ、人体発火現象を起こさせる魔法であり、魔力に乏しいオレルが編み出した、一撃必殺の魔法拳である。

 オレルが無理矢理ねじ込んだ火属性魔力、そしてその人が持つ固有魔力が全て火属性となって体内で暴走すれば発火現象を起こすしかなく、それが終わる時とはつまり、生命活動が終わる事を意味するのである。


 あっという間に燃え上がり、パチパチと脂が弾けて煙を燻しながら炭化してしまった二名の守衛。オレルはその二人の末路に興味などは無いとばかりに、ホールを後にもう一つの通路へ足を向ける。そこがつまり、個別の地下牢が並ぶ目標地点だ。


 通路の前に立つと、右側に五つほど木の扉が据えられている事が分かる。この中のどれかにコンチェッタが幽閉され、またこの中のどれかにアンナベッラの友人が幽閉されているのだろうが、オレルは扉を開けて中を覗く事を躊躇した。──何かの嫌な予感が働き、扉の取手に伸ばした手を途中で止めたのだ

 今のオレルにとって嫌な予感とは、まさしく敵の存在を意味する。ホールに立っていた守衛二人だけではなく、この地下牢にも敵性の存在が潜んでいると、本能が警鐘を鳴らしたのだ。


(感じる、コンチェッタと黒魔女の気配に混じり、息を潜めながら廊下の様子を伺う存在を。……敵意剥き出しにして、自分の魔力を練っているか)


「例の宮廷魔導師か。面白い、面白いぞ……」


 牢屋に潜む敵が痺れを切らして出て来るのが、オレルにとっては一番の安全策でもあるのだが、今は一分一秒が惜しい状況である。刻一刻とマザーズネストから状況の報告が入り、バイパーたち突入班が宰相マファルダの確保に成功して、彼女を拘束してトラックに戻り始めたとの連絡も脳裏に入った。

 ──宮廷魔導師と遊んでいる訳にもいかない。だが情報は欲しい──

 そう判断したオレルは、身体の力を抜いて魔法拳を放つ体制をリセットした。そしてそれに続く新たな手段として、彼はこう呟いたのである。


「……サタニック・オルガン (悪魔器官)開放開始……」


 それまで極めて無表情だったオレルが劇的に変わる。扉の"向こう側"を目を吊り上げて睨みながら、その瞳を朱色に輝かす。そして口を横にゆっくり広げて凶悪犯よろしく残酷な笑みを浮かべたのだ。そう、彼はゲヘナ・ウォーカーの血をたぎらせたのである。


「宮廷魔導師殿よ、貴様に夢を見せてやる。そしてその夢に心底酔いながら死んで行け」


 右の拳に力を籠める。その拳で扉を殴り付けて牢屋内に雪崩れ込む訳ではなく、ただふらりと扉の前に立ったまま、ダラリと下げた右腕の先で、ギリギリと爪すら手のひらに食い込みそうな勢いで、自分の拳を握り締めたのだ。


「……そうあれかしと願う人よ、そうあれかしと願う人よ。うたかたの夢をもって成就に応えよう……」


 オレルはそう呟くと、目の前に立ちはだかる扉に向かって、無造作ではあるが渾身の一撃で、ドカンと扉を蹴り破ったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。