元孤児令嬢と元はりぼて天才の演奏会
音楽の街グランヴェルに、新たな伝説が生まれていた。
登場人物はこの街を治めるグランヴェル伯爵と、街一番の楽器商オディロン。
そして、若きヴァイオリン職人のニコラだ。
伝説の始まりは、グランヴェル伯爵が音楽の才能を見込んで、路地裏から一人の孤児を引き取ったところから始まる。
才能を見込まれた少女には当然、ヴァイオリンが与えられた。
だが、伯爵家に存在するいかなる名器も、その少女の手にだけは、どうしても馴染まなかったのだという。
困り果てた伯爵は、街一番の商人を呼びつけた。
あの少女のためだけの、特別な一挺を探してくるように、と。
オディロンは抜け目のない商人だ。もちろんタダ働きなどしない。
しっかりと事前の値段交渉を済ませた上で、彼は伯爵からの無理難題を一体誰に任せるべきか、大いに悩んだ。
そうして選ばれたのが、若き楽器職人のニコラだった。
ニコラはこの街で知らぬ者はいない『神の手』と呼ばれた伝説の名匠の息子である。
だが、その時点での彼は、ヴァイオリン職人としては全くの無名に過ぎなかった。
伯爵からのあまりに重要な発注を、あえて無名の若者に任せる選択をしたオディロン――だが、彼は最初からニコラの真の才能に気づいていたのだ、と後の伝説は語る。
ヴァイオリンづくりを任されたニコラは、一か月の間、工房に引きこもってそのヴァイオリンを完成させたのだという。
それは、まさにその少女のためだけに生まれた、異形の一挺だった。
オディロンはその出来栄えに驚嘆し、これならば伯爵の期待にも応えられると、ニコラから楽器を受け取って早速、伯爵の元へと向かった。
――伝説の本番は、ここからだ。
その楽器の出来に確信を持っていたオディロンは、伯爵に対し、当初約束していた金額の三倍もの値段を請求した。
「このヴァイオリンには、それだけの価値がございます」
ところが、だ。
冷徹と噂される伯爵は、その要求を一蹴し、冷たくこう返したそうだ。
「三倍の値段などつくはずがない」
と。
この伝説を知る者が、まだ知らない者にこの話を語って聞かせるとき、ここでしっかりと、意味深な間を取るのが通例である。
オディロンは一瞬、冷や汗を流したそうだ。
さすがに三倍は吹っかけすぎたか、と。
――しかし、伯爵の真意は、全くの真逆だった!
一瞬言葉に詰まったオディロンに対し、伯爵は平然とこう続けたらしい。
「この素晴らしいヴァイオリンに、三倍などという値段がつくはずがない。安すぎる。私なら十倍の値段を出しても惜しくはない」
そう言って、最初に約束していた金額の十倍をポンと支払ったそうだ!
人々は口々に語る。
さすがは、至高の耳を持つ我らがグランヴェル伯爵だ。
さすがは、神の手の名匠の息子だ。名人が二代続いた、我が街は素晴らしい宝を得た、と。
ニコラは一躍、時の人となった。
それまで滅多にこなかったヴァイオリンの発注が山のように舞い込み、ニコラの作った楽器は、作れば作るほど飛ぶように売れた。
しかしニコラは、自分の元に直接やってきた発注を決して受けようとはしなかった。
今の自分があるのは、オディロンのおかげ。
すべての注文は、必ず一度オディロン楽器店を通すようにと、頑なに義理を貫いたのだ。
この話は伝説の後日談として語り継がれ、ニコラの才能を見抜いたオディロンの先見の明と、その恩義を決して忘れなかったニコラの誠実さを、街の人々は大いに称えたのだという。
――だが。
『名人に二代あり』などと周囲から持ち上げられるたび、ニコラ自身は、その話の主役は本当に自分なのだろうか、と首を傾げてしまう。
何せ自分は、今やっと己の納得のいくヴァイオリンを一挺拵えただけの、ただの駆け出しに過ぎないのだ。
しかも、あの伯爵に認められたヴァイオリンだって、自分の実力だけで作れたものとは到底思えなかった。
きっとあれは――作らされたのだ。
今でも不思議に思う。どうしてあのときの自分に、あのヴァイオリンを作ることが出来たのだろう、と。
実力だけではない。運だけでもない。
何かが己の背中を強く押し、何かが自分の手を支えて、あの不格好で頑強な『武器』を作らせていた。
そんな奇妙な確信を抱いたまま、あのヴァイオリンを作ってから、二年が過ぎた。
◇
工房に響く、小気味いいノックの音。
返事をするより早く、使い古した革靴が床を鳴らして入ってきたのは、やはりあの男だった。
「よう、時の人。相変わらず引きこもって木を削ってるな」
手にした高級なステッキを回しながら、楽器商のオディロンがニヤニヤと笑みを浮かべて入ってくる。
ニコラはため息交じりにノミを置いた。
「オディロンさん。言ったはずだ、今はこれ以上の注文は受けられないって。直接ここに来られても、俺は断るしかない。質の悪いものをたくさん作るより、ひとつひとつに力を入れたいんだ」
「そんなこと、言われなくてもわかってるよ。『楽器職人ニコラ作のヴァイオリンは、今ご予約いただくと三年待ちでございます。もちろん、予約を諦めて帰られても構いませんが、次にお見えになった際には、さて。五年待ちになるか十年待ちになるか。お約束出来かねますが』……ってな?」
今日は商売の話をしに来たんじゃないんだ、とオディロンは胸ポケットから、金箔が施されたいかにも格式の高そうな二枚の紙切れを取り出した。
それを、ニコラの作業台の上にパチンと置く。
「……なんだ、これは。演奏会の招待状か?」
「ただの演奏会じゃねえぞ。今、グランヴェルの街中の誰もが文字通り血眼になって引ったくり合っている、黄金の招待状だ。ヴァロア伯爵家の神童ジュリエットと、グランヴェル伯爵家の令嬢による、合同演奏会だよ」
その名を聞いて、ニコラの手が微かに止まる。
ヴァロア家のジュリエット。音楽の街に生きる職人で、その名を知らぬ者などいない。
「あの天才少女か。……確か、親父の遺作を手に入れたっていう噂の」
「そうだ。今回の演奏会は、あのジュリエットが伝説の名器『暁の聖母』を引っ提げて、初めて大衆の前で弓を引くってんで大騒ぎになってる。だがな、ニコラ。驚くのはそこからだ」
オディロンは老獪な目をぎらりと輝かせ、ニコラの顔を覗き込んだ。
「その天才の隣に立つ、グランヴェル伯爵令嬢の名は――コレット。路地裏から伯爵に拾われたっていう、あの元孤児の令嬢だ」
「……! じゃあ、あの時の……!」
「ああ。お前が一か月の間寝食を忘れて、あの少女の執念を支えるために作った、あの無銘のヴァイオリンだ」
ニコラの脳裏に、二年前に作ったあの燃えるような琥珀色の楽器が鮮明によみがえる。
自分の実力以上の力を引き出され、まるで何かに作らされたかのような、異形の一挺。
――そして今も。あの一挺を超えるヴァイオリンを、ニコラは生み出せていない。
「グランヴェル伯爵家から、お前宛てに直接この招待状が届いたんだよ。お前の作った名もなき『武器』を持った少女が、稀代の天才演奏家が持つ、お前の親父の最高傑作に挑む。……おい、ニコラ。これを作った本人が見ないで、一体誰が見るってんだ?」
オディロンの言葉が、ニコラの胸の奥にある職人の魂を激しく揺さぶる。
親父の最高傑作『暁の聖母』。完璧な美を誇る、超えられない、けれど超えるべき、大きな壁。
「……オディロンさん」
「なんだ?」
「二枚あるな」
「ああ。お前をずっと支えてきた、お袋さんも連れてってやりな。特等席だぞ。名工の息子じゃねえ、ヴァイオリン職人ニコラとして、堂々とその目に焼き付けてきな」
オディロンは満足そうに笑うと、ニコラの肩をぽんと叩いて工房を後にした。
一人残されたニコラは、作業台の上の招待状を見つめ――静かに、しかし力強く、拳を握りしめた。
◇
当日、グランヴェルの街が誇る円形大劇場に一歩足を踏み入れた瞬間、ニコラと母親は、その圧倒的な煌びやかさに息を呑んだ。
頭上には巨大なクリスタルのシャンデリア。一階の一般席には、すでに隙間なく観客が詰めかけ、熱気のようなざわめきが満ちている。
「ニコラ、私たちは本当に、こんな場所で音楽を聴いていいのかい……?」
仕立て直した一番上等な服を着た母親が、緊張でニコラの袖をきゅっと握りしめる。
案内されたのは、一階の喧騒を見下ろす、二階の壁際に並んだテラス型の特別桟敷席だった。
一生かかっても座る機会などない、限られた特権階級のための半個室。
ふかふかの赤い絨毯を踏みしめながら、ニコラはオディロンの楽器商としての力と、グランヴェル伯爵家からの破格の礼遇を、肌で感じていた。
――そして、同じ2階の、さらに舞台に近い特等席には。
我が娘の晴れ舞台を前に、落ち着かない様子で何度も上着の襟を正しているヴァロア伯爵夫妻の姿があった。
「演奏会の前に、あんなに楽しそうなジュリエットを見たのは……初めてだよ」
ヴァロア伯爵が、妻にぽつりと漏らすように言う。
「ええ、本当に……」
つい先ほどまで、ヴァロア伯爵夫妻は控室のジュリエットの元にいた。
そこでのジュリエットは、これから始まる演奏会が楽しみで仕方がない、といった様子だった。
夫妻とて、娘のすべての演奏会に足を運べているわけではない。
天才として各地に引っ張りだこだったため、むしろ見ることのできなかった演奏会の方が多いだろう。
しかしだとしても、今日のジュリエットは全身から喜びが溢れ出しているかのようだった。
過去の演奏会はどうだっただろう、と考えてみる。
ジュリエットは――やはり、喜んではいなかったように思えるのだ。
もちろん、嫌がってなどいなかった。もし娘が嫌がったのなら、たとえ招待者から恨まれたとしても、娘を守るためにそれを断るくらいの覚悟はあった。
けれど、今日のあの喜びを見て、初めて。
これまで演奏会に臨むジュリエットは、決して楽しんでいたわけではなかったのだな、と気づかされたのだ。
言い表すのは難しい。嫌がってはいなかった。
けれど、喜んでもいなかった。楽しんでもいなかった。どうでもいいと思っている、というのも少し違う。
ただ、出来ることだから、やっていた。それが一番近かったのだろう。
これほどまでに結果を出し続けてきた娘だ。ジュリエットは間違いなく、ヴァイオリン奏者としては天才的なのだろう。
言い方を変えれば、ヴァイオリンを演奏するのが『とても上手に出来る子供』だった。
けれど。
上手に出来ることと、好きなことは、はたして同じだったのだろうか。
そんな疑問と、微かな反省がヴァロア伯爵の胸に去来する。
それでも、ジュリエットが興奮気味に語っていた言葉を思い出す。
『コレットさんと一緒にヴァイオリンを演奏するのが、本当に楽しみですわ!』
これまでは好きではなかったとしても、何かのきっかけでそれを好きになることは、ある。
得意なことと好きなことが同一になれるなら、それは人生において、これ以上ないほどの大きな幸福だ。
そのきっかけを与えてくれた相手は、明白だった。
グランヴェル伯爵令嬢、コレット。
我が家での合同練習では、ジュリエットに追いかけ回されて表情を引き攣らせながらも、決して娘を拒絶しなかった。
愛する娘を持つ父として、本当にありがたい、と思う。
「コレット様には、本当に感謝しなければいけませんね」
妻クレールの言葉に、深く頷く。
願わくば、娘たちの友情が、今後の人生において実り多きものにならんことを。
そんなことを願いながら、伯爵は静かに言葉を返した。
「ああ。ジュリエットと、ずっと仲良くしてくれると良いな」
◇
最も舞台全体を見渡せる、最高格の貴賓席には。
どっしりと椅子に腰掛け、愛娘が整えた極上の舞台を満足そうに眺めるグランヴェル伯爵と、その隣で完璧な淑女の微笑みを浮かべるリュミエールの姿があった。
今回の演奏会の手配において、グランヴェル伯爵はそれほど大きな働きをしていない。
ヴァロア伯爵邸にいるリュミエールから送られてくる、手紙の指示に従って動いただけだ。
演奏会の開催に必要なほぼすべての道筋を、リュミエールはたった一人で見事にこなしてみせていた。
グランヴェル伯爵は正直なところ、ただただ驚いていた。
自分の娘に、これほどまでの優れた実務能力があるなど、今まで全く知らなかったのだ。
もちろん、今の年齢と経験があれば、グランヴェル伯爵にも同じことはできる。
しかし、自分が今のリュミエールと同じ年頃だったころを思い返せば――どう考えても、娘と同じ仕事をこなせるとは思えなかった。
「リュミエール。今回の演奏会の手配、本当に見事だったぞ。本当によくやったな」
その突然の言葉に、リュミエールは驚いたようにパッと目を見張った。
「そう……でしょうか。お父様にそう言っていただけるのなら、とても嬉しいのですが」
娘がどこか自分の仕事を疑うような、自信なさげな呟きを漏らしたので、伯爵はさらに言葉を重ねる。
「本当だとも。私がリュミエールの年の頃は、演奏会の手配など何もできなかったぞ。日時の決定も、場所の確保も、すべて親任せだった」
「お父様にも、そんな時期があったのですね」
「もちろんだ。しかも、何もできない時期がかなり長くてな。音楽を聴き分ける以外のことは何もできなかった。……昔はよく、ソレイユに助けてもらったものだ」
「お母様に……」
ソレイユとは、リュミエールの亡き母の名だ。
父がこのように、自分から母のことを語るのは珍しい。
それは、もういない母を思い出させて、娘を悲しませたくないという、父なりの不器用な親心だったのかもしれない。
「今回のリュミエールの見事な差配を見ていて、ソレイユを何度も思い出してな。リュミエールはやはり、ソレイユの娘だ。素晴らしいものを受け継いでいる」
「私に……そのような、何かを成す才能があるのでしょうか」
「ああ、あるとも。これからもっと多くのことを経験すれば、もっと素晴らしいことが出来るようになるに違いない」
答えながら、グランヴェル伯爵は胸の奥に温かいものが満ちていくのを感じていた。
こうやって、一人の父親として、娘をまっすぐに褒めてやるのがずっと夢だった。
演奏会の企画、立案、手配。これらは音楽に関係があっても、音楽の才能そのものではない。
だから本当のところ、至高の耳を持つグランヴェル伯爵にも、娘にその才能があるのかどうかは聴き分けられないのだ。
――わからない、ということは、なんて素晴らしいことだろう。
娘の未来には、音楽に縛られない素晴らしい可能性が待っているに違いないと、希望を持てるのだから。
父親からの迷いのない称賛に、リュミエールは完璧な淑女の仮面を少しだけ崩し、年相応に照れたような表情としぐさを見せながら、慌てて話題を転じるのだった。
「今日の演奏会は、きっと素晴らしいものになりますわ。お父様、私にお姉様を与えてくださって、本当にありがとうございます。私、お姉様の音が世界で一番格好良いと思います。お姉様が、大好きです」
「そうか、リュミエール。そう思ってくれるか。……本当のことを言うとな、コレットを我が家に迎え入れるかどうか、最初は随分と迷ったのだ。しかし、今こうしてリュミエールがコレットのことを好きになってくれて、本当に良かった。私の選択は、正しかったのだな」
伯爵はもう、感無量だった。
自分の『呪われている』とずっと思い続けてきた耳が、路地裏の泥底から拾い上げた孤児。
その少女が、今やリュミエールと本当の姉妹のように――いや、それ以上に強い絆で結ばれている。
そうして今日、コレットは稀代の天才と並び、この大舞台で競演するのだ。
自分のやってきたことは、決して無駄ではなかった。その事実が、ただただ嬉しかった。
しかし。リュミエールはふっと目を細め、声を低くしてこう続けた。
「けれど、お父様。お姉様に『価値のある演奏が出来なければ捨てる』と仰ったことに関しては、私、今でも全く良く思っていませんわ。もしお姉様が無理をしすぎて、お体を壊してしまっていたら、どうなさるおつもりだったのです?」
「あ、いや……それは、だな……」
「もしお父様が、今でも本気でそのように思われているのだとしたら。――私、お父様を本気で軽蔑しますわ」
グランヴェル伯爵は、息が止まるほどの衝撃を受けた。
我が家の太陽であり、愛するリュミエールから軽蔑されたりしたら、もう明日から生きていく自信がなかった。
もちろん、今の伯爵にコレットを捨てる気など微塵もない。
コレットの成長が伸び悩んでいた時期に、一度本気で家から叩き出そうとしたことなど、綺麗さっぱり忘却していた。
とにかくコレットを拾うことがリュミエールを傷つけないか心配で、つい冷酷な予防線を張ってしまっただけなのだ。
何にせよ、最愛の娘に軽蔑されるなど、絶対に我慢ができない。
「いや、もちろん本気などではない! 今はもう、冗談でも捨てようなどと考えたこともない。コレットも、私の大切な娘のひとりだ!」
「……本当ですか?」
「ああ、本当だとも。神に……いや、ソレイユに誓って本当だ」
「それなら。――この演奏会が終わった後、お姉様に直接そう伝えてあげてください。決して捨てたりなんかしない。もしも音楽の才能がなかったとしても、私たちは家族なのだから、と」
その言葉が、真っ直ぐに伯爵の胸を打った。
ここが演奏会の会場でなければ、当たり前だ! と、声を大にして叫びたかった。
愛娘のリュミエール。我が家の太陽。
心から愛していた。ずっと、愛している。
この子は音楽の才能には恵まれなかった。だが、それが一体どうしたというのだ。
そんなものがなくとも、この子は最初から、私のかけがえのない愛しい我が子だった。
そんな、あまりにも当たり前の父親としての想いを。
思えば自分は、今まで一度だってこの子に口にして伝えたことがなかった。
グランヴェル伯爵は、真っ直ぐにリュミエールを見つめ返し、誓うように言った。
「ああ、もちろんだとも。演奏会が終わったら、真っ先にコレットの元へ行こう。そして、音楽の才能の有無など、関係ない。私はお前たちを愛している。我々は――本物の、家族なのだからな、と伝えよう」
◇
客席が完全に埋まり、劇場の照明がいくつか落とされた。
代わりに、舞台を照らす光がその数を増していく。
客席から見て、舞台の左袖からジュリエットとコレットが姿を現した。
ジュリエットは、朝焼けの空の色を宿した細身のヴァイオリンを優雅に携え、舞台の中央より少し左側で立ち止まる。
コレットは、燃えるような琥珀色をした無骨なヴァイオリンを抱え、ジュリエットを追い越して舞台の右側で立ち止まった。
――会場から、すべての音が消える。
張り詰めるような、圧倒的な静寂。
ほんの僅かでも身じろぎをすれば、衣擦れの音すら響き渡りそうな静けさの中で。
ジュリエットの持つ弓が、静かに、弦へと添えられた。
お肉と睡眠妨害の恨みを思い知れぇ!!




