NONONONONO
BL、オタク用語多用につき注意。
女の子がベッドに寝転がっていました。
友達と電話して、エプロン縫って、たしか来週あたりが楽しみにしていたコスプレイベントの予定でした。
女の子は眠くなったから眠って、眠って、眠って、眠って。
幸せそうに眠って。
女の子の部屋のドアがすっと開きます。
影が、入ってきました。
男のようです。
右手には包丁をもっていて、女の子に振りかざして、そのまま、そのまま、 あ
グサッ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ赤、赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤血赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤包丁の刃赤々、パジャマが赤く滲んで叫び声も赤が飲み込んで太陽に真っ黒に焼け焦がされた、炭のような人影を睨みつけてぶるぶると唇を震わせて。目は開いているのに。あいつだと言いたいのに。
だけど何も出来ないで、何も出来ないまま、
ベッドの上の女の子は。
………あれ?
なんだ、ただの俺か。
「!!!」
飛び起きる。まばたきで頬に涙がほろほろと流れていく。
深いため息を吐いて、またか、と落ち込み、少しほっとする。
いやな夢だ。いや、これは過去の記憶なのか。
だとすればどれが本物の記憶だろうと自傷的に笑う。
昨日は、鉄の杭が胸に突き刺さって死んだ。一昨日は自殺者みたいに俺はマンションの高い場所から飛び降りていった。その前はずっとずっと眠ったままになって病院で死んだ。あるときはなぜか犬に食われて。原因不明の病で。放火にあって。
いつも最後に俺の心臓が止まるバッドエンド。
痛みはいつもないけどそのたびに頭の全てで恐怖を感じてる。ほんとに胸が潰れそうになる。
”俺”は、死ねないけど。
”わたし”は、死んだんだろうか。
それとも、この体に執着させるために誰かが見させている類なのか。
六年は長すぎて、友達の声も、自分の顔も思い出せないけど、ただ、ただ、わがままな一人娘の私を愛してくれたお父さんに、お母さんに会いたくて。
会いたくて。
でも、会いにいけなくて。
どっちが受けか攻めかでもめにもめたオタ友たち。
かわいい初●ミクちゃん。グミちゃん。俺の嫁たち。
スナック菓子。チョコ。
アニメ。漫画。素敵なサイトたち。コスプレイヤー様。
そして、
「俺のマイエンジェルくるみんんんん!会いたいよおお!ガーターベルトと太ももと遠慮気味の胸が俺を呼んでる!!女だからこそ出来るコスだったのに!今は男の娘ハヤってるらしいから大丈夫ですかあああ!エプロンは降ってきますかあああ!」
なんて俺はいやな世界に来ちゃったんだろう!
アニメも漫画もエロゲーも素晴らしき電子機器もなくちゃどうやって生きていけばいいの!
まあ今生きてるんだけどね!魔法みたいななにそれおいしいものがあるから俺なんとかやっていけますただしハリー・ポッターみたいに万能じゃないですごめんなさいいい!
馬鹿なの死ぬの?かわいいのセクシーなのどっちも好きです!
実はBLだって好きです!でも自分は巻き込まれたくないよおお!
お尻は守るためにあるのですか?神様!
それとももしかして6年はただの体感年数で実際には全部わたしの夢ですか!
夢オチエンドはねーわwwとかもう絶対に言いませんから!お願い起こして!ほっぺひっぱたいてもいいです!ボッコボコでいいです!起こしてくださいそしてこれをネタに友達にあきれてもらうんです!「わたし夢の中で魔界の王子様だった!」「厨二病乙ww」って、ねえ、うん。
どんなに叫ぼうと神様とやらにはキコエナーイってされてしまう。
うう、俺はおどろおどろしく暗闇を体から出すようにと唸り、指どおりの良い金髪の毛をくしゃくしゃと乱した。
等身の4倍ぐらいある大きさの生きた花と蔓が巻きついた鏡に、
布団から起き上がって全身を映してみる。
どこもかしこも細くて、白くて、思わず手を伸ばしその形の良い爪先にキスをしたいくらい綺麗な体。着ている服だってどっかの虫だか動物だかの超高級そうなさらっさらの布で、穢れのない純白なネグリジェみたいな寝巻きは汚れることもしわひとつもつかないし。ふるふると揺れる赤い瞳は濡れた宝石のようだし。それを覆うまつげはばさばさで、マスカラなんか必要ないくらいだし。ちっちゃな顔にバランスよく血色のいい唇やちょうどいい鼻や、少し前を向いた耳がついていてもうこんな子がいたらぺろぺろしたいよなってくらいだし。腰とか自分で言うのもあれだけどけっこうそそるし。
王道の美少年。
しかも六歳。ショタ。
次期魔王のこれまたかっこいいお兄ちゃん☆を持つ、魔界の王子様アルーギヌ。
これが今の俺。
綺麗な顔が、盛大にゆがむ。
「きいいもおおいいい!!俺きもいいい!おぼろろろr!!」
ぎん!と鏡越しに自分の面の皮を恨めしく睨んだ。
「こんなんいやあああ男になったら俺、面は男前で銃もってダショーンすんだって思ってましたさーせん!!」
正直この姿で私なんて言うと冗談じゃなく男装した姫って感じだったからやめた。
厨二臭はやめていただきたい。
嫌いじゃないが苦笑いがとまらなくなる。むしろ爆笑しすぎる。
体感時間九年前に俺は卒業したっつーに!
城のみんなが「アルー姫」とかきもい名前で俺を呼んでるのを聞いたときリアルにぞわっと鳥肌がたったね。
女のときも姫なんて柄じゃなかったし、イケメンとか遠くで眺めてなんぼですだったし、だから俺の言葉遣いが年々酷くなっていくんだよ。
これは女王様タイプでも、甘えた弟系でもおkって最初は自分でもどきどきしてたけど猫かぶりを始終ずっととか無理。
疲れる。めんどくさい。
最初のころは面白がって「美しさは……罪……」とかやってたけど懲りたわ!
「……ほんと、世のイケメンを憎む野郎共に背中刺されそうでこわすぎるぜ。いや、刺される前に食われるか、これ。女であるはずの俺でも身震いが止まらない。…あたりまえか」
あのごみごみとした住宅街が懐かしい。
この世界はとても綺麗な空気だ。
排気ガスとか(笑)ってくらい。
ただ少し、薄暗くて、家の人が人間じゃない顔してて、ご飯がすごくおいしくて、アニメがなくて、漫画がなくて、テレビもラジオも電話もなくて、空にはすずめじゃなくドラゴンがゆうゆうと飛んでたりしてて、確実に私の住んでたところとは電子レベルで違うってことだ。
ありえない。
ありえない、と言い続けて、こんなに経ってしまった。
もうそろそろあっちの世界の哀愁に、慣れなきゃやってられない。
人間は忘却が得意だといえどしかし、嗜好品に溺れた快楽を忘れられない。
私の人間の部分がもう少しだけ、ってぐずってる限り俺はこの世界の人じゃないし、あっちの世界に帰れるわけじゃない。
そのとき、こっちには魔法とかあるんだから、それ使って帰れるんじゃ?って考えがビビッときて、漫画とか、アニメで使い古された絶対帰ってやるんだぞ、の台詞でお星様に誓ったのでした。まる。
ま、この世界の父親がまさか魔王だったとかほんとびっくりだよねー。
ははは。もうおどろかねえよ。
最初聞いたとき、このお兄さんまだ卒業できてないのかって哀れむような目をしてしまった。
私の周りにもいたし。隊長とか。軍曹とか。
だけど本当だった。
お約束どおり兄様みたいなおっきい子供を持ってるように見えないくらい若々しい。
ご兄弟ですか?レベル。
でもやっぱかなり生きてるみたい。
最近「もうおじいちゃんだから、そろそろしたら魔王はシェリエルに譲るー」って言って部下の人(?)を困らせてた。
しかも本気らしくて、兄様は今がんばって魔王になるために勉強してる。
いやー。こういうときって次男坊って楽。
兄様大変そうぷすすす。
思い出し笑いで気分が良くなってきたところで、俺はザ・王子様なフリフリの服に袖を通した。
まだ小さい手を眺める。
「さあて、さっさと着替えてご飯としよう。今日のメニューはなにかなー!」
六年もたてば、人は慣れるものだから。
ネガティブにならないように、俺はいつものように笑って見せた。
鏡の中の少年も、同じようににぱーっと笑っていた。
今日の俺も、かわいいな。なーんて。
食堂、というか、漫画で見たことあるような縦長いテーブルに行く前に、あったかいおいしそうな匂いにつられて厨房にいく。
シンプルな白色の服を着た人じゃないものたちが、まじめにせっせと食事を作っていた。
妖怪百奇の挿絵に出てきそうな強面なのに、すごくやさしいのよ。
このまえなんか俺に「このごろ気温の差が大きいので、風邪に気をつけてくださいね」って蜂蜜レモンみたいな味のホットドリンクくれたし!
その中で比較的人に近い姿をしたメイドが、スカイブルーのポニーテイルを揺らし、こちらを振り向いた。
なかなかに美人だがやはり人と違い、その額と頭の間には二本の角と、笑った口元から覗く鋭い牙で、その女性が鬼に近いものであるとわかる。
見知った顔に、彼女はやわらかく微笑んだ。
「あらアルー様、本日はお早いお目覚めですのね。おはようございます。ちょうど朝食の用意ができたところですよ」
「おはよう!良い匂いだねバレン」
「ええ、チィテップの果実とサローンの肉を使用したスープと、いくつかのパンに、ハジャデのジャムをご用意しました。」
そのほかにも果物やおかわりのパンなんかがある。とても豪華。
これも魔界でいい作物ができるように父様たちががんばった結果なんだから、すごい。
荒れ果てた土地に魔力を注ぎ、雑草を生やし、土地を潤し、水を引いて、それからと時間も根気も魔力も十分にもぎ取られる作業だったそうだ。
ちなみに、チィテップの果実は梨とじゃがいもを足しような味で、見た目は小さな赤い実。サローンはうさぎの肉みたいに柔らかい感じの、見た目は完全に球根。目がいっぱいついてて、蔦のような触手をもつ食人動物なのに、食べたら以外においしいってやつだ。ハジャデは桃みたいに甘い味。蜂蜜に近い色の中身で、外側の皮は真っ青の食べる気なくす外見をしている。
植物も食べられないように必死なんだなあ。
なんにせよ、とってもおいしそうだ。
味はぽてととベーコンのスープだもん。
「では食の間へ行きましょう」
「はーい」
数人の使用人を引き連れて、相変わらずガラーンとして寒そうなテーブルの部屋についた。
だだっぴろい食堂で使用人にひかれたイスに座り、一人で心の中で「いただきます」と言う。
この言葉は、この世界では自分の獲物を追い詰めて獲物に最期の希望を失わせるときに使う言葉、っていう認識だったらしくて、最初のときすごくテンパられたからいまでは使わないようにしている。
あースープうま。
パンうま。
「そういえば、兄様は?寝坊?」
お腹も膨れたところで、いつもならそろそろ来るはずの、「おはよう今日もかわいいねアルーほんとかわいいなんでお前こんなに可愛いのはあはあはあ」「兄様が腸ねじ切って自害してくれたら俺が幸せ」「誰だオレのアルーにこんな言葉教えた奴」って勝手にキレてるブラコン野郎がいない。
こんな口利けるのは、俺がまだ六歳なおかげですね。
「シェリエル様でしたら、まだ部屋でおやすみなのかもしれませんわ。昨晩も遅くまでお忙しそうでしたので、お付きの執事がささやかですけどって言ってお夜食をお運びいたしてました」
そう言うのは、桃色の艶めいた髪をお持ちの、なんともこう色気のあるメイドさん。胸は大きめだけど、なんか大人ではない感じのエロさ。全体的にぽわっとしてて果実系のいいにおいがする。ただ、魔族と悪魔系統のハーフらしいので、迂闊に近づくと後悔するらしい。蛇のような執着愛なんだってさ。怖いね。でもすごく有能。
ささやかにその執事自体がお夜食ではないですよね?
あ、ごめんなさい。
食堂には俺と、料理人バレンと、メイドの桃色の人ことプリジア、そしてクレッタというイケメン執事さんの三人。この人たちは、俺専属のって形になってる。
プリジアの台詞に、俺はふーんと相槌をうった。
「そうなんだ。兄様大変だなー。でも、このごろの兄様と父様はなんか変」
「変、と言われますと?」
今度はクレッタだ。少し首をかしげて、俺をあまり表情のない顔で見る。
だるそうな目元と襟足にかかるくらいの深緑の髪ととんがった耳を初めて見たときは、「受け!」と心の中で思いっきり叫んでしまった。
ちょっと前髪を後ろに流してるあたりぽいんだ。
眼鏡かけてないし。
「最近俺の部屋に疲れた顔してやってくるし、いっぱい抱きしめられるし、なでられるし。そんなに癒しを求めるほど何やってんの。もしかして外交とかうまくいってないとか?」
「さあ、私どもは何も」
あいまいにクレッタが苦笑して首を振った。
じいっと三人を見るけど、帰ってくるのは何も心配しなくていいんですよ的な微笑みだけ。
俺は子供じゃないから、大人の言うことは大体うそだってわかってる。
息をついて、兄様のところへ行っていい?と聞く。
常なら「シェリエル様のお仕事が済んでからです」って言われるはず
「ええ、なら私がご一緒しましょう」
「いえ、あたしがご一緒に」
「いえいえ、わたくしが」
「なんですか」
「なんなのよ」
「なにか問題が?」
「「「は?」」」
はい、なんかあったみたいですね。
三人とも、その顔普通の六歳児なら見た瞬間泣いてるから早くしまいなさい。
Q.平気?
A.いいえ、でも平気にならなくちゃ
Q.諦めたの?
A.いいえ、誰がそんなこと
Q.ボクのこと好き?
A.いいえ、いいえ、いいえ、死んでも
(ふーん)相槌を打った誰か。