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異世界観光物語〜勇者として呼ばれたのに魔王が倒されたって!?〜  作者: 亀丸物産
第6章 砂の国編

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第51話 眠れる巨獣

 水の融和が始まってから数日、ヴァディアの市場には、少しずつ活気が戻り始めていた。

街の品と、砂漠の民が持ち込む織物や香辛料が、並んで売られる光景は、以前には考えられなかったものだという。色鮮やかな染め布が、風にひらひらと揺れ、クミンやシナモンに似た香りが、広場いっぱいに漂っていた。


 広場の一角では、ライラのピザ屋台に、長い行列ができていた。窯の火は絶えることなく赤々と燃え、板の上には、砂漠の民から仕入れ直した、とれたての果実と山羊のチーズが、山のように積まれている。


「ほら、いつもの。熱いから、気をつけてね」


 ライラが、焼きたてのピザを、列に並んでいた砂漠の民の老人に手渡した。老人は、うやうやしくそれを受け取ると、一口かじって、目を細めた。


「……ああ、この味だ」


 その光景を、隊長が、少し離れた場所から、感慨深げに眺めていた。


「まさか、また同じ市場で肩を並べる日が来るとはな」


 悠人がその様子を見ていると、市場の隅で、年老いた砂漠の民の女性が、子供たちに囲まれて、興味深い話をしているのが耳に入った。


「――昔は、この砂漠にも、巨大な列車が走っていたんだよ」


「列車、ですか」


 悠人が思わず尋ねると、老女は懐かしそうに目を細めた。


「魔力で動く、鉄の巨獣さ。砂走りって呼んでね。オアシスとオアシスを、あっという間に繋いでくれたもんだ。あれに乗ると、風の音が、歌に聞こえたもんさ」


「その列車、まだ残っているんですか」


「さあねえ。戦争で使われなくなって、今じゃ、砂に埋もれちまってるがね。動くかどうかは分からないよ。でも、遺跡は今も、西の砂丘の奥にあるはずさ」


 その話を聞いて、悠人の中で、何かが強く疼いた。


「――魔法の砂漠列車、ですか。ロマンがありますね」


「相変わらず、そういう話に目がないな、お前は」


 リゼットが呆れたように言いつつも、まんざらでもなさそうな顔をしていた。


「列車、か」


 バロックが、顎に手を当てて、にやりと笑った。


「もしそいつが動くなら、荷の運び方が、根本から変わるぞ。駱駝で何日もかかる道のりが、一日で済むんだからな。新鮮な果実もチーズも、傷まないうちに、遠くの街まで届けられる」


 商人らしい目が、きらりと光る。その視線の先には、すでに、まだ見ぬ荷の山が見えているようだった。


「地図も、描き直しだな。砂漠の距離感が、まるごと変わる」


 フィンも、目を輝かせていた。

その夜、悠人はジールを訪ね、遺跡の話を伝えてみた。砂丘の上で、二人並んで腰を下ろす。遠くでは、天幕の焚き火が、小さく瞬いていた。


「――知っている。昔、族長たちがよく話していた」


 ジールは意外にも、詳しい様子だった。


「あの列車が動いていた頃は、砂漠の民も、街の民も、もっと自由に行き来できていたらしい。だが、動かし方を知る者は、もうほとんど残っていないはずだ」


「見に行ってみたいです。もし直せるなら、街と砂漠の民を繋ぐ、新しい絆になるかもしれません」


 ジールはしばらく考え込んでいたが、やがて小さく頷いた。


「――俺も、同行しよう。族長の許可も、取っておく」


「本当ですか」


「水路の件では、世話になったからな。それに」


 ジールは、どこか照れくさそうに続けた。


「あんたらのやることは、退屈しなさそうだ」


 ジールは、そう言って、ぷいと砂丘の向こうへ視線を逸らした。その横顔には、初めて会った夜の険しさは、もう残っていなかった。


 翌朝、悠人たちは、水と食料を、念入りに準備した。ライラが、旅の弁当にと、冷めても美味しい薄焼きのピザを、人数分、包んでくれた。


「無事に帰ってきたら、もっと美味しいのを焼いて、待ってるから」


「ありがとうございます。楽しみにしてます」


 悠人が受け取った包みは、まだ、ほんのりと温かかった。リゼットが、その包みを、ちらりと横目で見ながら言った。


「……お前、また食い物で懐柔されてるぞ」


「懐柔というか、純粋に嬉しいんです」


「分かってる。そういうところだよ、お前は」


 リゼットは、呆れたように笑って、先に歩き出した。

こうして、悠人たち一行に、ジールを加えた面々が、西の砂丘へと向けて出発することになった。

砂の中に眠る、かつての絆の象徴。それを掘り起こす旅が、始まろうとしていた。

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