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異世界観光物語〜勇者として呼ばれたのに魔王が倒されたって!?〜  作者: 亀丸物産
第6章 砂の国編

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第50話 同じ水を分けて

 数日後、水路の入り口――あの壁画のある場所で、話し合いの場が設けられることになった。

隊長をはじめとする街の代表と、ジールに連れられてきた砂漠の民の族長。両者の間には、張り詰めた空気が流れていた。双方の後ろには、それぞれ、数人ずつの者たちが控え、互いの出方を、じっと窺っている。


「――随分と、勝手な真似をしてくれたものだな」


 族長は、まず苦々しげにそう切り出した。フードの奥の目には、深い疲労と、消えない不信の色が滲んでいた。


「水を独り占めしておいて、今さら手を組めというのか」


「独り占めするつもりなど、なかった」


 隊長も、負けじと言い返した。


「水路が崩れて、皆で生き延びるだけで精一杯だったんだ。あんたらだけを、狙って苦しめたわけじゃない」


「その『精一杯』のせいで、我らの子供が、何人死んだと思っている」


 その一言に、広場が、しんと静まり返った。族長の声は、低く、押し殺されていたが、そこには、抑えきれない痛みが滲んでいた。


「……」


 隊長は、返す言葉を失ったように、唇を噛んだ。街側の後ろに控えていた者たちの中にも、俯く者がいた。

険悪な空気が漂う中、悠人は静かに、あの壁画の写しを二人の前に広げた。


「これを、見ていただけますか」


 族長は、しばらく無言でその絵を見つめていた。やがて、震える声で呟いた。


「――この衣装は。我らの祖先の、装束だ」


「水路の奥に、こんな絵が残っていたんです。昔、皆さんのご先祖と、街の方々のご先祖が、一緒にこの水路を作ったんだと思います」


 族長は、深いため息をついた。


「そういえば、幼い頃、祖母から聞いた話がある。かつて、砂漠の民と、この街の民は、同じ井戸を分け合う、兄弟のような間柄だったと」


「今の状況からは、信じがたい話だがな」


 隊長がぼそりと呟いた。だが、その声に、以前ほどの刺々しさはなかった。


「戦争が、多くのものを壊した。信頼も、その一つだったんだろうな」


 悠人は、二人の様子を見守りながら、静かに口を開いた。


「水路は、もう直りました。以前ほどではないにせよ、水量にも余裕が出ています。今なら、また分け合うことができるはずです」


「――簡単に、信じられる話ではない」


 族長がそう漏らすと、ジールが横から口を挟んだ。


「族長、俺も同じ気持ちです。でも、あの若造は、命懸けで水路の魔物と戦ったと聞いています。少なくとも、口先だけの男には見えません」


 しばらくの沈黙の後、族長は重い口を開いた。


「――試しに、ということでいい。以前の配分に、すぐに戻せとは言わん。まずは、少しずつ、様子を見ながら分け合う形からだ」


「それで構わない」


 隊長も、静かに頷いた。


「それと、一つ、提案がある」


 隊長が、続けた。


「水路の見回りは、今後、街の者と砂漠の民の者で、共に行わないか。互いの目で、水の量を確かめ合えば、疑い合うこともなくなるだろう」


「……共に、か」


 族長は、しばらく考え込んだ後、ジールの方に視線を向けた。


「ジール。お前が、最初の見回りに行け」


「俺が、ですか」


「お前なら、街の者とも、まだ口が利けるだろう」


 ジールは、少し照れくさそうに、しかし、はっきりと頷いた。

その時、広場の入り口から、香ばしい匂いが漂ってきた。見ると、街の広場でピザを焼いていた、あの女性が、大きな板を抱えて、駆けつけてくるところだった。


「あの、これ、皆さんで食べてください。ちょうど、焼きたてなんです」


 ライラと名乗ったその女性は、板の上に載ったピザを、両陣営の真ん中に置いた。熱々のチーズが、ぷつぷつと泡を弾けさせている。上に載った、干した果実と山羊のチーズは、昔、砂漠の民が街に納めていたものだった。


「この果実とチーズ、本当は、あなたたちから、また仕入れさせてほしいんです。もう一度、昔みたいに」


 その言葉に、族長は、はっと目を見開いた。


「……お前たちの窯の火が、まだ、燃えていたのか」


「燃やし続けてましたよ。細々とですけど」


 ライラは、涙ぐんだ笑顔で言った。族長は、しばらく黙っていたが、やがて、無言でピザを一切れ、手に取った。一口かじると、深い皺の刻まれた目元が、微かに緩んだ。


「……懐かしい味だ」


 完全な和解には、まだ程遠いだろう。積み重なった不信は、そう簡単には消えない。

それでも、二人は、確かに同じ場所に立ち、同じ水路を見つめ、同じピザを分け合っていた。

それだけで、十分な一歩だと、悠人は思った。

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