↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界観光物語〜勇者として呼ばれたのに魔王が倒されたって!?〜  作者: 亀丸物産
2章 港町編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/39

第5話 リゼット

 女性は剣を鞄代わりの帆布に収めながら、警戒したような視線を悠人に向けていた。

歳の頃は、悠人と同じか、少し下くらいだろうか。

動きやすそうな革の軽装に身を包み、腰には使い込まれた鞘が下がっている。


「見ない顔って言われても……今日この町に着いたばかりなので」


「はっ、この時期にわざわざここへ来るなんて、物好きか、よほどの世間知らずだな」


 女性は肩をすくめると、乱れた前髪をかき上げた。

よく見ると、腕や頬に古い傷跡がいくつも残っている。ただの町娘ではないことは、一目で分かった。


「あの、助けていただいて――」


「助けたわけじゃない。あの手の魔物は放っておくと厄介になるから始末しただけだ」


 素っ気ない返事だった。それでも礼を言おうとする悠人に、女性はふと眉をひそめる。


「……お前、宿を探してるのか」


「はい。ですが、開いている宿が見当たらなくて」


「そりゃそうだ。まともに営業してる宿は、この町にもう一軒しか残ってない」


 女性はやや呆れたような顔をしつつも、顎で路地の先を示した。


「案内してやる。どうせこっちの方向だ」


 歩き出した女性の背中を追いながら、悠人は改めて名を尋ねた。


「僕は相良悠人といいます。あなたは……」


「リゼットだ」


 短く返ってきた名前に、悠人は胸の中で繰り返した。リゼット、それが彼女の名だ。


「元は冒険者だったが、今はこの辺りで魔物討伐の仕事を請け負って、食いつないでるだけの身だ」


「冒険者、というのは、この世界では珍しい職業なんですか」


「珍しくはない。むしろ、戦争前は掃いて捨てるほどいたさ。今じゃ、まともに仕事にありつけてる奴の方が少ないがな」


「リゼットさんは、なぜ冒険者に?」


「――柄でもない話をさせるなよ」


 リゼットは一瞬、面倒くさそうに顔をしかめたが、それでもぼそりと続けた。


「昔から、剣を振り回すことしか、大して得意なことがなかっただけだ。それだけの話さ」


「冒険者ギルドとかは、この辺りには……」


「戦争でとっくに機能不全さ。仕事なんてほとんど残ってない。今じゃ、たまに厄介な魔物が出たときに、割のいい仕事として声がかかるくらいだ」


 その口調には、諦めに近い響きがあった。


「あなたは、この町の生まれなんですか」


 悠人が尋ねると、リゼットの足が一瞬止まった。


「……いや。俺の故郷は、もっと東の方だった。戦争の初期に、丸ごと焼き払われてな」


 それ以上、彼女は何も語らなかった。悠人もそれ以上は踏み込まず、黙って後を追った。

日が完全に落ち、通りにぽつぽつと灯る明かりだけが、二人の足元を照らしていた。


 やがて着いたのは、灯りの点いた小さな宿だった。

年老いた夫婦が営むその宿は、決して立派ではなかったが、それでも人の温かさが感じられる場所だった。

木の扉を開けると、暖炉の匂いと、微かなスープの香りが漂ってきて、悠人は思わずほっと息をついた。


「悪いが、今夜はここで大人しくしてろ。旅人が一人でうろつくには、この町は物騒すぎる」


 リゼットはそう言うと、踵を返そうとした。だが、悠人は思わず声をかけた。


「あの、リゼットさんは、これからもこの町にいるんですか」


「……仕事があればどこにでもいる。それがどうした」


「よければ、この町のことを、もう少し教えてもらえませんか。案内料は払います」


 その言葉に、リゼットは呆れたように鼻を鳴らした。


「観光気分か?こんな寂れた町のどこを見て回るつもりだ」


「寂れた町だからこそ、見てみたいんです」


 その答えに、リゼットはしばらく無言で悠人を見つめていた。値踏みするような、それでいて、どこか興味を隠しきれないような視線だった。やがて、小さくため息をつく。


「変わった奴だな……。まあ、金になるなら別に構わない」


 その一言で、ひとまずの約束は成立した。

どこか突き放したような態度の裏に、決して悪意はない。

むしろ、不器用なりの誠実さのようなものを、悠人はほんの少しだけ感じ取っていた。

悠人にとって、この異世界で初めての「仲間」――いや、まだそう呼べるかどうかも分からない、奇妙な同行者ができた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。