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異世界観光物語〜勇者として呼ばれたのに魔王が倒されたって!?〜  作者: 亀丸物産
第5章 鍛冶屋の国編

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第42話 石を積む者たち

 バルドグラムに事情を話すと、ゴルドは意外にもあっさりと頷いた。


「岩の扱いなら、俺たちの十八番だ。それに」


 ゴルドは、工房の外で暇そうにしていた若い職人たちを一瞥した。


「あいつらも、鍛冶場に籠りっぱなしじゃ、腕も鈍る。たまには、外の空気でも吸わせてやるか」


 その傍らで、バルガスが腕を組んだまま、ぼそりと口を挟んだ。


「……崩れた岩盤なら、支えの組み方に、昔からの型がある。これを持っていけ」


 差し出されたのは、古びた羊皮紙に描かれた、石組みの設計図だった。細かな書き込みが、びっしりと並んでいる。


「バルガス様」


「勘違いするな。うちの街の技を、中途半端に使われては、かなわんだけだ」


 そう言いながらも、その横顔は、どこか誇らしげに見えた。

こうして、ドルフを含む数人の若い職人たちが、道具を背負って峡谷へと同行することになった。


「街の外に出るなんて、何年ぶりだろう」


 道中、ドルフは物珍しそうに周囲を見回していた。頭上に広がる大きな空を、何度も見上げては、深呼吸を繰り返している。


「地下にいると、忘れちまうんです。空が、こんなに広いってこと」


 峡谷に到着すると、ドワーフたちはさっそく崩れた岩盤の調査を始めた。


「――なるほどな。ここをこう支えれば、崩落は防げる」


 的確な指示のもと、作業は驚くほどの速さで進んでいった。

まず、不安定な岩を慎重に取り除き、次に、基礎となる大きな石を据える。その上に、くさび形の石を噛み合わせるように積み上げ、要所には太い支柱を組んでいく。雨水の抜け道となる溝も、一つ一つ丁寧に刻まれた。


「さすが、専門家は違いますね」


 悠人が感心していると、フィンも地図を片手に、出来上がっていく道筋を細かく書き留めていた。


「これで、正式な地図に載せられる街道が、また一本増えるわけだ」


 夕刻、作業の手を休めて、全員で簡単な食事をとることになった。バロックが荷馬車から取り出したのは、ポルテナで仕入れた干し魚だった。


「これを炙って、何か付けて食うか」


「あ、それなら」


 悠人は、懐から小さな薬包紙を取り出した。エミルが同封してくれた、山椒だれだ。


「これを、少しだけ」


 炙った干し魚に、山椒だれを一滴垂らして、悠人は一口かじった。ぴりりとした刺激と、魚の旨みが、舌の上で絶妙に混ざり合う。


「……美味い。何だ、これ」


 ドルフが、目を丸くした。


「友人が作ってくれた、特製のたれなんです」


「へえ。その、友人って」


「カルデナの食堂の、エミルさんです。料理の天才なんですよ」


 悠人が嬉しそうに語るのを、リゼットは、焚き火の向こうで、黙って干し魚を齧っていた。味を、感じていないような顔つきだった。

作業の合間、休憩を取るドルフのそばに、悠人は腰を下ろした。


「バルドグラムを出て、他の街の外を歩いてみて、どうですか」


「正直、驚くことばかりです。風の匂いも、草の色も、初めて見るものばかりで」


 ドルフは、興奮を隠しきれない様子で続けた。


「うちの街の技術が、こうして他の街のために役立つのを見るのも、悪くないもんですね。誰かの役に立つ鍛冶ってのは、こういうことなのかなって」


「きっと、お父さんも、喜んでいると思います」


「……はい」


 ドルフは、少し照れくさそうに笑って、手元の石を、もう一度、丁寧に積み直した。

数日がかりの作業の末、峡谷の道は、荷馬車が余裕をもって通れるほどの、立派な街道へと生まれ変わった。


「――よし、試しに一台、通してみるか」


 バロックが早速、自らの荷馬車を進ませた。車輪が、しっかりと踏み固められた石畳の上を、軽快な音を立てて進んでいく。


「上出来だ!これなら、行商の効率が段違いだぞ」


 バロックの声に、ドワーフの職人たちが、誇らしげに顔を見合わせた。


「この街道が、いつかこの三つの街を、もっと近づけてくれるといいですね」


 悠人がそう言うと、リゼットが空を見上げながら答えた。


「案外、すぐそこまで来てるのかもしれないぞ、そういう未来は」


 新しく生まれた街道の上を、夕日の光が、金色に照らし出していた。

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