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異世界観光物語〜勇者として呼ばれたのに魔王が倒されたって!?〜  作者: 亀丸物産
第5章 鍛冶屋の国編

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第36話 巡る商人

 それから数週間、ドルフは寝る間も惜しんで新しい細工の腕を磨いていった。

武具作りの合間に打ち上げた髪飾りや装飾品は、少しずつ数を増やし、工房の片隅に並べられるようになっていた。細い金属の線が花の形に編まれ、小さな宝石が、炉の明かりを受けてきらきらと光っている。


 ゴルドも、時折厳しい注文をつけながらも、その仕事ぶりを黙って見守っていた。

そんなある日、街の門の方から、聞き覚えのある声が響いてきた。


「――おお、ここにいたか! 探したぞ!」


 現れたのは、荷馬車を連ねたバロックだった。


「カルデナで噂を聞いてな。ポルテナといい、この辺りの街道沿いが、やけに面白いことになってるって話で」


「バロックさん、こんな所まで?」


「商機の匂いがすれば、地の果てまでだって行くさ」


 バロックは早速、工房に並んだドルフの装飾品に目を留めると、目の色を変えた。


「――これは、良い品だ。うちの取引先の貴族連中にも、十分通用する出来だぞ」


「本当ですか!」


 ドルフが目を輝かせる横で、ゴルドが慎重な口調で釘を刺した。


「勘違いするなよ、商人。うちの品を、粗悪な土産物として、安売りされちゃかなわん」


「もちろんだとも。品質にはうるさい客ばかり相手にしてきたんでな。値も、それ相応につけさせてもらう」


 バロックとゴルドは、しばらく丁々発止の交渉を繰り広げた末、握手を交わした。ドルフの品には必ず工房の刻印を入れること、大量生産はしないこと。ドワーフの誇りを損なわない条件で、正式な取引が成立した。


「それと、もう一つ。岩鳴りとか言ったか、あの酒」


 バロックは、取引の席に出された若い岩鳴りを一口含むと、目を細めた。


「強いな。だが、悪くない。カルデナの湯宿の連中が、湯上がりの一杯に欲しがるだろう。あの辺りは、寒い夜が多い」


「酒まで売るつもりか」


「売れるもんは、全部売る。それが商人ってもんだ」


 ゴルドは呆れたように鼻を鳴らしたが、売れ残りの樽の山を思い出したのか、その口元には、微かな笑みが浮かんでいた。


「――さて」


 交渉を終えたバロックは、悠人の方へ向き直った。


「その前に、預かりものがあってな。ノアの嬢ちゃんと、エミルの嬢ちゃんからだ」


 バロックが懐から取り出した二通の手紙を、悠人は受け取った。ノアの手紙には、しずく屋の客室がほぼ埋まったこと、新しい湯の評判が上々なことが、丁寧な文字で綴られていた。末尾には、「お会いできる日を、心から楽しみにしております」とある。


 エミルの手紙は、少し乱雑な字だった。新しい料理がいくつもでき上がったこと、悠人に真っ先に食べてほしいこと。そして、封筒の中には、小さな薬包紙に包まれた、特製の山椒だれが、一つ添えられていた。


「皆さん、お元気そうで良かった。みんな、頑張ってるんですね」


 悠人が嬉しそうに手紙を読み終えると、隣でそれを覗き込んでいたリゼットが、なぜか眉間にしわを寄せていた。


「……随分と、熱心な手紙だな」


「そうですね。丁寧なお礼の手紙で」


「そういう意味じゃない」


 リゼットは何か言いかけて、結局、ふいと横を向いた。なぜ自分が不機嫌なのか、本人にも分からない様子だった。その横で、バロックが、にやにやと意味ありげな笑みを浮かべながらも、何も言わずに酒を啜っていた。


「お前さんの噂も、あちこちで聞くようになったぞ。ポルテナ、カルデナ、そして今度はここか」


「たまたま、面白い場所を見つけてしまうだけなんです」


「そのたまたまが、俺の商売にとっちゃ、えらく都合がいい」


 バロックは愉快そうに笑うと、真剣な顔つきになった。


「なあ、悠人。しばらく、お前さんの旅に同行させてもらえないか」


「バロックさんが、ですか?」


「各地で品を仕入れ、必要な場所に運ぶ。お前さんが見つける『面白い場所』ってのは、俺にとっても、宝の山らしいからな」


 リゼットが呆れたように肩をすくめた。


「結局、金勘定かよ」


「悪いか?だが、悪い話でもないだろう」


 バロックの言葉に、悠人は思わず笑った。


「もちろんです。心強い限りです」


 こうして、旅の一行に、また一人、新たな仲間が加わることになった。

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