↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界観光物語〜勇者として呼ばれたのに魔王が倒されたって!?〜  作者: 亀丸物産
プロローグ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/53

第3話 旅人として

 崩れた石畳の道を歩きながら、悠人はこれからのことを考えていた。

女神のところに戻って文句を言う、という選択肢が頭をよぎらなかったわけではない。

だが、そもそもどうやって戻ればいいのかも分からないし、あの慌てぶりを思い出す限り、まともに話を聞いてもらえる気もしなかった。


(――というか、よく考えたら)


 悠人は一人、乾いた笑いを漏らした。

魔王はすでに討伐されている。

つまり、自分が「勇者として世界を救う」必要は、もうどこにもないということだ。


 誰かに命を狙われるわけでもない。

戦えと命令されるわけでもない。

誰かの期待を背負う必要も、締め切りに追われる必要もない。


 困ったことに変わりはないが、同時に、これほど身軽な「巻き込まれ」もそうそうないのではないか。

そう思うと、不思議と肩の力が抜けていった。会社員時代には縁のなかった、妙な解放感すらあった。


 道の両脇には、まだ手つかずの瓦礫が積まれたままの家や、焦げた木の柵が並んでいる。

それでも、時折覗く畑の一角には、誰かが植え直したらしい小さな芽が顔を出していて、悠人はそのささやかな緑に、少しだけ目を留めた。


 しばらく歩くと、道端に苔むした案内標識が倒れかけているのが目に入った。かろうじて読み取れる文字を目で追う。


『王都ヴァンドール 馬車で三日』

『港町ポルテナ 馬車で五日』


 ――港町。

その二文字を見た瞬間、悠人の中で何かがざわりと動いた。

長年の旅の趣味で培われた、あの感覚だ。

潮風の匂い、揚がったばかりの魚介、朝市の喧騒。

行ったこともない異世界の港町だというのに、勝手に想像が膨らんでいく。


「……行ってみるか」


 誰に言うでもなく呟いたところで、背後から車輪の音が近づいてきた。

振り返ると、荷馬車を引いた初老の商人が、怪訝そうな顔でこちらを見ている。


「兄さん、こんな道端で何してんだい。この先の村はもう機能してないよ」


「実は、行き先に迷っていまして。港町ポルテナの方に向かおうと思っているんですが」


「ポルテナかい。奇特だね、あそこは戦争でだいぶやられて、今じゃ寂れた漁村だよ。観光に行くような場所じゃない」


「危ない場所なんですか」


「危ないっていうより、つまらない、って意味さ。もっとも、街道沿いにはぐれ魔物が出ることもあるから、一人歩きは勧めないがね」


 商人はそう言って肩をすくめたが、悠人はむしろその言葉に興味を引かれた。


「寂れた場所には、寂れた場所なりの魅力があるかもしれません」


「変わった兄さんだ」


 商人は呆れたように笑うと、荷台の隅を指差した。


「ちょうどそっち方面に行くところだ。一人だと道中も物騒だし、手が空いてるなら、荷物運びでも手伝ってくれや。乗せてってやるよ」


 思いがけない申し出に、悠人は迷わず頷いた。


「助かります。あの、お名前を伺っても」


「名乗るほどのもんじゃないさ。この辺りじゃ、みんな『商人のおっさん』で通じるくらいだからな」


 商人は豪快に笑うと、荷台の空いた場所を顎で示した。乗り込みながら、悠人はふと尋ねた。


「戦争が終わって半年も経つのに、どうしてこんなに、街道の様子が荒れたままなんですか」


「整備したくても、人も金も、根こそぎ足りてないのさ。国の連中は王都の立て直しで手一杯だし、こんな地方の街道にまで、手が回るのは、まだまだ先の話だろうな」


 その言葉に、悠人は静かに相槌を打った。

派手な魔法も、劇的な奇跡も、この世界の傷を一瞬で癒してはくれない。

それは、当たり前のことのはずなのに、妙に重く胸に響いた。


 荷馬車の荷台に揺られながら、悠人は流れていく荒れた景色を眺めた。

焼け跡も、崩れた橋も、まだそこかしこに残っている。

荷台が石畳の段差を跨ぐたびに、がたごとと体が揺れ、砂埃の匂いが鼻をかすめた。

世界は、確かにまだ傷ついたままだ。

けれど。


(誰も知らない場所に、何があるのか見てみたい)


 その気持ちだけは、異世界に来ても変わらなかった。

むしろ、この世界に来てから、その気持ちは以前よりも強く、鮮やかになっている気さえした。

勇者としてではなく、ただの一人の旅人として。

悠人を乗せた荷馬車は、傷跡の残る道を、港町ポルテナへ向けてゆっくりと進み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。