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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
最終章 〜悠久の愚者編(上)〜

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442/496

◆434 天獣たちの集い

 トウエッドの首都エッド。

 その南門周辺は、多くの戦士や魔法士が集う場所である。

 ある者は(おの)が技を確かめ、ある者はアズリーから教わった究極限界(アルティリミット)の発動を見せ、ある者はそれらを指導していた。

 そこから更に南へ進んだ草原に、腰を下ろす犬狼が一人。

 それは、悠久の愚者アズリーの使い魔ポチであった。

 酷使したのか、身体は傷だらけ。項垂れながら息を切らすポチに、一人の天獣が声を掛ける。


「ポチさん! 大丈夫ですかっ!?」


 ポチの前に現れたのは、五天の霊獣の一角――灰虎(はいこ)だった。

 心配そうな声でポチの身体を気遣うも、ポチは灰虎(はいこ)に鋭い目を向けるだけだった。


「ぜぇぜぇ……大丈夫です。まだやれます……まだ、まだこれから……です!」


 震える身体を奮わせ、ポチは強張った表情で立ち上がる。


「し、しかし――」

「――隙……有りです!」

「くっ!」


 ポチが真っ直ぐ灰虎(はいこ)に向かう。

 灰虎(はいこ)はポチの牙から逃れるため、身体を逸らす。そして、後方へ下がりながらエアクロウを放つ。


「ガァアアアッ!」


 一瞬だけブレスを吐き、灰虎(はいこ)飛爪(エアクロウ)をかわすも、ポチの背中は安全ではなかった。振り下ろされる強烈な尾撃。


「ぎゃん!?」


 黄龍(こうりゅう)により地面に叩きつけられたポチが、余りの衝撃に跳ね上がり、意図せぬ回転を見せる。


「油断大敵です」


 未だ浮かぶポチに冷淡な一言を言い放つ黄龍(こうりゅう)

 着地に備えようとするポチに、黒紫(こくし)の一閃が飛び込む。

 音速を超える速度でポチに鋭い(くちばし)を向け迫るは、またも天獣。


「さぁ、かわせるか……!」


 紫死鳥(ししちょう)が真っ直ぐにポチに向かう。

 甚大な衝撃を予感させる直撃の一瞬、ポチは紫死鳥(ししちょう)の動きを読み切った。


「なっ!?」


 直撃の一瞬、紫死鳥(ししちょう)の頭に前脚を伸ばし、その背を駆け抜けたのだ。


「お返しですっ!」


 駆け抜けた先にいるの、は先程尾撃を食らわせた黄龍(ちょうほんにん)

 灰虎(はいこ)が放ったものより鋭く速いエアクロウが、ポチの前脚から放たれる。


「させぬよ」


 黄龍(こうりゅう)の目の前に隕石の如く降ってきたのは、規格外の硬度の甲羅を持った、新たなる天獣。黒亀(こっき)は背面から落ち、ポチのエアクロウを押し潰したのだ。


「今だ、赤いの(、、、)


 ポチがようやく地面に着地する瞬間、黒亀(こっき)は最後の天獣に合図を送った。

 甲羅で地面を穿った黒亀(こっき)の身体を、後方から強烈に押すのは赤帝牛(せきていぎゅう)ウェルダン。


「グモォオオオオオッ!!」


 もの凄い衝撃と轟音が辺りに響き、黒亀(こっき)の身体はポチに向かって転がり始める。その勢いを加速させるように、黄龍(こうりゅう)もウェルダンに尾を貸す。

 強固な岩を粉砕しながら向かう巨大な黒き塊。

 正面から迫る巨大な脅威。ポチは大口を開け(きわみ)ブレスを吐く。

 瞬間、(きわみ)ブレスが直撃した黒亀(こっき)の身体にブレーキがかかる。


「「なんとっ!?」」

「あたたたたたっ」


 黄龍(こうりゅう)とウェルダンがポチの動きに驚愕し、黒亀(こっき)はその衝撃を嫌う。


「まだです!」


 そう、(きわみ)ブレスによりポチの身体は反動により後方へ飛ぶ。

 その先にいたのは、ポチの下に向かうため反転し引き返してきた紫死鳥(ししちょう)

 この不規則なポチの動き。予測していなかった紫死鳥(ししちょう)は顔を硬直させる。


「バカなっ!?」


 遠距離攻撃のブレス。中距離のエアクロウ。近距離の牙と爪。全てを用意出来るポチに対し、紫死鳥(ししちょう)が用意していた策はなかった。

 だからこそ、紫死鳥(ししちょう)の後方にいた灰虎(はいこ)は、ポチの動きを見つつ、狙いを定めた。


「ここだ!」


 先程ポチが黒亀(こっき)に放った(きわみ)ブレスと遜色なき巨大なブレス。

 ポチがかわす事は出来ない。この場にいる誰もがそう思った。「とった」と。

 だが、ポチの動きはそれに収まる事はなかった。


「ひょい! フウァールウィンドです!」


 灰虎(はいこ)が狙ったポチ。そのほんの少し手前に上昇気流の魔法を放ったポチ。

 些細な事ではある。しかし、その些細なタイミングのずれが、灰虎(はいこ)(きわみ)ブレスからポチの身を守ったのだ。

 灰虎(はいこ)が首を動かし狙いを変えたところで、それはもう遅かった。

 ポチは紫死鳥(ししちょう)の身体の上から、強烈な一撃を放ったのだ。


「ポチスタンプ!」

「ぬおっ!?」


 紫死鳥(ししちょう)が地面に向かって落ちる。

 灰虎(はいこ)(きわみ)ブレスが軌道を変えポチを狙うも、紫死鳥(ししちょう)を踏み台にして紫死鳥(ししちょう)より速く地面に着地したポチの動きを、捉える事は出来なかった。

 地面を這い、縫うように素早く灰虎(はいこ)に近付くポチ。その後方からはウェルダンが迫り、長い身体をしならせた黄龍(こうりゅう)が追加の尾撃を狙っていた。

 灰虎(はいこ)がポチの動きを捉えきれず、攻撃を躊躇してしまった一瞬、ポチは後方に跳んでエアクロウを放った。


「なっ!?」


 自分に向かっているのだと思った灰虎(はいこ)は、この油断からエアクロウをかわしきれず、身体に傷を負ってしまう。そしてこの驚きは、背後から迫っているウェルダンも同じだった。


「くっ! 踏み散らかしてくれるっ!」


 ポチは再び跳んだものの、その高度はウェルダンの進行を妨げる程のものではなかった。

 黄龍(こうりゅう)も、ウェルダンもそう判断した。

 しかし、黒亀(こっき)が気付いた。


「ぬっ! いかん!」


 瞬間、ポチの動き(きどう)が変わったのだ。


「しまった!」


 そう、ポチが通ったのは、未だ上昇気流の残るルート。

 やはりその微細な変化により、ポチは軌道を変え、ウェルダンという踏み台を使う事が出来たのだ。ウェルダンを力強く踏み切り、ポチは黄龍(こうりゅう)の下へ駆ける。

 黄龍(こうりゅう)の尾撃のタイミングを虚を衝く事によってかわし、その喉元に牙を突き立てる。

 黄龍(こうりゅう)の頭が倒れた先、そこにはポチの動きを捉えきれない、天獣の長老がいるだけだった。


「私の……勝ちです……」


 眼前に爪を向けられた黒亀(こっき)は、小さな身体で息を切らすポチを前に、静かに目を伏せる。


「そのようだな。赤いのも一撃もらっちまったようだのう」


 感服した黒亀(こっき)

 ポチは黒亀(こっき)から前脚をどかし、黄龍(こうりゅう)の頭から地面に降りる。


「儂等相手にその身体で勝つかよ。はははは、ようやりおった!」

「全員に一撃ずつ入れただけです。試合なんですから」

「五天の霊獣が相手だが?」

「それでも、試合ですから」


 生死を賭けた戦いでないと、ポチは頑なに自身の勝利を認めない。

 それを見た黄龍(こうりゅう)が、呟く。


「余裕がありませんね」


 ポチに噛まれたとはいえかすり傷。身体をうねらせる黄龍(こうりゅう)が、心配そうにポチの背中を見つめる。

 優しい声に、ポチは思わず目を背ける。


「だ、大丈夫ですっ! 余裕しゃきしゃきです!」

「のわりには、ボロボロだな」


 首をぶるぶると振りポチに近付いてきたのは、ウェルダンだった。


「背中大丈夫です?」

「それを言うなら紫死鳥(ししちょう)に言ってやんな。アイツが一番痛い思いをしてるぞ?」

「わっ!? そうでしたー!」


 ポチは紫死鳥(ししちょう)が墜落した場所まで駆け寄る。

 だがその心配をよそに、墜落で出来た穴の中で、紫死鳥(ししちょう)は目を開けていた。

「ふむ、あの時使うのは吸魔のがよかったか。いや、もっと変則的に動いた方が勝機はあった? なるほど、新たな知見を得たな」

「ほっ、大丈夫そうで何よりですー!」

「ん? 怪我か? 灰虎(はいこ)が血を出していなかったか?」


 穴から聞こえる紫死鳥(ししちょう)の指摘に、ポチは灰虎(はいこ)の方に振り向く。

 するとそこには、ポチのエアクロウによって出来た胸元の傷をぺろぺろと舐める灰虎(はいこ)の姿があった。


「ふふふ、これはポチさんとの愛の証。回復魔法は必要ないな。ふふ、ふふふふふ」

「だ、大丈夫……です?」


 首を傾げ心配するポチだったが、他の天獣はそうではなかった。

 灰虎(はいこ)を見る黄龍(こうりゅう)黒亀(こっき)、ウェルダン。そして穴から出てきた紫死鳥(ししちょう)。全員が全員口を揃える。


「「大丈夫じゃないな」」

「へ?」


 抜けた声を出すポチに、皆がまた口を揃える。


「「頭がお花畑だ……」」


 呆れる天獣たちの言葉に、またも首を傾げる愚者の使い魔だった。

次回:「◆435 大天獣ポチさん」をお楽しみに・x・

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