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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
最終章 〜悠久の愚者編(上)〜

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430 不透明な展望

 十二の士。十二の支。

 合計二十四人が必要なはずの予言の碑の内容に、ポチが憤慨する。

 俺の名前はあれど、ポチの存在を匂わす内容はない。

 これは一体どういう事なのか。俺たちはわからずにいた。

 しかし、それ以外は揃っていると言っていいと思うのも事実。

 ――いや、まだある。


「予言の内容。確か、『神を愛し、神に従え』……この部分、何か違和感を覚えます」


 俺の指摘に、リーリアが近くのベンチに腰を下ろして答える。


「そうね、過去ならばともかく既に神の力はないに等しいわね。予言に沿う部分はあるけれど、確実に欠けているものもある。神の力ともなればそれは非常に大きな部分でしょうね」


 せめて、せめて神の力がまだ残っていれば、魔王ルシファーと対等に戦えたかもしれないのに。……いや、だからこそ悪魔たちは最初に神の力を削いだ。なるほど、これは予言を知っていたからこそなのか。

 白黒(びゃっこく)の連鎖。今はもうあってないような組織だが、人類存亡の戦い間際ともなれば、上手く機能していたという事か。当然、悪魔たちにとって。


「とりあえず、不明点については保留ね。実際魔王ルシファーに対抗出来そうな魔法は完成した訳だし、まずはその効果を確認してみる方が先じゃない?」


 アイリーンの言葉に、俺たちは同意をみせる。

 トゥースがエッドの南にいると知った俺たちはそこに集まり、仮想魔王として俺を対象に、魔法実験の段階に入った。


「おし、この設置型魔法陣に乗れば、発動条件が認証型になる」

「マスター、本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫。理論上は上手くいく計算だ」

「まぁ、名だたる魔法士さんたちがそう判断してるから大丈夫でしょうけど!」

「いや、俺の言葉を信じろよ!」

「世間的にも、実績的にも信頼のあるのは他の方たちです!」

「本番前にどうしてそういう事言うかな!?」

「成功するならそれでいいですが失敗した時の事も考えるのが常識ですよ! ジョーシキ!」

「お前に常識があったとは驚きだね!」

「マスターにもあるとは思えませんけどぉ!?」

「俺は枠にとらわれない人間なんだよ!」

「枠が嫌がってるだけでしょう!」

「仮にも魔王だからな!」

「んな訳ないでしょう馬鹿マスター!」

「言うじゃねぇか犬ッコロ!」


 息を切らし言い合う俺たち。

 そんな俺たちを黙って見守ってくれる皆に感謝――


「――終わりました?」

「長い」


 ウォレンとアイリーンの淡泊な一言。俺の顔はヒクつき、ポチはショックを受けていた。

 フユとリナ、そしてティファは苦笑するも、ナツとララは欠伸をする程である。

 仕方なく俺はポチと見合う。


「団体行動って難しいな」

「魔王様なんですからドンとしてればいいのでは?」


 俺の反省を、ポチはジト目で迎えてからかった。

 にゃろう。皆の前だからっていい気になりやがって。

 ポチへの仕返しを考えようかと思った瞬間、リナが困った様子で手を挙げる。


「あの、この魔法の魔法名って何でしょう?」


 すると、ウォレンが顎に手を添えて答える。


「ふむ、認証型ですから音声認識はありません……が、便宜上の呼称は必要です、か。アズリー君、何かありますか?」

「え、『マジック・ブレイク』だけど?」


 そんなの端から決まっている。魔法作成者が魔法名を決める。寧ろ魔法名から考える事もあるくらいだ。魔法が完成したというのに、魔法名を決めていないのは、三流のする事だ。

 そう思っていたら、横からとんでもない声が聞こえてきた。


「だせぇ」

「なっ!? おいトゥース! マジック・ブレイクのどこがださいってんだ!」

「仮にも魔王に放つ魔法だろ? 『ギャラクティカ・アトミック・フォールダウン』とか良い感じの名前があるだろう?」


 くそ、超かっこいい!


「ちょ、ちょっとくらいカッコいい名前だからっていい気になるなよ!」

「いえ、全然かっこよくないわ」

「っ!? てめぇリーリア! 俺様のギャラクティカ・アトミック・フォールダウンのどこがかっこわるいってんだ!?」

「いや、俺のマジック・ブレイクだから!」

「私なら『マギ・ゼロ』と名付けるわね」

「くっ!? やるな! 年増なだけあるぜ!」

「シンプルにまとめられてる! 強敵だ……!」


 リーリアの魔法名にトゥースも俺もたじろいでしまう。

 リーリアの案も悪くない。がしかし、これは俺の魔法。俺の魔法なんだ!


「皆さん! ここは公平にいきましょう! 私は『ポチさんの怒り』を推します!」

「いつ出てきたんだそれは!? つーかポチの要素ゼロじゃねぇか!」


 俺たちの言い合いがまた始まりそうだったのに気付いたのか、アイリーンが手を叩いて俺たちを止める。


「これは皆で放つ魔法なのよ? 解放軍(レジスタンス)の代表として『ゾディアック・アタック』を推すわ」

「干支を混ぜりゃいいってもんじゃねぇんだよ! 何しゃしゃり出てんだ糞婆!」

「っ!? あなたのギャラクティカなんとかなんか最初から意味不明よ!」


 ぬぅ!? アイリーンの魔法名も捨てがたい!

 し、しかし十二人で放つ魔法だからって俺が作った魔法――いや、俺だけじゃない。確かに旧十二士の協力がなければこの魔法は完成しなかった! こ、ここはアイリーンの意見を取り入れるべきか……!?

 解放軍(レジスタンス)という強力な後ろ盾を使われては、引き下がる他ないのか!?


「私としては『ブラック・エンペラー』というのがお気に入りです」

「ちょっとウォレン!?」


 馬鹿な!? 解放軍(レジスタンス)が二つに割れただと!?

 というかアイツ、魔法に自分の称号取り入れてやがる!?


「ナツはね! えーっと、『ファンシー・ヘブン』!」


 なんておっかない名前を付けるんだ、あの少女は!?


「ララは『スーパー・ナムル』がいいと思うぞー」


 魔力を削る要素を排除した新たなる知見!? 新世代の魔法はこれだから目を離せない!


「『オルネル・アダムス』…………ふふ」


 もはや自己顕示欲の塊だろ!?


「いやぁ、『ぱるん・ぷるん・バルン』でしょう?」


 バルンも負けてない!?


「……『タラヲ・ボム』」


 ついに使い魔を爆弾にしたか、ティファ!?


「アジュリーしゃまには悪いでしゅが、『死翼(しよく)』というのはどうでしゅか!?」


 くそ、バラードまで参加し始めた!?


「『メープル・シュガー』とかどうでしょう?」


 何て胸焼けしそうなネーミングなんだ、フユ!?

 くそ、これは……負けてられない!


「マジック・ブレイクだって!」

「ギャラクティカ・アトミック・フォールダウン!」

「マギ・ゼロよ!」

「ゾディアック・アタックだって言ってるでしょう!」

「はははは、ブラック・エンペラーです」

「えー、ファンシー・ヘブンだよー」

「ハイパー・ナムルに一票」

「おいララ、さっきと変わってないか!? それよりオルネル・アダムス! かっこいいだろう!?」

「ぱるん・ぷるん・バルンには敵わないさ」

「タラヲ・ジ・エンド」

「ティファしゃん! タラヲしゃんが失神しちゃいましゅたよ!? ねぇねぇタラヲしゃん、死翼かっこよくないでしゅ!?」

「メープル・シュガー! きっと甘くて美味しいです!」

「大ポチ神の鉄槌! これでいいじゃないですか!?」


 全ての人間がこの魔法に関わってるからこそ、全ての人間が頑固であるからこそ、俺たちの言い合いのような椅子取りゲームは終わりを見せなかった。

 そんな俺たちのやり取りをオロオロと見ていたリナが、先程のデジャブかのように手を挙げた。


「あ、あの……ルシファーを倒すのであれば、それに準ずる名前の方がいいんじゃ…………ありませんか?」


 一瞬皆が固まる。

 しかし、それはやはり一瞬だったのだ。


「ルシファー・マジック・ブレイク!」

「ギャラクティカ・アトミック・ルシファーダウン!」

「ルシファー・ゼロよ!」

「ゾディアック・アタック・トゥ・ルシファー!」

「ならば、ブラック・エンペラー・トゥ・ルシファーです」

「じゃあ、ファンシー・ヘブン・トゥ・ルシファーは?」

「ハイパー・ナムルシファーとか……いい」

「ルシファー・アダムス! かっこい――……あれ?」

「ぱるん・ぷるん・バルシファーとか語呂最高にいいじゃん」

「タラヲ&ルシファー・ジ・エンド」

「死翼のルシファーだと翼生えちゃいましゅよね?」

「メープル・ルシュガー! これはちょっとビターな甘さだと思います!」

「大ポチ神とルシファーの鉄槌! これとかどうです!?」


 くそ! 全然決まりゃしない!

ごめんなさい。ちょっと楽しくなっちゃって。

後悔はしていない。



次回:「431 新魔法の威力」をお楽しみに。

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