431 新魔法の威力
結局、リナの仲裁が入り、魔法名に関しては落ち着きを見せた。
余り長すぎてはダメだし、自分の名前や称号もよろしくないという事で、俺たちが完成させた魔法は「ルシファー・ブレイク」とシンプルでありながら、ルシファーを倒すという願いが込められた名前になったのだ。
「まぁ、ルシファーにしか使う予定がないし、この名前でいいのかもしれないな」
「その魔法を今からマスターに使うんですけどね!」
「つまり、その一瞬だけ、この魔法はアズリー・ブレイクに!?」
「失敗しました!? マスターが喜んじゃいました!?」
「さぁ、いいからちゃっちゃとやっちゃうわよ!」
アイリーンの拍手の音に追われ、皆が位置に着く。といっても、この魔法は特別製だ。
既に十二人の識別コードを入力した。俺がこのルシファー・ブレイクの魔法陣に乗るだけで、その十二人皆の正面に空の魔法陣が出現する。
つまり、本番で俺がルシファーに一撃入れた段階で、皆の前に空の魔法陣が出現するという事。
「おう、本番じゃねぇんだ。気楽にやんな」
「は、はい!」
トゥースにしては珍しい。
フユの緊張を読み取りフォローしたか。
ん? あぁ、そういえばトゥースは一時期ガストンの依頼で王都守護魔法兵団の指導していたんだった。時期的にフユは被るのか。リナとオルネルはトゥースが離れた後だったはず。
思えば色々な場所で仲間たちの成長があったという事か。
アイリーンが俺にアイコンタクトを送る。
俺がルシファー・ブレイクの魔法陣に乗ると、皆の正面に空の魔法陣が出現する。
といっても、ただの魔力線で構成された円。この中に、各々違った魔法式を宙図するのだ。
「ほいのほいのほい! 出来ました!」
「っ!?」
凄い、本当にリナが一番早く描き上げた!?
「――のほい! っしゃ!」
トゥースが二番手。
「――ほい!」
やはりアイリーンも早い。
その後、ウォレン、ティファ、リーリアの順で魔法式が描き上がる。
「――ほい! やっぱり難しいなぁ、これ」
バルンが宙図に成功し、
「――ほい! うきゃー! できましゅたー!」
バラードも安定している。最近コノハにしごかれてるって話は本当みたいだな。
「――ほい。お師匠様! 前より早く出来ました!」
ララはコツを掴んだようだ。これだから若者の成長は見逃せない。
「――ほい! ゆ、指が死ぬ……!」
オルネルの顔が歪む。ところで、ルシファー・アダムスだと非常にシュールな名前じゃないか? ルシファーの入り婿というのも面白いかもしれないが、アダムス家に女性はいるのだろうか?
「「――ほい!」」
ナツとフユが同時に魔法を完成させる。
これで俺に対し、ルシファー・ブレイクの設置型魔法陣が発動する。
瞬間、足下から天に向かい強烈な光が走った。
「っ! くぉ!?」
まるで重力地獄に陥ったかのような倦怠感。
身体中の魔力が低下しているのがわかる程だ。
鑑定眼鏡を発動し、反射させる。自身のステータスを見ながらMPを確認していると、トゥースが声を掛けてきた。
「どうだアズリー。毎秒の低下具合は?」
「……およそ、五千ってとこだな」
「ふん、成功か。おう、もういいぜ」
「ぷう……これは、キツイな」
魔法陣から出て来た俺は、未だ身体の内部に残る倦怠感と戦っていた。
「ほい、ギヴィンマジック……っと」
足下に描いたギヴィンマジック。その魔法陣の上に腰を下ろし俯いていると、眼前に影が映る。それは、よく見慣れた輪郭をしていた。
「いけそうかしら?」
常成無敗のアイリーンの言葉。それは過酷な内容だと知ってて聞く、非常に冷淡な言葉だった。だが、その中に気遣いが無い訳ではない。もし、俺が「ダメ」と答えたならば、アイリーンは根気よく付き合ってくれるだろう。
余裕は全て俺の戦闘に回すつもり。その魂胆が背後に見えるからこそ、俺はこう言う他なかった。
「問題ありません」
「ルシファーへの一撃が何秒かかるかが鍵よ。その自信はあるの?」
「奇襲用の魔法を一つ考えます」
「瞬間転移魔法以上の?」
「いえ、併用すればなんとか一撃くらいは」
「いいわ。じゃあ五百万以上のルシファーのMPを削るために、ルシファー・ブレイクを発動させてから約千秒……いえ、それ以上が必要ね。そうね、ざっと二十分かしら。その間、ルシファーの攻撃を凌ぐ事は?」
俺は立ち上がり、アイリーンを見つめる。
「いけます」
「そうかしら? 前回の戦闘より長いと思うわよ?」
「大丈夫です。この後瞬間転移魔法の魔力効率を改良します」
「いいわ。最後に――」
「――ルシファーへの止め。その魔力も残しておきます」
「ふん、生意気ね」
静かに目を伏せるアイリーン。
俺はその肩に手を置き、自分を指差しながら言う。
「サガンのお師匠様ですよ?」
「っ! それは卑怯よ!」
「はははは、大丈夫です。決戦の時はルシファーに卑怯な手を使いますから」
俺の冗談に、皆がくすりと笑う。
「はん、レオンの救出はどうすんだ?」
そう、トゥース以外。
「わかってるよ。ルシファーに辿り着く前に、まずイディアを討つ。その時消耗した魔力は移動中に回復出来るはずだ」
「何でも願望交じりじゃやってけねぇよ。ルシファーが襲って来ない保障はねぇだろう?」
「そん時はレオンをお前に任せるさ」
「初めからそう言え」
「無茶よ! トゥースはそれ以外、嫌って程の仕事があるのよ!? レオンの救出に労力を割いてる暇なんて――」
「――うるせぇな糞婆。最初から全員が無茶を承知で動くんだ。やるっきゃねぇんだよ。それに、俺は今んとこ保険だ。ま、保険を使う前に俺が死んだらレオンは諦めるんだな、ははははは」
アイリーンはトゥースの言葉に黙る他なかった。親指の爪を噛み、もどかしそうな表情のアイリーンに、俺は一言添えた。
「レオンの洗脳が解けたのなら、俺たちの戦力はかなり増大します。リスクを承知でやるしかありません」
続き、ウォレンが言う。
「アイリーン様。今ここで決めたとしても、戦場で誰が何を成すかなど、最早予測出来ません。我々は既に、予測を超える敵の動きに翻弄され続けているのですから」
「戦場では何が起こるかわからない。アイリーンさんがよく言ってた事じゃなかった?」
バルンがニコリと笑いながら言うも、アイリーンは気丈に振る舞った。
「わかってる。わかってるわよ……」
……アイリーンには、辛い立場だろうな。
一度戦場に出てしまえば、もう後戻りは出来ない。
そして、その戦場に、駒として戦士や魔法士を配置するのは、他でもないアイリーンなのだ。
どこもかしこも危険地帯。誰をどこに配置したとしても死者は出る。
アイリーンは、無数の仲間たちに言わなければならないのだ。「そこで戦え」と。
援軍なんて期待出来ない、いるだけで死に向かうような場所。そこに仲間を配置しなければならない辛さ。俺如きがわかってやれるはずもない。
そして、これから決めなければいけないのは……最も酷な采配。
「…………わかったわ。真の十二士たちを守る精鋭を決めます。ウォレン、付いて来なさい」
「かしこまりました、アイリーン様」
己が身を守るための、壁役の選出。
それが、今のアイリーンの仕事。
あの小さな身体に、抱えているモノは非常に大きく、重い。
「私は死んではいけないから、アイツは死んではいけないから、お前が壁になれ」と、アイリーンは言わなければならない。
過去の大戦の時とは違う。死地を見つけに来た冒険者ばかりではない。
何より、生きるために戦う者が多いこの時代で、必ず付けられる優先順位。
――――負けられない。
そう、たとえこの身を滅ぼす結果になったとしても、ルシファーだけは俺が倒す。
今一度、俺は心にそう誓った。
次回:「◆432 決意固めし強者たち」をお楽しみに。




