◆432 決意固めし強者たち
魔法教室広間に呼ばれる無数の戦士、魔法士たち。
中央奥の壇上にはアイリーンが立ち、右後方にはウォレンが控える。
その真剣な眼差しから、呼び出された者たちの顔に緊張が走る。
「ピリピリしてるわね」
後方に座る銀虎ベティーの言葉。
隣に座る銀狼ブルーツは静かに「あぁ」とだけ返事をする。
「リナさんやオルネルさんはいらっしゃらないようでありんすね」
春華が周囲を見渡すも、二人の姿は見えなかった。
「ナツもララもいない」
「ティファもいませんな、リーダー」
銀獅子ブレイザー、ライアンも見当たらない仲間……いや、魔法士の存在に、違和感を覚える。
「一体、何が始まるんだ……?」
「いない人たちについての話ってのが濃厚ね」
リードの疑問に、マナが推測を述べる。
アドルフがゴクリと唾を呑み込み、レイナが緊張を見せる中、ブレイザーの隣に腰を下ろしたのは、二人の戦士。
「ったく、何度も呼び出してくれちゃって。私たちも暇じゃないのよ、暇じゃ……」
「キャサリンさん。何をするにもココが起点という事ですよ」
元六勇士の博愛の華弁キャサリンと、剣鬼ジェイコブである。
「ほぉ。キャサリン殿、ジェイコブ殿、お二人もいらっしゃったのですか」
「アナタは確か……銀獅子。名前は~そう、ブレイザーだったわね」
「まったく、最早立場逆転ですねぇ……」
ブレイザーが纏う魔力と気配。何よりその存在感を受け、ジェイコブが肩を竦める。
「ご冗談を。お二人の魔力が日に日に増大しているのは明白。さて、一体どんな魔法を使ったのでしょうか……」
ブレイザーは目を伏せながらキャサリンとジェイコブの実力を称える。
これを受けたキャサリンがわざとらしく目を大きく開け、首を軽く傾ける。
「あら、堅物だって聞いてたから意外だわ~。ま、特別ギルド員はこき使われてナンボって事よ」
キャサリンの軽い返しに、ブレイザーが小さく笑う。
やれやれと首を振るジェイコブ。その隣に腰を下ろす巨躯二人。
「なんじゃい、儂がここか?」
「つまり、そういう事なのでしょうね。チャーリー様」
チャーリーがとぼけたように言い、ドラガンが何かを悟ったように返す。
ジェイコブは隣に座るチャーリーを見て、また肩を竦めた。
「おやおや、チャーリー様がこんな末席に座るとは、一体どんなご身分になったのでしょうね。あのアイリーン様は」
ジェイコブの見据える場所では、アイリーンが肘を抱え、全員が揃うのを待っている。
ウォレンもまた、静観を貫いている。
続々と現れる、この世に名を馳せた強者たち。
元六勇士のエッグ、ナターシャ、ジェニファー。元六法士アミル、テンガロン、ラッセル。
雷光ジャンヌ。元王都守護魔法兵団団長ヴィオラと元団員たち。赤剣ダラス。チーム白銀の精鋭たちと、白翁アージェント。賢者の弟子メルキィ。遅れてやってきた銀のイデア、ミドルス。その級友であるアンリとクラリス。元王都守護勇士兵団の団員を引き連れたディネイア。クッグの猪共を引き連れ現れるイーガル。冒険者ギルドからやってきたギルドマスターのスコットとギルド員のダンカン…………。
誰も優劣なく、誰もが等しく肩を並べ広間に敷かれた座布団に腰を下ろす。
やがて、ウォレンが一歩前に出て、アイリーンに一言囁く。
「アイリーン様、揃いました」
アイリーンは静かに頷き、一歩前に出る。
ウォレンが下がると、常成無敗のアイリーンは、錚々たる面子を前に口を開く。
「今日、対ルシファー用の魔法が完成したわ」
一瞬ざわつく広間内。これを予期していたアイリーンが小さく手を挙げて皆の口を閉じさせる。皆はアイリーンの言葉に耳を傾ける。それは、何よりも重要な事だった。
「魔法名はルシファー・ブレイク。これをアズリーがルシファーとの戦闘中に、ルシファーに直接叩き込む事によって、十二人の人間の前に認証型魔法式が発動する。これは、ルシファーに魔法の存在を気付かせないため。そして、その十二人とは、ウォレン、トゥース、リーリア、リナ、オルネル、フユ、ティファ、ナツ、バルン、バラード、ララ、そして私。これが、現れた魔法式を最速で宙図出来る上位十二名よ」
アズリーと接点の強い十二人。
ナツやララの名前を知らない者もいるだろう。しかし、ここに呼ばれた者は選考会に参加した者、選考会場のこの魔法教室を警護した者が大半である。詳細はわからなくとも、皆理解している。
――――アイリーンがここに皆を招集した理由を。
「これから先、どんな理由があろうとも、何があろうと、この十二人を守らなくてはいけないわ。……全ては魔王ルシファーを倒すため」
皆はただじっとアイリーンの話を聞く。
人類存亡を賭けた戦いは近い。皆まで聞かずとも、アイリーンがこれから話す内容はわかるだろう。しかし誰も、片時もアイリーンから目を背ける事はない。それが、自らの使命であり、宿命であると理解し、信じているから。
「魔王ルシファーが持つ魔王軍の戦力は計り知れないものよ。悪魔イディア、ビリー、クリート、炎龍王、そして古代の聖帝レオン。アルファの戦力は知ってるわね。ベータの戦力は知ってるでしょう。更に、生きとし生ける全てのモンスターが、私たちを王都レガリアで待っている。正直、これが人類最後の戦いだと思ってるわ」
アイリーンは一度口を止め、深く呼吸をしてから意を決した様子で再度口を開いた。
「――……いえ、最後の戦いにしなくちゃならない! もう私が何を言うかわかるわね!? でも、でも言うわ! これは、協力ではない! これは、人類が生き残るための義務! アズリーを助ける十二人の人間を亡くしてはならない! その十二人は無くしてはならない存在! 十二人は、十二士は生きなければならない! たとえ手足がもげようと、たとえ死んでも! 山のような屍を積み上げようと、失ってはならない! 今一度言うわ! これは義務よ! 魔王軍との戦争で、十二士を失う事は許されない! そのために! それを何が何でも成すために! 私は! アナタたちの命を――使う!!」
……到底、教育者であったアイリーンが使う事はない言葉。
静まりかえる広間。誰もアイリーンを侮蔑の目で見る事はない。その目は、熱き魂を宿し、絶望色の希望を直視しても尚、震えながら目に涙を溜めるアイリーンを見つめる事を止めない。
その小さな双肩にのし掛かる重責は、この場にいる誰もが理解しているから。
俯き、震え続けるアイリーンが唇を噛み、口から血を流す。
それは、重責から逸脱した言葉だった。
しかし、誰も耳を塞ごうとは思わなかった。
何故ならそれは、自らをモノ扱いした解放軍のトップの言葉ではなく、紛れもないアイリーンの言葉だったから。
「…………お願い……あの人を…………アズリーを助けてあげて……」
漏れ出る嗚咽、止まらぬ涙。
この場にそぐわぬ、指揮官ではない――女の言葉。
くしゃくしゃになった顔で、歴戦の強者たちに懇願する――女の顔。
この場にいないアズリーを、この場にいる誰より守りたい――女の願い。
それは、誰も示し合わせぬ魂の叫び。
それは、誰より強く、誰より弱い一人の女の願いを叶える魂の叫び。
アイリーンの視界の狭間に見える、力強き強者たち。
いつの間にか両の足で立っていた強者たちの――魂の叫び。
「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」」
エッド中を揺らす、魂の呼応。
強者たちの心は、今一つに。
絶望に打ち勝つ希望を掴むが如く、その拳は……高く、硬く、強く握られていたのだった。
次回:「進む準備」をお楽しみに。




