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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十二章 ~地獄編~

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◆408 雷神

「……ほぉ」


 天を、大地を、世界の全てを照らすような瞬く光雷(こうらい)

 ヴェストメント・トールハンマー。雷光ジャンヌが得意とした雷の法衣を、アズリーは習い、模倣し、改良した。

 考案者のジャンヌが呆れる程に――。


【特級の魔法で最強の雷魔法ってフルスパーク・レインですよね?】

【そうだねアズリー。これが完成したら、かなり戦力向上出来ると思うわ】

【ジャンヌさん、ジャンヌさん……マスターのあの顔を見てください】

【……随分渋い顔ね?】

【間もなく……間もなくです。間の抜けた事言いますよ、きっと】

【へぇ?】

【ヴェストメント・フルスパーク・レインか……うーん、何か語呂が悪くないか?】

【おぉ、ビンゴだね~ポチ?】

【はい! 伊達に利きマスター(、、、、、)してませんよ!】

【はははは、そいつは面白いね。私も目指してみようかな?】

【難しいですよ】

【へぇ、どういうところが難しいの?】

【簡単過ぎて「本当にあってるのか不安になるのに慣れる事」が難しいです!】

【あははは! そいつは確かに難しい!】

【次はこう言います。「よし! ポチ、良い考えがある!」】

【よし! ポチ、良い考えがある!】

【最早、未来予知だね】

【ふふふ、かもしれません。はい! 何ですか!?】

【新たな雷魔法を作ろう! (きわみ)魔法で!】

【……これは予知出来たの?】

【語呂の良い魔法に呼び方を変えると思ってたんですけど、ちょっと違いました】

【ハハハハ……】


 アズリーとトゥースだけが発動可能な(きわみ)魔法。

 普通の魔法士が苦心して開発する新魔法。

 魔を求め続けるアズリーにとっては、ただの遊びに過ぎないのかもしれない。

 難は勿論ある。しかし、それを難なくという顔でやってのけるのがアズリーの探究心であり好奇心である。

 新たに作られた雷魔法は「トールハンマー」と名付けられ、更に雷の法衣に応用した時、ジャンヌからは、ただ感嘆の息しか出なかった。


 魔王ルシファーを前に、発動したヴェストメント・トールハンマー。

 アズリーの身体の表面を(おびただ)しい紫電が走り、風もなくマントが(なび)く。


「情報過多であろう魔法式。戦闘向きではないな」

「本来は究極限界(アルティリミット)の時に使うんだよ」

「まぁ、余が時間を与えただけの事。さて、その状態になり、余に拳が届くかな?」


 直後、アズリーの身体は消えていた。


「なっ!?」


 それは、魔王ルシファーの吃驚(きっきょう)すらも引き出した。

 瞬時にルシファーの背後に回ったアズリーの拳が、振り下ろされる。

 しかし――――


「――――クカカッ!」


 直後、ルシファーの身体が膨張し、漆黒の身体を形成した。

 魔王ルシファーの――――――悪魔化。

 そのまま振り返りアズリーの拳を掴むルシファー。


「惜しかったな……!」

「惜しくねぇよ! 余裕だなクソ野郎!」

「素の状態であれば食らっていた。人の身で余を本気にさせるとは、称賛に値する」

「だから何でお前だけ褒めるんだよ!」

「ふん!」


 ルシファーはアズリーを投げ飛ばす。着地後、再びアズリーはルシファーに迫る。


「ほい! オールアップ! ふんが!」


 身体能力向上魔法、更に能力向上特殊能力を全て発動し、ドリニウム・ロッドを下段から振り上げる。


「ふん」


 ルシファーはそれを右足の裏で受け止める。


「ぐぅ……」

「素晴らしい一撃……だがそう簡単に魔王に届くはずもない……」


 俯きながら、アズリーが唸る。


「うぅううう……!」

「くくくく……っ! 何っ!?」


 ルシファーの足が、徐々に押し上げられる。


「ぅうううううううううぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「くっ!?」


 押し切るように振り上げられたドリニウム・ロッド。

 ルシファーは後転してかわすも、驚きの表情を隠せない。


「はぁはぁはぁはぁ…………あんまり……人間を舐めるんじゃねぇ!」


 肩で息をするアズリー。ルシファーに向けられたドリニウム・ロッドは、静かに光を(たた)える。まるで、人類の力を見せつけるように。


「火事場の馬鹿力というやつか。精一杯の攻撃でそんなに息を切らしてどうする? 余に勝てる見込みは一割もないぞ?」

「上げるんだよ……三割(、、)に!」

「くくくく、随分中途半端な望みだな……?」

「うるせぇ! 俺にとっては超重要な数字なんだよ!!」

「では上げてみせろ。そして知れ、一割に満たぬ望みを……!」

「カァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!」


 極大に広がる純粋で暴力的な魔力。

 放出されヴェストメント・トールハンマーと混じる魔力は更に光り輝く。


究極限界(アルティリミット)か……」


 りんと鳴る魔力の響き。

 アズリーは吹き荒れる魔力と共に駆け出した。

 しかし、駆け出したのはアズリーだけではなかった。合わせるように駆け始めたルシファーは、アズリーを前に言い放つ。


 ――――死んでくれるなよ?


 同時にルシファーも究極限界(アルティリミット)を発動し、文字通り悪魔的魔力を込めた拳が振り下ろされる。

 再びドリニウム・ロッドを振り上げるアズリー。

 互いの目が……互いの杖と拳が、かつてない衝撃を予感させる。


「「バーストォッ!!」」


 魔王の拳とアズリーのドリニウム・ロッドが加速を見せ、衝突する。

 アズリーの瞳に最初に映ったのは鈍い光。

 赤黒い光がアズリーの前を舞い、ルシファーの前を舞った。それは、ドリニウム・ロッドの破壊を知らせる鈍い光。

 その後、両者の間に異なった時間が流れた。

 アズリーの武器破壊を喜ぶ魔王と、己が武器の消滅にショックを受けるアズリー。

 直後、二人の耳に、光より遅く音が届く頃、アズリーの瞳がショックから立ち直る。

 眼鏡越しに鋭く光り続ける愚者の瞳は、ルシファーの目を更に笑いに染めた。


「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」


 アズリーの拳、ルシファーの拳が幾度もぶつかり合い、その度に爆発のような光と轟音(ごうおん)が生まれる。

 攻撃の中に現れるルシファーの虚実。アズリーは必死の形相をしながらもそれを受け、かわし、いなし、時には(おの)が攻撃で防いだ。


「クカカカカカカカカッ!!」


 ルシファーの攻撃は何度もアズリーに入るのに対し、アズリーの攻撃は全て防がれる。

 増えゆく傷。しかし、それに痛がる素振りすら見せず、アズリーはただただルシファーに攻撃を繰り返す。

 止まらぬ両者の猛攻に終わりを見せたのは、やはりルシファーの一撃だった。


「フン!」


 腹部に決まったルシファーの蹴りが、アズリーを吹き飛ばす。

 中空で体勢を立て直し、大地に五指(ごし)を突き刺しながら衝撃を殺すアズリーに、ルシファーは笑みを見せながら静観する。


「はぁはぁはぁ……ぐぅ!」


 腹部を押さえ、全身に残る鈍痛に苦悶の表情を見せるアズリー。

 直後、俯くアズリーの耳に異音が響く。

 正面から聞こえる小さな破裂音のような音。

 それが、ルシファーが笑いながらアズリーに送る、称賛(はくしゅ)の音だと、アズリーは顔を上げてようやく気付いたのだ。

 リズミカルに叩かれる音が止む事はなく、ルシファーはただ手を叩き続けた。

 やがてその音が小さくなり、弱くなり、余韻だけを残すようになった頃、ルシファーはようやく口を開いた。


「……素晴らしい」


 虚空に響くルシファーの声。


「正に雷神(らいじん)が如しだな。全てが良質の一撃。重く、魔の籠った恐るべき一撃だ。素晴らしき力、素晴らしき能力……部下に欲しいくらいだな」

「……へっ、誰がお前なんかに――」

「――当然だ。余が褒めたのは貴様の能力のみ。余の方も貴様なぞ願い下げだ」

「知ってるさ」

「しかしどうする? この拭い難い状況? この抗えぬ実力差。余と貴様の違い……クククク」


 笑いを零すルシファーに、アズリーが乾いた笑いを返す。


「……へっ、やっぱり気付いてないか」

「何?」


 ルシファーが気付いたのは、その雫が頬を伝った触覚情報からだった。ルシファーが指で頬に触れると、付いたのは魔王ルシファーの…………血液。

 記憶のない傷。理解の出来ない流血に、ルシファーは疑問をアズリーに向ける事しか出来なかった。


「……余に…………何をした?」


 アズリーに向けたはずの忿怒(ふんぬ)の瞳。

 しかし、その時、既にそこにはアズリーはいなかったのだ。

 直後、ルシファーに未だかつてない衝撃を与えたのは、魔王の頬を穿(うが)つ――――愚者の拳。

届いた……!!

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