表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十二章 ~地獄編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

411/497

◆403 魔王の動向

 王都レガリア城。

 玉座に座る魔王ルシファーが、獄龍ヘルエンペラーを見下ろす。

 魔王を前にしたヘルエンペラーには、既に魔王に対する恐怖はなく、静かに、ただ黙ってその指示を待つのみだった。


「ふん、力を持っているだけに力には素直か。どこぞの犬とは違うな」

「グルルルルル……」

「これより貴様はビリーが用意したアルファ、ベータの()に入れ。己以外の生命を許すな」


 ヘルエンペラーは目を伏せて従う意をルシファーに見せる。


「ビリー、わかっているな?」

「はっ! 完璧に仕上げて見せます!」

「機嫌取りはいい。結果を見せろ」

「では早々に」


 ビリーは深々と頭を下げた(のち)、立ち上がってヘルエンペラーと共に影に消えていく。すると、ルシファーの視線がその隣に移る。


「イディア、手を焼いているそうだな?」

「ご心配には及びません。外れかけたネジを巻き直すだけの事。不安定な時期は乗り越えました」

「ネジが馬鹿になっていないとも限らぬ。何せ、そのネジを緩めたのはあの馬鹿だからな……」

「かしこまりました」


 跪いたイディアは、頭を低くしたままビリー同様に消え、残るはクリートのみとなった。


「さて、今回は其方(そなた)か」

「は!」

「緊張する必要はない。其方の今回の役目は非常に重要だ。それはわかっているな?」

「……は!」


 クリートの身体が震える。

 ルシファーが命じる役目――()(すなわ)ち王都守護勇士兵団の監視役である。クリートの実力であれば、守護勇士兵団の戦力は恐怖の対象とはならない。

 しかし、使者(、、)がトウエッドの薫と謁見している間、解放軍(レジスタンス)に狙われれば、それはクリートの死を意味する。

 それが、クリートの恐怖の理由。


「くくくく、怖いか?」

「め、滅相もなく……!」

「大きな魔力がトウエッドに集結しつつある。おそらく天獣もエッドにいるだろう。勇士兵団が狙われれば命はないだろうなぁ、クリート?」

「粉骨砕身の思いで――」

「――それでは死ぬだけだ」


 ルシファーの目は終始笑いに満ちている。

 しかし、相手は魔王ルシファー。クリートが何かを返す事は出来ない。


「では……どうしろと?」

「レオンが憎いのか?」

「っ!?」

「ふふふふ、其方のその正直な反応、嫌いではない」

「失礼を……」

「よい、許す。憎悪は其方を高みへと連れて行く」

「……というと?」


 クリートの頭が上がる。

 微笑と共に、ルシファーが一つの魔術陣を描いて見せる。


「受け取れ」

「は! ……しかし、これは一体?」

(うたげ)が始まるまでとっておけ。そして死にたくなければ思い出せ。その魔術と、憎悪を……」


 淡々と語るルシファーに、クリートは背筋を凍らせる。

 玉座の間に充満する高密度の魔力は、静寂を貫き研ぎ澄まされていく。

 そんな静寂を、クリートが恐る恐る破る。


「ル、ルシファー様……一つ質問をよろしいでしょうか?」

「何だ?」

「今回の使者……一体誰を選ばれるおつもりで?」


 疑問を述べるクリートを前に、ルシファーが嬉々とした表情を浮かべる。

 それは、悪魔であるクリートすら怯えさせる魔王の笑み。


「いい質問だ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――トウエッド首都、エッドの魔法教室広場。


「ほぅ、そいつは初耳だな」


 顔を(しか)めるは巨大なエルフ――トゥース。

 正面には、アズリー、そして戦闘に身を置く屈強な面々が顔を連ねた。


「あぁ、おそらく数日中に使者はやってくる」

「その数日中ってのは何でわかったんだ? 書状には正確な日付は書いてなかったんだろう?」


 アズリーの説明に、銀の特攻隊長ブルーツが首を傾げる。


「ブルーツが気を失ってる間にルシファーが言ってたんだよ」

「うぅ、傷を(えぐ)られるような言われようだぜ……」


 項垂れるブルーツにアズリーが苦笑する。


「で、ルシファーは何て?」


 ベティーの質問。

 アズリーは言いにくそうな表情を浮かべ、重い口を開く。


「……『数日の後、世界は地獄と化す。存分に抗え。存分に絶望しろ』と」

「……正に魔王の言葉ですね」


 トレースが腕を抱えながらぞくりと一度震える。


「確かに、その口ぶりなら近い内にやって来そうね。帰らずの迷宮に行ってた期間は四日。この一週間の内、いえ、六日以内に魔王軍が動く……か」


 アイリーンが顎に手を添えて呟く。


「わかったわ。ウォレン、来なさい。アズリー、あなたも後で来なさい」

「あ、え? はい」


 アイリーンはそう言って魔法教室の奥へと消えていった。

 ウォレンはアズリーを横切ると、


「不思議な顔をしていますね?」


 小声でアズリーに聞いた。


「てっきり怒られるかと思ったんですけどね。『何でそんな大事な事言わなかったの!?』って」

「怒ってますよ? アイリーン様」

「へ?」

「怒っていると言ってるんです」

「……それはまた何故?」

「今しがた、ご自分で理由を語ってたような気がしましたが?」

「あー……うん、そうなんですけどね?」

「ふふふふ。ここではアズリー君を怒れないでしょう? 人類最大の戦力のモチベーションを下げるような物言いは、周囲からのアイリーン様への信頼と、各々方への士気にも影響を及ぼします。時と場所を考えているという事ですよ」

「つまり、俺は後で怒られると?」

「そういう事です」

「モチベーション云々(うんぬん)の下り、俺への影響は考えていないと?」

「そんな事はありません。私がしっかりとフォローしますから」


 するとウォレンは真顔になり、更に声を落として手を前に出した。


「これを」

「っ? それは……?」

「耳栓です」


 声を殺して笑う者――数人。

 堪えきれなくなって笑い声を漏らす者――数人。

 耳栓を受け取ったアズリーを指差して大笑いする者――数十人。

 呆れる者もまた……数十人。


 しかし、ウォレンとアズリーの会話は小声で行われたもの。

 それを拾った百人近くの仲間は、


(にゃろう、盗み聞きしてやがったな……!?)


 その通りだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「――いいわね! わかった!?」


 ウォレンのアイコンタクトにより、耳を掻く振りをして片耳の耳栓を外すアズリー。


「あ、はい。わかりました」

「……何よ? やけに素直ね?」


 いつもならば、少なからず反論するはずのアズリーの反応に、アイリーンが(いぶか)しむ。


「うぇ? そ、そんな事ないですよ!?」


 明らかに挙動がおかしくなるアズリー。

 すると、アズリーは同席していたウォレンに助けを求めるように視線を送った。送ってしまったのだ。

 そんな視線をアイリーンが見逃すはずがなかった。


「ふん!」


 アイリーンのジロリという鋭い視線がウォレンに向く。

 ウォレンはただアイリーンに微笑み返すのみ。彼は黒帝とも称される男。たとえ相手がアイリーンであろうと、そんな隙を見せるはずがなかった。


「ふん!」


 視線をアズリーに戻すアイリーン。彼は人類の頂とも称される男。相手がアイリーンだからこそ、目が泳ぎ……やがて顔すらもヒクヒクと泳いでしまうのだ。

 それを見るアイリーンの観察眼は鋭く、アズリーのもう片方に付いている耳栓を発見してしまう。


「それ、何?」

「……魔力の波の音が聞こえる耳に優しい魔道具です」

「見せなさい」

「嫌です」

「その耳栓(、、)を、見せなさい」

「まどーぐです」

「その魔道具を見せなさい」

「…………耳栓です」

「やっぱり耳栓じゃない!」


 罪のない机が激しく叩かれる。


「最初からお説教のやりなおしよ!」

「最後だけにしません? 」

「却下よ!」

「許可を」

「無理よ!」

「無体な」

「馬鹿にしてんの!?」

「よく馬鹿にされてます」


 そんな二人のやり取りを止めるのは、やはりウォレンである。


「お二方……薫様から念話連絡が入りました。これより神殿に向かいましょう」

「ぐっ……!」

「ほっ……」


 ウォレンが微笑み、先程のようにアズリーを横切る。

 そんなウォレンに違和感を覚え、アズリーがハッとして気付く。


(にゃろう、もっと前から薫から連絡が入ってたな……!?)


 その通りだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~』
おっさんは、魔王と同じ能力【血鎖の転換】を得て吸血鬼に転生した!
ねじ曲がって一周しちゃうくらい性格が歪んだおっさんの成り上がり!

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ