402 集結の時
うぅむ、ウォレンは「対応を考える」と言っていたが、ありゃ相当怒ってるな。
黒帝とも称される男の怒気とは、恐ろしいものだ。
「なーに、うんうん頷いているんです、かっ!」
「よっと、ん? 何だポチ? そんな悲しそうな顔して?」
「いや、おかしいですよ! 完全に気配消して接近したのに、何で今のかわせるんですかっ!?」
「え? あ……うーん、なんとなく!?」
「何となくでかわされるレベルなんですか、私!? マスターと同じレベルなんですよ!?」
はて? 確かにその通りだ。
最近戦士寄りの戦い方になってるから、感覚が鋭敏になってるのかもしれないな。
先日のモンスター接近についてもそうだが、ミネルバの言葉通りだったな。
だが、俺は魔について諦めたつもりはない。必ず魔王を倒すべく賢者となり……いや、大賢者となってやるんだ。
「ん。精進しろよ、ポチ」
「むきー! なんですかそれ! その態度! せっかく良い事教えてあげようとおもったのに!」
「良い事?」
「強く大きな魔力が南からここに向かってるってトゥースさんが言ってたんですけど、マスターには教えてあげませんっ!!」
「へぇ、それじゃあ南門に行ってみるか」
「何で知ってるんですっ!?」
疑問を大にしながら、何故コイツは尻尾を振っているのだろうか。
最近ますますポチがわからなくなるが、こんなんでも使い魔杯の覇者なんだよな。
俺は「マスター! マスター!」と突っかかってくるポチを適度に流しながら、南門へ向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おぅ、呑気な登場だな」
南門で胡座をかいて座っていたトゥースが、俺の接近に気付いてそう言った。
「ポチが慌ててなかったからな。って事は、大体検討がつくさ」
「確かにな。悪い魔力は感じねぇ。が、ポチのヤツ……お前ぇのところは最後に報告したみたいだな」
ニヤリと口の端をあげたトゥース。
む、確かに俺より早く銀の皆やリナたちが来ている。
さっき別れたばかりのウォレンやアイリーンもいるのだから、俺への報告が最後という事か。
……ん?
「どうしたんです、マスター?」
「お前、本当に俺の使い魔か?」
「八百年の付き合いをお忘れで?」
「大事な事なら最初に俺に報告だろう!?」
「大丈夫です! まだ大事には至ってません!」
「そういう話をしてるんじゃねぇんだよ!」
「あ、見てください! 見えましたよ!」
と、ポチが右前脚を伸ばし叫んだ瞬間、俺たちの目の前に風がやってきた。
見上げると瞳に映る灰色の巨躯。
それを見てブルの背で鼻息を荒く吐く伝説の黒紫の鳥。
皆が固唾を呑み、俺は懐かしさに顔を綻ばせた。
「よぉ、久しぶりだ――」
「――灰虎です!! 覚えていらっしゃいますか、シロさん!!」
俺は顔を綻ばせたまま固まっていたが、灰虎のヤツは顔を紅潮させていた。
「お久しぶりですー!」
ポチはポチで、灰虎の好意に気付いてないようだ。
相変わらず自分の事になると鈍いヤツである。
「はぁ、こりゃ病的だな……」
トゥースが頭を掻きながら言う。
「ふはははは! 聞いたか紫死鳥よ!? シロさんは我を覚えていたぞ!? 無論、我は片時も忘れていなかったがな! む? ……久しいな千の魔手よ?」
獣同士のテンションと人間と話す時のテンションの差が激しいな。
まさか……文字通り人間の前では猫を被ってたとはね。
「ブルと紫死鳥から、此度の伝言受け取った。再び魔王が復活したようだな?」
既に違和感しか感じない。
しかし、面識のないアイリーンに話の進行を任せる訳にもいかない。
「あぁ。悪いけどまた力を貸してくれ」
「ふっ、我らの絆は時如きで綻びはしない。黒亀の爺も、黄龍も近くまで来ている。姿を見せるのも間もなくだろう」
「ふん、どうせ隠れ家が見つかって逃げて来たのだろう。天獣といえど、今や逃げ場はここしかない。相変わらず見栄っ張りだな」
「くっ!? 何を言うか紫死鳥! シロさんの前でそんな事を言うんじゃない!!」
シロ以外の前ではいいのか。
「はぁ……まぁ、ようやくこちらの戦力が整ってきたな」
「首を長くして待ってたってかぁ? まぁ、ヤツ程じゃないがな」
トゥースの視線の先には、何かがいた。
細長い身体が大地を這っているのだ。何だよ、示し合わせたかのように揃うな。
獣の感性って独特だし、天獣故に揃ったのかもしれない。
「あら奇遇ですね」
黄龍のこの切り出し方にも違和感がある。
「あぁ、久しぶりだな黄龍」
あの戦争の後、多くの人間と触れたのかもしれない。ならばこの性格変異にも納得がいく。トゥースと面識があるようだから、もしかしたらコイツの影響もあるかもな。
しかし、神様が言った『俺の軌跡』か。今、その軌跡がトウエッドに集結しつつある。
「微力ながら、魔王との決戦に参加させて頂きます」
「アズリー、真に受けるな。『一人じゃ怖いから仲間に入れてくれ』だ」
紫死鳥の翻訳も、あながち間違っていないかもしれない。
「まったく、情緒も何もないのですね、アナタは」
「何だ、この五千年で結構仲良くなったんだな?」
「いえ、紫死鳥さんが何度も私たちの巣を訪れて勝負を挑んできたもので、顔を合わせる機会が多くなっただけです」
総じてそれを仲良くなったというんだ。
徐々に集まる伝説たち。周囲の人間は、それを緊張の面持ちで見守る事しか出来ない。
トゥースに近い実力者がこれだけ集まれば、その実力差と存在の違いに萎縮してしまうのは仕方ないが…………、
「リナお姉ちゃん! あれ、飛んでる!」
「亀さんだね、ティファ!」
我が弟子たちの胆力は、一体誰に似たのだろう。
「私も早く飛びたいですー!」
天獣の特性……か。
黄龍は長い身体を這わせた方が早いだろうし、灰虎も似たような理由で走ってるんだろうな。見たところ飛行特性を活用しているのは黒亀くらいなのか。
確かに、雄大ではあるが、そこまで速くない。生身であれ以上の速度が出るのであれば、飛ぶ必要性はないのか。
ポチが覚えたとしても、飽きるのは早そうだな。
南門の前にゆっくりと着地した黒亀がジロリと俺を見る。
「久しいのう、童」
「お久しぶりです」
この人はブレないな。
まぁ、近付きたいと思う人があまりいないのかもしれない。
面倒くさがり屋っぽいし。
黒亀に関しては紫死鳥も何も言わないところを見るに、そういう事なのだろう。
「なんじゃトゥース。まだ生きとったのか」
「さ、全員揃ったな。アイリーン、状況を説明してやれ」
黒亀にはトゥースも無視か。
仲が悪いのだろうか?
そんな事を考えていると、紫死鳥が俺の隣に飛んで来て耳打ちをした。
「過去あの二人は喧嘩してな。その時はトゥースも若く惜敗したのだ。が、それ以降トゥースが強くなると、黒亀は全ての勝負を断ったのだ」
なるほど。ずる賢い爺さんって訳か。
勝ち逃げされたままなんだな、トゥースは。
今戦えばトゥースの方が強いのはわかりきってるが、過去の勝敗までは拭えない。
黒亀は逃げ続ける限りトゥースにデカい顔が出来る。
老練というやつなのだろうか。勝負事より戦略向きだな、あの亀の爺さん。
「おいおい……住民までアイツら見に来たぞ?」
「これでまた増長するな、ヤツら」
紫死鳥の苦言を聞きながら、俺はたははと息を吐くのだった。
コミック アース・スター様にて荒木風羽先生による『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ と、ポチの大冒険』の第21話が公開されております。
あんよが上手なアズリーを是非見てやってください・x・b




