404 ウォレンの策
その後、俺たちは魔法教室に残っていた面々に「神殿に行く」と伝え、アイリーンとウォレン、そして俺とポチは、薫が待つであろう神殿へと向かっていた――――のだが、先程からアイリーンが目を合わせてくれない。
「ねぇねぇマスター? 何でアイリーンさん怒ってるんですか?」
「わからない。お説教中に耳栓してただけなのに」
「怒られるのは誰だって嫌ですもんね」
「だろう?」
そんな会話をポチと続けていると、アイリーンが深い溜め息を吐いた。
「はぁ~……何で私の周りには一癖も二癖もあるヤツらが多いのかしら……」
「おや? 凡夫の私にとってはとても羨ましい事ですね」
ウォレンが言うか!
「はぁ……ちょっと黙るわ…………」
アイリーンが突っ込みを拒絶する程には、ウォレンの癖の強さに悩まされてるようだな。
「それで、薫さんは今回どんなご用事なんでしょうか?」
ポチの疑問が、連絡をもらったウォレンに向く。
「おそらく、使者がやって来た際の事前の打ち合わせでしょう。どう対処するかは私の私見を交えて煮詰めていきたいと思います」
私見……か。という事はやはりウォレンに策があるって事だろうな。
俺はウォレンの提示する策に恐ろしさと頼もしさを覚えつつ、神殿への道を歩いた。
「使者……一体誰なんでしょうね」
「さぁな、イディアが動くかビリーが動くか……もしかしたら使い捨てのように十二士の誰かが来るか……」
神殿に着く頃、空は既に黄昏に染まっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やぁアズリー、ポチ。それにアイリーン殿にウォレン殿」
おかしい。薫は俺たちだけ呼び捨てである。
「「久しく御無沙汰しております。薫様」」
座布団に腰を下ろしたアイリーンとウォレンが頭を下げる。
次いで俺たちも頭を下げた。
すると、ウォレンが小声で俺に言ったのだ。
「トウエッドの巫女に、随分気に入られているようですね」
「そう見えます?」
「最初の挨拶があなた方へのものだったでしょう?」
ふむ、確かにその通りだ。
ならば、あの呼び方は薫なりの親愛の証なのだろう。
「堅苦しい挨拶は抜きだ。アズリーの言うとおり、六日以内に使者が来るとしたら、一分一秒だって惜しんじゃいられない」
「同感です。早速ですが、参謀のウォレンから薫様に具申したい事があるそうです」
「結構。聞かせてくれるかい?」
「はい」
ウォレンは背筋を伸ばし、薫を前に堂々と胸を張った。
やっぱりウォレンって政治家向きだよな。もしこの戦争が終わったら、戦魔国のどの位置に座るのか。それもちょっと楽しみである。
「まず、薫様にお伺いしたい。今回の謁見、こちらの神殿で行うおつもりで?」
「相手が国として来るならば最低限の礼ってものがあるからね。正直奴らを一目たりとも見たくもないが……これが代表の辛いところさね」
「ならば、この神殿には厳重な警備……いえ、護衛が必要です」
「同感だよ。後ろには潤子もいるんだからね」
薫は鼻息をすんと鳴らして言った。
やはり潤子の容態はあまりよくないようだ。
「では、神殿での同席は護衛含め三人。使者は一人に限らせて頂きます」
「それくらい向こうも承知してるだろう。使者は捨て駒かもしれないしね。しかし三人か……私を除くと二人って事になるよ?」
うーむ、二人で薫を守るのか。確かに多すぎても、いざ相手に動かれれば後手に回ってしまう可能性もある。護衛を少数精鋭にするというのには俺も納得だ。
ともなるとかなりの手練れが必要だな。
「私の友人に人類最強の男がいます。そしてそのお供も、比類無き強さを誇る気高き犬狼……そして古来より薫様の信を得ている」
「「ん?」」
俺とポチの声が揃う。
「……ふふふふ、その二人を私の隣に付けるか。まぁ、これ以上はない護衛だね」
「「ん?」」
「ちょっと待って。だったらポチじゃなくてアズリーとトゥースで護衛すればいいんじゃないの?」
「あの方のサイズでは神殿が崩壊してしまいます。それに、トゥースさんには他にやって頂きたい事があります」
「というと?」
「エッドの南門前で待って頂く王都守護勇士兵団。これを襲撃し、クリート及び戦魔国に味方する悪しき者を叩きます」
「……思い切ったわね」
アイリーンの目が真剣になる。
薫すらも、顔にあった余裕を消す。
そして俺とポチは未だに首を傾げたままである。
「無論、薫様の承認ありきですが……トゥースさん、銀、白銀、エッドの猪共、天獣の皆さんのお力を使えば、勇士兵団の戦力を削がず奪わず、制圧する事が可能です。当然、向こうは解放するつもりで連れて来ているはずですが、こちらの最大の目的は、厄介な悪魔を一匹排除したという戦果です。そろそろ戦魔国にもリスクを与えなければジリ貧ですから」
笑顔で語るウォレン。
なるほど、あの時の笑顔の正体がこれか。
なんて恐ろしい事を考えるんだ、コイツは。
「その中に……私たちの動きがないわね?」
確かに、解放軍の動きについては、今のところ明かされていない。
アイリーンの言うことは尤もだ。
するとウォレンは、笑顔のまま俺たちに向き直った。
「アズリー君、先程の耳栓……まだ持っていますね?」
「え? あ、はい」
「ではポチさん、これを」
「あ、ワンちゃん用の耳栓ですね! ……どうです、マスター!? 似合います!?」
「もこもこだな」
「え? 何て言ってるんですか!? ちゃんと言わなくちゃわかりませんよ!?」
「さぁ、アズリー君。付けてください」
「……はぁ、念話連絡すればいい話なのに……」
「今のあなたの状態を崩したくないだけですよ」
魔素が取り巻いてるってやつか。にゃろう。最初からこれが目的で耳栓を俺に渡したな?
一体どこまで計算しているのか……。
俺はウォレンに言われるがまま、借りた耳栓をした。
無音状態なのに、ポチは終始俺に話しかけてきた。読唇術を使う事も出来たが、面倒臭かったので、全部頷いておいた。すると、何故かポチは俺に変顔をアピールしまくってきた。
しかし、俺は何が何だかわからなかったので首を捻るだけにとどまった。
するとポチは俺を前脚で指して大笑いしたのだ。
はて、ポチの中で一体何が起きたのだろうか。
そんな合間に、薫、アイリーン、ウォレンの方を見た。いや、見てしまった。
すると三人は、世の悪人ベスト3に入る位の悪人面をしながら、気味悪く笑っていたのだ。
ポチの大笑いは遂に涙すら見せるも、俺は終始悪寒に襲われていた。
一体、ウォレンは何を話していたのだろうか。耳栓を俺とポチにさせたという事は、俺たちに知られたくないという事だ。
仮にも解放軍の幹部という位置にいる俺が、どこかに漏らすとでも考えたのだろうか?
俺はそんなに信頼されていないのだろうか。
そんな不安を抱いていると、ウォレンが自分の耳を指差して「耳栓をとっていい」と合図したのだ。
俺は自分とポチの耳栓を合図されるがままに外した。
「という事です、アズリー君。わかりましたか?」
「わかるか!」
「はい、大丈夫そうですね♪」
嬉しそうなウォレンの表情。
「まぁ、やれるだけやってみましょう」
「こっちはこっちで任せといておくれ」
アイリーンと薫の言葉。
アイリーンは一体何をするんだ? 薫は一体何を任されたんだ?
「そう不安そうにしないでください。私たちはお二人を信頼しているんですから」
「それがこの耳栓ですか?」
「おや? お二人の性格を熟知した采配ですよ」
「つまり、信頼してるからこその耳栓だと?」
「えぇ。あ、そうでした」
「何ですか?」
「ポチさんとの《睨めっこ勝負》……中々面白かったですよ」
「いつ俺とポチが睨めっこを?」
そんな疑問を投げかけると、ウォレンは笑顔のままポチを見た。
「マスターがうんうんって頷いてたんですよ! 暇だから睨めっこしましょう! って言ったじゃないですか!」
「読唇術使うのも面倒だったから適当に頷いてたんだよ!」
「つまり読心術を!?」
「そういう問題でもねぇ! つーかそれなら何で笑ってたんだよ!」
「え、マスターの顔すっごい面白かったですよ?」
「首捻ってただけだよ! 普段の顔がそんなにおかしいってか!?」
「それは気付きませんでした!? 本当ですー! 変な顔ですー! あははははは!」
「てめ、このやろっ!」
すると、俺とポチの喧嘩を薫の笑い声が止めた。
「あっはっはっはっは! やっぱり二人はいいね!」
「「へ?」」
「この命……アンタたちに預けるよ」
護衛という大役を任せられてしまった俺とポチ。事実上トウエッドのトップに、命を預けられてしまった瞬間だった。
ニコニコ漫画様で『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ と、ポチの大冒険』第21話が更新されました!
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