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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十二章 ~地獄編~

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404 ウォレンの策

 その後、俺たちは魔法教室に残っていた面々に「神殿に行く」と伝え、アイリーンとウォレン、そして俺とポチは、薫が待つであろう神殿へと向かっていた――――のだが、先程からアイリーンが目を合わせてくれない。


「ねぇねぇマスター? 何でアイリーンさん怒ってるんですか?」

「わからない。お説教中に耳栓してただけなのに」

「怒られるのは誰だって嫌ですもんね」

「だろう?」


 そんな会話をポチと続けていると、アイリーンが深い溜め息を吐いた。


「はぁ~……何で私の周りには一癖も二癖もあるヤツらが多いのかしら……」

「おや? 凡夫(ぼんぷ)の私にとってはとても羨ましい事ですね」


 ウォレン(お前)が言うか!


「はぁ……ちょっと黙るわ…………」


 アイリーンが突っ込みを拒絶する程には、ウォレンの癖の強さに悩まされてるようだな。


「それで、薫さんは今回どんなご用事なんでしょうか?」


 ポチの疑問が、連絡をもらったウォレンに向く。


「おそらく、使者がやって来た際の事前の打ち合わせでしょう。どう対処するかは私の私見を交えて煮詰めていきたいと思います」


 私見……か。という事はやはりウォレンに策があるって事だろうな。

 俺はウォレンの提示する策に恐ろしさと頼もしさを覚えつつ、神殿への道を歩いた。


「使者……一体誰なんでしょうね」

「さぁな、イディアが動くかビリーが動くか……もしかしたら使い捨てのように十二士の誰かが来るか……」


 神殿に着く頃、空は既に黄昏(たそがれ)に染まっていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「やぁアズリー、ポチ。それにアイリーン殿にウォレン殿」


 おかしい。薫は俺たちだけ呼び捨てである。


「「久しく御無沙汰しております。薫様」」


 座布団に腰を下ろしたアイリーンとウォレンが頭を下げる。

 次いで俺たちも頭を下げた。

 すると、ウォレンが小声で俺に言ったのだ。


「トウエッドの巫女に、随分気に入られているようですね」

「そう見えます?」

「最初の挨拶があなた方へのものだったでしょう?」


 ふむ、確かにその通りだ。

 ならば、あの呼び方は薫なりの親愛の証なのだろう。


「堅苦しい挨拶は抜きだ。アズリーの言うとおり、六日以内に使者が来るとしたら、一分一秒だって惜しんじゃいられない」

「同感です。早速ですが、参謀のウォレンから薫様に具申(ぐしん)したい事があるそうです」

「結構。聞かせてくれるかい?」

「はい」


 ウォレンは背筋を伸ばし、薫を前に堂々と胸を張った。

 やっぱりウォレンって政治家向きだよな。もしこの戦争が終わったら、戦魔国のどの位置に座るのか。それもちょっと楽しみである。


「まず、薫様にお伺いしたい。今回の謁見、こちらの神殿で行うおつもりで?」

「相手が国として来るならば最低限の礼ってものがあるからね。正直奴らを一目たりとも見たくもないが……これが代表の辛いところさね」

「ならば、この神殿には厳重な警備……いえ、護衛が必要です」

「同感だよ。後ろには潤子もいるんだからね」


 薫は鼻息をすんと鳴らして言った。

 やはり潤子の容態はあまりよくないようだ。


「では、神殿での同席は護衛含め三人。使者は一人に限らせて頂きます」

「それくらい向こうも承知してるだろう。使者は捨て駒かもしれないしね。しかし三人か……私を除くと二人って事になるよ?」


 うーむ、二人で薫を守るのか。確かに多すぎても、いざ相手に動かれれば後手に回ってしまう可能性もある。護衛を少数精鋭にするというのには俺も納得だ。

 ともなるとかなりの手練れが必要だな。


「私の友人に人類最強の男がいます。そしてそのお供も、比類無き強さを誇る気高き犬狼……そして古来より薫様の信を得ている」


「「ん?」」


 俺とポチの声が揃う。


「……ふふふふ、その二人を私の隣に付けるか。まぁ、これ以上はない護衛だね」

「「ん?」」

「ちょっと待って。だったらポチじゃなくてアズリーとトゥースで護衛すればいいんじゃないの?」

「あの方のサイズでは神殿が崩壊してしまいます。それに、トゥースさんには他にやって頂きたい事があります」

「というと?」

「エッドの南門前で待って頂く王都守護勇士兵団。これを襲撃し、クリート及び戦魔国に味方する悪しき者を叩きます」

「……思い切ったわね」


 アイリーンの目が真剣になる。

 薫すらも、顔にあった余裕を消す。

 そして俺とポチは未だに首を傾げたままである。


「無論、薫様の承認ありきですが……トゥースさん、銀、白銀、エッドの猪共、天獣の皆さんのお力を使えば、勇士兵団の戦力を削がず奪わず、制圧する事が可能です。当然、向こうは解放するつもりで連れて来ているはずですが、こちらの最大の目的は、厄介な悪魔を一匹排除したという戦果です。そろそろ戦魔国(あちら)にもリスクを与えなければジリ貧ですから」


 笑顔で語るウォレン。

 なるほど、あの時の笑顔の正体がこれか。

 なんて恐ろしい事を考えるんだ、コイツは。


「その中に……私たちの動きがないわね?」


 確かに、解放軍(レジスタンス)の動きについては、今のところ明かされていない。

 アイリーンの言うことは(もっと)もだ。

 するとウォレンは、笑顔のまま俺たちに向き直った。


「アズリー君、先程の耳栓……まだ持っていますね?」

「え? あ、はい」

「ではポチさん、これを」

「あ、ワンちゃん用の耳栓ですね! ……どうです、マスター!? 似合います!?」

「もこもこだな」

「え? 何て言ってるんですか!? ちゃんと言わなくちゃわかりませんよ!?」

「さぁ、アズリー君。付けてください」

「……はぁ、念話連絡すればいい話なのに……」

「今のあなたの状態を崩したくないだけですよ」


 魔素が取り巻いてるってやつか。にゃろう。最初からこれが目的で耳栓を俺に渡したな?

 一体どこまで計算しているのか……。

 俺はウォレンに言われるがまま、借りた耳栓をした。

 無音状態なのに、ポチは終始俺に話しかけてきた。読唇術を使う事も出来たが、面倒臭かったので、全部頷いておいた。すると、何故かポチは俺に変顔をアピールしまくってきた。

 しかし、俺は何が何だかわからなかったので首を捻るだけにとどまった。

 するとポチは俺を前脚で指して大笑いしたのだ。

 はて、ポチの中で一体何が起きたのだろうか。

 そんな合間に、薫、アイリーン、ウォレンの方を見た。いや、見てしまった。

 すると三人は、世の悪人ベスト3に入る位の悪人面をしながら、気味悪く笑っていたのだ。

 ポチの大笑いは遂に涙すら見せるも、俺は終始悪寒に襲われていた。

 一体、ウォレンは何を話していたのだろうか。耳栓を俺とポチにさせたという事は、俺たちに知られたくないという事だ。

 仮にも解放軍(レジスタンス)の幹部という位置にいる俺が、どこかに漏らすとでも考えたのだろうか?

 俺はそんなに信頼されていないのだろうか。

 そんな不安を抱いていると、ウォレンが自分の耳を指差して「耳栓をとっていい」と合図したのだ。

 俺は自分とポチの耳栓を合図されるがままに外した。


「という事です、アズリー君。わかりましたか?」

「わかるか!」

「はい、大丈夫そうですね♪」


 嬉しそうなウォレンの表情。


「まぁ、やれるだけやってみましょう」

「こっちはこっちで任せといておくれ」


 アイリーンと薫の言葉。

 アイリーンは一体何をするんだ? 薫は一体何を任されたんだ?


「そう不安そうにしないでください。私たちはお二人を信頼しているんですから」

「それがこの耳栓ですか?」

「おや? お二人の性格を熟知した采配ですよ」

「つまり、信頼してるからこその耳栓だと?」

「えぇ。あ、そうでした」

「何ですか?」

「ポチさんとの《睨めっこ勝負》……中々面白かったですよ」

「いつ俺とポチが睨めっこを?」


 そんな疑問を投げかけると、ウォレンは笑顔のままポチを見た。


「マスターがうんうんって頷いてたんですよ! 暇だから睨めっこしましょう! って言ったじゃないですか!」

「読唇術使うのも面倒だったから適当に頷いてたんだよ!」

「つまり読()術を!?」

「そういう問題でもねぇ! つーかそれなら何で笑ってたんだよ!」

「え、マスターの顔すっごい面白かったですよ?」

「首捻ってただけだよ! 普段の顔がそんなにおかしいってか!?」

「それは気付きませんでした!? 本当ですー! 変な顔ですー! あははははは!」

「てめ、このやろっ!」


 すると、俺とポチの喧嘩を薫の笑い声が止めた。


「あっはっはっはっは! やっぱり二人はいいね!」

「「へ?」」

「この命……アンタたちに預けるよ」


 護衛という大役を任せられてしまった俺とポチ。事実上トウエッドのトップに、命を預けられてしまった瞬間だった。

ニコニコ漫画様で『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ と、ポチの大冒険』第21話が更新されました!


皆様、バシバシコメントしてくださいね! 最近コメント見るのが楽しみです・x・b

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