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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十二章 ~地獄編~

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400 人類と悪魔の戦力

「まず、単純な数の問題。魔王軍は現在魔王軍とは呼べない状態だ」

「どういう事だ?」

「モンスターの集結……ですな?」


 ライアンの言葉に俺は首を縦に振る。

 そしてリードが気づく。その未知なる脅威に。


「っ! そうか、魔王軍は本来モンスターを率いて聖戦士と戦ってたんだ。これまでの戦いにモンスターと呼べる敵はほぼいなかった」

「そう、未だモンスターは魔王の部下として機能していない。勿論、これから増えてくんだろうけどな。アルファとベータ、更には着実に力をつけている悪魔たち。先日の獄龍ヘルエンペラーの加入。もしかしたら十二士の内、何人かは操られているかもしれない。魔王軍はこれからどんどん力を付ける。けど、俺たちがやる事は多くても出来る事は少ない。だから、一割と言ったんだ」

「…………そうか」


 俺の説明を静かに聞いていたミドルスが、色のない返事をする。

 そしてそのまま続ける。俺への更なる質問を。


「俺も俺たち銀も、自分の役割ってものはわかってるつもりだ。悪魔だろうがなんだろうが、リーダーが戦えと言ったら戦うつもりだ。けど、その集まりすら烏合の衆だと言い切れる戦力がいる……」

「魔王ルシファー……でしたかな」


 ミドルスの言葉の真意をライアンが汲み取り、俺へと向ける。

 俺は頷き、アドルフとリードは喉を鳴らす。


「正直、奴の強さは別格です。他の悪魔なんか目じゃないレベル……と言えばわかりやすいかもしれません」

「つまりそれは、聖戦士レベルの強さを持ったトゥース殿、アズリー殿が束になっても敵わないレベルという事ですかな?」


 ライアンが数えたメンバーの中にリーリアが入っていないのは、流石なのだろう。

 確かにリーリアは強い。しかし、聖戦士の称号が失われた今、まともにルシファーと戦えるのは、おそらく俺とトゥースのみ。いや、俺たちですら相手にならないかもしれない。ライアンはそういう判断から言ったのだ。

 しかし、俺は首を横に振った。ライアンの考え自体を否定した訳ではない。しかし、戦力バランスを考えると、アイリーンやウォレンはこの決断を下すしかないだろう。


「ルシファーと戦うのは……俺一人(、、、)です」


 ミドルスは目を見開き、アドルフとリードはあんぐりと口を開けた。

 ライアンは一瞬驚きを見せるも、すぐに真剣な表情に戻った。


「やはり戦力が足りませんか」

「えぇ、正直トゥースが戦場に立ってくれるかすらわかりませんが、たとえトゥースがその気になったとしても、アイツの戦場はルシファーの前じゃないと思います」

「ど、どういう事なんですか……?」


 アドルフが一歩だけ前に出て聞く。


「う〜ん……」

「もう一人のアズリー殿が、戦場では必要なのだよ」

「もう一人の……アズリーさん?」

「なるほど、そういう事か」

「ミドルスさん……?」

「魔法士は魔力が無くなったら戦士の足手まといにしかならない。魔力を保ちつつ、終わるかすら怪しい戦争を戦い抜くのはまず無理だ。しかし、それが行える者が、この世に二人いる」

「そうか! トゥースさんの魔力があれば、長期戦にも耐えられる魔力供給が行えるっ!」


 アドルフが得心するも、リードは頭を捻ったままだ。


「しかしよぉ、一体どうやってそれを行うんだ?」

「マジックシフトって魔法があってな。その魔法陣の上に乗れば、発動者の魔力を使って魔法を放てるんだよ」

「あー、そういえばあったな。つまり魔法士たちは固定砲台みたいなものか」

「近いな。正確には魔力が回復するまでの間だけ乗るんだ。拡張して数十人単位が乗っても大丈夫なようにはするつもりだよ。トゥース自身にはギヴィンマジック、他者からのオールアップで戦況を見つつ適宜魔法を……。ブルと紫死鳥が護衛につけば、なんとかなる……って思いたいな、ははは」

「ったく、カラカラに乾いた笑いだこと」


 リードは俺を見ながら苦笑する。

 質問者ミドルスが最後に聞いたのは、当たり前だが、誰も俺に聞かなかった単純な質問だった。


「……勝てるのか、魔王ルシファーに?」

「さぁ?」


 用意していた訳ではない。

 しかし、そう思われても仕方ない程に、この言葉は簡単に出てきた。

 ミドルスが目を丸くし、固まっている。


「さぁ……って……」


 続く言葉も、どこか芯の抜けたものだった。


「でも――――」

「あん?」

「――――ポチの見立てでは三割の確率で勝てるそうだぞ」


 再びミドルスがピタリと止まる。


「……そいつは、その、うん、すごいな」


 実際、ミドルスも驚いたのだろう。

 戦争に勝つ見込みは一割、俺が魔王ルシファーに勝つ見込みは三割だ。

 一体この二割に何の差があるのか。

 俺の見込みの問題なのか、ポチの見込みの問題なのか。

 そんな事を考えていると、今まで真顔で受け取っていたミドルスがほんの少しだけ顔を綻ばせた。


「ははは……そうか、三割か」

「そうだ、三割だ」


 すると、ミドルスに釣られてか、ライアンも笑い出したのだ。


「ふふふふ、魔王相手に三割ですか。そうですか、面白い博打ですな。ははははは!」

「え、いや。だからこれはポチの見立てですからね!? 俺の予想は一割なんですよっ? しかも、魔王に勝つ確率と戦争に勝つ確率一緒になっちゃってますからね!?」


 俺が説明するも、ライアンは高らかに笑うだけだった。

 途中、アドルフとリードは見合い、何かに気づいたように噴き出した。

 そして、ライアン同様に笑ったのだ。


「お、おい……?」


 俺は静かに笑っていたミドルスにもう一度声を掛ける。


「一体どうしたんだよっ?」


 少しだけ語気を強めてミドルスに聞くと、目に涙すら見せたミドルスが俺を見返す。


「アズリー、お前は馬鹿だ」


 不思議と、ミドルスのそれ(、、)は悪口に聞こえなかった。

 まるで、俺の位置を説明しているかの物言いだった。


「ポチとアズリーは一緒に過ごしてどれくらいだ?」

「あ、えぇっと……八百年とちょっとかな……」

「馬鹿と八百年の歴史――」


 ミドルスがそう言った時、俺はまだ理解していなかった。

 ライアンたちが至った結論に。

 そう、これは位置の話なんだ。だからといって何故俺が馬鹿で固定されているのか……甚だ疑問だ。

 しかし、皆はわかっている……というより信じている、そんな顔をしていた。


「――比べるまでもねぇ。ポチの信頼の方が参考になるだろう」


 瞬間、この場にいる全員――そう、あのライアンまでもが大きな声を出して笑ったのだ。


「……つ、つまり、俺の言葉より、長年俺と共に過ごしたポチの客観的視点の方が信用出来るって事……か?」

「はっはっはっは! それ以外に何があるってんだ、ばーか! ははははは!」

「くっ! 何て言われようだ……!」

「ふふふふ、当事者の絡まない客観的分析は非常に有用です。ポチ殿がそう言うのであればそうなのでしょう。そうですか、三割……これは未来が明るいですな!」


 ライアンの慰めも、慰めになっていない。

 何故なら――、


「俺が馬鹿ってところは否定しないんですね?」

「む? いや、その……ゴホンッ! さぁ皆の者、休憩は終わりだ」

「いや、そらせてないですからね! 話!」

「いくら人類の(いただき)であるアズリー殿がいるからといって、腑抜けたままでは困るぞ! さぁ、皆も胸を借り鍛錬に励むのだ!」

「ちょっと! ライアンさん!?」

雷刃(らいじん)っ!」


 その後、俺は強制的に胸を借りられた。

 アドルフやリード、ミドルスは時折震えていたが、何故かそれは恐怖や武者震いではなく、噴き出すのを堪えるように見えた。

 しっかし、俺の推測は信じられなくてポチの目の方が信じられるというのは……やはり信じられないな。

いつの間にか400話!

文字数も150万字を超えようというところです。

読者の皆様の応援があってこその達成だと思っています。

いつも本当にありがとうございます!

また、これからも『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』を宜しくお願い致します』


壱弐参ひふみ

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