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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十二章 ~地獄編~

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◆376 三つの要所

「――のほい! ハウス! バラード! お願い!」

「んきゃあああ! いきましゅよ、コノハしゃま! ほいのほいのほい! ハウス!」


 チャッピー仮面が戦場から去った後、リナが後衛のトレースの下へやってきた。

 気付いたトレースは、リナに指示を飛ばす。


「リナさん、アイリーン様と共に支援魔法を! バラードさんを前衛に!」

「はい!」

「おいバラード! 特訓の成果を出す時がきたぞ! 低空から奴等を刈り取ってやれ!」

「掴まっててくだしゃい!」


 コノハはバラードの頭に載り、前方を指差す。

 その視線は、ある一点を強く捉えていた。

 かつての主人である焔の大魔法士ガストン。その仇であるビリーがいるのだ。それは当然の事だった。

 しかしコノハはただ心を落ち着け、忿怒(ふんぬ)に染まる事はなかった。

 それが、いつでも冷静に状況を分析し、的確に対処するガストンと同じ戦い方だからだ。

 バラードとコノハはすぐに白銀たちと合流し、地面スレスレの低空を飛びながら遊撃に努めた。ある時は攻撃し、ある時は負傷する仲間を回復魔法で助けた。

 その光景を見たビリーが、バラードの頭の上にいるコノハに気付く。


「馬鹿な! 何故コノハが生きている!?」

「ふん、鼠如き気に掛けてる事ではないだろう」

「黙れ。私の完璧だった任務が、奴の存在で覆されたのだぞ!」

「ぐふふふ、余程その顔の火傷(、、、、)に恨みがあると見える」


 クリートが言ったビリーの顔の火傷。

 それは、ガストンの最後の一撃の名残。この火傷は、いくら回復しようともビリーが回復出来なかった、執念とも言えるガストンの爪跡。


「くそ! 見ていろ鼠め……! 今に踏み潰してくれる! 全軍投入だ!」

「早過ぎるとも思うが……まぁいい。奴等に真の絶望を味わってもらういい機会だ」


 ビリーの檄の後、クリートは手を上げて後衛のアルファとベータの進行を促す。

 その動きに、アージェントとブレイザーの顔が一層歪む。


((あれがここまで来れば、この均衡は一気に破られる!))


 焦燥隠し切れぬ思いは誰も一緒だった。

 クラリスやアンリが到着するも、増強出来る戦力はたかが知れていた。余りにも数が違い過ぎるからだ。

 後衛のアイリーンは、歯を食いしばりながら迫る後衛部隊を睨む。


「戦力が……足りない!」


 アルファとベータの侵攻を防ぐだけで精一杯。しかもその侵攻は勢いを増し、今にも前衛が瓦解しそうな状況。

 しかも敵陣の最奥には、悪魔が二人並んで立っているのだ。

 彼等が本気で動けばエッドの……いや、トウエッドの全滅は必至。


「ぐぅ……!」

「ガハッ!」


 一人、また一人と戦士が倒れ、アズリーの友にその牙が届くのも時間の問題だった。

 ――――だが、


「およ?」


 西の森から現れた三つの影。

 影の一つは巨大な四足歩行の獣。

 影のもう一つは黒紫(こくし)の鳥。

 そして最後の影は、四足歩行の獣に跨る、巨大なエルフ。


「なんでぇ? トウエッドも魔王軍に追い詰められてるじゃねぇか?」


 その男に最初に気付いたのは、前衛の右翼で戦っていたブルーツ。彼はその男が誰なのか知っていたからだ。


「トゥース!? 何やってんだお前ぇっ!?」

「決死の逃避行だ! がははははは!」


 豪快に笑いながらトゥースが言い放つと、己が出番を待っていたであろうアルファとベータがトゥース、そしてブル、更に紫死鳥を睨む。


「あぁ?」


 物凄い形相でトゥースが睨み返すと、(あるじ)よりも強い魔力に当てられたアルファとベータは、一瞬で萎縮する。


「まさか、ガスパー様の手から逃げるとはな。伊達に賢者と呼ばれていないという事か……!」

「どうする? 奴等が参戦しては我らの負けは必至」


 ビリーとクリートはトゥースたち三人の脅威を理解していた。

 その実力は、今回の戦争で最も警戒していたアズリー、ポチ、リーリアと同等レベルだからだ。


「おいトゥース! 手ぇ貸してくれねぇのかよ!?」

「あぁ? 何でだよ?」


 だが、二人のその心配は杞憂と知る。

 トゥースはブルから降りると、その場で背後の木を利用して腰掛けた。


「どっちでもいいわ、終わったら教えてくれ」


 と、誰もが呆気にとられる行動をとったのだ。

 生粋の面倒臭がり。それは、一度トゥースの指導を受けた、アイリーン、リナ、ヴィオラ、ジャンヌも知っている。

 敵、味方問わず、トゥースの行動は常軌を逸していた。


「こんのっ! 相変わらず捻じ曲がった性格してるわねっ!」


 アイリーンは激怒しながら、トゥースの行動を(なじ)った。だが、既にトゥースは(いびき)を立て、睡眠という欲求を素直に受け入れていたのだ。

 ブルも紫死鳥も、その場で談笑を始める程だ。


「くっ! ガスパー様から聞いていたが、本当によくわからない男だ! だが、戦況に変化はない。このまま攻め切るのだ!」


 だが、ビリーの考えは間違っていた。

 先程トゥースの魔力と眼力に当てられたベータが、トゥースに向かって巨大なブレスを放ったのだ。いや、放ってしまったのだ。


「ガァアアアアアアアアア――」

「――邪魔だボケがぁあああああああああああっ!」


 直後、鼻提灯を割ったトゥースが放ったブレス。それは、ベータのブレスが糸のようにか細く見える、圧倒的質量を有した、巨大なブレスだったのだ。


「エルフがブレスだとっ!?」

「馬鹿な!?」


 ビリーとクリートは蒸発するベータよりも、トゥースのブレスに驚く。

 その魔力量から威力は知るべきところだ。しかし、エルフとはいえ人類がブレスを放つとは、魔を志したビリーには、理解出来なかったのだ。


「我ら悪魔ですらない奴に、何故ブレスが吐ける……。っ!? 何と恐ろしい威力だ……」


 クリートもその部分に驚き、そして、その威力に吃驚する。

 歪に掘られたブレスの跡は、数百のアルファとベータを呑み込んでいた。

 トゥースがこれを薙ぎ払うように放てば、少なくとも千の被害は出ていた。それを理解したのだ。


「おう、いいかそこの悪魔共!」


 トゥースの声は、ビリーとクリートに向けられていた。


「俺様の睡眠を邪魔するなら……容赦しねぇからな」


 鋭い視線と殺気に当てられ、二人の顔が歪む。

 その歪みを振り払うように、ビリーが呟く。


「ま、まぁいい。奴等に手を出さなければいい話だ」


 ビリーもクリートも、トゥースたちの事は()れ物だと思いながらも、手を出さない事を決める。

 すぐにそれはアルファとベータに指示を出す。


「ここはトゥースの鼾が五月蠅(うるさ)くてかなわん。私はあちらで寝させてもらうぞ」


 そんな動きを理解したと同時、紫死鳥が飛び上がり反対側の左翼。その戦場のど真ん中に着地したのだ。


「「これは……!?」」


 魔王軍のビリー、そして解放軍(レジスタンス)のアイリーンが同時に気付く。


「確かに、その紫死鳥の言う通り。トゥースの鼾は五月蠅い。しかし、紫死鳥の鼾が五月蠅いのもまた事実」


 ブルは歩を進め、トゥースと紫死鳥の間。

 戦場の中央ど真ん中に腰を下ろしたのだ。


「おっと、転がっちまった。まぁいい。あそこに戻るのも面倒だ」


 わざとらしいトゥースの声。木に寄りかかっていたトゥースは、身体を転がし、右翼のど真ん中に寝転がる。


「なっ!? 馬鹿な!?」


 右翼、中央、左翼……その要所ともいえる場所に、トゥース、ブル、紫死鳥が陣取ったのだ。

 魔王軍はトゥースたちに手を出せない。出した段階で必敗(ひっぱい)は決まるのだ。

 侵入経路を固定されてしまったアルファとベータは、その勢いを極限まで落とされ、動けぬ個体まで現れたのだ。

 トゥースは誰にも協力しない。

 しかし、トゥースに手を出せば、戦況は一変する。

 ギリと音を出しながら歯を食いしばるビリーとクリート。

 その戦況の変化を危機と捉えるか、好機と捉えるかは、ビリー、アイリーン両名の判断にかかっていた。

 どちらに捉えるにしろ――


「「性格が……悪すぎる!」」


 ――再び声を揃えるビリーとアイリーンだった。

まじイイ(、、)性格してると思う。





先日、コミカライズ版の『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ と、ポチの大冒険』第17話が更新されました!

漫画家の荒木(あらき)風羽(ふう)先生がTwitterにて宣伝イラストを公開されておりました。

転載許可を頂きましたので、下記に掲載致します。

調べたら13話の宣伝イラストから載せてなかったので、13~17話の五枚のイラストを掲載します。

下の方に載せておきます。










挿絵(By みてみん)


この話は、アズリーがリナにスターロッドプレゼントする回ですね。

リナの後ろにいるのは「ガストンの魔道具専門店」の店番おじいちゃんですね。

因みに、ポチの称号に「要耳栓」が付いた回でもあります。



挿絵(By みてみん)


この話は、バラッドドラゴンの卵を手に入れる回ですね。

ポチの水着のデザインが面白くて好きです・x・


挿絵(By みてみん)


魔法大学の寮に入寮したアズリーが、冒険者ギルドでお金を稼ぐ回です。

アイリーンがアズリーにストーキングを始めるのもこの回です。

ダンカン登場回、そしてアズリーのフランクさんは、とても大好きなコマです。


挿絵(By みてみん)


アズリーとリナ、二人の魔法大学入学式ですね。

久しぶりのドラガン登場。そしてオルネルとウォレンの初登場回でもあります。

ポチの保護者的様相がとてもよき。更にピカピカの一年生であるリナも最高に可愛いです。


挿絵(By みてみん)


今回更新された17話の宣伝イラストがこちら。

左からオルネル、ミドルス、イデアちゃんです。

この三人組、かなり好きなので、絵になった時は本当に嬉しかったです。

アズリー君がリナをかばうためにオルネルたちに見栄をきる回ですね。

ネームプレートを持ったポチがとても愛らしいです。

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