◆375 一瞬の正義
元聖戦士、天獣が不在のトウエッドの首都エッド。
その南で起きている大乱戦の中で、遂に亀裂が生まれる。
「わ、ひぃ!? ギィアアアアアアッ!」
魔法士の一人がアルファの波に呑みこまれたのだ。
「くっ! はぁ!」
瞬時に跳んだアイリーンの攻撃により、その一角の侵攻を食い止められたものの、その魔法士を救う事は出来なかった。
「姉さん! 右翼に敵が集中してきてる!」
アイリーンの使い魔、スズメのホーク。戦闘能力は高くないが、空からモンスターの流れを確認出来る。
強力なブレスの飛び交う中、非常に危険な動きではあるが、ホークは自らそれを買って出た。
「っ! わかったわ!」
歯がゆく思う事すら出来ない余裕のない戦場。
アイリーンは一角の安定を確認した後、ホークの指摘があった右翼へと向かいながら魔法を発動する。
「ほいのほいのほい! オールアップ・カウント10&リモートコントロール!」
前線へと送る支援魔法。オールアップの魔法式は難解で、アイリーン一人で受けもっている。勿論、トレースもオルネルも発動可能だが、彼らが行うべきはベータのブレス阻止。これ以上魔力の高い人間を支援にまわせば、たちまち後衛は決壊してしまう。
それが、アイリーンの出した結論だった。
「っ! アイリーン様!」
視野が広い後方からヴィオラが気付く。
アイリーンの死角から、アルファが跳びかかっていたのだ。
獰猛な目でアイリーンの首筋を狙う鋭利な牙。
「こんのっ!」
アイリーンは宙を回転しながら杖でアルファを薙ぎ払う。
アイリーンの杖はガストンと同じダマスカスロッド。スウィフトマジックが五枠入る優秀な杖だ。しかし、吸魔が使えるアルファがいては、攻撃魔法は無駄に終わる。
アイリーンも、メルキィも、オルネルも、トレースも、皆アルファの戦いにくさを痛感していた。
ヴィオラとジャンヌは、かつての戦いで苦渋を舐めた相手。対策すら出来ない状況に、怒りすら見せる。
「――っ! 来たねぃ! 遅いよぃ!」
メルキィが叫ぶ。強い魔力の接近は、アルファやベータの視線すら動かす。
「まったく、待ったわよ、アージェント!」
「ったく、年寄りはせっかちでいかん! 皆の者! 押し返せ!」
メルキィとアイリーンの強い当たりに、アージェントが嘆く。
「「ウォオオオオオオオッ!!」」
「白銀が来たわ! メル! 手伝いなさい!」
「もうやってるよぃ! ほいのほいのほい! オールアップ・カウント10&リモートコントロール!」
強力な戦士たちの登場に、メルキィは後方へ下がり、アイリーンと共に支援へと移る。
「ミドルス! アナタも下がって支援を手伝ってちょうだい!」
「うぇ!? 俺っすか!?」
「出来ないとは言わせないわよっ!」
「わ、わかりました!」
白銀の登場により、後方の侵攻が勢いを消す。
すると、敵陣最奥にいるクリートがニヤリと笑ったのだ。
「くふふふふ……大渦を以て呑み込め!」
クリートが怨讐の籠る声で叫び、指示を出す。アルファとベータはこの指示により、白銀との直接戦闘を避け、右翼、そして左翼から白銀の正面を掠めるように横切って攻撃を始める。
次第にそれは二つの渦となり、両翼から戦士たちの動きを削り始めた。
「っ!? いかん!」
白銀の中央で戦っていたアージェントが最初に気付く。クリートの狙いに。
渦を巻き、アルファとべータが向かうのは最前線。
「うわっ!? 何だぁ!?」
ブルーツが渦の動きに呑み込まれそうになるも、辛うじてかわす。
「ブレイザーッ!!」
アージェントの咆哮のような知らせ。孫のブレイザーはそれだけで祖父からの危険というメッセージを理解した。
「くっ! 皆! かわせぇえええっ!」
波という大きな質量は脅威以上の殺意の塊。ブレイザーの指示により、皆体勢を崩しながら波をかわす。
しかし、かわせどもかわせども、波は終わる事がない。動き続ける猛威は、最早誰にも止められなかった。
渦の中央にぽっかりと空いた二つの空間。その中に銀のメンバー、バルン、リッキー、ダラスが追いやられる。
そして渦は厚みを増し、重さを増し、徐々にその空間を覆い始めるのだ。
「おいおい、まずいぞ!」
リードが言うも、それは誰もがわかっていた。
ただ言葉に出す事で、落ち着きを保っているのである。
皆は背を預け合い、小さく、しかし固く円陣を組む。
後方の仲間も、それを見ている事しか出来ない。届けられるのは支援魔法と回復魔法のみ。だが、渦に呑み込まれれば、対象を追う事すら出来なくなるだろう。
最早銀の全滅は時間の問題。誰もがそう思った。
――――だが、
「ピンチに駆け付けるのはヒーローの特権!」
『五月蠅いわね、時間がないのよ、私たちには!』
『空けられた時間は正に一瞬です! 何とか活路を開いてください!』
肉眼で捉える事が出来ない程の――遥か上空。
ビリーとクリートだけがその存在に気付く。
「ちっ! また奴か!」
「あれは紫死鳥かっ! 何故ここに!?」
ビリーは忌まわしい敵として、クリートは天獣の登場に驚きを隠せなかった。
「チャッピィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ仮めぇ――――」
『――――時間がないって言ってるでしょうが!』
『チャッピー!』
「むぅ、仕方ない! アオン! アオン! アオン! ピヨッ!! チャッピー砲、発射っ!!」
チャッピーの動きを追っていたビリーとクリートが、その脅威に警戒する。
「「まずい!!」」
そう叫ぶも、チャッピーの動きは誰にも止められなかった。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
天から降る神の怒りの如き鉄槌。
チャッピー砲が、アルファとベータが描く二つの渦を横切る。
「ちぃっ! 威力が大き過ぎてアルファたちの吸魔では無理かっ!」
極大のブレスは銀たちと白銀の間を縫うように走り、大地に大きな爪跡を残す。
咄嗟の出来事に理解が追いつかなかったブレイザーだったが、後方の憂いが消えた事だけは確かだった。
「い、今だ! 後衛と合流するんだ!」
「「おうっ!!」」
「逃すな!」
ビリーの指示で動くアルファとベータから逃げるように、銀たちは必死で逃げた。
前線を下げる事になろうとも、全滅以上の結果である事は明白だった。
迫りくるアルファとベータ。後方から狙われるブレスの数々。
「援護!!」
「「マジックシールド!」」
アイリーンが叫び、トレースたちが防魔障壁の魔法を幾重にも重ねる。
「前進!」
続きアージェントが指示を出す。後衛の要を少しでも前に上げ、銀たちとの合流地点を近付けようと動いたのだ。
「こっちも前に出るわよ! 少しでも早くリモートコントロールが届くように動きなさい!」
「「はっ!」」
白銀が前に出た事により、アイリーン含む後衛も前に進む。
「潜れ!」
ようやく白銀たちの眼前にまで来た銀たちに、アージェントが指示を出す。
皆は白銀の戦士たちの足下を潜り、後衛へと合流したのだ。直後、反転し、反撃の気合いを込める銀たち。
「「おぉおおおおおおおおおっ!!」」
衝突し合うのは純粋なる力のみ。白銀と銀たち戦士の動きは、一丸となり正面の敵を押さえた。
誰もが傷を負い、少なからず体内にダメージを負った。
顔は歪むも、その気合いに一片の迷いもない。再び正面からの打ち合いとなった戦場に、不可解は残る。
ビリーとクリートは空を睨むも、先程まであった紫死鳥の姿はない。
一瞬だけ起きた猛威は既にいない。
(何故消える? ここで我らを討ち取る事も出来たはず。しかし奴はそれをしなかった。……一体何故!)
未だ空を見上げるビリーにも、その答えはわからないのだった。
11月15日木曜日、『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』第十巻が発売致します。
表紙の公開許可を編集さんより頂けましたので、下の方に載せておきます。
アズリーとポチ、そしてリナが表紙を飾ってくれました!
アズリーの筋肉と逞しくも落ち着きのあるポチ。そして成長したリナ。
記念すべき十巻という事で、壱弐参は編集さんにあるお願いをしてこのメンバーにしてもらいました。
この構図、どこかで見た事がありませんか?・x・
実はこの構図、一巻時の構図と同じなんです。
節目の十巻、記念すべき十巻、再会したアズリーとリナという事で、ワガママを言ってこの構図にしてもらいました。快諾頂いたイラストレーターの武藤此史先生には感謝感謝です。
どうです? かなり成長しているでしょう?
中々感慨深いです。
さぁ、そんな第十巻の巻末書き下ろしSSはこちら!
「賢者の査定」
という物語です。
アズリーたちが戦魔帝ヴァースを誘拐しに行く直前、銀のブレイザー、ブルーツ、ベティーがトゥースのお眼鏡にかなうかどうかというシーンがありました。
その時の極東の荒野での物語となります。
控えめに言いますが、トゥースが大暴れします。
初回特典等々の情報解禁がされましたら、またご報告させて頂きます。
『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』第十巻、11月15日木曜日発売です!!!
ではでは!!!




