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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十二章 ~地獄編~

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◆377 地獄の始まり

「小癪な……!」


 ビリーは怒りの視線をトゥースに向けるも、トゥースが応える事はない。ただ寝転がり、腹部を大きく膨らませ、鼾(いびき)をかいている。

 だが、それでもビリーはただトゥースに怒りの感情を向ける事しか出来ないのだ。


(ここで奴を敵に回せば、敗戦は必至。奴め、何もしない事で我らの邪魔をするとは……伊達に賢者と呼ばれていないか!)


 ビリーとクリートは、アルファとベータへの指示の中に「トゥース一味に手を出すな」と入れる他なかった。

 反対にアイリーンたちは、トゥースの「待機」を受け、失いかけた戦力に回復の手が届いた。


「まったく! 師匠の面倒臭がりは世界一だねぃ! ほいのほいのほい! ハイキュアー・アジャスト・カウント10&リモートコントロール!」

「ここで立て直さなくちゃ後がないわよ! ほいのほいのほい! ハイキュアー・アジャスト・カウント10&リモートコントロール!」


 メルキィ、アイリーンが奮い、前衛で激戦を繰り広げる、銀、白銀たちを援護する。


「ぜぇぜぇ……クソが!」


 ブルーツは、モンスターの死骸を盾とし、足場とし、時には斬り開きながらいくつもの死を乗り越える。

 足の裏は火のように熱くなり、肩から蒸気が溢れ、大量の汗は視界や動きを遮る。

 指揮に声を張り上げるブレイザーの口からは、血が流れている。

 器用に動き回るベティーの足は血で滲み、春華の持つ刀も切れ味が悪くなる。

 ライアンもダラスも、とうに限界を超え、レイナとアドルフは気力だけで戦っている。

 リードとマナも我武者羅(がむしゃら)に戦い続けるこの状況。

 トゥースの登場で、敵の攻撃の勢いは減少したものの、前衛たちは、それを超える疲労感でいっぱいいっぱいだった。


「くっ! きゃぁ!?」


 ついにレイナがアルファの一撃を耐え切れず、吹き飛ばされてしまう。


「ちっ! こんのぉ!」


 ベティーがそれをカバーするも、レイナに向かうアルファたち全てを蹴散らせる訳ではない。


「「レイナ!!」」


 誰もがレイナの死を予感し、レイナ自身も己が死を悟った時、エッドの外壁から一足跳びした者が二人いた。

 瞬間、レイナの眼前に迫っていたアルファの首が飛び、その後方にいたベータが吹き飛んだ。


「間に合いましたか」


 ほっと息を吐いたのは、いつの間にかアイリーンの隣にいたウォレン。

 その登場に驚くよりも、アイリーンはレイナを助けた二人に――心から感謝した。


「待たせたわね!」


 元聖戦士の戦士リーリア。


「お待たせしました! というか、何ですかあの大きいの!? 何でメルキィさんもトゥースさんもいるんですか!? あ、ブルさんですー! お久しぶりですー!」


 そして、アズリーの使い魔ポチ。


「ウェルダンが奮闘しているのよ。私も負けてられないわ!」


 リーリアの言葉に残る謎。そう、紅魔の湿原にて、ウェルダンは今も一人戦い続けているのだ。

 空間転移魔法陣に乗っている間、誰かがその者を守らなくてはいけない。

 ウォレンが乗り、ポチが乗り、リーリアが乗ったところで、ウェルダンを守る存在はいなくなる。

 ウェルダンがリーリアを見送った直後、紅魔の湿原からこのエッドへの空間転移魔法陣は破壊されている。


「適当に憂さ晴らししたらこっちに駆け付けるって言ってましたよ!」

「間に合う前に斬り捨てるわ!」

「では私も頑張りますー! ガァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 先のチャッピー砲と同様に、ポチの極(きわみ)ブレスは、アルファの吸魔(きゅうま)をものともせず、奥から迫るアルファ、ベータたちを呑み込んだ。

 リーリアは銀と白銀たちの正面にいる敵を一掃した後、トゥースの奥まで跳び、敵の侵入箇所を更に限定させた。


「ほい、ハウス」


 ウォレンが呼び出した、ランクEモンスターのアルミラージ。金色の体毛を揺らしながら、主(あるじ)であるウォレンを見上げる。


「ラット(、、、)、傷を負った戦士たち……軽傷ならば、あなたの回復魔法で癒せるはず。重傷者となる前に回復しなさい」

「わかった」


 小さな身体を跳ねさせながら、前衛の真後ろまで移動し始めるラット。

 いくら屈強な肉体を持つ戦士たちでも、軽傷が積もれば重傷となる。それを減らそうとしたウォレンの判断に、メルキィが呟く。


「やるねぃ」


 やがてウォレンは各方面に跳び、その時出来る最善を選び行使した。

 短いながらも、前衛にも後衛にも既に魔法選択やリズムが形成されつつあった。

 自分が入る事で乱れる流れを嫌い、ウォレンは後衛での遊撃を担った。


「ほいのほいのほい、ギヴィンマジック・カウント10・リモートコントロール!」


 魔力の台(マジックテーブル)を使い、切れかけた設置型魔法陣の再設置は正にそれだった。

 魔力切れこそが皆の生命線、それがわかっていたアイリーンは、宙図をしながら言った。


「助かったわ!」

「いえ」


 短い言葉を背中で交わし、ウォレンとアイリーンは師弟関係を超える絶妙なコンビネーションを見せた。


「ふふふ、妬けてしまいますね」


 そう零すトレースの意図は定かではない。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 数刻の後。

 白銀の救援、チャッピー仮面のヒーロー的参入、トゥースたちの邪魔、ポチとリーリアの帰還が合わさり、エッドの南にいたアルファ、ベータは、みるみるうちに数を減らしていく。

 戦況を睨むように見つめるビリーが歯をぎりりと鳴らす。

 そしてそれはクリートも同じだったのだ。


「今この場で我らが飛び込んでも、あの二人が動く……か」


 クリートの発言に、ビリーは鼻を鳴らす。


「ふん、あわよくば予言もろともと思っていたが、必要な時は稼いだな。もうガスパー様の望みも叶った頃だろう。しかし――」

「――あやつの存在はやはり邪魔だな」


 ビリー、クリートが見据えたのはトゥースでもなく、ポチでもなく、そしてリーリアでもなかった。

 最後方で皆を指揮し、自らも奮闘する一人の……女。

 常成無敗のアイリーン、その人だった。


「軍の勝敗は将の器に委ねられる。ガストンを倒し指揮する者がいなくなったと思ったが、まさかここまでとはな」

「魔法大学で誰よりも学生と距離が近かった講師――この結果も得心がいく」

「……奴だけはここで叩く」

「ふん。癪だが、それは貴様に同意する」


 ビリーとクリートの意見が一致するや否や、二人の魔力は一気に高められた。

 直後、全アルファ、ベータが距離をとり、口を大きく開いたのだ。

 濃密な魔力の集中。それにいち早く気付いたのは、照準の先にいるアイリーンだった。


「くっ!? 皆、私から離れなさいっ!!」


 軍が軍を相手した時、それは戦争となる。

 しかし、軍が個を狙った時――それは、蹂躙となるのだ。

 一瞬で悪魔化したビリーとクリートが口を開けた瞬間、アイリーンは自身の死を悟り、理解した。


「「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」」


 極(きわみ)ブレスのアイリーン(一点)集中砲火。

 それは最早、誰にも防げるものではなかった。

 ポチにも、リーリアにも、防魔障壁を形成していたトレースの部隊にも不可能だった。

 だが、それを可能としたのは、この場にいないはずの男だった。


「ふんがぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!」


 空から降って来た男は、大声を上げながらアイリーンの前に立った。圧縮された魔力は全て前方へ放出し、無数のブレスを打ち消していく。

 底の見えない魔力は、止めどなく溢れ、真後ろにいるアイリーンを優しく包んだ。


「ア……アズリー……?」

「――ああああああああああああああああああああっ!!!!!!」


 アイリーンに反応している余力はなかった。

 数は少なくなったとはいえ、千近くの極(きわみ)ブレス。それが、アズリーの眼前に、幾重にもなり襲い掛かっているのだ。

 誰も手出しが出来ない状況。

 下手に手を出せば、巨悪のブレスがどこへ矛先を変えるか判断出来ない。

 だから、今その使い魔であるポチに出来る事は一つだけだった。


「少しでも! 少しでも多く敵を!!」


 そう言うだけで、皆は動いた。

 まるで、一筋の刃となったように、皆は前に進んだ。


「「うぉおおおおおおおおおっ!!」」


 一匹、また一匹とアルファ、ベータを倒す事により、アズリーへの負担を減らす。

 ポチとリーリアが先んじて奥の敵を倒し、前衛の銀、白銀たちと合流する。

 幾度もそれを繰り返し、徐々に徐々に、最奥にいるビリー、そしてクリートにプレッシャーを掛ける。


「くっ! やはり邪魔するか、愚者めっ!」


 やがてそれは脅威となり、ビリーたちの口を閉じさせた。

 ギリギリまで粘ったものの、強烈な殺気を放つリーリアが、今にも彼らの喉元に噛み付きそうな勢いだった。

 故にビリーとクリートは撤退を選ぶ他なくなったのだ。

 後方に跳び、ここまでやって来た空間転移魔法陣に乗り、そして消えてゆく。


「ちっ!」


 リーリアは舌打ちをしながら残党を始末してまわる。

 今も尚、アズリーに向け、数百を超えるブレスが集中しているのだから。

 照準が自分に当てられているため、一歩も動けないアイリーンは、後方から皆に指示を飛ばす。


「全員残党を始末しなさい! 今すぐ!!」


 無力な自分を痛めつけるかのようにアイリーンはその小さい拳を握り、血を流した。

 震える瞳、零れそうな涙。それを堪えながら、アズリーの背中をただただ見守った。


「…………っ」


 戦場にはこれまで無かった静寂が訪れ、全てを出し切ったアズリーは、その場で倒れる。今もまだブレスと戦っているかのように――前のめりになりながら。

 それを受け止めるのは、アズリーが守った、解放軍(レジスタンス)の要。

 誰もが一時は絶望を受け入れるも、戦争は終わった。

 しかし、喜ぶ者は誰一人としていない。

 それは、勝利とは程遠い、地獄の始まり。

 地獄の中で最初に聞こえたのは、小さな嗚咽。

 しかし、誰もその者を見る事はない。

 堰を切ったように大きな雫を目から零す司令官の姿を、震える手でアズリーの頬を撫でる司令官の姿を、誰も見る事が出来ないのだ。

本日、2018年11月15日木曜日!

『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』第10巻が発売致しました!

皆様、是非手に取ってくださいませ!


初回封入特典は、「延頸鶴望(えんけいかくぼう)」というSS(ショートストーリー)です。

⇒アズリーの帰りを知ったティファが、今か今かと正座して空間転移魔法陣の前で待つというお話です。タラヲとのやりとりを楽しんでくださいませ!


巻末特典には「賢者の査定」

⇒トゥースが銀の三人(ブレイザー、ブルーツ、ベティー)の実力を見る。という短編ですね。トゥースが暴れまくります。


そして、今回もやりますWEB(なろう)特典!


下記四本のSSを今日から投稿していきますので、是非読んでみてください!


①「◆仮契約」⇒ウォレンがららふぁ~むを見つけちゃった!

②「◆虎の決意」⇒ドラガンがあんな事やこんな事を!

③「◆古の邂逅」⇒リーリアとジョルノの出会い。アイツも出るぞ!

④「◆伝説の鼠教官」⇒バラードが主人となったコノハが頑張る!


上記四本を【第十章の最後】に投稿しておきます。


宜しくお願いします!


皆様、よい週末のため、「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」の十巻でも買って読んでるといいよ!


改めて、宜しくお願い致します!

ではでは!!!

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