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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十二章 ~地獄編~

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◆378 長き一日の終わり

 倒れて意識を失ったアズリー。

 その傍らで騒ぐ、黒狼。


「マスター! だだだだ大丈夫ですかっ!? わ、私の事わかりますか!? 大変です! マスターが間抜け面に!?」


 ポチの、いつものからかい混じりの心配。

 だが、今回だけは違った。アズリーからの反応が一切なかったのだ。

 次第にポチの顔色が変わる。


「マスター! 大丈夫ですか!?」


 先程とは明らかに違う真剣なポチの声。裏返る声と共に、アズリーの肩下に鼻を潜らせ、首を上げてアズリーを仰向けにする。

 それは、今まで見た事のない、アズリーの精根尽き果てた顔。


「アズリー! しっかりしなさいアズリー!」


 アイリーンの心配そうな声と、


「アズリーさん!」


 泣き入りそうなリナの声。

 次第にアズリーを中心に、無数の戦士、魔法士たちが近寄る。


「ほいのほい、ハイキュアー・アジャスト!」


 ウォレンが特級回復魔法を放つも、そもそもアズリーの身体に傷はない。


「ほい、ギヴィンマジック!」


 オルネルが持続型魔力回復魔法を発動するも、やはりアズリーからの反応はなかった。

 ポチがアズリーの胸に耳を当てる。


「心臓が……動いてません!?」

「ポチさん、どいてください!」


 いち早く動いたウォレン。

 アズリーの胸に両手を押し付け、マッサージを始める。


「アズリー! おいしっかりしやがれっ!」


 駆け付けたブルーツが、大きく叫ぶ。


「アズ君! こんなとこで死んじゃ駄目だよぃ!!」


 メルキィが、


「アズリーさん! しっかりしてくんなまし!」


 春華(はるはな)が心配そうに叫ぶ。

 リナとフユは震えながら涙を流し、アイリーンはウォレンのマッサージに合わせ風魔法で酸素を送った。

 戦士、魔法士の間を割り、傷付いた身体を引き摺りながら、リーリアがアズリーに近付く。


「ウォレン、代わりなさい。私がやるわ!」


 ウォレンと交代したリーリアが拳を振り上げる。


「アズリーの身体は今やトゥース並みに強靭。その程度じゃ心臓に刺激は届かないわ……」


 強く拳を握り、リーリアはアズリーの胸に力一杯拳を振り下ろした。

 大地にすら伝わる程の、鈍く強く、そして重い衝撃が、あたりにこだまする。

 だが、それでもアズリーの心臓は動かなかった。

 リーリアは、何度も力を込め、アズリーの胸を叩く。

 諦めず、諦めず……何度も、何度も。

 遠くからそれを見るトゥースは、大きく溜め息を吐いて、素早い宙図(ちゅうず)をする。


「ほい、サンダー」


 アズリーに届いた下級の雷魔法。

 アイリーンの風魔法、ウォレンとリーリアのマッサージ、トゥースの雷魔法が合わさり、


「マスター!」


 ポチの声が響く。


「……っ! カハッ!?」


 ようやく訪れた、愚者の目覚め。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 エッドの銀の屋敷。

 ブルーツがアズリーをそこまで運び、他の皆も戦後の疲労から壁に身体を預けながら休んだ。

 ブレイザーやウォレン、アイリーンなどは、戦後処理のため事務作業に追われつつも、心の片隅には、アズリーへの心配があった。


「本当に心配したんですよ! わかってるんですか、マスター!」

「……あぁ」


 ベッドから身体を起こし、壁に背中をつけながら、アズリーは己(おの)が両手を見つめている。

 ポチの小言など耳に入っていない様子で、両手を……しかし両手でない虚空を見つめているのだ。

 ポチも、それがわかっていたからこそ、小言を続けた。

 アズリーの心が、ここから、この場所から離れないように。


「大体マスターはいつも頑張り過ぎなんです! ずっとずっと頑張って、止まれなくなるまで頑張っちゃうから駄目なんです! 少しはトゥースさんを見習ってもいいんですからね! 勿論、限度はありますよ!」

「あぁ」

「これに懲りたら、少しは休むべきです! いいですか、休む事、これが大事です!」

「あぁ」


 全て同じ空返事。抑揚もなく、淡々とした力無き声。

 だが、尚もポチは続ける。


「マスターと私は不老なだけで、不死じゃないんですからね! 死んじゃったら終わりなんですからね! ね! しっかり休みましょう!」


 遂にアズリーからの返事もなくなる。

 アズリーは両手を握り、開き、また握り、また開き、何度も繰り返した。


「そうだ、ご飯にしましょう、マスター! 今日は私の好きな物だけを揃えましょう! 少しだけマスターにあげますからね! 私、優しいですから!」


 最後に一握り。アズリーは力を込めて拳を握ると同時に、強く目を瞑った。そして目が開かれた時、アズリーはベッドから立ち上がる。


「こうしちゃいられない……」


 呟くように言ったアズリーの前に、ポチが立ち塞がるように移動した。


「だ、駄目です! マスターは今休まないと駄目なんです!」

「どけ、ポチ」

「いーえどきません! マスターが休むまではどいてあげませんっ!」

「いいからどけ!」


 語気が強く、そして怒気の籠ったアズリーの声。

 ポチが一瞬ビクつくも、アズリーの怒気に負けない強い目をもってアズリーを見返す。


「……どきません!」


 そんな二人の荒だった声に反応し、廊下からいくつかの足音が響いた後、部屋の襖(ふすま)が開けられる。

 アズリーの視線の先のポチ。その奥で襖を開いたのは、リナ、フユ、春華、そしてアズリーのためにベイラネーアから空間転移魔法陣で飛んできたティファがいた。

 だが、アズリーはポチから視線を外さず、暗く、鋭い目つきを向けていた。

 そんなアズリーを未だかつて見た事がなかった四人は、一瞬でアズリーの異様さを理解した。

 少しだけポチから視線を外し、アズリーが四人を見る。


「……皆、無事だったのか。良かった」


 リナの拳が、いや、四人の拳が強く握られる。

 アズリーの声には、いつもの優しさがなく、焦りと、先程ポチに向けられていた怒気が残っていたからだ。


「ど、どうしたんですか、アズリーさん……?」


 震える声でリナが言った。


「別に」

「「っ!?」」


 リナに返ってきたのは、冷たく、表情のない一言。

 それだけで、リナたち四人は言葉を失ってしまった。

 唯一、ポチだけが、そんなアズリーに怒りを見せた。


「心配してる人に向かってなんですかその言葉はっ!!」


 魔王が復活した今、アズリーに余裕がない事は、ポチは理解している。理解しているからこそ、ポチはアズリーを律するために言った。理解しているからこそ、ポチはアズリーに怒りを向けたのだ。

 焦りから出た冷たい言葉だとしても、アズリーがそうあっては駄目だと、ポチが一番理解していた。

 そんなポチの本気の怒りを、やはりこの場にいる四人の乙女は見た事がなかった。

 滅多に向けないポチの強い視線を、アズリーだけが知っている。本気で自分のために怒ってくれているのだと、知っているのだ。

 余裕がなく、焦りだけが前に出てしまうアズリーが、その想いを受け止められるはずがなかった。


「……悪い」


 アズリーは皆に目を、顔を背けたまま、その場を去ろうとしたのだ。


「駄目です!」


 遂にポチはアズリーの右足に噛み付く。

 だが、それでもアズリーは止まらなかった。

 強く噛み続けるポチの口からは、アズリーの血が垂れる。


「っ! や、やめてくださいポチさん! アズリーさんも! お願いです休んでください!」


 リナがポチを押さえ、


「アズリーさん、休んでくんなまし!」


 春華がアズリーの肩を抱え、


「「アズリーさん!」」


 ティファとフユがアズリーの前で両手を開いて立ち塞がった。

 しかし、二人は、乙女たちの力で御する事は出来ない。アズリーとポチは、伝説の時代を生き抜いたのだ。


 ポチがリナを振り解き、アズリーが肩を振って春華の手を払い、ティファとフユの壁(、)を強引に割って進んだ。

 そして、アズリーは大きく右足を振った。

 ポチは口からアズリーの右足を放してしまう。

 辛うじて壁に着地したポチは、アズリーを見て叫ぶ。


「駄目ですー!!」


 そんなポチの声は届く事なく、アズリーは屋敷から姿を消してしまったのだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔法教室の広場では、トゥースが胡坐(あぐら)をかいて座り、その隣にはブル。そのブルの背に紫死鳥が止まっている。

 正面にはウォレンが立ち、トゥースを見上げている。


「そうですか、アズリー君はやはり……」


 そんなウォレンを前に、トゥースは小指で耳をほじりながら答える。


「大体あんな数のブレスを、単純な魔力だけで押さえようってのが間違いだ。まぁ、あの場合はあれしかなかったんだがな……」

「えぇ、おかげでアイリーン様の命は救われました。ビリーもクリートも、アズリー君やポチさん、リーリアさんの留守を狙ったのにも拘わらず、あの戦力でアイリーン様の命を取れなかったのは確かに痛手でしょう。こちらの被害も軽微……とは言い難いですね。死者も三十人以上ですから」

「大変だな」


 トゥースが耳垢を吹きながら答える。


「いえ、トゥースさんのお昼寝(、、、)がなければ、こちらは壊滅状態でしたよ。私もアイリーン様も死んでいた事でしょう」

「ふんっ」

「悪魔と敵対せず我らを助けるにはあれしか手はありませんでした。いや、勉強させてもらいましたよ」

「そんな事した記憶はねぇな。それより、これからどうするつもりだ?」


 そんなトゥースの言葉に、ウォレンの目がわざとらしく見開かれた。


「おや、興味があるのですか?」

「うるせぇ。俺様だって死ぬのは嫌だからな。隠れ蓑になるなら、宿賃くらいは払ってやる」


 遠回しなトゥースの協力申請に、ウォレンはくすりと笑う。

 しかし、その笑みも、すぐに消えてしまったのだ。

 アズリーから伝え聞いたウォレンの話。そしてこの場で話した結果、トゥースはウォレンの性格をある程度理解していた。

 だからこそ、その笑みが消えた理由に心当たりがあったのだ。

 トゥースは大きな溜め息を吐き、静かに目を瞑る。


「……ヤツがアレじゃあな」


 珍しく、ウォレンすらも大きな溜め息を吐く。


「巨大な魔力を一気に放出した弊害……ですか」

「あぁ、アズリーの魔力は今、常に空っぽ(、、、)の状態だ。どうしたら戻るのかもわかんねぇ」


 トゥースが頭を掻きむしりながら暗雲多き夜空を見上げると、ウォレンもそれに続いた。


「いよいよやべぇな……」


 そう静かに呟くトゥースだった。

発売初週なので宣伝させてください!


2018年11月15日木曜日!

『悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ』第10巻が発売致しました!


皆様、是非手に取ってくださいませ!




初回封入特典は、「延頸鶴望(えんけいかくぼう)」というSSショートストーリーです。


⇒アズリーの帰りを知ったティファが、今か今かと正座して空間転移魔法陣の前で待つというお話です。タラヲとのやりとりを楽しんでくださいませ!




巻末特典には「賢者の査定」


⇒トゥースが銀の三人(ブレイザー、ブルーツ、ベティー)の実力を見る。という短編ですね。トゥースが暴れまくります。




そして、今回もやりますWEBなろう特典!




下記四本のSSを今日から投稿していきますので、是非読んでみてください!




①「◆仮契約」⇒ウォレンがららふぁ~むを見つけちゃった!


②「◆虎の決意」⇒ドラガンがあんな事やこんな事を!


③「◆古の邂逅」⇒リーリアとジョルノの出会い。アイツも出るぞ!


④「◆伝説の鼠教官」⇒バラードが主人となったコノハが頑張る!




上記四本を【第十章の最後】に投稿しておきます。




宜しくお願いします!



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