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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十章 ~戦魔国の闇編~

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334 侵入、レガリア城!

 夜は深く、人通りも少ない王都レガリアの裏路地。

 俺は皆に向かってインビジブルイリュージョンの魔法を掛けた。


「ん? これ本当に消えてんのか?」

「丸見えじゃない?」

「お互いに見えるような視認コードを入れてるんだよ。他の人からは見えな――――」

「「よし、試してみよう!」」

「あ、待ってください私もー!」


 といって跳び出して行ったブルーツ、ベティー、そして馬鹿犬。

 何であいつらはあんなに楽しそうなのかがわからない。

 確かに、インビジブルイリュージョン覚えた時は俺もポチで遊んだけどな。

 と思ってたらポチが帰って来た。


「わ、私はいない子だったんですぅ……!」

「だからそう言っただろう」


 そもそも、「子」なんて年かお前。

 よよよと座り込むポチだったが、俺は全力でそれをスルーした。


「どう忍び込むの?」

「隠し通路から……というのは危険な気がしましてね。正面から行こうと思います」

「隠し通路なのに危険なの?」

「悪なら隠し通路を知っているっていうポチの超私的な見解からなんですが、言われてみれば納得だったんで」


 おや? リーリアが頭を抱え始めた。頭痛かな?


「はぁ……まぁ、いざとなったら壁をぶち抜けばいいわね」


 大変だ、俺も頭痛がする。


「さて、行きますか! 以降の会話は全て念話連絡で取ります」

「任せてくれ」


 そう言ったのはブレイザー。

 ベティーにしか教えていなかった念話連絡が、いつの間にか銀の皆が使えるようになっていたのは驚いた。

 大きくなった銀というチーム。これを円滑に動かす上では大事な事だというライアンの進言から、ブレイザーが皆に広めたのだとか。

 レガリア城内での念話連絡の感度も気になるところだが、戦闘以外、俺の魔力コントロールで皆を繋げればいい話だ。

 幸い、アイリーンが作ったレガリア城の地図をウォレンからもらってるしな。


『行くぞ……!』


 リーリアの指示の下、俺たちは動き始めた。

 番兵の前でベティーを肩車して遊んでいたブルーツを見て噴き出しそうになったが、我慢した俺を、我慢してみせた俺を、どうか褒めてほしい。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『……暗いな』


 ブレイザーの念話の通り、正門を跳び越え、入ったレガリア城は、人の気配を感じさせない程静まり、そして暗かったのだ。

 屋内に続く大扉は当然閉まっていた。


『マスター、あそこは?』


 ポチが見上げた先は東棟の窓口。少しだけ開いている窓に俺たちは顔を合わせた。


『怪しいわね』


 ベティーの言う通り、罠の可能性は非常に高い。

 どのタイミングで忍び込まれるかは向こうにもわからないだろうが、どんな相手だろうと、賊に忍び込まれた事を想定していないはずがないからな。


『調べる。ちょっと待ってくれ』


 俺は窓口に手を向ける。


『……やっぱりね、上手い事隠してるけど、設置型の感知魔法陣が敷いてある』

『解けるの?』


 リーリアの言葉より早く、俺は動いていた。


『ほい、パラサイトエディット&リモートコントロール』

『かぁ~、念話でそれ聞くとは思わなかったぜ』

『うっせっ。ほら、行くぞ!』


 感知魔法陣の除去が終わった俺たちは、ポチを先頭にそこへ跳んだ。部屋から人の気配もないが…………、


『部屋の外に二人、誰かいるな』


 罠を張る部屋だ。廊下側に兵を置いても不思議じゃない。

 ここは――、


『ほい、スリープマジック・カウント2&地走魔走』


 どちゃりという音がドアの奥から聞こえる。

 ベティーがドアを開け、ブルーツと一緒にその二人を部屋に担ぎ入れた。


『こいつら、どうするんだ?』

『ほい。こうして設置型のマジックドレインを使えば……!』

『どうなるんでい?』


 腕を組んだブルーツが覗き込む。


『これは、二つのマジックドレイン。一つのマジックドレインが吸った魔力を、もう一つのマジックドレインに供給してるんだ。つまり、互いに吸った魔力から魔法陣を維持出来る』

『なるほどな。外部から手を出さない限り、起きる事はない……か』

『そういう事』


 ブレイザーの指摘に頷くと、ドアから廊下を覗いていたポチとリーリアに変化があった。


『人が来ます』

『二人……という事は巡回かしら?』


 ここで素早く動いていたのはベティー。

 転がり込むようにポチとリーリアの間を通ったベティーは、奥から歩いてきた兵士に向かって何か(、、)を放った。

 次の瞬間、先程と同じ音が廊下から聞こえた。


『……やるわね。麻痺薬か眠り薬を塗った匕首(ひしゅ)ね?』


 なるほど、ここからじゃ見えなかったが、飛ばしたのは匕首か。


『三日三晩はぐっすりのオクスリ(、、、、)


 ぺろっと舌を出すベティーを見て、ブルーツの顔が渋くなる。


『ったく、年考えろってんだ……』

『何か言った?』


 ブルーツの首元に近づけられる新たな匕首。

 すぐに笑顔に戻るブルーツ君。相変わらずだな、この二人は。


『これでいいか』


 ブレイザーとポチが運んで来たもう二人を、部屋に入れ、俺たちはようやく廊下に出た。

 ゆっくりと、しかし素早く、俺たちはレガリア城内を北上していく。


『北東にある尖塔、そこにヴァース様はいるんだったよな?』

『そのはずだ』

『おい、そういう事言うなよっ。いない場合もあるように聞こえるだろっ』

『だってしょうがないじゃないか。アイリーンさんの知ってる情報から変わってる場合だってあるんだから』


 ブルーツの懸念は確かにその通りだが、情報が古い事も確かだ。

 いっその事二手に分かれるか? いや、それはあくまで敵に見つかった場合だ。

 今はこのまま行った方が賢明だ。


 そもそも――、


『兵士一名、確保した』

『また一人倒したわ。持ってく~』

『鍵ぃ? そんなら俺に任せろ。へへへへ』


 銀の三人が頼もし過ぎる。

 泥棒が本職なんじゃないかってくらい(さま)になっている。

 ポチなんか目を輝かせているし、リーリアも舌を巻いている程だ。

 銀の皆は、まるで俺たち三人に、仕事をさせないように動いていた。

 まるで、「お前たちの仕事は別にある」と言いたげな動き方。

 …………薄々気付いているのかもしれないな。

 当然、俺もポチも気付いている。

 レガリア城内を北上すればする程、不穏な魔力に近付いているような……嫌な感じ。杞憂であってくれればいいが、ここは敵の本拠地。そうもいかないんだろうなぁ……。


『どうやらあの階段を通らないと、北東にはいけないようだが……』


 ブレイザーが言葉に詰まったのも仕方ない。

 遠目に見えたのは火に照らされる二人の男女。


『六勇士のキャサリンとジェイコブ……か』


 以前Sランクの昇格審査の時、バルンの次に現れたのがあの二人だった。

 階段の前で一体何をしているんだ?

 というか、キャサリンのヤツ、相変らずきわどい恰好してるな。


『見張り……にしちゃあ豪勢だな』

『何言ってんのよ兄貴、戦魔帝ヴァース様の護衛ってんならあの二人でちょうどいいでしょ』

『アズリー、通り抜けられるか?』


 ブレイザーがそう聞いてきた。

 階段の右奥に細い廊下。おそらくあそこが北東の尖塔への道。

 空間転移魔法陣を飛ばしてコントロールすれば、その奥に設置する事も出来るが、いかんせん、情報が足りない。


『……これ以上近付けば気付かれるな。手詰まり、かな?』


 と言った瞬間、ブルーツとベティーが跳び出した。

 階段下の広間に降りた二人に、当然気付くキャサリンとジェイコブ。


『お、おい!? まじか!?』

『見つかっちゃいました!?』


 俺とポチの驚きをよそに、リーリアが駆けた。

 そしてブレイザーもそれに続く。


「あら? お客さん?」

「正気とは思えませんね。王都の最深部ですよ?」

「「ふっ!」」


 ブルーツがキャサリンに、ベティーがジェイコブに襲い掛かる。

 間髪容れぬ見事な動きは、キャサリンとジェイコブに剣を抜かせた。

 剣戟が始まるや否や、キャサリンとジェイコブの顔から余裕が消えた。


「あっら~? もしかして強敵?」

「やるしかないようですね!」


 リーリアとブレイザーがその側面を駆けるように抜き、遅れて気付いた俺とポチもそれをなぞった。

 これは、ブルーツとベティーが作った一瞬の抜け道。見つかる事で、作った挟撃(、、)への一手。


『ほほい、十角結界・カウント2&リモートコントロール!』

「「ぐぅっ!?」」


 背後から放った結界魔術が、的確に二人の動きを封じる。

 そしてそれを待っていたかのように、ブルーツとベティーが合わせた。


「「はっ!」」

「「――――っ!?」」


 柄頭での強烈な一撃で、六勇士二人の意識を刈り取る。

 俺はこの時の、キャサリンを抱きかかえるブルーツの下品な顔を忘れないと思う。


「お前、鼻の下伸びすぎ」

「でへへへへへ……え?」

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