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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第十章 ~戦魔国の闇編~

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328 実力の程

「ぜぇ! ぜぇ! ぜぇ! ロ、ロールキャベツ!」


 凄いなロールキャベツパワー。

 二日ぶっつづけに走って極東の荒野まで着いてしまった。

 まぁ、それでも夜遅いけどな。

 今は……二十一時か。トゥースのヤツ寝てるんだろう――あれ?


「あん? 何だ、やたらでっけぇ魔力だと思ったらアズリーじゃねぇか?」

「よー、トゥース。久しぶりだな、起きてたのか」


 光源魔法で照らされるトゥース。相変わらず凄い魔力だな、コイツ。それと筋肉。

 けど、前程開きはない。うん、俺だってちゃんと成長しているんだ。勿論、筋肉もな。


「キャベツゥウウ……」


 きゅうと目を回して倒れ込むポチ。


「へぇ、ポチも強くなったんじゃねぇの? って事は限界突破出来たって事か」

「まぁ、過去にまで行ったからな」

「な、る、ほ、ど。どれくらい昔に行ったか知らないが、賢者の石がある時代まで行けばそりゃあるわな。わざわざご苦労だな、はっはっはっはっは!」


 ったく、身体がデカい分、声もデカい。

 ホント、悪魔並みのサイズだな。それと筋肉も。


「そんで? 今日は一体何の用だよ?」

「何だよ、珍しく面倒臭そうな顔しないじゃないか?」

「はんっ、お前の顔に書いてあるからだよ。面白そうな事があるってな」


 大変だ。きっとポチが落書きしたに違いない。


「ちょっと用事でレガリア城に忍び込まなくちゃいけなくなってな。力を貸して欲しい」

「あん? そんな面倒な事だったら――」

「――いや、一緒に行ってくれって訳じゃない」


 そう言いながら俺はストアルームを開き、リーリアが入っている結晶を取り出した。

 すると、トゥースはその中にあるリーリアの顔を覗き込んだ。


「こりゃあ…………もしかしてリーリアか?」

「そう、元聖戦士の戦士リーリアだよ」

「はっはっはっは! 懐かしいもんだな! 俺の知ってるよりかはちょっと年いってるが、確かにリーリアだ! ……ん? 何でリーリアが?」


 トゥースが首を傾げて俺を見る。


「次の魔王復活に備えて自分を封じ込めたんだろう、きっと」

「何故そんな事がわかる?」

「俺と一緒に魔王と戦って倒したからだよ」


 俺がそう言うと、トゥースはただじっと黙って顎に手を当てた。

 そして数秒の後、ポンと手を叩き俺を見て指差した。


「ポーア! そうか、アズリーがあのポーアか! はっはっはっはっは! いや、過去に行ったってそういう事か! だっはっはっはっは! 馬鹿だろお前! 魔王と何回も戦おうとかどんなドMだよ! はっはっはっはっは!!」


 トゥースは、腹を抱えながら大笑いした。

 近くの岩石をぶち壊し、大地を揺らし、転がり回った。

 おのれぇ……まさかここまで馬鹿にされるとは思わなかったぜ。

 いや、しかしトゥースにはそれを言うだけの力がある。

 俗世に関与しないならば、言われても仕方ない……か。


「あぁそうだよ、悪いか爆弾頭!」

「はっはっはっは! いや、別に悪かねぇが、もうちょっと上手くやれって感じだな! はっはっはっはっは!」


 話の本筋以上に笑ってるんじゃないか、コイツ?


「そうかそうか、そんで使い魔杯を制したのがポチか。あー、昔過ぎて全然覚えてなかったぜ!」

「うるせぇ、最初お前に会った時、美少年過ぎて笑っちまったよ! あれがどうやったらこんなバケモンみたいになるんだよ!?」

「愛の筋トレ劇場に決まってるだろうが!」

「はんっ! いくら筋肉が偉大でも、六メートルにもなるエルフがいてたまるか!」

「だっはっはっは! 筋肉は魔法なんだよ!」


 くそ! そう言われたら何も言い返せないっ! 同感過ぎる!

 黙ってしまった俺を見てニヤリと笑ったトゥースは、もう一度リーリアの顔を覗き込む。


「って事は、力を貸せってのは、リーリアをここから出すために手伝えって事か」

「あぁ、そういう事だ」


 背中で俺の言葉を拾ったトゥースは、結晶に少しの魔力を当て、その魔術式を展開させた。


「こりゃあ……冷凍結界の魔術じゃねぇか?」

「知ってるのかっ?」

「知ってるも何も、こりゃ俺様が作ったんだよ。ま、途中までだけどな」

「うぉ!? マジか!?」

「だからそう言ってるだろ? しっかし、この面倒な術式を完成させる物好きがいたとはね。リーリアには無理だろうし……よっぽど執念深い野郎の仕業だな」


 トゥースが完成させられなかった魔術を完成させた者? 相当魔に精通した存在だろう。という事はやっぱりエルフ? いや、もしかしたら人間かもしれない。


「ふん、なるほどな。同時入力型の帯状魔力か。術者当人だったら簡単に外せるんだろうが、それ以外の者が外そうとするならば、それなりの手順が必要……ってか?」

「そういう事。ちょっと知人に知恵借りてな。今の俺とトゥースなら、リーリアの解結界が出来そうなんだよ。どうだ?」

「リーリアと共にレガリア城か……何しに行くんだ?」


 トゥースがえらく真面目な表情だ。

 どうやら俺の質問より、トゥースの質問を先に答えなくちゃいけないようだな。


「戦魔帝ヴァースの誘拐」

「って事は、最深部に行くも同義か。……リーリア含めもう数人欲しいところだな」


 い、意外に冷静だな、トゥースのヤツ。


「一応銀のメンバーが三人付いてくれる事になってる」

「実力は?」

「信頼してる」

「………………それじゃあ信用ならねぇな」


 トゥースが物凄く呆れた顔で俺を見てきた。

 何て目だ。まるで「信頼って言葉知ってる?」と馬鹿にしているような目だ。


ガスパー(、、、、)に出会う確率だってあるんだ。そう簡単にその言葉は吐いちゃいけねぇよ? そいつら今はいねぇって事はレガリアで落ち合う予定か」

「あ、あぁ」

「あっち行ったら一旦連れて来な。実力の程を見てやる」

「えぇ!? お前が!? そんな事するのか!? いや、してくれるのか!?」


 あの、面倒臭がりのトゥースがねぇ……。


「ふん、元弟子と現弟子同士が殺し合う事になるんだ。なら現弟子に勝ってもらわなくちゃ俺様の恰好がつかねぇよ」


 俺はしばらく口が開いたまま塞がらなかった。

 それだけ、二年の時を共に過ごしたトゥースの言葉とは思えなかったからだ。


「んま、勝てはしないだろうけどな」

「……そんなに強いのか、ガスパーは?」


 姉弟子のメルキィやトゥース本人から何度か聞いた事はあったが、これだけレベルを上げた俺とポチ、そして魔王討伐パーティのリーリアがいたとしても、銀の三人と力を合わせても無理っていうレベル。

 まるで……まるで――――


「――――だが、逃げられる力はあると思ってる」

「って、危ないラインには違いないだろう……」

「おいおい、悪魔たちの本拠地なんだろう? そんなもんだろう、普通。黒のイシュタルに白のロイドそれに灰色のグレイことガスパーがいるんなら、お前たちの勝算はそんなもんだ」


 何か、こんなトゥースを見るのは珍しいかもしれない。

 皆の話じゃ、ガストンにダメ元で渡した紹介状を使って、王都守護魔法兵団の育成を依頼したって話だが、それがトゥースを変えたのか?

 それとも相手が俺の兄弟子であり、トゥースの元弟子である……ガスパーだから?


「仮に……」

「あん?」

「仮にだ。今の俺、ポチ、トゥース、ブル、そしてリーリアとその使い魔の赤帝牛ウェルダンがいたとすれば……その三人に勝てるか?」


 それを聞くとトゥースは黙ってしまった。

 近くの岩場に座ってしばらく考え込み、何度か頭を掻きむしる。

 そして、ようやく立ち上がったと思うと、鋭い目つきを俺に向けて――――


「っ!?」


 ――――魔力を、解放した。


「それにはまず、実力の程を見なくちゃな。悠久の愚者……アズリーのな」

「っっっ!!」


 俺と同じ、肉眼で捉える事の出来る緑光の魔力の渦。それはまるで嵐のようで、巨大な魔力の風は俺の顔を強く叩いた。

 魔王の時代を生き抜き、魔王を倒した俺が……強くなって初めてわかる。

 たかが魔力の解放で風が流れ、その魔力は何とも言えない熱を帯びている。熱なんてないはずなのに。その魔力は何とも言えない音を帯びている。音なんてないはずなのに。

 俺にはわかる。かつて、トゥースは俺に言った。「自分の強さは聖戦士のソレだ」と。

 そうだ、トゥースは辿り着いた一人なんだ。弛まぬ努力によって、神に頼らずとも聖戦士の称号に匹敵する程の強さに……辿り着いた一人なんだ。


「おら、久しぶりに揉んでやる。全力で来な」


 これが、魔王の時代から歩み続けた……極東の賢者の魔力。

328 実力の程 は、本日二話目の投稿です。

一話目は第八章の頭に割り込ませています(8巻の発売記念WEB特典SS(ショートストーリー)なので)。

⇒◆242 激動、激務、激昂の手前に『【8巻発売WEB特典「◆ガストン、スターホースを買う」】』が投稿されております。

閑話みたいなものなので、読まなくても本編に影響はないと思います。

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上記リンクは2018/4/10現在のものです。何かしら挿入する話が今後出てきた際、その話に飛ばない可能性もあります。予めご了承ください。





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