◆329 戦力分析
「きゅぅ~…………」
その場でばたりと倒れ込みながら、変な声が漏れるアズリー。
トゥースとアズリーの戦闘中に起きたポチは、その隣まで走ってアズリーの身体をつつく。
「大丈夫ですか、マスター?」
「だ、大丈夫じゃな……い」
「最近カッコいいところありませんね、マスター」
「う、うるさい! 相手が悪いだけだ、相手が! お前だってやってみろよトゥースと!」
「え、嫌です」
真顔で返すポチ。
「むっきゃー!」と身体を起こすアズリーの前に、トゥースが歩いてくる。
その姿は致命傷こそないものの、傷塗れである。
「なるほどな」
「な、なんだよっ」
悔しそうにトゥースを見るアズリーが座りながら構える。
すると、トゥースはアズリーの首根っこを摑まえながらひょいと持ち上げた。
「究極限界を使えたのは流石聖戦士ポーアだな。だが、まだまだ詰めが甘い。俺様にこれだけの傷を与えられたなら、他の手段で追いつめる事は出来たはずだ」
「くぅ……気にしてる事を!」
トゥースの眼前でじたばたと動くアズリー。
「もう少し自分の長所を活かす戦い方を考えな」
「ど、どうやるんだよ」
「言いたかないが、今の俺様とアズリーの魔力総量は同じようなもんだ」
「へ? だってトゥースのレベルって俺より結構上だろう?」
アズリーがそんな疑問をあげると、トゥースはアズリーをぽいと投げた。
「うわっと!?」
なんとか着地に成功するアズリー。
「俺様とアズリーのレベル差は二十くらいだろう。しかし、それでもお前の魔力は俺様と同等なんだよ。つまり、お前のアドバンテージは、その圧倒的な魔力量だ」
トゥースはアズリーをビシっと指差して言った。
「強敵と戦う時、その魔力を全部使う気で戦えば、今の時代でお前に敵はほぼいないと言ってもいいくらいだ」
「お、おぉ……」
アズリーが自分の手を見ながら震える。
「ほぼな。ほぼだからな」
トゥースが振り返りながら指をズビシと差して言う。
「わ、わかってるよ! 現にトゥースに勝てなかった訳だしな。な、なぁ! さっきのお前は全力でやってくれたのかっ?」
「……知らん」
「おい! そこ重要だろう! 俺の知る限りじゃお前がこの時代で最強なんだよ! ちょっとくらい自信つけさせてくれって!」
「なぁに甘えた事言ってんだ愚か者! 自信ってのは他人から与えられるもんじゃねぇんだよ! ほら! 良い言葉だろ! さっさと賢者のすゝめに書いておきな! 『本当の賢者は格が違う』ってな!」
「ぐ、ぐぅうう…………」
アズリーは涙を目に浮かべながら賢者のすゝめと筆を取り出した。
トゥースはそれを見て満足気にうんうんと頷くばかりである。
ポチがアズリーの横から賢者のすゝめを覗き込む。
描かれているのは、トゥースの顔と物凄い数の落書き。
「『ひゃー、アズリー様降参ですー。ごめんなさーい。馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿エルフ!』。ふふ、ふふふふふ……」
「今時子供でもそんな事書きませんよ、マスター?」
「いいんだ! これで! 俺は! スッキリするから!」
涙を流し、歯を食いしばりながらポチの言葉を遮るアズリー。
溜め息を吐いて呆れたポチは、関心をトゥースに移した。
「それで、どうなんでしょう?」
「あん? 聞いてたのか?」
「えぇ。気は失ってませんでした。……マスターと私、トゥースさんとブルさん、リーリアさんとウェルダンさんの戦力で、王都レガリア城を制圧出来ますか?」
先程アズリーがトゥースに投げかけた質問。
トゥースは頭を掻きながら空を見上げる。
「……黒のイシュタルと白のロイドだけなら何とかなるんじゃねーの?」
トゥースが絞り出した答えはそれだけ。
それだけでポチとアズリーの顔が固まる。それは同時に、ガスパーの実力の底深さを物語っていた。
「マ、マジかよ……俺の兄弟子はそんなバケモノなのか……」
「あんな奴ぁもう弟子じゃねーよ。ここを出た時なら何とかなったかもしれないが、あれが悪魔化していたらどうにもならんな。メルキィの情報じゃ、そういった類の実験をしてるって話だったし、危ねぇんじゃねーの?」
「マ、マスター……!」
「そうだ。ビリー自体は悪魔化したと聞いた。って事はガスパーも……」
「はっはっはっは! はん、頭打ちだな。大人しく魔王との共倒れの隙を狙うのが賢明なんじゃねーの?」
小指で鼻をほじりながらトゥースが聞く。
「それじゃあ罪もない人間が死ぬ!」
「罪もない人間なんていやしねーよ。蚊やハエを殺し、知らずに蟻を踏み潰し、家畜を食らってモンスターとの生存競争に明け暮れる。罪のない人間はいねぇ。世の中にゃ罪を気にしない人間しかいねぇんだよ。まぁ生きるため、快適に過ごすためだ。それは悪い事じゃねぇ。だったら悪魔が生きるため、快適に過ごすために、邪魔な人間を排除しちゃいけないってのはおかしな話だって言ってるだけだ」
「くぅうう!? あー言えばこう言うヤツだな! ったく!」
野に生きるトゥースだからこその言葉。人間側に立っていない立場のトゥースだから言える言葉。だからアズリーはそれ以上何も言えなかったのだ。
アズリーは自分のマントを齧りながら、バシバシと地面を踏む。
「ま、さっき言った通りだ。逃げるだけなら何とかなるだろうよ。魔力が回復したらリーリアの解結界だ。準備しときな」
肩をすくめながらトゥースはそう言い、視界からアズリーを外した。
アズリーは賢者のすゝめと筆を懐にしまい、腕を組んで唸る。
ギヴィンマジックを足下に発動するトゥースを見ながら。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「よし、準備はいいか?」
「お、おう!」
「俺様は上の帯状魔力を何とかする。お前は下だ。同時にやらねぇとリーリアは死んじまうからな」
「マスター! トゥースさん! 頑張ってください!」
「合図はっ?」
アズリーがトゥースに聞く。
「アレでいいんじゃねーの? 合わせやすいし」
「ふふん、そうだろうそうだろう! 三回な!」
トゥースの言葉に気をよくしたアズリーの鼻の穴が大きくなる。
「ったくしょうがねぇな!」
トゥースは呆れながらも右手を掲げ、アズリーもそれに続いた。
そして、トゥースとアズリーの魔力がリーリアの結晶に向けられる。
「せーの!」
ポチの言葉を受け、アズリーとトゥースの目が見開かれる。
「「ほいの!」」
二人の手が動く。
「「ほいの!」」
まったくブレのない魔力コントロール。
「「ほいっ!!」」
鏡映しのようにタイミングを合わせた二人の技量は凄まじく、帯状魔力に同等以上の魔力が二人から籠められた。
「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」
「目がぁあああああああああああああああっ!?」
瞬間、眩い光が辺りを包み込み、ポチは悲痛の声を上げた。
「みぎゃぁああああああああああああああああああっ!?」
転がり回るポチ。
アズリーとトゥースはそんな中、正面の結晶に罅が入り、徐々に割れていくのを見守っていた。
やがて、結晶は甲高い音を発しながら壊れ、中から浮力を帯びたリーリアがアズリーに近づく。やがてリーリアの顔が、アズリーの肩にそっと当たる。
「目ぇ引っ掻いちゃいましたぁあああああああっ!?」
ポチの悲鳴の影響か、アズリーに抱かれたリーリアがゆっくりと目を開ける。
「……っ。ポ、ポーア……?」
「お久しぶりです、リーリアさん。アズリーですよ……ははは」
徐々に覚醒していくリーリアの瞳に色が宿る。
「うぅ……っ! あぁ、アズリー……ようやく会えたわね」
嬉しそうな顔を見せた後、リーリアは再び目を閉じる。
アズリーはそんなリーリアを抱きかかえながら静かに笑った。
まるでリーリアの眠りを妨げないように。
「目が痛いですぅうううううううううううううううううううっ!?!?」
当然、ポチに悪気はなかった。
「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」ノベルの1~8巻・コミックス1巻発売中。
『がけっぷち冒険者の魔王体験』書籍化決定しました。2018年5月25日(金)に発売です。宜しくお願い致します。
⇒https://ncode.syosetu.com/n7920ei/




