◆295 激突
2018/2/28 本日二話目の投稿です。ご注意ください。
対峙するガストンとビリー。
ビリーが一歩進む毎にガストンもまた一歩その身を近付ける。
「ガストン様、危険です!」
王都守護魔法兵団団長のヴィオラがそう叫んで静止を促すも、ガストンが足を止める事はない。
ガストンはまるで周囲にいる異形の生物に警戒をしていないように見える。
「待機だ」
静かに、しかし精鋭たちに聞こえるように指示を伝えたガストン。
そしてまたビリーも、俯き、光る眼鏡を指でくいと上げた後、
「ではこちらも待機だ」
異形の生物たちに指示を与えた。
「ふん、躾がなっていないのではないか? ビリー」
ガストンは、今にも跳びかかってきそうな異形の生物を見ながら言った。
「躾? ふざけた事を言うな。調整と言い直せ、ガストン」
一足の間にまで歩み寄った二人が睨み合う。
「ふふふふ、五十人もいないじゃないか? モンスターの大群や野盗に襲われたら大変だなぁ?」
「ぬかせ。そんなやわな鍛え方はしておらん」
ガストンの肩口からコノハが顔を覗かせる。それは怒りと疑問の眼差しだった。
「ビリー! アンタ何でそんなに変わってしまったんだ! あれほど主人と仲が良かったのに!」
そんなコノハの目を受け、鋭く突き刺すような視線を返すビリー。
「仲が良い? そう思っていたのは間抜けな貴様らだけだろう。魔法大学に通っていた頃から……貴様らの事は大嫌いだったよ……!」
怒気に溢れたその言葉に、ガストンの片眉が上がる。
「では何故、偽りの感情を儂に見せた……」
「その方が都合が良かった。それだけだ……」
「都合だと?」
「実力の高い者を近くに置く事で、私の実力も向上する。限りある時間を有効に使い、効率的に実力を付けるためにはそれが一番の近道だった……そういう事だ」
「なるほど」
ガストンが小さな鼻息を吐く。
「そして私は聖法士と呼ばれるまでに力を付けた」
「……それが、十分ではなかったと?」
「当然だろうっ」
歯を剥き出し、ガストンに噛み付くように言い放ったビリー。
「私がいくら努力をしても六法士には届かない! どれだけ効率的に鍛えても十二士という才能の壁は私の前に立ち塞がった! 回復魔法に特化したところで、何になる! 魔法の全てを認めてもらわねば魔法士とは言えぬっ!」
「だから……悪に身を染めたのか」
「……違うな……」
ガストンの指摘を静かに否定するビリー。
そして、溢れていた怒気を一瞬にして沈め、不気味な笑みを浮かべた。
「貴様らこそが悪だ」
「何?」
「そうだろう? 悪魔からもたらされた魔法や魔術を……その悪魔に向けるのだから……」
ビリーがそう言うや否や、その足下から円を描くように渦巻き始める魔力。
直後、ビリーの後方にあった林から無数の鳥たちが舞い上がる。
充満する魔力を前にガストンの表情が険しくなる。
(何という魔力っ。これは儂より……あのトゥース殿に近い……!)
次元の違う魔力に当てられたのか、魔法兵団の精鋭。その幾人かが、へたりと地に腰を付けてしまう。
「そうか、悪魔にその身を売ったか……」
「生まれ変わったと言え、友よ」
「先程、袂を分かつ言葉を吐いたのはお前だ、ビリー。二度とその口で儂を友と呼ぶな……!」
瞬間、ガストンの身体からも強力な魔力が放出される。
これによってビリーの目が不敵に笑う。
「人の身でよくそこまで練り上げたものだな。ガストン。何とも腹立たしい才能だ!」
「……違うな……」
先程ビリーが放った言葉をなぞるようにガストンが呟く。
そして、ビリーを睨み付け、更に言い放つ。
「これが努力だ……!」
「くっ!?」
まるで「お前の努力が足らない」と突き放すように言い切ったガストン。
ビリーの目は一瞬にして憤怒に染まった。
「殺してやる!」
人と決別したかのようなビリーの真紅の瞳。
腰を落とし、吹き荒れる魔力を指に集める。
「ペイン・ディザスター!」
まるで血のようにどす黒い魔力の放出。ガストンは羽織っていたマントを翻し、懐に眠っていた杖を取り出す。
「ドーン・ヴァーミリオン!」
暁色の炎が踊り、ビリーの魔法と衝突する。
瞬間、二人の前に巨大で濁った火柱が現れ天を突いた。
その衝撃にビリーは笑い、そしてガストンは後方へ吹き飛ばされてしまった。
「ぐぉっ!?」
「ガストン様!」
ガストンの身体を受け止めながら叫ぶヴィオラ。
ヴィオラの心配の声に反応する事もなく、ガストンはすぐに立ち上がる。
「戦闘開始!」
声を荒げるようにガストンが叫ぶ。
王都守護魔法兵団の精鋭たちは、未だかつて聞いた事のないようなガストンの声に、目の色を変えた。
ガストンの声の中にあったモノ。
焦り、不安、怒り……確かにそれらが内包されていた。
しかし、その中でひと際目立ち、皆を奮い立たせた力は……理屈で説明出来ないような魂の叫び。
ガストンと共に潜り抜けた修羅場の数。ガストンと共に培った身体。ガストンと彼らの……軌跡。
ガストンのたった一声で理解する。
これこそが最上で最悪の……地獄。
ガストンのたった一声で理解する。
ここで奮い立たねば……訪れるのは己が命の終わり。
身体が、顔が、口が、続く命を求めて上げる……雄叫び。
「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!」」
腹の芯から出た声、その士気の高さを前に、ビリーの後方にいた異形の生物たちも反応する。
「「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」」
ビリーが再び光る眼鏡をくいと上げて呟く。
「さぁ、喰らい尽くせ……!」
その視線に炎を宿らせながらガストンが叫ぶ。
「未来を守れ!」
再び起こる雄叫び。
皆が皆、愛用の杖を持ち、駆け始めた異形の生物たちに備える。
身の軽さを思わせるしなやかな足運び。そんな異形の生物たちの動きに王都守護魔法兵団に緊張が走る。
背中から伝わってくる無意識の中にある意識。
それを感じ取ったのか、ガストンがすぐに指示を出す。
「リナ! オルネル!」
「「はいっ」」
「左右から挟み込め! 魔法は強化と回復のみ! 叩き込むべきは力と知れ!」
「「はいっ!」」
「ジャンヌ!」
「はっ!」
「隊を離れる事を許す! 存分にやれ!」
「はっ!」
「ヴィオラ!」
「はっ!」
「儂は構わぬ! ジャンヌの隊を率いて戦場を見定めよ!」
「かしこまりました!」
「フユ!」
「はい!」
緊張に染まるフユの声を耳で拾うと、ガストンの瞳は少しだけ優しくなった。
遅れる指示にフユが疑問に思うも、その答えをフユが持っている訳でもなかった。
「…………いつも通り授業だ。しっかり学べ!」
「は、はいっ!」
この時、左に向かったリナ、右に向かったオルネルを捉えた異形の生物たち。
彼らは、本能的になのか、緩やかに進行方向を変える。
徐々に左右に戦力が分配され、リナたちの作戦が失敗に終わってしまう。
しかし、リナもオルネルも驚きはしない。
徒党を組むモンスターとの戦闘経験がない訳ではない。高度な戦略でもない限り、彼らを欺く事が容易ではない事を知っているのだ。
「そう、戦力を分散出来ただけ上出来よ……」
ガストンがそう呟き、戦場の中央で笑うビリーを睨みつける。
「ヴェストメント・シャインボルト!」
その目の端で光った一瞬の雷。それは王都守護魔法兵団の精鋭たち、その隊長に名を連ねた一人の女が放った光。
身体に纏う紫電は幾度も発光し、周囲の雑草を焦がし尽くす。
腰を低くし、女が見据えるのは異形の生物たちの中心。
身体の筋肉を刺激し、独自の加速法を編み出した彼女のオリジナル魔法。かつて纏った雷の法衣は弛まぬ努力により、強固な鎧となったのだ。
異形の生物程の視線にまで身体を落とし突き進む姿は、正に《雷光》。
吹き飛ばされる異形の生物たち。視線だけそれを追った後、ビリーが女を前に呟く。
「……馬鹿の一つ覚えだな、雷光ジャンヌ」
睨むようなビリーの顔を前に、雷光ジャンヌが不敵に笑う。




