294 若獅子
2018/2/28 本日一話目の投稿です。ご注意ください。
さて、あれからどれだけの時間が経っただろうか。
もう陽が落ちて、光源魔法すら使いたくなる頃合だ。
岩の扉の存在を確かめた俺たちは、一度扉を閉じ、外での待機を選択した。
隠し通路とは言っても城内だ。サガンに会えたとしても、流石に侵入者と話す……という訳にはいかないだろう。
「うぅ……冷えてきたなー」
「まだ春先ですからね~。火を焚いたらどうです?」
「んー、でも、あの岩から出て来た時、焚き火をしている人間がいたら警戒しないか?」
「逆ですよマスター。暗闇の中から『こんばんは』とか言って登場した方が警戒されます」
確かにその通りだ。
そもそもサガンの登場を待ってる時点で不審者なのにな。シチュエーションが完全に悪いのは仕方ないにしても、少しは緩和しないとだな。
………………あれ?
「どうしたんです、マスター? 早くしないと出てきちゃうかもしれませんよ?」
「……大変だポチ」
「どうしたんです?」
「焚き木が…………ない!」
「えぇ!? ストアルームに入ってないんですか!?」
「そんなものソドムの街の維持に使っちまったよ!」
「どうするんですか! ここら辺には燃やすものなんてありませんよ!?」
「くそ……! 仕方ないな!」
そう言って俺はポチの前にいって腰を下ろした。
「おぉ! 何か手でも!? ……ん? なんですマスター? この手は?」
「いや、お前のスカーフがいい感じに燃えそうだと思ってな? ――って、痛ぇ!? 何しやがる犬ッコロ!」
「どうしたら私のトレードマークを燃やせるんですか! それだったらマスターのそのマントの方がよく燃えそうですよ! ほら、それ使いましょう!」
「どうしたら俺のトレードマークを燃やせるんだよ! ポチの毛皮の方がいいんじゃないか!?」
「それは香ばしい匂いが漂ってきそうですね! ですが駄目です!」
ちっ。
「そなたたち」
「「あ゛ぁん!?」」
睨み合っていた俺たちが声の方へ振り向いた時、俺たちの視線はその男よりも、その男の後方へ向けられた。
「おい……」
「何ですマスター……」
「何で岩の扉開いてるんだよ」
「誰かが開けたからだと思います」
「誰かって誰だよ……」
「そりゃあ勿論……」
俺たちの視線が目の前に移っていく。
男だ。
無精髭が目立つ男だ。
茶色いウェーブのかかった長髪の男だ。
水色の服を着ているが、その服には銀糸や金糸が織り込まれ高級感が溢れている。
「そなたたち何者だ?」
目を細めて俺たちを見る男。
ふむ、どこか威厳のある風貌だ。
じとっと見つめられる空気に耐えられなくなった俺とポチは、二人して男に背を向け小声で話し合いを始めた。
「おい、岩が動く音、聞こえたか?」
「全く聞こえませんでしたっ」
「よし、この事で罪を擦り付け合うのはよそう」
「いいでしょう。トロピカル猫まんま四日で手を打ちましょう」
「俺も魔法実験四回分で手を打とう」
「「うん」」
俺とポチはそう言い合って握手をかわす。
「ところであれ誰だ?」
「サガンさんじゃないでしょうか?」
「どうだろうな……」
「『人に名前を尋ねる時はまず自分から』とか言ってみます?」
「戦魔帝かもしれない相手だぞ? 流石にそんなに偉そうな事言えないってっ」
「じゃあ何て言うんですかっ」
「うーん、本名はまずいような気がするな? かといってポーアとシロも違うような……」
「うーん……」
俺たちが悩んでいると、後ろからスンという鼻息が聞こえた。
「不審者……という事でいいかね?」
そう言って男は腰に納めていた長剣を引き抜いた。
なるほど、これも物凄い装飾だ。イツキが見たら「うへへへへ」とか言いながら涎でも出そうなレベルだな。
「ポ、ポッチー仮面参上ですっ!」
とかふざけた事を言いながら、ポチがどこからか出したサングラスを掛けてポーズをとった。
慌てていたのかサングラスが上下逆さまだ。
あれ? 何故か身体が勝手に……!
「レ、レオール仮面参上っ!」
瞬時に男の死角からストアルームを開き、レオンのサングラスを取り出し、そして掛けた俺。
所持者の偽名を借りたのはそれしか出てこなかったからだ。
というかサングラスを掛ける前に鑑定眼鏡を使えばよかった。
「不審者その一と不審者その二だな。安心したまえ。直ぐにあの世へ送ってやる」
「あはは、送るとなると付き添って頂くという事でよろしいでしょうか?」
「ほお? 道連れにすると言うか。余を前に大した余裕だ!」
どうやら確定っぽいな。この男がサガンだ。
しかし言葉を間違えてしまったな。これじゃ煽ったも同然だ。
「何故そんなに怒ってらっしゃるんです? 私たちはここで…………」
「ここで?」
大変だ、考えてなかった。
「ここで焚き火をするかしないか喧嘩してただけです!」
ポチが叫ぶ。
確かにその通りだがもう少し言いようがあったろうに。
「ここは私有地だ。そこで火を焚くならば不審者以外の何物でもないだろう」
サガンの歯が剝きだす。
あぁ、こりゃあ一戦やらなきゃまずいだろうな。
しかしここが私有地だったとはな。いや、隠し通路があるんだ、国が確保している土地だとしてもおかしくはない……か。
「ポッチー仮面、手を出すなよ」
「ふっ、ここは任せましたよレオール仮面!」
やべえ、ポチのヤツ凄い嬉しそうだ。
そんなに変身が楽しいのかね?
「はぁ!」
速いな。冒険者でいうところのランクA、もしくはランクSってところか。
とりあえずドリニウム・ロッドで受ける。
「よっと」
「ぬっ? かぁああああっ!」
「ほいほいほいほい……ほい」
あまり見ない型だが、気品を感じさせる王の剣……そんな印象を抱く。
「はっ! はぁ! どぅりゃあああああっ!!」
しっかし…………とんでもないスタミナだな。
あの長剣を自由自在に操りながら的確に俺の急所を狙ってくる。
勿論、戦魔帝にしては……だけどな。
「せい! この! ちょこまかと! おのれぇ! ぬぅ、これをかわすかっ!」
ポチは何かメモをとりはじめた。
今までのサガンの掛け声を今度、何かの台本で使うのだろうか?
「はぁはぁはぁ……くっ! これでもか!」
頑張るなぁ。もう二十分は剣を振り続けている。
そのご尊顔もすでに家に帰りたそうだ。眉がひっつきそうだぞ。あ、ひっついた。
「ぜぇぜぇ……ぜぇぜぇ…………」
ついに剣を持ち上げる事が出来なくなったか。
速度を含めた剣の腕はランクA。スタミナはランクB程か。……この若さで。
見たところまだ二十代。
なるほど、俺なんかとは違って才能の塊だな。
「……まだ、続けますか?」
「くっ……何故そこまで強い!」
「それなりに修羅場を潜り抜けてますから」
「……敵意がないのはわかった。そして、余に用がある事も……」
凄いな。そこまでわかるものか。
「まるで品定めされているような動きだった。何と歪んだ性格よ……!」
そりゃわかるか。
「では話を――――」
「――――いや、それは待て」
サガンは俺の言葉を手を前に出して遮った。
はて? 待てとは一体?
「明日もここへ来るのだ」
明日も来いって……どういう事だろう?
今は話を聞いてる暇がないって事か? 俺に斬りかかる暇はあったのに?
「そなたが何故王家の一族しか知らぬここを知っていたのかは問わない。がしかし、それだけでそなたの頼みを聞いてやる訳にはいかぬのだ」
「つまり?」
「余に恩を売る機会を与える。話はそれからでどうだ?」
へぇ、上手いもんだな。
身分をこれほど上手く使える人間も珍しい。
イディア皇后の場合は悪用に近かったが、サガンのこれは少し違うような気がする。
品定めしていたのは……俺だけじゃなかったって事か。
「……わかりました」
「では明日この時間に。違えるなよ? レオール仮面……」
サガンは何か含みのある笑みを見せた後、長剣を腰に納めながら隠し通路へ消えて行った。
とんとん拍子に進んだサガンとの出会いだったが、はてさて…………明日はどんな無理難題を言われるのやら。




