293 歓迎の岩ドア
「レガ!」
「リア!」
「着いたぞポチ!」
「着きましたねマスター!」
「六十年以上も前の王都レガリアだ! くれぐれも目立つ真似はするんじゃないぞ!」
「あれ? そんなに昔でしたっけ?」
そうだった。ちょっとコイツの算数間違ってたんだった。
「ま、まぁ大体そんくらい昔って事だよ」
「まったく、適当ですねーマスターは」
ここで言い返したらまた面倒だ。言い合いをしたところで早く帰れる訳でもない。
うん、今の俺、とても賢者っぽかったな。賢者は一日にして成らず。日々の積み重ねの果て、いざという時に適切な判断が出来るようになるのだ。ふふふふふ、また賢者のすゝめに素晴らしい言葉が誕生した瞬間だな。メモっておこう。
うんうん、今はとにかく現戦魔帝のサガンと会う事から始めなくちゃな。
「……気持ち悪い笑顔です~」
「さて、戦魔帝様に会うならばレガリア城……なのは間違いないが、流石にいきなり行って会える訳でもないだろう」
「となるとやはり、情報集め……からですかね?」
「そうなるとやはり、冒険者ギルド……って事だろうな」
俺とポチはそんな話をしながら王都レガリアの中を歩き始めた。
すると、俺はすぐに違和感を覚えた。
「なーんか……」
「見られてますね~……」
ポチも感じた回りからの視線。
俺はこの視線に記憶があった。俺とポチが過去幾度となく浴びた視線だったから。
ベイラネーアやレジアータでは大丈夫だったが、流石戦魔国の首都。ここではこうなってしまうか。
「着きましたね」
珍しくポチの力のない声。その理由は俺もわかっている。
「……着いたな」
「……ふぅ、念のため入ってみますかっ」
仕切り直したかのようにポチが言った。
まぁ、避けては通れない道だしな。仕方ない。
俺が冒険者ギルドの扉を開け、ポチもその後に続き中に入ろうとした瞬間。
「ストーップ」
俺の隣にいたポチは、止められる事がわかってかのようにピタリと止まった。勿論、俺も。
声の主は正面にいるギルドの受付員。髭を生やした中年の男だ。
「使い魔は立ち入り禁止だ」
そう、これまでどこでも入れたポチが、ここにきて立ち入り禁止なんだ。
そういえば、これより昔にポチと人里に下りた時はこんな事が多かった気がする。
もしかしてこの時代を機に、そういった蔑視が減少していくのかもしれない。
現にこの時代のベイラネーア、レジアータでは問題がなかった。
王都レガリアは貴族が多いし、規制が外れるのが遅かったのかもしれない。
「……では、私は外で待ってますね。マスター」
ポチは少しだけ寂しそうな顔をしつつも、笑顔を取り繕ってみせた。
時代とはいえ、人格がある使い魔にこの仕打ちはやはり納得いくものじゃない。
もし戦魔帝サガンに会ったらそこらへんを念押しして伝える事にしよう。確定事項だ。
「それで、御用件は?」
「ベイラネーアから遠路はるばる王都にやってきました。レガリアに来た記念に戦魔帝サガン様のお顔を見て帰りたいのですが、近々そういった催しはありませんか?」
「へえ、そいつは感心だね。ん~、でもなぁ。サガン様は戴冠式の顔見せ以降、どうにも忙しいようでな。これといってお顔が見られる機会は今のところないかなー? まぁ、大人しく新年の顔見せまで待つしかないかもな~、ハハハハ」
うーん、やっぱりここではこれくらいの情報がいいとこか。
俺はギルドの受付員に礼を述べ、外で待つポチの下へ向かった。
「どうでした? マスター」
「んー、正直道端で通りすがりの人に聞いたような情報しか入らなかったよ」
「まぁ、相手は国のトップですからね。そう簡単に会えるものでもないでしょう」
当てもないまま歩き始めた俺の隣をポチが歩く。
何かないかと色々思案しているうちに、俺たちは商業区まで出ていた。
隅で話すおばちゃんたちがサガンの話でもしていないものかねぇ。
そんな適当な気持ちでおばちゃんたちに近付いてみる。
「えっ? サガン様がっ?」
「そうなのよ奥さんっ。内緒なんだけどね? ……レガリアの北にある湖跡があるでしょう。旦那が見たって言うんだけど、あそこで一人鍛錬をしているそうよ」
「えぇっ? お供も連れずに?」
「あら? ……そういえばそうね?」
「そうよそうよ。サガン様がお供も連れずにあんな危ないところに行く訳ないじゃない。最近あの辺に恐ろしいモンスターが出たって聞くし……」
「まぁやだこわーい。それにしても旦那ったら何を見たのかしら……」
「きっと似ている人でも見たのよ」
「そうね。きっとそうね」
そう言い切ったところで「オホホホホ」と笑いながら歩いて行くおばちゃん。
「マスター、聞きました?」
「あぁ、確かに聞いたぞ」
俺とポチが見合って言う。
まさかこんなところで――――
「――――『オホホホホ』ですって! あんな笑い方する人本当にいるんですね! 私ビックリしちゃいましたよ!」
「ちっげーよ! どう聞いたらそこに焦点当てられるんだよお前! 俺ビックリしちゃいましたよ!」
「ふふん! 今後の研究課題にどうですか!?」
「お前の耳の事か!?」
「『オホホホホ』と笑う人間についてに決まってるでしょう!」
「レガリアに着いて早々道端のおばちゃん研究対象にする賢者がどこにいるんだよ!」
「愚者でいいじゃないですか!」
「おい! またお前!」
俺はポチの口を掴み、上下に挟み込んだ。
また愚者ポイントが上がってしまうだろうに。
「ん~~~! んぅうううう!」
「あっ! このっ!」
ポチが身体をぐりんぐりんと捻らせ、俺の手から脱出してしまう。
「ぶはっ! ……今の楽しかったです! もう一回やりましょう!」
「…………はぁ~。今度な」
「約束ですよ!」
嬉しそうに尻尾を振るポチを見て先行きが不安になるも、俺は仕切り直すように腰を落としてポチを見た。
「レガリアの北の湖跡、そこにサガンがいる可能性がある。いや、いなくてもあそこにはレガリア城へ通じる隠し通路があるんだ」
「あー、そういえばマスターが聖帝さんに会った時に通ったとか言ってましたね! けど今もあるんでしょうか? 流石に時が経ち過ぎているような気もしますが……?」
ポチが当然の疑問を投げかけてくる。
俺はそれを聞いた後、遠目に見えるレガリア城を見た。
「見たところ城の造りはあの時と変わってない。レガリアという地名が未だに残ってるんだ。他に当てもない。行ってみるしかないだろう」
「そうですね! でもその前にご飯です!」
ポチの元気な返事と共に、俺たちの行先はレガリア北の湖跡から食事処へと変更された。
食事を済ませた後、俺たちは噂の湖跡にやってきた。
冒険者ギルドで聞いた情報より道端で得られる情報の方が勝るという事もあるかもしれないしな。
「中々深い傾斜ですね」
「あぁ、あの時は綺麗な湖だったんだけどな。やっぱり長い時を経て干上がってしまったんだろう」
「それにしても、誰もいませんね?」
ポチが周囲を見渡しながら言ってくる。
「ここへ来る習慣があるにしても、そう簡単に戦魔帝の仕事を抜け出せないだろう。気長に待ってみよう」
「かしこまりました」
「っと、その前に……」
俺はそう言いながら小走りで駆け始め、ポチもそれに付いてくる。
湖を半周程周ったところにある岩場。……岩の形は色々と変わってしまっているが、やっぱりまだあったな。
「うーん……お? これか?」
俺は岩にある隙間を覗き込んだ。
………………お、あったあった。
「ねぇねぇマスター、何があるんです?」
「まぁ待ってろポチ。……よっと!」
中にあった取っ手のようなものを掴んで捻ると…………、
「わ、わっ!? 何か揺れてますー!? わー! 岩が開いてます! これポチズリー商店に採用しましょう! 岩がこうガーって開いて『いらっしゃいませ! 子供買います!』とか言うんです!」
何それ、超怖い。
【お知らせ】
~その1~
この度「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」の第8巻が3月15日木曜日に発売致します!
巻末書き下ろしには本編と結構密接なお話を書いております。詳細の公開許可が出ればまた告知させて頂きます!
皆様、是非ご購入頂ければと存じます!
~その2~
次回の「なろうラジオ」にゲスト出演する事になりました。
2018年3月17日土曜日19:30~ 1時間半程の放送です。
⇒http://ch.nicovideo.jp/s-narou
パーソナリティーは「さいとう よしえ」さんと「中恵 光城」さんです。
ゲストは Swind先生 『異世界駅舎の喫茶店』(宝島社)
壱弐参は二年ぶりの出演なのでガッチガチに緊張しております。
お時間ある方は是非ご視聴くださいませ。
以上、宜しくお願い致します!




