◆292 チーム銀の大移動
2018/1/31 10話目の投稿です。ご注意ください。
ガストンとビリーが互いに見合っていた頃、ベイラネーアを離れた銀の面々はかつてない程の激戦をむかえていた。
「くそっ! 何だってんだこのカラム山脈ってとこは!?」
ブルーツが豪快に剣を振りながらモンスターを蹴散らす。
「しょうがないでしょ! レジアータを経由したら国の警備に見つかるだろうし……ねっ!」
「わぁ!?」
ベティーが匕首を飛ばし、アドルフの横にいたオールドスネークを顔面を吹き飛ばす。
「だからってこんな危なっかしい道を選ぶとか正気かよ!?」
「私は至って普通だ、ブルーツ」
黙々とモンスターを倒すブレイザーが静かに呟く。
「かぁあああああっ! 雷刃!」
「ありがとうございます! ライアン様!」
レイナがモンスターの攻撃を跳躍してかわし、ライアンが強烈な地走りを加える。
「確かに、ここを登るのは一人では難しい。だが、我らもこの二年で鍛えに鍛えたチーム。ただのモンスター如きに負けては来る魔王復活の際、アズリー殿の力になれませんぞ。ブルーツ殿!」
嬉しそうに剣を振るうライアンをじとっとした目で見るブルーツ。
「ふぅ、こっちは片付いたでありんす!」
そしてその背後で愛刀小桜を振るう春華。その技量は、最早駆け出し冒険者とは呼べない程だ。
それは、直向きに追いかけた背中があったからなのか、それとも周りの実力者たちのおかげなのか、あるいは、その全てなのか。春華にとってもわからない事だろう。
「ほいのほい! テンションアップ!」
中心にいるブレイザーの傍で、ナツが支援魔法を発動する。的確な読みは天性のもの。そしてその素早い宙図速度はトレースの指導の賜物だろう。
「おぅら! バーストォオオオッ!」
「ミドルス! あんまり飛ばすと魔力が持たないよ! いざという時のために、節約しなくちゃ!」
そして、銀に必要不可欠なランクS魔法士、イデアとミドルス。
彼らの加入により、銀の行動範囲は大きく広がった。
「兄貴、そっちいったよ!」
「マナ!? 今の絶対わざとだろう!?」
まるでパスするかのようにモンスターをいなしたマナ。そしてそれに不満を表すリード。
毎日のように起こるブルーツのからかい交じりの弄りが上手く働いたのか、リードの才能と実力は飛躍的に伸び、今ではブルーツとも剣を交わす程の実力者である。
「おらおら! そんな事言ってっとまた負かすぞこら!」
「う、うるせぇ! 次は負けねぇっつーの!」
尚、リードはブルーツに一度も勝った事がない。
襲い掛かってくるモンスターのランク、数、勢いは、過去の時代でアズリーとポチが登った時と遜色ない程だ。それを人数こそ多いものの、山頂付近まで登り、未だ余裕を見せる銀というチームは、あの黒のイシュタルが警戒して然るべき実力まで成長したと言えるだろう。
「…………ふぅ、ようやく落ち着いたな」
「地図から見て、トウエッドに入ったのは間違いないだろう」
岩の上に腰を下ろすブルーツ。
同じ岩に腰を下ろしたブレイザーが、地図を見ながら呟く。
「…………それって変よね?」
ベティーの疑問に頷くライアン。
「確かにおかしいですな。トウエッドに入った瞬間モンスターの数が減るのは……」
「えっと……トウエッド側のモンスターが戦魔国側に来ちゃってただけじゃ?」
アドルフの問いにレイナが首を振る。
「これだけ顕著に変わるのは変よ。明らかに戦魔国側のモンスターの……その、勢いはトウエッド側のモンスターとは違うから」
「で、ですよねー……ははは」
「戦魔国で魔王が復活するというのが現実味を帯びてきたって事でありんすね……」
「だからこそ我々はそれまで生き延びなければならない。アズリーが戻って来るまでに、出来るだけ実力を上げておく。アズリーの功績は大きいが、その言葉を信じられる人間は少ない。あいつは謙虚だからな……。それがアズリーの良い部分であり、悪い部分でもある。まぁ、それ以上に人を惹きつける魅力はあるが……戻ってからでは余りにも時間は少ないと言う他ないからな……」
アズリーを気に掛けるブレイザーの言葉を聞き、ブルーツ、ベティー、リード、マナがくすりと笑う。
「かかかか、珍しく饒舌だな、ブレイザー?」
「こんなに喋るリーダーは初めてかもしれないわねっ♪」
「ホント、リナの事を話す兄貴みたい」
「っておい! オチに俺を使うんじゃねーよ!」
そんなやり取りを見る春華の表情はどこか嬉しそうである。
(皆さんがアズリーさんの話をすると、皆さんが笑顔になりんす。本当に不思議な方ですね、アズリーさんは……)
「ねぇねぇ」
「ひゃいっ!?」
そんな春華の顔を覗き込んでいたのは、きょとんと首を傾げるナツだった。
抜けるような奇声に、皆が目を丸めて春華を見る。
「どうしたの、華お姉ちゃん? そんなに嬉しそうにしてー?」
「あ、えっと……それはでありんすね? それはでありんすね? ……それはでありんす……」
上手い言い訳が思いつかず、延々と同じ言葉を連呼する春華を、ベティーがにんまりと見つめる。
「春華はアズリーが大好きだからね~。好きな人が褒められると嬉しいだけだよ、ナツ」
「あー、そういう事かー!」
「うぁ!? ちょっとベティーさんっ!? 酷いでありんすっ!」
うししと笑うベティーを、春華は剥れて、しかし赤くなって睨んだ。
「そうかそうか。そういえばマナもそんな感じだよな」
「ちょ、ちょっと兄貴!? 仕返しにしては性質が悪すぎでしょう!」
マナがリードの胸倉を掴んで肉薄する。その表情、鬼のようである。屈強なリードが目を背ける程に。
「かかかか、面白ぇな本当に。ま、アズリーの人気は皆が知るところだが、ライバルは多そうだな。リナにティファにベティー、それに春華とマナか。おっと、アイリーン様を忘れてたか、ははははは!」
指を折りながら人数を数えるブルーツの頭を、魔力で覆われた硬い拳が襲う。
「いてぇえええええええええっ!?」
「何さらっと私を数に入れてるのよ糞兄貴! 億枚におろしてチリトリにぶち込んでやろうか!?」
そんなベティーの啖呵を、頭を抱えてのたうち回るブルーツが聞いている余裕は、どこにもなかった。
「はははは、あれは流石に酷いんじゃないか、イデア?」
「酷いと思うのであればデリカシーが欠けてるわよ、ミドルス」
「うぇ!? まじか!? ……すまん、気を付ける」
「ま、まぁ、ちゃんと受け取ろうとするのは悪い事じゃないよ」
「そうかっ!」
イデアのフォローにより表情を明るくするミドルス。
その二人のやり取りを見ていたライアンが、楽しそうに自らの顎を撫でた。
(ふむ、最近のあの二人……とても仲がよろしい。やはりあのベイラネーアの悲劇は……全てが悲劇でなかったという事か)
うんうんと頷くライアンに、レイナがただならぬ眼差しを送っていた事。それに気付いているのは…………リーダーのブレイザーだけである。
(……傍目八目というやつか。チームが大きくなればこういう事もありえるか。もっとも、レイナのあの視線はチーム入り前からだが……)
そんなブレイザーの視線に気付いたのか、レイナは目を伏せて照れてしまう。
(誰も気付かないのは、あの注意力のせいかもしれないな……)
自分なりの回答を出したブレイザーが岩から腰を上げた。
すると、そんなリーダーの行動を見て、全員が立ち上がり始める。
「出発する。まだまだ山脈は続く。各自注意を怠るな」
「「応!」」
「今日の目標はあの山の頂上――――むっ?」
言葉に詰まったブレイザーを見て変に思ったブルーツが近くへ歩みよる。
そのブレイザーの視線は、目指そうとしている山の方から動いてはいない。
「何だブレイザー? 良い女でも見つけたか?」
「モンスターが闊歩するこんなところにそんなのいる訳ないでしょう!」
ベティ―が再びブルーツをぽかりと殴る。
「もう、どうしたのよブレイザー? 何が見えたの?」
「あ、いや、一瞬黒い影が通ったように見えただけだ。気にするな。どうやら気のせいだったみたいだ。よし、行くぞ!」
「「応っ!」」
トウエッドまではまだ遠いが、銀の皆は着実に歩を進めている。
コミック アース・スターにてコミカライズ版アズリーの8話
ニコニコ静画にてコミカライズ版アズリーの7話
が更新されております。ニコニコ静画のコメント何度も見返してる私・x・
※「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」八巻の発売が決定しました。発売日は情報解禁がされ次第載せます!
「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」ノベルの1~7巻・コミックス1巻発売中。
『がけっぷち冒険者の魔王体験』、宜しくお願い致します。
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