◆262 第一陣
かつて、アズリー、ポチ、ジョルノ、リーリア、ウェルダンが五人で戦った聖都レガリアの地。
二万を超えるモンスターと悪魔バディンの出現。
アズリーの聖戦士としての覚醒もあり、広大な土地を有効活用しての大戦闘。
しかし、今回ソドムの街に迫る魔王軍はその倍以上。
放っておけば、ソドムの街を一飲みするであろう無数の敵を前に、ジョルノは静かに剣を抜いた。
その剣の面を肩に載せ、とんとんと叩いた後、まるで子供が庭先に駆け出すように軽い足取りで真っ直ぐ突き進んだ。
迎えるは、魔王軍の、第一陣。
先頭を走るのはオーガの軍団。
オーガやオーガファイターのようなモンスターはおらず、ランクAのインペリアルオーガで構成された強固な一団。
後方ではオーガクイーンやオーガキングたちが大地を揺らしながら歩いてくる。
かつてアズリーが戦ったオーガ戦とは比にならない程の数である。
そんな中を、ジョルノは涼し気な顔で進む。
インペリアルオーガの中央を縫うように透過したかのように突き抜けた。
そのジョルノを、インペリアルオーガたちは気付かない。
そして気付かぬ内に倒れるのだ。
顔を大地に擦りつけた時、インペリアルオーガたちはようやく気付く。
自分は殺されたのだと。
異変を感じ取れたのはオーガクイーンとオーガキング。
すかさず巨大な武器を構えた頃、ジョルノは既にオーガキングの首を一つ刈り取っていた。
「ほら、ピンチだよ?」
静かに呟いたジョルノの言葉に、オーガキングたちの背筋が凍りつく。
このジョルノの攻撃が戦闘開始の合図となり、後方より進んでいた他の魔王軍たちは歩幅を広げた。
瞬時にSSランクのモンスターに囲まれたジョルノは、その場での足止めを余儀なくされる。
取り囲まれたジョルノは最前線で戦い、その上空では――――
「ほい! グラビティスタンプ!」
紫死鳥チャッピーに乗ったブライトが、
「母上と遠吠えのついでで覚えた極ブレスだ! ガァアアアアアアアアアアアアッッ!!」
チャッピーがジョルノを助けた。
この三人の抵抗を掻い潜り、尚も魔王軍はソドムの街を目指す。
なだらかな傾斜を進んだ先に待ち構えるは、赤い斑模様の甲冑を身に纏った巨大な牛。甲冑の隙間から覗かせる赤い瞳の赤帝牛ウェルダン。
そしてそれに跨る白緑の髪をしたエルフ。髪と同様に美しかった瞳は赤帝牛以上の灼熱の瞳に変貌を遂げ、リーリアの口は三日月型に広がる。その悪魔的な笑みに、魔王軍が一度足を止める程だ。
その一瞬の隙を衝くかのように、ウェルダンは一気に傾斜を駆け下りた。
正面にいたモンスターは弾け飛び、踏み潰され、圧死した。
側面からウェルダンを狙うモンスターがいれば、リーリアの剣刃によって命を絶たれた。
ウェルダンの甲冑は、周りの攻撃をものともせず、急所を狙うモンスターがいれば、顔を伏せリーリアに任せた。
そしてリーリアもウェルダンの動きに合わせ、自分をノせた。背に跨りながらモンスターを斬り刻み、時にはその巨大な背中の上に立ち戦った。
「死ね! 死ねぇ!」
「グモォオオオオッ!」
信頼関係から構築された究極の戦闘法。リーリアとウェルダンは互いを庇い助け時には利用しながら戦った。
そしてその裏で魔王軍を翻弄していたのが――――
「そこを真っ直ぐ行ってずーっと北上するとブルネアです! ご一緒にどうです!?」
「帰る訳ないでしょう! ちゃんと前見て動きなさい! ひぃっ!?」
飛び回りモンスターの視線を奪い、凄まじい勢いに歯止めをかけるポチの動物的な動き。
そして巨大化していないポチの背にピタリと収まるフェリスの身体。
この利点により、ポチは自身の素早さを最大限に使い、高ランクのモンスターでさえ捉え切れない線となり、点となり、風となった。
フェリスもその素早さに最初こそ驚きもしたが、徐々にそれに慣れていった。
ポチが担ったのは、主にリーリアたちを狙う遠距離からの攻撃。
巨大な岩を投げる巨人系のモンスターや、酸性の液体を口から飛ばす腐食系のモンスターを倒して回る。
「ちょっと! 今のグールロードは噛み付けたでしょう!?」
「じゃあフェリスさんが噛み付いてください! 私は嫌です!」
「私も嫌よ!」
「じゃあブレスで!」
「蹂躙よ!」
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
ブレスの逆噴射を利用し、フェリスの金棒が威力をあげる。
ダイアミノタウロスの頭を粉砕し、その頭を軸にポチが再び飛び回る。
リーリア、ウェルダン、ポチ、フェリスの動きは上手く回り、魔王軍の進行を止めた。
――――しかし、それはやはり一時的なものである。
無数のモンスターを率いる魔王軍を相手にするのは限度があるのだ。
四人を囲うモンスターの最大数は減る訳でもないが増える訳でもない。
それ以上の数を擁するモンスターは、津波のように、雪崩のようにソドムの街に向かい、やがて魔王軍はアズリーの眼下、ソドムの門前へと至る。
「ほい、アースコントロール・カウント8&リモートコントロール!」
門前に瞬時に出来上がる巨大な土壁。
魔法士が戦闘の際好んで使う進行方向の限定化。
しかし、魔王軍のモンスターも危険な臭いは嗅ぎ分けられる。土壁を壊して進もうとするモンスターも見受けられる。
だが、後方からの圧力により、多くのモンスターはその進路を限定され、正面を突き進む事を余儀なくされる。
「ほいのほい! デュアルドラゴン!」
聖戦士の称号覚醒にして得た特級魔法の極化。
これによりアズリーの魔法の威力は飛躍的に上昇し、発動した双頭の竜を模した衝撃波は、集約されたモンスターたちの命を根こそぎ奪っていった。
ここで土壁を壊そうとしていたモンスターが異変に気付く。
「ドリニウム鋼……程じゃないが、俺なりに強化はさせてもらってる。ちょっとやそっとじゃその囲いは突破出来ないぞ!」
そう、見かけこそ土で出来ているように見えるものの、その強度は鋼のように硬く、魔王軍の進行を阻んだ。
この事から、モンスターたちが次に出る行動は一つ。
土壁をよじ登る事である。
だが、それすらも阻まれる。
何故なら土壁の傾斜は進行方向とは反対側に向かい、反ったように構築されていたからだ。
「ふはははは! 賢者の戦闘に死角なし!」
愚者アズリーがそう叫んだところで土壁に異変が起きる。
魔王軍側に一番近いその壁が、手前に向かって倒れ始めたのだ。
「いぃ!?」
ただでさえ強力なモンスターの中から現れたのは……異質な存在。
他のモンスターと比べると非常に小さい人の身の丈程の中肉中背。
しかし、アズリーはそいつから目をそらす事が出来なかった。
(全身が黒い……あれは悪魔か? いや、あの身体から溢れる魔力が何よりの証拠、か。あのサイズだからこそ、他の皆の視界に入らずここまで来られたのか)
アズリーは片手を上げ、門の近くにいる他の冒険者たちに危険を知らせた。
皆手に汗握り、門の裏手で緊張を走らせている。
「厄介ナ相手モイタモノダ……人ノ身デココマデ魔ニ通ズル者ガイルトハナ」
「悪かったな! 暇だったんだよ!」
「我ガ名ハ《ベリアル》。ソドムノ街ヲ滅ボセトノ、ルシファーカラノ命ダ。ソノ首一瞬ニシテ刈リ取ッテヤル。……カァアアアアアアアアアアアアッ!!」
ベリアルが叫んだ瞬間、アズリーが作った土壁は全て倒れてしまった。
その魔力の余波に、周囲のモンスターは萎縮し、ソドムの門の内側にいた冒険者すらも腰を抜かしてしまった。
しかし――――
「ふんがっ!」
アズリーが気合いを入れた瞬間、冒険者たちの苦悶の表情が緩和された。
各々自身に起こった不可解な現象にアズリーを見上げるが、温かくも優しい風のような魔力。
その心地良さに、冒険者たちの目に再び闘志が宿る。
剣で盾を鳴らし、足を踏み鳴らし、腹の底から雄叫びをあげ始める。
「生意気ナ……!」




