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レガリアの東門から東区に入った俺たちは、疲れを癒すために同地区にある宿をとった。
部屋の中でポチがベッドの上をピョンピョン跳んでいるのを、チャッピーが顔を上下させて見ている。
まったく、どっちが子供かわからんな。
「マスター! 起きたら今日はどうするんですっ?」
「あー、とりあえずダグラス家の屋敷をチェックする。家出る頃には尾行もまだ付かないだろうしな。その後はちょっとした観光かなー」
「いいですね、観光! おやすみなさ――くかぁ……」
ついにあんな特技まで身に付けたか。
チャッピーが目を丸くしている。俺だって驚いている。
俺はレオンのオムツを替え、マントを脱ごうとした。
瞬間――
「あっ」
「あっ」
「あうー」
レオンが……立った。
「ち、父上……レオンが立ちましたよ!」
「お、おぉ……! 立った、立ったな! ほら、こっちだレオン!」
「だぅ」
てこりと一歩足を進め、両手を前に伸ばしている。
「そうだレオン、あんよが上手、あんよが上手だ! あ――」
「転んだ」
「でもまた頑張って立ち上がろうとしてるぞ。くそぉ、泣かないで偉いなぁ……!」
レオンは自力で立ち上がり、一歩、また一歩と俺の下へ歩いてきた。
ほんの数メートルだが、二回転び、その都度立ち上がった。
俺の下まで歩き、レオンの弱々しい両手が俺の両手に載る。
「う、うぉおおおおっ! 凄い! 凄いぞレオン!」
「見事だ!」
チャッピーは羽を広げ、レオールを賞賛し、俺はレオンを高く抱き上げて喜びを露わにした。
嬉しそうなレオール以上の笑みを浮かべて見せたんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何で!? 何で起こしてくれなかったんですかっ!?」
「仕方ないだろ? 感動してそれどこじゃなかったんだよ、なあチャッピー?」
「ですね! いや、同期として喜ばしい事でした!」
同期ってなんだ同期って。いやまあそうなんだけど。
「ズルいですズルいですー!」
「一回歩けたんだ、また気分が乗れば歩いてくれるだろ?」
「違います! 私は一回目を見たかったんですー!」
気持ちはわからないでもないが、咄嗟の事だったしなぁ。
「あー、悪かった。今度からはレオールが何か初めての事をしたら起こしていいんだな?」
「勿論です! 約束ですからね!」
起こしたら起こしたで文句言うんだろうな。
まあ、この公約がある限りポチも強くは出られないからいいんだけど。
準備を終えた俺たちは、宿を出る。
先日の疲れからかもう昼過ぎという時刻だ。
宿の扉を開けた瞬間、強めの日差しが俺たちの目を眩ませた。
「「目がぁああああっ!?」」
まあこれはいつもの事だからいいんだが、視界が元に戻ると、俺は街の活気に驚いた。
「うぉ」
レガリアの外れに宿をとったつもりだったが、川のように流れる人、人、人。
現代のレガリアも凄かったが、この時代のレガリアは一味違った。
うーん、それだけ聖帝の統治がいいのだろうか?
そうだ、ポルコからなんか書状を預かってたんだ。
確かこっちに着いたら開けとか言ってたな。
ポチたちの目が回復するまでの間、俺はポルコから預かった書状を開いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
本日夜、時計の短針が十二を迎える時、レガリア北にある湖まで来られたし。
合言葉は「アダムスとフルブライド」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
…………嫌な予感しかしない。
「何か凄く嫌そうな顔してますね、マスター?」
「不意打ちで水をぶっかけられた気分なんだ」
「風邪、ひかないでくださいね」
ポチの珍しくも冷静な突っ込みに深く溜め息を吐いた俺は、息を吸い込むと同時に、気分を切り替えた。
「おし、それじゃあ行くか」
「「はい!」」
「ん、だっ!」
レオンも生まれた土地だからか、妙に機嫌がいいな。
さて、ダグラス家は確か南地区にあったはずだ。
とりあえず、下見。そしてその後は観光だな。
「…………小さいですね」
「あぁ、小さいな」
「父上、本当にここがダグラス家なのですか?」
「の、はずなんだけどなぁ……」
俺たちが訪れた南地区のダグラス家。
それは貴族というにはあまりにも小さな屋敷――いや、少し大きめの家という印象だった。
見たところ、金はありそうだが、それはあくまで一般的に言ってだ。
とてもチキアータや無名を雇うなんて事は出来ないだろう。
「まぁ表向きは――という事もありますから、そこは追々調べていきましょう」
「そうだな」
確かに金持ちをひけらかす理由はない。ポルコの話じゃ、したたかな男というのが、ダグラス家当主の印象らしいからな。
「さ、今度は――」
「「ご飯っ!!」」
知ってた。
両側から耳が痛くなる程の声を浴びた俺は、二人の嗅覚によって街を歩き回る事になった。
「やっぱりチキンは最高に美味しいですね!」
最初は食べられなかったけど、最近普通に食べるようになったよなー。
「まったくですな母上! 鳥皮とかもも肉とか余すところがないですよね!」
…………ところでポチの肉はとり肉なのだろうか?
いや、ステータスを強引に捻じ曲げてるだけだからそれはないか。
ん? あれ? ポチとチャッピーはどこ行った?
「マスターマスター! あれ見てくださいあれ!」
ポチの前脚がさした先は俺にはあまり縁のない、衣服を取り扱っている店だった。
はて? ついに体毛だけじゃ恥ずかしくなってしまったのかね、ポチ君は?
「あれですよあれ!」
さらに注視すると、端の方に展示コーナーがあった。
これは……眼鏡? しかしやたらとレンズが……おぉ!?
「さん……ぐらすって書いてありますね」
「なるほど、これなら太陽も眩しくない訳か」
ふーん、安易だが実に堅実な考えで作られてるな。
「ねぇ~マスター。これ欲しいですー!」
「父上、私もサングラスが欲しいです!」
「あーぅっ!」
「え、レオンお前もか!?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふ……」
「ふ……」
「あぅ……」
「…………何これ?」
俺以外の皆がサングラスを装着し、周りを見渡している。
まるで「どうだ、似合うだろう?」と言わんばかりのアピールだ。
「凄いです! 世界が暗いです!」
「父上、前とは違った変身ですね! どうです、似合いますか!?」
「だっ!」
「似合ってない訳じゃない……かな」
「「おぉ!」」
むーぅ、獣の感性はよくわからん。
レオンに至っては顔のサイズと全然合わないし、子供にはよくないんじゃないか、これ?
まぁおもちゃみたいな感じで、そのうち飽きるだろう。
さて、北区よりの中央区に来てみたが、なるほど神聖とはよく言ったものだ。
王都レガリア以前の聖都レガリア。その中枢を俺は今見上げている。これが神聖レガリア城か。なんでも神聖城と略す事も多いとか?
気品と雄大さを兼ね備えた堅城、というところか。モンスターが攻めて来てもちょっとやそっとの事ではびくともしないだろうな。
そしてこっちが…………聖都のコロッセウム。ポチが半月後に戦う使い魔杯の会場だ。
って、あれ?
「あ、マスターも気付きました?」
「だな、まさかもう受付を始めてるとは思わなかった。ついでだし、受付を済ませておくか」
「ですね!」
コロッセウムの入口では使い魔杯の参加受付が行われていた。
出場さえ決まれば、それまでの間はダグラス家の調査が出来る。
参加条件は十万ゴルドと、使い魔のレベルが百を超えている事のみ。
こんな時代だ、記入事項に所属の欄があるのはどこも力の誇示を目的としているのだろう。
俺は意外に簡単に済んだ受付を終わらせ、コロッセウムを一周回って来ると言っていたポチたちの下へ向かうため、ポチたちとは反対にコロッセウムを回ろうとした。
しかし、すぐにポチの背中を見つける事が出来た。
…………ん? なんだか様子がおかしいぞ?
硬直するポチの後ろ姿に「シロ!」と声を掛ける。
だが、ポチは反応する事はなかった。
なんだ? 何かに驚いている様子だ。俺はちょうど陰で見えなかった視界が開けた時、その意味を知った。
「久しぶりね、ポーア……だったわね? まさかアナタたちも使い魔杯に出るとはね。なるほど、どちらもかなりレベルを上げたようね。これは楽しみになってきたわ」
それだけ言ってあいつは、彼女は去って行った。
燃えるような赤い巨体の牛を連れて。
…………聖戦士リーリア。
新作投稿始めました。
「使い魔は使い魔使い」
小説家になろうでは書いた事のない現代モノのローファンタジーです。
是非読んでみてください!




