217 二人と二人
「使い魔杯ぃ~? 何ですかそれ!?」
おいおい。お前が出たいとか言ってた使い魔のための大会じゃないか。
………………遥か昔のな。
「待ってください。流石にそれは事が大き過ぎるのでは?」
「ん? どういう事ですかポルコ殿、ポーア殿?」
あぁ、そうだった。ジュンが話についてこれないよな。
俺とポルコはジュンにこれまでの話を説明した。
終始真面目な様子のジュンだったが、どうやらジュンにとっても悪い話ではないようだ。
「確かに、ポーア殿ならばアダムス家、我がフルブライド家両家の魔法指南役として容易に参加が可能ですね。相手方もそこまで警戒心を強めないと思う」
「無論費用はこちらで持とう。何、ダグラス家への侵入旅行だと思ってくれたまえ」
何を気軽なノリで言ってるんだこの人は。
まったく、金銭交渉から変な話に発展したもんだな。
まぁ、以降アダムス家からの収入が劇的に変わると思えば気も楽になるか。
「……やってくれるか、ポーア殿」
ジュンの問いに俺は静かに頷き、ポチはポンと自分の胸を叩いた。
「マスターのお世話ならお手の物ですよ!」
最近は俺の方が世話をしてるんだけどなぁ……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「まさかこんなに早く出て行くとはね?」
ポルコはチャッピーの首を撫でながら言った。
そう。俺たちは使い魔杯の紹介状をポルコとジュンに書いてもらい、その日中に荷物をまとめた。
そして日付が変わる頃、眠そうなチャッピーとポチを起こして王都レガリアへ向かう事にしたのだ。
「日を置けば確実にこの事に気付き、付いてくるであろう弟子に心当たりがあるんですよ」
「ふふふふ、フルブライド家は安泰かもしれないな」
もっとも、ポチが口を滑らす可能性も高いんだけどな。
「父上、こんな時間に一体どこへ?」
その関係で、チャッピーには何も言わずに決行となった。
「よい就職活動になる事を祈っているよ」
「もらうものはもらいますからね」
「勿論だとも。しかし、危なくなったらすぐに離れるように。まぁポーア君ならこの忠告も必要ないと思うが……」
「ご忠告、肝に銘じておきます」
くすりと笑ったポルコは、そのままポチの頭を撫でた。
「シロ君、使い魔杯、楽しみにしているよ」
「任せてください! たとえ魔王が現れてもぶっ飛ばしちゃいますよ!」
なら魔王戦も安心だ。
ポチの陰で小さく縮こまってる事にしよう。
「それは頼もしいね。あぁそうだポーア君、最後にこれを」
「ん?」
ポルコは丸めた書状を俺に手渡した。
何だろう? それ程厚みがないから指示書か何かだろうか?
「レガリアで宿を見つけたら開くといい」
「……はぁ、わかりました」
そーっと覗き込むようにして最後にポルコが見たのは、当然レオンだった。
まさかこんな状況下で連れて行く事になるとは思わなかったが、最近ではチャッピーにも大分懐いたし、ポチと二人で面倒を任せられると思って連れて行く事にした。オムツ交換以外はな。
そもそも、置いて行くと大変な事になるのは明白だからな。
「ね、寝ているようだね。うむ、レオールの事も頼んだよ」
「ポルコ様のご息女よりよっぽど扱い易いので問題ありません」
「ふむ、中々に鋭いご指摘だね?」
「お友達、なのでしょう?」
自分でもわかる程皮肉に満ちた顔を向けると、ポルコは苦笑し、そして咳込んだ。
それを見て俺とポチは見合って笑い、チャッピーは首を傾げた。
「それでは」
「うむ」
ブライト少年やフェリス嬢を起こさないように、静かにクッグ村を後にした俺たち四人。
魔法士、使い魔、天獣、赤ん坊という珍妙なパーティーは、古代神聖国の首都――レガリアへと駆け出した。
「楽しみですね、マスター!」
「レガリアでのご飯の事か?」
さらりと言った俺にポチが急ブレーキをかける。
「な、何でわかったんですかっ!?」
「何でわからないと思ったんだよ!」
「父上、レガリアへは何をしに行くのです?」
キョトンとした様子で着陸したチャッピーに、俺は事の経緯を説明した。
「そういう事でしたか。だからブライトたちを連れて行かなかったのですね」
「そういう事です! どうですか私たちの思慮深さは!」
どんと胸を張るポチだが、大体を決めたのは俺だ。
「ほい、トーチ」
「ひゃっ!?」
「まぶちぃ!?」
「あぁ、悪い悪い」
ポチとチャッピーは俺が出した光源魔法に目を塞ぐ。
あぁ、そう言えばこいつら光度が極端に変わると怯んでしまうんだな。
いつかあの紫死鳥とやりあう事になったら使えるかもしれない。覚えておこう。
「も~、気を付けてくださいよ? マスター」
「あぁ、悪かった。ブライト様から逃げるように出て来たけど、この時間から走っても中途半端な時間に着くからな。たまには三人――いや四人で深夜の散歩もいいかなと思ってさ」
「あ~ぅ!」
「ありゃ? レオンのヤツ起きちゃったか」
最早慣れたものだが、寝起きで泣かない赤ん坊、恐るべしだな。
俺は困った顔を浮かべて肩を上げると、ポチとチャッピーはくすりと笑って歩き始めた。
「それで、使い魔杯に出るとしてもいつ頃行われるのですか?」
「来月の十五日だな。今が四月の終わりだから半月程の時間がある。ポルコ様に聞いた話だと、その頃からレガリアに着いている出場者は珍しくないそうだ。ダグラス家に侵入出来るかはともかくとして、俺たちが出来る事は結構多いと思うぞ?」
「へぇ、てっきりダグラス家の使用人として職を探すのかと思いました。変身が出来るんですから」
ポチの言葉にチャッピーがぶんぶんと頷く。
「そりゃ一番はそれがいいかもしれないが、公には、俺たちは使い魔杯に出場するためにレガリア入りするんだ。宿泊先から行き先までマークが付いてると思った方がいいだろう。使用人になったら行動が制限されちまうし、相手も不審に思う。なら、大きく動きながらそのマークをかわして外側から色々動いた方が正解かなーってな」
「そういう事なら私にも出来る事が多いかもしれませんね」
「その通り、この作戦の要はチャッピーだと思ってる」
「なんで!? なんで私じゃないんですかっ!?」
跳びはねる使い魔の隣で首を捻るチャッピー。
「ポチは俺と共に動かないと目立つが、チャッピーなら空から見張れるからな。敵方の動きを見る時、チャッピーの存在は非常に助かる」
「おぉ! それは光栄です!」
「ま、ま~あ!? マスターがどうしても私と一緒にいたいと言うならば私は別に構いませんけども~!?」
チャッピーはともかく、何故ポチがそんなに喜んでいるのかは不明だ。
「ポチはポチで大変だぞ? 使い魔杯といっても古代の使い魔杯だ。どこまで本気かはわからないが、やるからには主人として出来るだけ上を目指して欲しいんだけど?」
「もっちろんです! 今の私ならば相手になる使い魔は限られてくるでしょう! ディノが出て来たって負けませんよ!」
魔王が現れてもぶっ飛ばすとか言ってたんだから、ディノに負けてもらっちゃ困るんだよな。
それに、俺の動きでこの時代がどうなるのかは知らないが、フルブライド家とアダムス家には世話になってるからな。
出来れば優勝して両家の力を元老院内で確かなものにしておきたいところだ。
魔王の胎動期といえども、国をあげての行事ならば各地から実力者も集まってくるだろう。
その中でポチが自分の力を存分に発揮できるか。これはある意味魔王討伐に向けての最初のステップかもしれない。
「おや? 陽が出てきましたね、母上」
「本当ですー! む? …………マスター、アレ!」
ポチが前脚を伸ばした先に見えたモノ。
それはモノと呼ぶには大き過ぎたかもしれない。
薄くぼんやりと当たる陽の光。太陽が昇るとともにその輪郭が広がり、古代神聖国の首都を照らす。
「見えたな……レガリアだ!」




