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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第七章 ~聖戦士編・中編~

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215 お友達

「うぅ、何故か頭痛が……」
「あ、お目覚めになりましたっ?」
「おぉ、シロ君。実に美味しそうなステーキじゃないか。むっ、おっ、ふっ、ぬっ? あー、ポーア君。私は何故今縄で縛られているのだろうか?」
「気にしないでください。ちょっとしたいたずらです」

 俺はポルコに淡々とそう言い、縄を解いてやった。
 そう、俺たちは呆気なく勝利してしまったのだ。
 聖戦士も認めるその実力に少し緊張もしたが、暴走したポルコの動きは直線的なものが多く、天獣の力を持ったポチと今の俺では戦力に差がついて当然だった。
 確かにあの魔力は脅威だ。ポルコが正気だったならばどうなっていたかわからない。
 その後俺たちはポルコとフェリス嬢、そして無名をアダムス家に連れ帰り、ガイルたちに事情を話し、ポルコの回復を待ったんだ。
 俺たちはポルコの部屋から移動し、ここ、護衛団の詰め所までやって来た。
 俺の結界で縛った無名の四方を、ガイル含む護衛団の連中が囲みながら睨みをきかせている。
 ブライト少年は嫌々ながらも気を失ったフェリス嬢に付き添い、屋敷の中にいる。護衛にはチャッピーと他の護衛団、そしてブルネアから転移してきたジュンが付いている。レオンも同じ部屋で静かに寝ている。
 俺とガイルはこの経緯をポルコに話した。すると、ポルコは地に蹲る無名の前に椅子を置き静かに座った。
 俺とガイルはその横に立ち、ポルコの行動を見守ろうとした――瞬間

「がぁっ!?」

 ポルコは杖の先端で無名の右手中指を潰した。

「痛い! これは痛いですぅ!?」

 こっわっ!?
 ポルコのヤツ、まだ暴走しているんじゃないか?
 俺はちらりとポルコの顔を覗くと、その顔は至極冷静で暴走時よりも恐ろしく感じ、ごくりと喉を鳴らしてしまった。

「さて、無名君といったかね? かなりの力を持っているようだが、何者なのかね?」
「……ふ、糞が――ぬぅっ!?」

 今度は薬指が潰れた。
 ポチは完全に目を肉球で覆っているが、俺とガイルたちは、ただただポルコの尋問を聞いていた。

「はははは、随分痛そうじゃないか」

 アンタが潰したんだよ。

「フェリス、そして私たちがトウエッドから戻った事に焦りを感じたというのはわかる。しかし今回の行動……いささか早計だったようだね」
「…………くっ」
「まさかジエッタ君に化けていたとは思わなかった。最後に私が見た時より身体のサイズもかなり違う。実に特異な能力を持っている。その隠形術、そしてその名前……東の部族が革新派に買われた(、、、、)という事か」

 一瞬、無名の呼吸が止まる。
 そうか。トウエッドの方の出身だと思っていたが、あっちにあぁいった術を持った部族がいるという事か。

「さて、私は君の雇い主が知りたい。是非教えてくれたまえ」
「……教えると思っているのか?」

 ポルコを睨み、震える声で無名が呟く。

「無論、簡単に吐いてくれるとは思っていない。そして私は生産的でない話を好まない」

 ポルコはそう言い放ち、宙図(ちゅうず)を始めた。
 洗練された指の動き。これは――魔術陣。そしてこの公式は…………なるほど、アダムス家の当主はやはり恐ろしい人物のようだ。
 相当量の魔術公式……

「呪言発破」
「っ!」

 無名の胸に刻まれた魔術陣。それは体内に侵入するように消えていき、無名の顔を凍りつかせた。
 呪言発破。かつて笑う狐のリーダー「マウス」が掛けられていた強力な魔術。
 なるほど、確かにこの魔術は聞きたい事の答えがわかる(、、、)魔術だ。

「さぁ、勘のよさそうな無名君の事だ。この魔術の意味が何なのか、察しはついているだろう?」
「…………」
「出来れば選択を誤らないで欲しいね。魔術公式に『我が問に関する嘘を禁ず』と組み込んである。嘘であれば無名君の首から上は弾け飛ぶだろう。我が家のメイドにその掃除をさせるのは忍びない。まだ若く将来もある有望で優秀な人材だ。トラウマになってしまうかもしれないね」

 メイドに死体の掃除をさせる気か。なんて恐ろしいご主人様だ。

「だが、それも無名君が正直に話せば済むことだ。因みに、答えは十秒以内に話す事だ。私も返り血は浴びたくないものでね」

 にこやかにポルコが言うと、ポチがそっと窓から出て行くのが横目に見えた。
 あんにゃろめ……逃げやがったな? ウィンクなんてしやがって……!

「では質問だ。……此度の一件、革新派の手によるものかね?」
「……くっ」

 なるほど、最初にダグラス家と問わずにそれを覆う大きな派閥を対象としたのか。
 これで嘘なら別の組織という事になるが、さすがにそれはないと思いたい。
 さぁ、無名はどう答える?

「…………っ」
「残り五秒」

 びくりと無名の肩が動く。

「くそ、そうだっ」
「革新派の事でいくつか聞きたい事がある。無名君の雇い主……おそらくフルブライド家を狙った一派と同じ雇い主だとは思うが、ポーア君から聞いた北に住む腕利きの女魔法士、それに無名君のような手練れ。ダグラス家(あの家)にこれ程優秀な人間を雇う貯蓄があるとは思えないのだが、無名君の雇い主はどうやってそれを成しているのかね?」

 これはまた核心をついた質問。
 ジュンに聞いた話だとダグラス家は小さな貴族だと聞く。
 聖帝の右腕と言われるポルコ・アダムスでさえ抱えているガイルの護衛団の平均レベルが百二十から百三十前後。
 フルブライド家にいたっては護衛団すらいない。
 だが、ダグラス家は違った。護衛団とチキアータ。それとほぼ同等の力を持つ無名を召し抱えるなんて、相当の資金力がないと厳しい。
 皇后に恩を売るというならば他家の助けを借りる訳にもいかないしな。

「……ふっ」

 笑った? という事は――

「知らぬな」

 やはり。

「俺はただ仕事を頼まれ、依頼通りにこなしているだけだ。雇い主の金の出どころなど気に掛けた事もない。それならば俺からも一つ聞きたい事がある」
「ほぉ? 何かね?」
「そこの魔法士の事だ」

 え……俺?

「あれ程の実力を持った魔法士にアダムス家、フルブライド家次期当主のお守りをさせるなんて、一体どれ程莫大な金を積んだんだ? 俺の知っている限り一年はポーアを使用人として使っているはずだ。俺にはその事の方がよっぽど不思議だ」
「はははは、確かにそれは気になるかもしれないね」

 ポルコは俺をちらりと見て、にこりと笑った。
 その笑みの下にはどんな感情が隠れているかはわからなかったが、俺はただ沈黙を貫いた。
 しかし…………俺の賃金?
 そう言われてみるとかなり貰っている方だと思うが、アダムス家の財政事情は大丈夫なのだろうか?

「ふ、先月のポーア君の給金がいくらなのか教えてあげよう」

 当主としてそれはどうなのかとも思うぞ、それ。
 はて? 先月はいくらもらったっけか? 確か十五万ゴルド程だったか?
 魔法大学に十五回も入学出来る金額だと考えれば相当な金額だろう。
 冒険者ならば二十回は危険な橋を渡らなければならないとなると、各段に割の良い仕事だ。
 ふふふ、雇い主に恵まれたな。

「十五万ゴルドだよ」

 ふっ、どうだ! ガイルも目を丸くして驚いたようだな。

「お、おい。ポーア……お前……」

 ふふふふ、どうだ? そんなに羨ましいのかソラ豆君。
 あげないぞ? うちには大食いの金食い虫がいるのだ。まぁ獣だけどな。

「馬鹿なっ? 見たところレベル百八十近い実力者だぞ!? 一度きりの短期の仕事でもそんな低いはずがない!」

 ……なんだって?

「た、確かにそうだな。ポーア程の実力ならひと月千五百万ゴルドもらってもおかしくない」

 なんだって?

「無名君、事はそう単純にいかないように、私とポーア君の関係もそう単純ではないのだよ」

 どういう事なんだ? ポルコさんよぉ?

「な、何か弱みでも握られてるって事か……」

 ポルコは椅子に座りながらも膝に肘を置き、身体を前へ落とし、声のトーンをも落とした。

「お友達価格というやつだ」
お金、大事。
近日新作の連載を始めようと思ってます。
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