214 筋力という力
「シャーッ! シャッ! シャッ!」
これはだいぶイっちゃってるな……。
杖を振り回したポルコが俺たちに向かって攻撃してくる。
「うわあですー!?」
ポチはポルコの攻撃を前方に跳んでかわす。
「ぉおおおおおおおっ!?」
「こ、これってもしかして……私たちも狙われてますぅ!?」
「シロ、お前が言ってた通り、めっちゃ怒ってるな、ポルコ!」
「さっき見た時はこんな体中から魔力は噴き出てませんでしたよ! 目も赤いし歯は剥き出しだし、あの人モンスターかなんかじゃないですか!?」
「国の重鎮に対してそれは失礼過ぎるだろ! とりあえずあの怒りの元凶が前を走ってるんだ! フェリス様を取り戻せば治まるだろ! 多分!」
ポチは「ですね!」と返事をし、前を走るジエッタの後を……あれ?
あのジエッタさん。長といえどただのメイドでこの速度はおかしくないか?
ポルコのこの速度で追いつけないとか、異常にも程があるだろう。
…………いや、差は少しずつ縮まってはいる、が、速いな。
まぁ今のポチの本気の動きならばすぐ追いつけるか。
「……っ! ここですー!」
タイミングを見計らって再度跳んだポチは、フェリス嬢を担ぐジエッタの正面へと着地した。
その瞬間、ジエッタも跳び、身体を捻りながらポチをかわし距離をとった。
「ホッホッホッホ、これは予想外。まさかポーアさんに追いつかれるとは……」
「それはどうも――――」
「――――追いついたのは私ですよ!」
正にその通りだが、相変わらずコイツは自由だな。
それにしてもジエッタの骨格が明らかに変わっている。肩幅から足先まで五割増しってところか。
年配という印象が一気に吹き飛ぶな。メイド服が似合わないったらありゃしない。
隠形術による身体変化か。過去文献で見た事があるけど、こんなにも操作出来るものなのか。
「……ずっとフルブライド家に忍び込んでいたんですか」
「いんやぁ?」
っ!?
「マママママスターッ!? ジエッタさんの声が……野太くなっちゃいましたよっ!?」
「凄いな。身体変化の術で声帯まで変えられるのか。まさか男だったとは…………それで? さっきの言葉の意味は一体?」
「ブライトがこちらに来る時、既にジエッタという女は死んでいた。そういう事さ」
という事は約一年も俺たちを騙し続けていたのか。
そうか、チキアータがブライト少年の誘拐に失敗したあたりから、このジエッタの潜伏が始まったのか。
いや、こいつはそもそもジエッタじゃない。一体何者なんだ? 鑑定眼鏡鑑定眼鏡っと……。
――――――――――――――――――――
無名
LV:174
HP:23106
MP:19230
EXP:201794153
特殊:攻撃魔法《上》・補助魔法《上》・回復魔法《上》・変異・神速・浮身
称号:魔法士・闘技者・SS殺し・風神・竜殺し
――――――――――――――――――――
無名、名前から察するに東の方の人間か?
それにしても、こちらに来てからジエッタを鑑定眼鏡で覗いていればこんな事にはならなかったかもしれないよな。
しかし凄いな。あの身体、あの筋肉、チキアータ以上の実力者かもしれないな。
特に大腿筋の発達が凄まじい。ポルコが追いつけなかったのが頷けるな…………って、そう言えばポルコはどうした?
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいっ!? ち、父上ぇえええっ!?」
チャッピーの悲鳴に振り返ると、背後ではポルコが空に向かって、正確にはチャッピーとブライト少年に無数の魔法を打ち込んでいた。
薄い羊皮紙が空を舞うようにチャッピーがヒラヒラ飛んでいるのを見て、ポチが叫んだ。
「こらチャッピー! 何で私に救援を求めないんですかーっ!!」
だって母親やりつつも……ポチだしな。
「よし、じゃあチャッピーの救援はシロ、お前に任せた」
「何言ってくれちゃってるんですかマスター! 今ポルコさん怖いから嫌です!」
「じゃああっちの化粧面のお兄さん担当してくれるか?」
「あっちも怖いです!」
「どっちかだ」
「う~ん……苦渋の時です!」
多分俺が無名を、ポチがポルコを相手した方が相性いいと思うんだよなぁ。
……ふむ、ここは一つ策に出るか。
「考えてみろシロ。ポルコ様相手ならブライト様もチャッピーも戦闘に加わって三対一になるんだぞ?」
「おっ?」
「それにチャッピーにいいとこ見せるチャンスだとも思うけどなぁ?」
「おぉっ!?」
「更にブライト様に恩を売っておけば、美味しい料理がてんこ盛りだぞ?」
「おぉおおおおっ!!」
自分でもわかる程の変な笑みをポチに見せると、ポチは耳をぎゅるんとまわして立ち上がった。
「っと! おい、立ち上がるならそうと――」
「――そこの赤目の当主さん! 今なら鉄板焼きフルコースで許してあげますよ!」
前脚をポルコに掲げ、ポチはまくる袖もないのに、腕まくりの仕草を見せながらポルコに近づいていく。
……うん、背中からでもわかる。アイツの目には既に今晩の肉料理の事しか映っていないだろう。
「さて、俺も頑張らなくちゃな」
「ほぉ? 一人でこの俺を止められると? 腹に赤ん坊を抱えるお前が?」
お前……か。
さっきまでは「ポーアさん」って呼んでくれてたのにな。
まぁこの太く逞しい声で呼ばれても困るものだ。
「あなたもフェリス様を担いでるじゃないですか。無名さん?」
「…………やはりあの家で一番厄介なのはお前だったか」
目の奥に名前を知られた驚きを見せた無名は、担いでいたフェリス嬢を地面に下ろし腰を低くした。
やっぱり近接型の魔法士のようだな。杖もないし虚を衝いて宙図するのだろう。
なら、こうかなっ。
「大事な杖を地に刺すとは……わからないな」
「レオールの特等席を作ってるんですよ」
俺は上手い事ベビーキャリアを杖に引っ掛け、魔力で補強を行った。
「だーぁ?」
「そうです、ここで俺のカッコイイ姿を見て応援しててくださいね」
「あぃ!」
レオンが返事をするや否や、無名は俺の背後まで一瞬で間を詰めた。
振り被られた拳を払うように反転して蹴り返す。
ばちんと弾かれた無名の腕。俺はそのまま続けて連続の蹴りを放つ。
「ぬぅ、くっ!」
後方へ跳び、蹴りをかわした無名は、着地と同時に地に手を置きにいった。
あれは設置型魔法陣? いや、魔術陣か。
俺は蹴りを跳躍へかえ、天高く上げた足を設置魔術陣の上へ落とす。
「だぁあああああっしゃいぃいいいっ!!」
魔術陣は大地と共に砕け、無名はころがるようにそれを避けた。
「くそっ! 生粋の魔法士かと思っていたが違ったかっ?」
「いや、生粋の魔法士であってると思いますよ!」
「……なっ!?」
俺は飛び散った岩や小石を魔力で覆い、塊と成して無名に向かって放ち、その背を掌底で加速させた。
「ぐぉっ!」
見事に無名の腹部に決まった岩の塊は弾け、奴の身体を宙へ浮かせた。
「このっ!」
奴は宙で身体を上手く操り、体勢を整えると共に俺に向かって小さなナイフを放ってきた。
俺は身体を勢いよく反転させ、それをマントで払った。
「馬鹿な、体術も俺以上だとっ!?」
「……うーん、俺もビックリだ……」
思わず小声ながらも声に出してしまったが、まさか聖戦士の称号の効果がここまで顕著に表れるとは思わなかった。
魔力操作もそうだが、身体能力もかなり向上している。
今なら全て特級の「十の魔」すら発動出来るかもしれない。
……うん、これならもう少し強引に動けるな。
「どすこいっ!」
無名の着地を狙い、俺はそのまま体に渾身の力を込めてタックルをした。
ガッチリと無名の身体を固定し、近くの岩に向かって走り続ける。
「うほほぉおおおおおおおおっ!!」
「こいつ……なんて力だっ!?」
「筋力っていうんだよぉおおおおおおおおおっ!」
「そんな話は――ガッ!?」
背中に岩を打ち付けられた無名は、身体からいくつかの骨の折れる音を鳴らし小さく声を漏らす。
そして俺は倒れゆく無名の背中に魔術陣を描き込む。
「ほほい、聖十結界!」
凄いな、最高結界魔術をこの速度で描き込めるなんて……。
負傷と結界の束縛により、無名は声すら出す事が出来ずに意識を失った。
うーむ、もしかして同レベル帯の敵なら結構圧倒出来るかもしれないな。
おっと、そんな事よりフェリス嬢を回収してポルコに――
「嫌ぁああああああああああああああああああっ!? マ、マスタァアアアアアッ!」
「父上ぇええええええええええええええっ!!」
「し、師匠ーっ!」
三人の悲鳴が俺の耳に届き、俺はポルコがいるであろう方向へと向いた。
すると、ポルコの身体から暴走と言っても過言ではない程の魔力が吹き溢れていた。
あれは――俺の魔力解放と似たようなやつだな。
さぁて、同レベル帯は勝てても、今のポルコはまだ俺より強いからなぁ……。
まぁポチと一緒なら問題ないだろう。
そんな気楽な気持ちの俺は、叫び続けるポチの下へ小走りで向かうのだ――
「――遅いですよっ! 私が倒しちゃうところでしたよ!」
「お前さっきまで助けを求めるような顔してたじゃないか……」
「演技ですよ演技!」
だとしたら我が使い魔の演技力は相当なものだろう。
「でもどうしてポルコさん、フェリスさんのところへ行かないんですかっ?」
「もう完全に目的を失ってるんだろう。そんな顔してるし。顔に血管浮き出ちゃってるし、最早モンスターみたいだし……な」
「心内では相当フェリスさんが好きだったんですねぇ。それで、どうやって意識を戻します?」
「勿論、コレだ!」
俺は拳を作って見せる。
「いいじゃないですかソレ! わかりやすくて好きです!」
俺たちは互いにニカりと笑い、聖戦士が認めた魔法士、アダムス家のポルコと対峙した。
今晩19時よりアース・スターニコ生に出演致します。
FUNA先生の「私、能力は平均値でって言ったよね!」、通称「のうきん」と呼ばれる作品にて生ボイスドラマをやります。最新第4巻の怒涛のバトルシーン。
壱弐参は古竜役とのことで、がおーってしてきます。
また、ラノベニュースオンラインの編集長も出演するとの事で、ライトノベルやなろう系小説のアレコレを聞けるかもしれません。
ニコ生のリンクを活動報告に記載しておきますので、お時間ある方は是非ご覧くださいませ!




