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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第七章 ~聖戦士編・中編~

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209 舞

 あれから旅籠屋に戻り、フェリス嬢は空間転移魔法陣からクッグ村へと戻って行った。

 ほっと一息吐くブライト少年を横目に、俺は項垂れるポチの横顔を見ていた。


「あー、あー、今日は色々歩き回ったしなぁ……もう足が棒だよ、はははは」


 咄嗟に出てしまった俺の言葉を、ポチは静かに受け取った。


「私も……脚の裏が肉球ですー」


 知ってる知ってる。

 元気がないせいかギャグのキレはよくても笑えない。笑いたくても笑えない。


「父上、少しお話したいのですが、よろしいでしょうか?」

「ん? どうした?」


 俺は問題を抱えるもう一人のチャッピーの言葉に耳を傾けた。

 しかしチャッピーは首を横に振ったのだ。


「ここではちょっと……」


 これにはポチもブライト少年も目を丸くしたのだ。

 ブライト少年に黙って……というのであれば、過去何度かあるが、母親のポチにまで内緒の話となると、ちょっとした変化だ。

 俺はポチに「ブライトを頼む」と目配せした後、チャッピーを外へ連れ出した。

 といっても旅籠屋の裏庭だったりする。

 俺は客用のものなのか、見つけたベンチの上に腰を下ろすと、チャッピーはその上に足を曲げて座り込んだ。


「おい、重いんだけど?」

「まぁまぁ父上。たまの親子水入らずではありませんか」

「そうは言っても正面が全部真っ黒だよ。いいから隣座れ隣っ」

「むぅ、仕方ありませんね」


 俺はベンチの上をポンと叩き、チャッピーは仕方なくという感じで隣へ移った。

 周りから見ると、とてもシュールな光景だろう。

 背の高い紫死鳥がベンチに座っているのだから。


「それで、どうしたんだ?」


 俺の問いに、チャッピーはしばらく口を開かないでいた。

 チャッピーもチャッピーで思うところがあるんだろうな。

 紫死鳥として生まれて約一年。父である俺と、母であるポチは未来の存在で、用が済んだら未来へ帰ると言われてしまったのだ。ポチとよく話し合った末の結論としてチャッピーに話したが、やはりこの短期間で消化する事はなかなか出来ないだろう。

 そして今回の紫死鳥の件。厄介過ぎる問題だ。

 種族の問題で、この世に紫死鳥が一頭だけしか存在を許されないとしたら、未来にいたあの紫死鳥…………つまりあの時代にチャッピーがいない事になる。

 いや、もしかしたら俺たちが出会ってないだけであって、どこかで生きているのかもしれないが、俺たちが過去に行くまでのあの日まで、チャッピーは俺たちの前に姿を現していない。

 己の存在自体が危うくなると踏んで姿を現さなかっただけなのか、それともチャッピーのこの時代で……?

 それに、現代で会った紫死鳥は俺との別れ際に何て言った?

 確か…………あの時俺は紫死鳥に名前を聞かれて名乗ったんだ。それから「…………なるほどな。では、一つ貸しだアズリー。いずれ返済に来い」だったか?

 あの時紫死鳥は俺たちの存在に気付いていた? もしかしてあの段階で気付いたのか?

 五千年以上前に出会った魔法士だと?

 だけど……だけどあの時紫死鳥はポチが間の抜けた欠伸(あくび)をした時に俺たちへの殺意を消した。

 つまり、俺よりポチの方が印象深かった?

 だが今回…………紫死鳥の前に姿を見せたのは、俺、フェリス嬢、チャッピーのみ。

 ポチはずっと藪陰に隠れていたはずだ。

 という事は…………やはりこの後、ポチと紫死鳥が互いを見据える時が来るという事。

 未来でチャッピーと出会わなかった。だからこそポチは俺に「貸し」を……――――。


「父上」


 長い静寂を破ったチャッピーは、自分なりによく考え、よく言葉を選ぶように話し始めた。


「父上たちがこの時代の人間ではない事。未だに私の小さな頭では理解しきれていません」

「……あぁ」

「声を出せずにいた。父上たちに聞く事が出来なかった。私がこの先どうすればよいのか」


 短い言葉の中に、チャッピーの気持ちが見えた気がする。


「父上たちが元の時代に戻る時、私は……?」

「…………あぁ、連れて行く事は出来ない」


 前にも言った言葉だが、チャッピーは改めて自分に言い聞かせるように聞いてきたように思える。


「私は……その先どうすればよいのでしょう?」


 単純な質問だったが、その質問は、俺の喉をきゅっと締め付けた。

 だが、言わなければならないだろう。親として、悠久の時をほぼ一人で生きて来た者として。

 チャッピーは、それを知ってか知らずか……いや、おそらくそれをわかってポチではなく俺を選び、そして聞いてきたのだ。

 なら答えるしかない。当たり障りがなくも、厳しく長い悠久の暇潰し(、、、)を。


「そうだなぁ。まずは世界を飛び回ってみるとか?」

「世界を?」

「あぁ。チャッピーは俺にはない雄大な羽を持ってる。それを活かさない手はないだろう?」


 チャッピーの羽を撫でながら俺は言った。


「なるほど」


 チャッピーが目を伏せて頷くと、心なしか少し笑ったように見えた。


「それからそうだな。色んな食べ物を食べる」

「それは大事です」


 即答というより、文字通り食い気味に言って来た。

 さすがポチの子供だ。


「はははは、色んなところを見て周り――」

「ふむふむ」

「飽きたらフルブライド家やアダムス家に遊びに行けばいい」

「ブライトとフェリスの家を、ですか?」


 キョトンとしたチャッピーは、首を傾げて聞いた。


「あぁ。ここだけの話な? あの二つの家は、俺たちがいた時代まで栄えてるんだよ」

「ほお? それ程ですか」


 フルブライド家は最近没落したとか聞いたが、その家の人間は生きてるしな、間違いは言ってないだろう。


「内緒だぞ?」

「はい」


 二人だけの秘密……そんな親子の言葉に、チャッピーは嬉しそうに返答した。


「だからチャッピーは、あの二人の家を守ってやるといい」

「中々面白そうです」

「勿論、守ってやらなくてもいい」

「……? それはどういう事ですか?」


 俺の急な方向転換に、チャッピーは目を丸くした。


「つまり、今のは、全部俺が言った事だろう?」

「はい」


 これまでの説明を思い返すように肯定するチャッピー。


「それを、チャッピー自身が決めてもいいって事だ」

「私自身が……ですか?」

「そっ。自分から進んでやる事で、色んな事が勉強出来るぞ?」

「そういう意味でしたか」


 言葉の意味を理解したようで、チャッピーは再び目を伏せた。


「しかし指針というものも必要だ」

「指針?」

「チャッピーがこれからする事の大前提。根本にあるような気持ち、方針、目標みたいなものだ」

「目標……」


 一言そう呟くと、チャッピーは首を(ひね)って考え始めてしまった。

 しばらくその様子を見ていると、チャッピーは何かを思いついたように俺に聞いてきた。


「因みに父上の指針というのは?」

「簡単さ。弱い者いじめはしない。悪人とモンスターを除いてだけどな」

「おぉ……!」


 チャッピーは俺の指針を聞くと、すっと立ち上がった。

 ベンチの前まで歩き、月夜の中、大きく羽を広げると、深紫(こきむらさき)の羽根が舞い、一瞬俺の視界を幻想的なものへと変えた。


「父上! 私は決めました! 私は弱い者いじめをしません! そして世界を見るのです! あぁ! あぁ楽しみです! 私の生きる目標! 指針が決まりました!」


 歓喜するように声を昂らせるチャッピーに、無邪気で雄大な天獣を見た。

 いつの間にかポカンと開いていた口に気付かぬまま、俺はしばらく喜びの舞いを見せるチャッピーに見とれていた。


「…………父上?」


 チャッピーが落ち着き、俺の顔を覗き込んだ時、短くも美しい舞台を見ていたような感覚から目を覚ました俺は、チャッピーの頭から首を何度も撫で、小さく「そうだな」と呟いた。

本当にたまに、で申し訳ありませんが、別作の「魔法世界の超能力者」も更新しました。最初に書いた小説ですが、是非読んでやってくださいm(__)m

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ポチの影響で生まれたんだっけ? なのに連れていけない理由が分からないな
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