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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第六章 ~聖戦士編・前編~

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202 謎

「さぁ、何から聞きたいんだい?」


 薫が落ち着きを払って言った。

 そんな空気を二人が感じ取ったのか、すぐに俺の背後から出て来た。

 害意……というより、見た目よりかは馴染みやすい相手だと判断したのだろう。


「チャッピー」

「何でしょう父上?」

「今から話す事は決して他言無用だ、いいな?」


 俺の声圧に反応するかのように、チャッピーの顔が真面目になっていく。

 どうやら俺の意図を汲み取って――


「――そんな難しい言葉はわかりません!」


 違った。


「これから聞く話は誰にもしちゃいけない。そういう事だ、わかるな?」

「ブライトにも?」

「そう」

「…………わかりました」


 ようやく伝わったところで、チャッピーは黙り、心配そうな目をしながらポチと俺の間まで移動し、座り込んだ。

 何かを感じ取ったのだろうか、こんなチャッピーは(ひな)の時以来だ。

 怖がっているというより不安に見える……そんな印象を受ける。


「薫さん」

「はい」

「まず、俺とポチが別の時代から来たという事、何故わかったんですか? その魔眼は素晴らしい力を持っていると思いますが、魔眼を発動する前にその情報を知っていたというのは辻褄が合いません。やはり先程仰った《潤子》さんという薫さんのお姉さんが関係しているのでしょうか?」


 薫は目を伏せ、静かに頷いてみせた。

 やはり姉の魔眼が関係している。

 薫の眼はおそらく情報解析の魔術が宿った天然の魔眼。

 姉弟子メルキィが自分の目をくり抜いて宿した魔眼と、性質は同じものだろう。

 もしかしてメルキィなら現代でも称号消しが出来るんじゃないだろうか?

 いや、今はそれよりも潤子の事を聞かなくちゃいけない。


「お姉さん……潤子さんの魔眼とは一体……?」

「未来視……とまではいかないが、予言の力を宿しているのさ」


 ……そういう事か……。


「今ポルコの坊やたちが姉に会っているのは、不透明な未来に色を付けるため。どうだい? これで色んな事に合点がいくだろう?」

「俺が今日ここに来た事、その目的、別の時代から来たという事実。なるほど、予言の類の力を持つのであれば納得です」

「そ、それって、未来の事が何でもわかっちゃうんですかっ!?」


 ポチが驚いて尋ねる。

 未来視とまではいかない、と言われた直後だが、確かに聞いてみたくなる質問だ。


「予言出来るのは相談相手の未来のみ。自分たちの未来を予言する事は出来ないんだ」

「そうか、だからポルコ様はブライト様を…………」

「そう、ポルコ坊やは、将来神聖国の重要な地位に就くであろう坊やをここへ連れて来た。つまり、そういう事さ」


 ……ん?

 何だ、今の違和感は?


「どうしたんです? マスター?」

「……父上?」

「あーぅ?」


 懐にいたレオンまでもが首を傾げ、愛らしい顔でどうしたのかと尋ねてくる。


「ふふふ、この坊や(、、)も大人しいようだね。この子は確かにあのハドル坊やの血を引いているみたいだね」


 っ!


「母上、ハドルとは誰ですか?」

「もう、前に教えたでしょう? えーっと……誰でしたっけ、マスター?」


 頭を抱えながら聞いてくるポチを、俺は手を前に出して制止させた。


「……マスター?」


 ハドルと言えば現神聖国の帝、聖帝その人だ。

 たとえ他国の帝であろうと、坊や呼ばわりはおかしい。

 それに、聖帝ハドルはかなりの高齢のはずだ。

 そう……見た目が中年の薫が、ほぼ同世代に見えるポルコに対して「坊や」と言った時、疑問に思うべきだった。

 そう、あの時――、

【相手を飲み込むような重い魔力。殺気はないのに気を抜いたら殺されてしまいそうな空間。んー……どこかで感じた事のある感覚。はて? どこだったかな?】

 ――……思い出したぞこの感覚。

 ……トゥースだ。

 唯一俺と年齢が近いあの男。あの男の感覚にそっくりなんだ。

 そうだ。この人は、俺の事を「アズリーさん」と呼んだ……!

 はっと俺が気付くと、薫は小さく笑い、俺の質問を待っていた。


「……失礼ですが薫さん。あなた、一体おいくつなんですか?」

「何言ってるんですか、マスター? どうみても……四十から五十くらいですよね?」

「俺とお前はいくつなんだよ?」

「…………なるほど」


 年齢が高齢に見えるからといって、それが正しいとは限らない。

 俺とポチは若く見えるが、実際には高齢どころじゃない。

 神薬と呼ばれたあの薬の情報。俺が生まれた頃には存在した。

 存在するかもわからない薬の噂は、何故広まった?

 そうだ。つまり、俺やトゥースが飲むより早く、存在していたからだ。


「数え忘れて数百年。二千は近いだろうね。アズリーさん?」


 目を丸くしたポチとチャッピー。

 ぎこちなく首をポチに向けたチャッピーが尋ねる。


「母上、あの方は一体……?」

「す、少なくともマスターと違って……あのお歳からちゃんと働いていた方って事です」


 どういう見方だ、それは。

 しかし、そういう事か。トウエッドの歴史が長いのは前々から知っていたが、その裏でまさか悠久の雫を飲んだ者が二人いるとはな。

 これで悠久の雫を飲んだ者は五人。

 俺、ポチ、トゥース、薫、潤子。

 薫と潤子はこの時点で二千年程生きているようだが、この数十年後、俺やトゥースがそれを口にすると考えると、何らかの意図が見えてくるような気がする。

 旧神聖国で生まれた俺、エルフの国で生まれたトゥース、トウエッドの……薫と潤子。

 悠久の雫の発生源がこうもばらけるものなのか?

 どうにもどこかの神とか神とか神とかの意図を感じないではいられない。


「さて、久しぶりに出歩こうか。ちょうどポルコ坊やたちの話も終わったようだしね」


 ……潤子との念話連絡か。


「さぁ、手を貸してちょうだい?」


 薫が差し出した手を握ると、彼女はゆっくりと立ち上がって見せた。

 皆で鹿威しの音を背に、小屋の外から入口には向かわず奥にあった細く狭い道を通って行った。

 方角的に考えても……これは――

 正面に現れた聖堂の階段を、薫の足に合わせてゆっくりと上る。

 正面から聖堂へ入り、一つ目の障子、二つ目の(ふすま)を開けると、正面に現れたのは薫とうり二つの女性。


「双子さんでしたか」


 ポチがそう零すと、薫は潤子に何かを耳打ちし、そして潤子の隣にゆっくりと腰を下ろした。

 俺は薫の手を離し、予め並べられていた三つの座布団の中央へ腰を下ろす。

 そして、右隣りにポチ、左隣にチャッピーが座ると、潤子は静かに口を開いた。


「いらっしゃい、アズリーさん」


 薫と同じ声。

 おそらく入れ替わってもわからないだろう。それ程、顔も仕草も骨格も声も筋肉も酷似していた。


「初めまして、アズリーです」

「ポチです」

「チャッピーだ」


 俺たち三人の自己紹介に、潤子と薫は揃って頭を下げた。


「どうですか、トウエッドは?」

「歴史は深く、人の顔に明日が見える。そんな印象を受けました」


 潤子は小さく笑みを零し、お世辞ではない俺のお世辞を受け取った。


「大体の話は薫から聞いた事だろう。私の右目の事も、そして私たちの年齢も」


 俺は静かに頷き、彼女の続きの言葉を待った。


「アズリーさん。アンタの事は以前から知っていたのよ」

「……もしかしてポルコさんの未来で?」

「そう。ポルコ坊やの未来を予言した時、アンタという存在を目にした。そしてそれはこの時代の光明でもあったの」


 俺はポチと顔を見合わす。

 光明って……どういう事だ?


「最後の聖戦士の出現」


 ……やっぱりそうなるのか。

 すると、薫が潤子に代わるように話し始めた。


「今回の魔王復活に際して、潤子は予言した」


 そうか、既に予言があったのか。

 薫は歌うように予言を語り始める。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 聖戦士は集う


 滅びの街のその先に 無数の魔物の懐へ


 聖戦士は集う


 一人 勇敢なる黄金の()の子 その手に携えるは無敵の(つるぎ)


 聖戦士は集う


 二人 異種より生まれし異質の力 赤き(うし)を友とて突き進む


 聖戦士は集う


 三人 時を跨ぎて現る千の魔手 黒狼の背に乗る千の魔手


 聖戦士は集う


 魔の手が広がるその時に 世界に降り立つ光かな


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 その予言を聞いた時、チャッピーは頭を抱え、ポチは頭を捻った。

 なるほど、ジョルノ、リーリア…………俺、だよなぁ?

 だが、気になる点がある。

 リーリアに当てられた予言にある赤き丑ってのはなんだ?

 いや、待て。確かメルキィが前に言ってはずだ。聖戦士の中に天獣の赤帝牛(せきていぎゅう)を使い魔にした者がいると。

 俺が調べた文献には記憶にないが、どこかではそういった言い伝えがあったのかもしれない。

 確かに限界突破のあるこの時代では、戦士でも使い魔と契約する事は可能だろう。

 現代でも六勇士のバルンが猿のリッキーと契約していたしな。

 ジョルノ、リーリアと離れてからかなりの時間が経つ。もしかしたら、既に契約しているのかもしれない。

 おそらくこれは赤帝牛の事だろうが、一応二人に確認しておくか。


「その赤き丑というのは、伝説の五天の霊獣の一角、赤帝牛の事でしょうか?」

「そう」


 そう答えた後、薫は思い出したように言った。


「そういえば、今年は(うし)年だったわね」

「丑年?」

「神聖国にはない文化だったわね。トウエッドには干支(えと)と呼ばれる年の数え方があるの。()(うし)(とら)()(たつ)()(うま)(ひつじ)(さる)(とり)(いぬ)()。この十二の年を総称して干支、または十二支(じゅうにし)と呼んでいるんだよ」


 へぇ、面白い文化だな。

 十二年周期で干支……十二支か。

 …………………………………………はて? 十二支? …………じゅうにし?

 どこかで聞いた事があるような…………ないような?

 確かどこかのうるさいアイリーン先生が、そんな組織に入っていたような?

 いやいやいやいや……これだけ年月も離れてるし、響きが一緒でも意味が違うだろう。

 うん、そうだ。……きっとそうだ。

これにて第六章が幕となります。

まだ聖戦士編は続くので、章タイトルは追々考えます。

第七章も頑張って更新しますので、是非応援の程宜しくお願いします。


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