201 アズリーと薫
「さ、今日はポルコの坊やからの紹介だ。どんな相談だい?」
早速本題か。
「まぁ、言わなくてもわかってるけどね」
「実は《称号消去》の魔術を使えると聞いてここまで来ました――って、えっ?」
わかってるって言ってたな、今。
にやりとする薫に、俺はぞくりと悪寒を感じた。
しかし、この人の圧力、今まで感じてきたものとどこか違う気がする。
相手を飲み込むような重い魔力。殺気はないのに気を抜いたら殺されてしまいそうな空間。
んー……どこかで感じた事のある感覚。
はて? どこだったかな?
「手を見せてみなさい」
言われるがままに両手を正面に出す。
外ではポチとチャッピーがまだカコンカコン言っている。まぁポチに消したい称号はなかったし、外で大人しく待っていてくれるならそれはそれでいいんだけどな。
あれで大人しいというのかわからないが。
「なるほど……潤子が言ってた事は本当だったようだね」
「潤子……さん?」
「今ポルコの坊やとアンタの連れの坊やが会っている人間。私の姉さ」
そういう事か。
今二人が会ってるのは薫の姉の潤子。
…………はて?
「あの、その潤子さんが言ってた事……というのは?」
「アズリーさん、アンタこの時代の人間じゃあないね?」
薫は一瞬で俺の心臓を掴みにかかった。
「…………仰っている意味がわからないですね」
自分自身でも気付いた動揺の漏れは一瞬。
しかし、じろりと見る薫はどうやらその動揺を拾ってしまったらしい。
「嘘嘘嘘……アンタの中身は嘘が沢山詰まってる。今の内に吐き出しておかないと後で痛い目をみるよ」
俺の小さな溜め息に観念の色を見たのか、薫は今までの不敵な笑みから、自然と綻びるような笑みへと変えた。
うーむ、中々に強敵だな。
「薫さんが仰った通りです。俺と外にいるポチはこの時代にいるはずのない存在です」
「よろしい。正直な子は嫌いじゃないよ。……おや? アンタのその眼鏡、面白い仕掛けがしてあるね。私の眼と同じだ」
鑑定眼鏡の事もわかっている。
つまり薫の眼とは……――
「――魔眼」
「そう、私の魔眼はアズリーさん、アンタの眼鏡と同じ働きを持っている。これがどういう意味かわかるかい?」
「……俺が白状しなくても、称号からある程度の推察が出来た……と」
薫は再びにこりと笑った。
背筋を伸ばし、眼鏡を外して脇に置く。
すると、一瞬俯いた薫の左の眼は、顔が上がる頃には黒い瞳から白へと変色していた。
「まぁ今回の件は、潤子から聞いた事をアンタに聞いてみただけ……」
「潤子さんも魔眼を?」
「あの眼は特別だ。私なんか比にならない力を持っているよ」
魔眼を持つ姉妹……か。
うーむ、ポルコはその潤子の魔眼を頼りにここまで来たという事か。
一体、どんな能力なのだろうか?
「その内嫌でも知る事になる」
顔に全て書いてあるぞ、と。そんな目を俺に向ける薫。
「さぁ、視てみようか。質問はその後聞こうじゃないか」
そう快活に言った薫に、俺は不思議と安心感を抱いた。
なるほど、この人はガストンに似た空気を持っている。
あの爺さん、元気にしてるだろうか? 八十の半ばに迫っているというのに、あの人は死にそうにないからなぁ。
そういえば、リナたちもそろそろ魔法大学を卒業か。王都守護魔法兵団に行ったら、リナもオルネルも絞られるんだろうなぁ。
そんな今となっては懐かしい顔を思い浮かべていたら、白色の魔眼で俺の情報を視ていた薫が、額に不自然な量の汗を見せていた。
おや? どうしたんだい、薫さん?
爽やかな笑みを浮かべて顔を傾げた俺に、薫は表情を変えずに天井を見上げた。
何か、凄く嫌な予感がする。
いや、俺も正直なところアレは無理だろうと思っていたんだ。
「……私の手に余る称号が一つある」
「やっぱりありましたかぁ…………」
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アズリー
LV:172
HP:24115
MP:182887
EXP:231786693
特殊:攻撃魔法《極》・補助魔法《特》・回復魔法《特》・精製《特》・剛力・剛体・疾風・軽身・剛心
称号:悠久の愚者・偏りし者・仙人候補・大魔法士・特級錬金術師・杖聖・六法士(仮)・恩師・ランクS・首席・パパ・腑抜け・SS殺し・守護魔法兵(仮)・剛の者・疾き者・使い魔以下・古代種殺し・魔王(仮)・マッド・禁忌を犯せし者・千の魔を知る者・聖戦士(仮)・村の英雄・天獣の父
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「この《悠久の愚者》……アズリーさん、アンタという存在に定着してしまってる。歪んだ……いや、ここまできたら真っ直ぐ、だね。それ程の想いを、さて、誰から向けられたんだか……」
『カコン』
『カコン』
『『カコーン♪』』
俺の感情の揺らぎと、外から聞こえた声への反応に薫が気付く。
「そうかい。そういう事かい。足音からして犬と鳥か……アンタの使い魔かい?」
「狼なんですが……そちらが使い魔で……お恥ずかしい限りです」
「恥ずかしくなんかあるもんかい。こりゃあその狼がいなくならないと、とれないねぇ」
「やはりそうですか。けれど、それ以外は消去出来るという事でよろしいでしょうか?」
俺の言葉に薫はにこりとして頷いた。
なるほど、やはりポチからの熱ーい眼差しだったか。
ポチがいなくならなきゃ消えない称号。
なるほど、これは互いが死ぬまで付き合うしかないって事だな。
不老であるが故に、病気だけは気を付けている俺たちだが、いつ不治の病にかからないとも限らない。
戦闘以外でも、これからは気を付けなくちゃいけないな。
それから薫は、顔に汗を滲ませながら俺の称号を消去していった。
どうやら相当な集中力を要するようで、一つ称号を消す度に、その疲弊度は明らかになっていった。
「……ふぅ、これで最後だね」
「本当に、どうもありがとうございました。ほい、ギヴィンマジック」
薫の足下に広がったギヴィンマジック。
「魔力は大して使っちゃいないが……いい男だね、気に入ったよ」
あぁ、そうか。
ならこっちかな? 俺は懐にあったポチビタンデッドを手渡した。
再び作ったポチビタンデッドは、今ストアルームに大量保管されている。
ちょっとやそっとの事ではなくならないだろうし、世話になった薫のためだ。少しも惜しくない。
「何だい、これは?」
「ささ、どうぞグビっとっ」
小瓶の蓋をきゅぽんと開け、薫は俺の言われるがままにポチビタンデッドを飲み干す。
「うん、美味しいじゃ……――っ!」
身体の、体調の変化に気付いた薫は、言葉を失ったように俺を見た。
「……そうかい、この世の理すらも捻じ曲げる程の強い執念。見事なものだね。ありがとう。とても美味しかった」
ホッと息を吐いた薫は、どこが嬉しげな様子だった。
今回称号消しをしてもらったのは五つ。
『偏りし者』、『腑抜け』、『マッド』、『禁忌を犯せし者』、『使い魔以下』だ。
後者四つは完全にマイナス効果のある称号だった。特にポチが付けた『使い魔以下』。
百一さん百一さんと呼ばれ続け、べったりとこびりついていたらしく、これを消去した時の薫の顔は疲労感でいっぱいだった。
そして長く共にした『偏りし者』。
これはHPとMPのバランスを変化させる働きがあったらしく、消去してもそのバランスが元に戻るというだけだった。具体的には称号がある状態ではHPがかなり減ってMPがかなり増える。逆にない状態だと、HPとMPが元に戻るだけ。
HPの量を危惧していた事もあったので、今回無理を言って消してもらったのだ。
これらを消去した事によって、俺は身体に少しの軽さを感じた。
どうやら、戦力アップという面では顕著に効果が表れたらしい。
……ん、この気配は?
「さて、お話しをしようじゃないか。……入っておいで」
「あふん!」
「いちゃい!」
薫の鋭い言葉と同時に、ポチとチャッピーが戸から倒れ込むように侵入してきた。
やっぱり聞き耳立ててやがったか、あの二人。
案内をした丁髷の男はきっと入口まで戻ったんだろうな。
無造作に埃を払った二人が、綺麗チェックを互いにしている。
そしてそろりと俺に近付き、背後に隠れるようにして座った。
そうか、ちょっと怖いのか。
俺の背から鼻先だけ出したポチ、そして嘴だけ出したチャッピー。
「ポチです!」
「チャッピーだ!」
そうか、俺たちの話を聞いていたか。
因みにチャッピーは、俺たちの名前が偽名だという事を知っている。
使い分けが出来ないから呼称は変えてないけどな。
すんと鼻息を吐いた薫は、再び顔を綻ばせた。
「薫よ」
さぁ、いよいよ聞こうじゃないか。
俺たちの秘密を知る、その理由を。
明日のニコ生、時間があれば宜しくお願いします!




