200 称号消しの巫女
「ほぉ、やはりトウエッド。見事なものだね、ポーア君?」
窓の外をちらりと見て、ニヤリと視線を向けるポルコの視線をかわす俺。
何故ならこの人は今「便利だね、教えてよ」と、そんな視線を送っているからだ。
ジュンが炎龍騒動の時クッグ村に現れてしまった時、どうにか箝口令を敷いてもらおうと思いポルコに相談したら、まさか「空間転移魔法の事を黙っておく代わりに空間転移魔法を使わせてくれ」と交渉されるとは思わなかった。
「あ、ありがとうございます……」
視線をそらしながら返事をする俺。
この一年でやたら気軽に話しかけてくれるようになったのは有難いし、嬉しい事なんだろうが、流石穏健派のトップ。属する派閥とは真逆の行動力と意欲を感じる。
そもそも国の重鎮だしな。
「ポルコ様、お久しぶりです」
「久しぶりだねブライト殿。ほぉ、よく似合っているねぇ? これはポーア君の仕事かな?」
ちらりと俺を見るポルコ。
「えぇ、関所に奴らがいまして、これからの事を考えると、ブライト様だけはこちらの衣服の方が良いと思い、お願いしました」
「この様子だと、関所を通る事が出来たみたいだね。さて、どんな方法で切り抜けたのかな?」
赤くなるブライト少年は放っておくが、質問攻めにされるのは中々にきつい。
俺は話題を変えるために思い出したように聞いてみた。
「そ、そういえばポルコ様はこちらへどのような用件でいらっしゃったのですか? 言われるがままにクッグとエッドを繋ぎましたが、その詳細を聞いていなかったので……その、気になりました」
「そうか。ふふふふ、では逃がしてあげよう」
まったく、茶目っ気のあるおじ様だこと。
「とある人に会いに来た……とだけ言っておこう」
ふむ、この段階でもあまり声を大にして言えないという訳か。
そういった訳なら仕方ない。これ以上の詮索はやめてお――
「では、行こうか」
連れて行くのかよ。
ポルコに追従する事が半強制的に決まり、俺たちは宿に着いて早々にそこを離れた。
普段あまりポルコに接する機会の少ないブライト少年は、どうも緊張気味だ。
ポチがそれを気になったのか、後ろを歩く俺に小声で聞いてくる。
「ブライトさん、一体どうしたんです?」
「んー、おそらく偉い人の前で萎縮しているだけだろう。フルブライド家に粗相があったらジュンさんの立場に響くしな。家を背負ってるとどうしても強張ってしまうしな」
「ふーん、そんなもんですかねー」
「それもあります」
おっと、聞こえてしまったか。
ブライト少年が、速度を落として俺たちの近くへ寄って来た。
「と言うと?」
「あのお方は、神聖国で知られる最強の魔法士です。その……昔から尊敬しているのです」
なるほど、尊敬している人と一緒ならば緊張しても仕方ないか。
しかし神聖国で最強の魔法士か。確かに実力は高いと思うし、あのリーリアも認めていたしな。
人間の中では最強……なのかもしれないな。
この時代の魔法士と言えば大多数がエルフに当たる。
そもそも人間の魔法士自体が珍しいのだ。魔法の資料そのものが少ないし、教える人間も少ない。
前にジョルノが言っていた「魔法はエルフに任せておけばいい」という理由にはならないが、物も人も不足している。その結論に至ってしまうのは、当然なのかもしれないな。
神聖国で最強としているのも、そういう事なんだろう。
どう見ても、エルフという別の種族よりも人間の方が優秀であると権威を振りかざしているようにしか見えないからな。
おそらくポルコ自身もそれがわかっているんだろうな。
エルフという存在自体を詳しく知らないブライト少年には、今度そういったところも教えていかないといけないかもしれない。
まぁそれには、俺もエルフの事をよく知らなくちゃいけないのだが、やはり数が少ないのかこの世界に来てからまだ会えていない。
絶望の使徒の人間変異を見破れる心眼使い。おそらくブルネアにもいたのだろうけどな。
「おっ、見えたね、あそこだよ」
急な坂を何度か上り、無数の階段を上がり見えたのは、石畳と緑の広場。
その中には整備された十字路が見えた。
十字路の中央までやってくると、ポルコは右を指差した。
「ポーア君、右へ進むと巫女に会える。そこであの紹介状を見せるといい」
出発の際、ポルコにもらった羊皮紙。
あれはポルコ・アダムス直筆の称号消しの巫女への紹介状という訳だ。
そうか、ポルコもここへ用があったのか。
しかしポルコの称号に悪いものはなかったはずだが? はて?
「私とブライト君はあっちだ」
ポルコはそう言ってブライト少年の肩を抱き、正面を指差した。
正面には大きな聖堂……確かトウエッドでは寺というらしいが、右の道は緑が多い並木で包まれている。
なるほど、別の用がここにあるという訳か。
ブライトの同伴が許されたのであれば、おそらく神聖国の事だろう。
俺たちは俺たちで、貴族は貴族で……って事か。
来た道は後ろにあるが、左の道には何があるのだろう?
まぁ正面のポルコたちが向かう先も何かはわからないけどね。
「ではポーア君、シロ君、チャッピー君、いい結果になる事を願っているよ。終わったらあの宿に集合しよう」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます、ポルコ様。それでは……」
ポルコとブライト少年は正面へ、俺たち三人は右の道を真っ直ぐ二百メートル程進んだ。
すると突き当りになり、更に左へ五十メートル程歩くと、小さな洞窟があった。
ふむ、どうやら人工の洞窟のようだ。
中は補強されているし、石畳も続いている。
壁の切り込みにある松明が刺され、燃えている。等間隔にあるそれらを横切りそのまま進むと、一人の男が立っていた。
おぉ、丁髷だ。
ポチとチャッピーも武骨そうな彼の頭だけを凝視し、「お~」と呟いている。
「何用かね?」
「ポルコ・アダムス様の紹介で伺いました。ポーア、シロ、チャッピーです」
そう言って、俺は紹介状を丁髷の男に渡した。
封蝋を解き、するりと開いて中身を確認した男は、羊皮紙を再び丸めて一礼をした。
「失礼した。ポーア殿、こちらへ」
男に連れられ、更に奥へと進むと、洞窟の中の大きな空間へ出た。
するとポチが何かに興味を示し、俺のマントを引っ張った。
「マスターマスター、あれ、何ですか?」
ポチの前脚が差したのは、洞窟の外から引いているであろう水路近くの竹だった。
ふむ、切断した竹に水が注ぎ込まれている。しかし、あれはどういう意味があるのだろう?
すると、溜まった水を吐き出しながら竹が耳通りのいい音を発した。
その音に、耳をピンと立てたポチ。チャッピーは目を丸くしていた。
「カコーン! カコーンって鳴りましたよ!」
「カコーン! 父上、あれは一体!?」
「知らないです」
そんな俺たちのやりとりを見た丁髷の男が言う。
「あれは鹿威しという動物除けです」
「こんな所に動物が?」
洞窟とはいえ首都の中だ。流石にあり得ないのでは?
「巫女様が鹿威しの音を好まれているからだ。巫女様は中々ここを離れる事が出来ぬ故、ここに設置したのだ」
なるほど、確かに人が聞けばとても落ち着く音だ。
寝る時は、重石か何かで固定しておくのだろうか?
「今ご案内するので、こちらで待たれよ」
「わかりました」
しかし、動物除けのはずの鹿威しを、うちの鳥二人が気に入ってしまったようだ。
「カコン!」
「カコン!」
「「カコーン!」」
楽しそうだなこいつら。
小屋の前で待たされた俺は、幸せそうな二人を眺めながら、丁髷の男の戻りを待った。
そして扉が開き、丁髷の男の言われるがままに中へ足を踏み入れた時、異変に気付く。
やたらと濃い魔力。俺程ではないが、この世界に来て一番強く感じる。
なるほど、巫女というのは伊達じゃないようだ。
「そう、伊達じゃない」
「っ!?」
……心を、読まれたっ?
小屋一間の中央に座する女が、低く鋭い声で俺の心臓を握った。
「何をしてるんだい。戸を閉めてここに座りな」
白い服を纏った女は、かなり小柄な眼鏡を掛けた人間だった。
見たところ中年……か?
土足はまずい……みたいだな。
俺は靴を脱いで、その女性の前の座布団の上に腰を下ろした。
「ほぉ?」
俯いたまま女性が呟く。
「名前は?」
「あ、ポーアと――」
「違うね?」
なるほど、初めて会ったな、誤魔化しのきかない相手に……。
「失礼しました、俺の名はアズリー。失礼ですがお名前を伺っても?」
「へぇ」
ようやく顔を上げた女性は、俺を見透かすように見つめた。
「巫女様、巫女様と呼ばれて長いけど、名を聞いてくる輩も久しぶりだ。私は薫っていうんだ。……宜しくね、アズリーさん」
俺はこの時、戦闘中でもないのに、とびきり冷たい汗を背中に感じた。
トウエッドに住む称号消しの巫女、薫。
……一体何者なんだ?
ようやく200話まで辿り着きました。
ここまで頑張れたのも皆様のおかげです。
いつも本当にありがとうございます!
『CM』
①【ニコ生出演】
2017年1月13日金曜日19時より
【第8回】アーススターニコ生【コミック・ノベル・タレント】 に、
書籍発売の宣伝という名目の下、壱弐参が出演します。
ちょっとした催しもあったり、発表もあったりするので、是非観て、コメントなどして頂けるとありがたいです。
②【CM完成】
あ、それとYoutubeにアース・スターノベルの一月刊CMが公開されました。
ありがたい事に、今回はアズリー主体のCMでございます。
Youtube内で「アース・スターノベル」とか、「アース・スターノベル 2017年1月期CM」と検索して頂ければと思います。
※URLを1月11日の活動報告に記載しておきます。




