019 スウィフトマジック
入学早々問題を起こしたのは俺だろうか、それともアイリーンだろうか。
俺はポチと共に、オルネル達の後に続いて魔育館に向けて歩いていた。
少し離れて歩くリナは、何故か嬉しそうだ。リナの後ろにはクラリスとアンリが付き添っている。俺を心配するような声がリナ達の方から聞こえてくるが、リナの声は確認出来なかった。
大方クラリスとアンリが話しているのだろう。
魔育館では、魔力の回復を図りながら椅子に腰掛けるアイリーンと、その後ろに並ぶようにクラスメイト達が床に座している。
「遅かったわね、アズリー」
「……帰っていいって言ったじゃないですか」
「まさかあの方法を使うとは思わなくてね。魔力の枯渇なんてホント久しぶりだったわ」
「まったく……」
俺は鑑定眼鏡を発動させ、アイリーンのステータスを調べた。
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アイリーン
LV:100
HP:1612
MP:249
EXP:9999999
特殊:攻撃魔法《特》・補助魔法《特》・回復魔法《特》・精製《上》
称号:魔法大学卒・ランクS・六法士・常成無敗・大魔法士・教師・ひねくれ者・杖士
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改めて見ても凄い能力だ。まともに戦ったのであれば太刀打ち出来ないだろう。
魔術があると言っても、根本の性能の差で簡単に覆されてしまう。
俺が考案した魔法なんかは、何故か特殊項目に表示されない。魔術に関してもそうだ。おそらく鑑定の魔法自体がそれらに対応していない可能性がある。
因みに、魔法力の回復力は、魔法力の大小で変わってくる。並の魔法士であれば一分に五程回復するだろう。あれから十五分程経っているからアイリーンの回復力は流石だと言える。
「ほいのほい、ギヴィンマジック」
俺は、アイリーンの椅子の下に魔法陣を描き、発動させた。魔法陣からは淡い緑色の光が発し、椅子ごとアイリーンを包みこんだ。
「へぇ、やっぱり知ってるのね、持続型魔力回復促進魔法。……これから戦うのに魔力を使っちゃっていいのかしら?」
「戦闘を了承した覚えはないんですが……」
「あの子達と簡単な約束を取り付けたわ」
「約束……?」
「アズリーが勝ったら、今後アズリーに対して舐めた口を利かないってね。ま、負けた時は好きにしなさいって言ったわ」
勝手な約束、だとも思ったが、これをクリアすれば今後面倒はないという事だ。いや、多少はあるだろうが、ある程度はこの約束の効力を期待出来る。ならば受けない手はない……か。
「幸いあいつらはアズリーとリナを除けば、入学試験の上位三名よ」
「何が幸いしてるのやら……」
「それをクラスの連中に話しておいたわ。だからその効力がクラス中にも活きると思ったのよ」
「……俺の現状を知ってたって事ですね」
アイリーンがニヤリと口尻を上げる。
「トレースから聞いてるわ。なんでもあいつらを雑魚呼ばわりしたそうね? 雑魚なんだったら倒してらっしゃい」
「気は進みませんが、約束とやらに魅力を感じるので少し戦って来ます」
「ふふふ、楽しみだわ……」
妖しい笑みを浮かべたアイリーンを背に、俺はオルネル達の前に立った。
ポチが隣にちょこんと座るが、俺はポチの参加を手で止めた。
「お一人でやる気ですか?」
「そっちの方が効果的だからな」
「残念、見せ場だと思ったんですけどねー」
ポチは耳を折りたたみながらしょんぼりとした。俺はその頭を一撫でしてから数歩前で出た。
どうやら魔育館特有の設置型魔法陣により、アイリーンより後ろの人間や壁等へ危害が及ばないように、特殊な障壁が形成されているようだ。効果は薄いみたいだが、講義で使う分には充分だろう。
「さあ、誰とやるよ?」
「僕達の中から選ぶといい!」
「もっとも、全ての奴とやってもらうよ、戦闘終了後に回復魔法を――」
「面倒なので一度に全員とやりましょう」
三人が目を丸くして驚く。
俺の後ろでは、アイリーンの笑いを堪える声が聞こえ、それを掻き消す程のポチの大笑いが聞こえてくる。
「て、てめぇ……」
「私達を舐め――」
「能書きはいいのでさっさと来てください」
イデアの唇がふるふると震え、奥歯を噛みしめているのが見える。なるほど、彼女は挑発に弱いと見える。
「後悔……すんじゃねぇぞぉおお!」
ミドルスが杖を握り駆け寄ってくる。
近接戦闘型の魔法士……テンガロンみたいな戦士上がりかもしれないな。
後方ではイデアが魔法陣を描き始めている。
オルネルは、黙って立ってるような状態だな。一人でやるつもりか? プライドが高そうな人間がやりそうな事だ。
「うりゃっ!」
近づいたミドルスの杖を振りまわし俺を狙う。杖の速度が速い? 杖自体に風魔法を仕込んでスウィフトマジックを使っているのか。これは勉強になる。
「ほい、ほい……ほい!」
「うりゃ……くっ、はぁっ!」
「ほい、ファイア」
俺はミドルスの攻撃をかわしながらスウィフトマジックを使い、イデアの魔法陣をファイアで攻撃した。
イデアの杖にはスウィフトマジックが対応してないのだろうか? いや、エンブレムがあるという事は対応している可能性が高い。補助系や回復系を入れてるのかもしれない。
「くそ、もう一度よっ!」
イデアが破壊された魔法陣を振り払い、今一度魔法陣を描き始める。
「バーストッ!」
「な、くっ!」
杖と杖がぶつかり合う大きな音。ミドルスの杖から小さい破裂音がして、一瞬で加速した!?
……ギリギリで受けたが、少し腕が痺れるな。瞬間加速魔法か。こんな杖に仕込む事が出来れば確かにこんな使い方も出来るか。
「ちっ、受けられたかっ」
完全近接型の魔法士も珍しいな。杖術も様になっているし、戦いづらい。
「くらえ! ファイアアロー!」
「ファイア」
俺のファイアが数本の炎の矢、ファイアアローを包み込み互いを消滅させた。
先程の衝撃の反動がかなり残っているが、まあ動くだろう。
「ばかな、貫通力の高いファイアアローで何故相殺されるのよっ?」
「ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイア、ファイア」
「なっ、きゃあぁっ!」
俺が放ったファイアの弾幕がイデアを襲い、彼女を戦闘不能へと追い込んだ。
一瞬にして燃えあがるイデアの体に、アイリーンが回復魔法を放つ。同時に俺もファイアをリモートコントロールしてイデアの体から炎を取り除いた。
白い光に包まれたイデアの体から炎が消え、イデアはその場に倒れ込んだ。
「ま、マジかよ……スウィフトマジックにしても早すぎる……それに速ぇ……」
「ポチ、イデアさんを救出」
「アウッ!」
「アズリー、そんなファイアは授業で教えてないはずだけど?」
ポチがイデアを回収している間に、後方からアイリーンの声が聞こえる。
そう、俺がスターロッドに組み込んだ魔法はファイアであってファイアじゃない。
《ファイア》、《速射向上》、《速度向上》……この一つの魔法と、二つの簡易魔術を描いた魔法陣を組み込んだんだ。
魔法と魔術の複合魔法なんて、実際に扱う事は出来ないが、魔法陣を描くだけなら可能だ。これをスターロッドに組み込んでしまえば、理論上可能だと思っていた。そしてそれは、モンスター討伐で恐ろしい程の効果を発揮した。
一緒に討伐に行ってる時はひた隠ししていたから、アイリーンにも本日初披露となるだろう。
「内緒です。テンションアップ……ふっ!」
「なっ……がっ!?」
もう一つのスウィフトマジック……《テンションアップ》、《速度向上》、《活力向上》の複合魔法陣。
身体能力向上の魔法と魔術で、常人以上の動きを可能にした魔法だ。
虚と速度を利用し、杖での重い一打をミドルスの腹部へ加えた。倒れ込むミドルスに、アイリーンは回復魔法を発動した。
「もう、そんなテンションアップ見た事ないわよっ!」
「なんで怒ってるんですか……」
「……ったく、オルネル、どうするの?」
「…………」
オルネルから反応がない。
「オルネルっ!」
アイリーンが無視されたと思ったのか、少し語気を強めて言う。
「……………………」
腕を組みながら立っているオルネルを訝しみ、俺は首を傾げながらオルネルに近づいた。
「…………」
「なあオルネル……?」
「どうしたのよ?」
アイリーンが後方から近付いて来る。俺の隣にアイリーンが来た頃、俺は気付いた。
「これは……失神してますね」
別作の書籍化作業があるので、少し更新頻度下がるかもしれません。




