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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第一章 ~魔法大学編~

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018 性格が悪い対決

 アイリーンが放った言葉で、ギロリという視線達が俺を刺す。
 特に強い熱視線を放つのはオルネル、ミドルス、イデアの三人。全て黒の派閥の人間だが、白の人間が睨んでいないという訳でもない。
 アイリーンは俺だけを名前で呼んだ。これは他の皆との明らかな差別だろう。
 何故アイリーンは俺を贔屓にしたのだろう? 入学早々に特別な差を付けては、自身の授業の妨げになるのでは?
 俺の困った顔を見るにやけ面……なるほど、日頃の復讐か。まあ、この程度なら可愛いものだ。

「このアズリーは入学試験当日、リナともオルネルとも違う解答を出したわ。もちろん、その二人はその日に答えは出せなかったけどね。オルネル、あの方法以外で答えを出せと言われたら、あなたに出来るかしら? 口頭で構わないから答えてみなさい」

 なんて性格の悪い教師だろう。全体の士気を落としにかかってる。
 これは何か狙いがあるのか? 軍隊式だと考えるならば、一度打ちのめしてから、改めて叩き直すという手法があるが、そういう事なのだろうか?
 勿論、オルネルは答えられない。試験当日に攻略出来なくて、帰って必死で攻略法を考えたのだろう。プライドは高そうだし、少し憐れになってきた。
 アイリーンの視線がリナに向く。

「リナはどうかしら?」
「……えっと、口頭でいいなら……」
「言ってみなさい。勿論、あなたに可能でないと駄目よ?」

 リナは一度こくりと頷く。

「……えーっと、リジェネーションを使い、ファイアに身を投じますっ」

 流石俺の生徒だ。俺がさっき考えた《試そうと思う者はいない》をここで出したか。考え方まで似て来てるかもしれない。
 可能ではあるが、やる気にはなれない……そんな方法だ。

「面白い発想ね。しかし、そういう発想が出来なければ戦場では死ぬわよ。肝に銘じておきなさい」

 そういう事か、アイリーンはこれを伝えたかった、という事だな。

「さあアズリー、特別課題よ。これ等の方法以外で消してみなさい」

 やっぱり違った、なんて性格の悪い教師だろう。
 これは少し仕返しをしてやりたいな。何かないか……何か……何もないか? ……あ。

「少し時間を頂きますが?」
「勿論、構わないわ」

 どんと胸を張ったアイリーンは、意気揚々とファイアを出現させた。

「ポチ、おいで」
「はい! …………ま、まさか、私にリジェネーションをかける気ですか!?」
「それも面白いな」
「ごめんですよ!」
「まあ冗談だ、ちょっとこっちに来てくれ」

 俺とポチは魔育館の端まで歩いて来た。
 杖を使い床に魔法陣を描き始める。

「マスター、これ何の魔法陣なんです?」
「あの面倒な六法士を困らせる魔法陣だ」
「んー、見た事ない魔法陣ですねー?」

 ポチが首を傾げて考える。
 俺とポチは別の場所に移動し、俺はまた同じ魔法陣を描き始める。

「設置型魔法陣……いや、二つって事は設置型の複合魔法ですかね?」
「アズリー、まだなのかしらっ?」
「えぇ、もう少しですー」

 学生達の喧騒が目立ち始める。おそらくどうやって消すのか思考を巡らせているのだろう。
 アイリーンはイライラし始めている。腕を組みながら指で腕をトントンと叩いてるのが見て取れる。
 俺はポチとまた別の場所に移動し、魔法陣を描く。
 周囲の喧騒が野次に変わり、アイリーンの指が腕を叩く速度も加速していく。

「んー、今回はどんな魔法なのか私には読めません。そろそろ教えて下さいよ、マスター!」
「この魔法陣な、実はただの落書きなんだよ」
「へ?」
「アズリー、いい加減にしなさい!」

 計七か所に同じ魔法陣をゆっくりと描いただろうか……俺はアイリーンの怒声に呼び戻され、魔育館の中央に戻った。

「いい加減にしろアズリー、見苦しいぞ!」
「そうだ、出来ねぇなら出来ねぇって言いやがれ!」
「私だって暇じゃないんだよ!」

 オルネル、ミドルス、イデアが俺に食って掛かる。
 この三人が大体言ってくれたからか、アイリーンは平静を取り戻し始めた。

「さあ、いい加減見せてくれないかしら?」
「後……三十秒で消えます」

「「なっ!?」」

 オルネル達が驚き、周りの学生達は、俺が描いた魔法陣を見に駆け出す。

「これは……何の公式だ?」
「水の公式に似てるけど……違うわね?」
「ここに何か書いてある……『ポチの……バーカ』っ?」

 クラスメイト達の分析が進む中、時間は残り十秒を切っていた。
 リナやオルネル達がファイアを見つめる中、俺のカウントダウンが始まる。

「……八、七、六、五、四、三、二、一……零」

 俺のカウントダウン終了の言葉と共に、火はゆっくりと(しぼ)むように消えていった。
 しん、と静まる魔育館の中に一人、息を切らす声が聞こえる。
 その人物とは……アイリーンその人だった。

「はぁ……はぁ……アズリー……あなた性格悪いわよっ……はぁはぁ」

 クラスメイトの誰一人としてこのカラクリに気付く者はいなかった。
 オルネル、ミドルス、イデアは開いた口が塞がらないという様子だ。
 ポチやリナでさえ目を丸くして驚いている。

「ポチ、帰るぞー」
「……え、あ、はい!」

 肩で息をするアイリーンを背に、俺とポチは出口へと向かい歩き始める。
 性格が悪い対決に勝利した俺は、アイリーンが言った通り、《終わった者から帰っていい》を実行に移し、教室へ戻った。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「アハハハハッ、ただの魔力枯渇でしたかー! それはしてやったりですねー!」
「そ、あの時、鑑定眼鏡を使ってカウントダウンをしただけだよ。簡単なカラクリなのに皆は気付かない。何故なら相手は六法士、魔力が枯渇する六法士なんて、現実に見ても信じられないだろうな。ファイアといえど、空中制御は魔力消費が激しい。アイリーンだけが途中……いや、最後の方で気付いたんだろうな。気を付けてなきゃ、ギリギリにならないと魔力の枯渇って気付けないからな」

 俺とポチは二人しかいない教室で先程の話をしていた。
 他のクラスメイト達は、おそらくまだ魔育館にいるだろう。と思っていたところで、教室の引き戸が大きな音を立てて開いた。

「はぁ……はぁ……アズリ、さん……」

 余程急いで来たのか、肩で息をし、膝に手を突いて俺の名前を読んだのは、我が優秀な生徒、リナだった。

「……はぁはぁ……はぁ…………ふぅ」

 胸に手を当て、呼吸を整えているリナ。背中に手を回し、引き戸をカタンと閉めた。
 呼吸が落ち着いたのかゆっくりと階段を上がってくる。そして、俺の机の前まで来ると、

「ま、魔力の枯渇ですねっ?」
「ん、正解っ」
「やったぁっ♪」
「おー、お見事ですー!」

 リナが可愛く拳を握り喜びをアピールした。ポチは肉球をぷにぷにと叩き合わせ、人間で言う拍手をしている。

「あははは、やっぱりアズリーさんは……先生は凄いですっ」
「あれは別に褒められるものじゃないだろう?」
「それでもです!」

 リナの理屈の通らない熱意が詰め寄ってくる。柔軟な発想、という部分では勉強してくれたかな?

「でもマスター、ポチのバーカはいただけませんよ!」
「落書きならあれは定番だろう」
「あー、それなら私も今度書いちゃいますからねっ!」
「ご自由に」

 そう言うとポチは爪を使い、ガリガリとし始めた。

「だー、ここはダメだここは!」
「あ、マスター、今の自然な突っ込みで良いですねー!」
「ぷっ、あはははは!」

 リナの笑い声が教室に響く。目尻に涙まで見える。本当に泣き虫だが、こういった所も中々に可愛い。
 不思議と俺にも笑みが零れ、いつかのように笑い合っていた。
 すると、けたたましい音が教室を支配した。

 オルネル、ミドルス、イデアが次々と入室し、教壇の前を陣取った。そして俺を見上げるかたちとなった。

「勝負だアズリー!」
「我々はお前の実力が納得出来ねぇ!」
「アイリーン様に許可は取った、これから魔育館で私達と戦ってもらうわ!」
「あっちゃー、熱い展開ですねー」

 ポチがおでこに前足を当てて呟く。
 どうやら性格が悪い対決に敗北したのは……俺だった。
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