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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第一章 ~魔法大学編~

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020 学生自治会

 なんだこの新入生代表は……。なんで何もしてないのに失神するかなぁ……。

「そしてなんで俺が運ばにゃならんのだ!」
「はいマスター、あんよが上手! あんよが上手!」
「俺のあんよは達人の域にあるんだよ! てか、いいから手伝えよ!」
「魔育館ならともかく、救護室への運搬は巨大化したら無理ですよー」

 にゃろう。
 俺は戦闘と呼べないような戦闘を終えた後、オルネルを背負いながら、東棟にある救護室へ向かっていた。共にはポチ、それに、

「ねえ、そろそろさっきのファイアについて教えなさいよ!」
「ちょっと特殊なファイアです。以上!」
「なによケチ! それにさっきのギヴィンマジックだって物凄い回復力よ、せめて公式だけでも教えなさい!」
「見て盗めば良いじゃないですか?」
「あんな一瞬で覚えられる訳ないでしょ!」

 アイリーン様がご同行している。
 なんとも(やかま)しい小娘だな。やはりあまり目立つべきではないが……こうなってしまった以上は仕方ないか。
 謎の多い男として大学にいよう。ふっ、これでまた一歩、賢者へ近づいたはずだ。

「まーた変な事考えてますねー?」
「そうね、たまに見かける顔だけど、こういう顔をしてる時は大体馬鹿な事を考えているわね」
「君達には俺の崇高な考えはわからないのだよ……っと、ここが救護室ですか?」
「ふん、プレートを見ればわかるでしょっ」

 確かに、引き戸上部にあるプレート書かれた救護室の文字。
 アイリーンが扉を開けると、そこには白衣を着た老人が椅子に座りながらお茶を飲んでいた。

「お邪魔するわよ、ビリー」

 ビリーと呼ばれた男は、体の向きを変え、アイリーンの声に反応した。
 小さな丸眼鏡、額の皺が目立ち、自然に白くなったであろう長い髪を襟足部分で縛っている。

「なんだ、アイリーンか。ついに実技で、学生を殺してしまったのかね?」
「ふん、その前にあなたを殺してあげるわよ。アズリー、この爺はビリー、この大学……いえ、この国の回復魔法の権威よ」
「アズリーです。実技の授業中……おそらく戦闘の恐怖から、失神したオルネル君を運んで来ました」
「戦闘? まだそんな時期じゃないだろう? ……どういう事だアイリーン?」

 ビリーが低いだみ声と鋭い目付きでアイリーンを睨む。
 そのアイリーンは腕を組みながらそっぽを向いている。

「私闘みたいなものですよ。アイリーンさんはそれを許可しただけです」
「……ふむ、まあ、死ななければいい。そこのベッドに患者を下ろしなさい」
「はい」
「む……この犬……いや狼か? この子は君の使い魔かね?」
「ポチと言います。救護室なので、中へは入らないように言ってあります」

 俺がベッドにオルネルを下ろしている時、ビリーは開いたままの引き戸の外にポチを発見し、眼鏡を調整しつつじっと見ていた。
 ポチは、初対面でずっと見られているのが恥ずかしいのか、前足で両目を覆った。

「……あの、何ですか?」

 前足の隙間からビリーを見てポチが尋ねる。

「むう…………可愛いな」

 一応雌だからな。

「ビリーは無類の動物好きなのよ」
「さあ、入りなさい」
「あ、はい……」
「ほお……君、アズリー君と言ったかね?」
「はい」
「君は良いマスターだな、これほど躾けられている使い魔は珍しい。たとえ犬族と言えど中々出来る事ではない」

 はて、俺はポチを躾けた事があっただろうか?

「えぇ、私がマスターを躾けましたから!」
「そういうのは黙って受け取っとくもんなんだよっ」
「はい、しっかり躾けられました!」
「もう遅ぇよ!」
「ふははははは、なるほど、友情か。ならば納得だ。……ポチ君、暇な時はここに遊びに来なさい。お菓子でも用意しておこう」

 ビリーはポチの目の高さまで腰を落としてそう言った。
 なるほど、本当に動物が好きなんだな。

「はーい」
「うむ、よろしい」
「あの……」
「む、何だね?」

 回復魔法の権威……頼んでみる価値はある。

「俺は回復魔法がかなり苦手なんです。よければ後日ご教授頂けないでしょうか?」
「私の授業もなくはないが……ふむ、構わないだろう」
「ちょっと、ビリーは黒の派閥よっ? 回復魔法くらい私が教えてあげるわよ!」

 アイリーンが割り込んでくる。

「そうか、君は白の派閥だったか」
「そういった弊害を気になさるのであれば俺も控えますが、難しいでしょうか?」
「いや、構わないよ。一年生で私にそこまで言ったのは君が初めてだよ。なるほど、面白い若者が入って来たなアイリーン?」
「……あげないからねっ!」

 いつ俺の所有権を得たんだね君は?

 俺は救護室の引き戸を閉めると、自室に戻ろうとした。しかし、アイリーンにマントを掴まれてしまった。

「……何ですか?」
「学生で私を前にそこまで嫌そうな顔を出来るのは、アズリーだけよ? 今日はもうギルドに行くくらいしか予定はないんでしょ? 少し私に付き合いなさい。ほら、行くわよ」

 俺の返答を待たない内に、アイリーンは俺を引っ張って歩き出した。
 そしてポチは逃げ出した。どうやらあいつもアイリーンが苦手のようだ。

「暇になりました、お菓子ください!」

 おい、まだ救護室出て一分も経ってないぞ!?
 ポチは救護室の引き戸の中に入り、扉から前足を一本だけ出して俺に向かって振った。……裏切り者め。

 俺は引きずられるように東棟の二階まで連れて来られた。因みに救護室は一階だ。

「ここは……学生自治会室?」
「そう、私はここの顧問なのよっ」

 毎回威張るが、疲れないのだろうか?
 六法士ってのは、もしかしたら癖の強い人間の事を指すのかもしれない。

「ソウナンデスカー」
「もう、本当生意気なんだからっ、いいから入りなさい!」

 アイリーンは引き戸を開け、押し込めるように俺を学生自治会室へ入れた。
 そして、当然のように中央奥に座る黒衣の人物。学生自治会会長のウォレン。眼鏡がキラリと光り、椅子に寄り掛かる姿が若くして(さま)になっている。

「おや、アイリーン様……それに……アズリー君ですね?」
「初めまして、挨拶した事は無かったはずですけど?」
「ドラガン様の弟子、エッグ君の命を救い、この大学の首席合格者。そして、バラッドドラゴンを倒す人間を……私が知らないとでも?」
「ちょっと、ドラガンから話は聞いてたけど、バラッドドラゴンの事は初耳よ!? あなたあれを倒したのっ?」

 俺の体を、まるで物を扱うかのように揺するアイリーン。

「倒しに行ったら既に死んでたんですよ。収集品だけ回収して戻っただけですよ」
「ほぉ、そうでしたか。まあ、あれは私も偶然素材屋の近くで君を見かけただけですからね。情報に不備があったみたいです……が、倒しに行ける実力を持ってると解釈しますよ?」

 なるほど、かなり突っ込んでくるな。アイリーンとは違う意味で苦手なタイプだ。
 俺もお菓子食べたくなってきた……。

「…………」
「沈黙は是と取りますが、宜しいですか?」
「……驚きだわ。ランクAのモンスターを倒せるだけの実力があるなんてね。……いや、けどレベル百の使い魔がいれば、あるいは……?」
「何せ犬族ですからね、ある程度能力が低い事を考えても、あれを使えば何とか倒せるのでしょう」

 嫌な言い方をしてくる奴だ。
 確かに使い魔は使い魔だが、友人を「あれ」と言われるのは中々に癪だ。だがしかし、相手はまだ子供、大人になって冷静に対応しなくては。

「……で、ここに連れて来て何の用ですか、アイリーンさん?」
「あぁ、その事だけどね……アズリー、学生自治会に入らない?」
「いえ、結構です。では」

 俺は手を前に出しきっぱりと断った。瞬間、ウォレンが手を叩き空間を支配した。

「話を聞いてからでも遅くはないでしょう、アズリー君」
「聞いても俺の意見は変わりませんよ」
「きっと良いお返事が頂けるはずです」

 するとウォレンは、机の上にある巻物を開いて俺に見せて来た。

「っ、それは……」
「そう、あなたの契約書はアイリーン様が管理していますが、この契約書……《リナ》さんの契約書は私の管理下にあります。これが公になればリナさんは退学……という事になりますが、いかがなさいますか?」

 不敵な笑みを浮かべるウォレン。
 あの契約書は確かに俺が偽装した契約書。
 リナのだけは絶対にばれてはいけないと、レターエディットで編集し、その後、再度偽装(、、、、)した契約書だ……何故ばれた?

「何故わかったか……ですか。確かにあなたの契約書に関しては、甲の部が乙になっているだけでした。これは手作業で調べればすぐわかる事。あなたはそう思って自身を避雷針とした。しかし、リナさんの分は全くいじられた様子がなかった」

 そう、俺は編集後、文字を消し、その上から新しく文字を記入する魔法を使った。
 契約締結後の契約書の変更項目は意味をなさないが、変更するだけ(、、、、、、)ならば可能だ。

「それが災いしましたね。だからこそ私はこの契約書を徹底的に調べたのです。すると、どうです? 一流の魔法士でも難しいとされる魔力の痕跡を、綺麗さっぱり消していました。……完璧故見破られた。そういう事です。が、アズリー君には恐れ入りました。まさかこれだけの為に私が二日も時間をとられるとは……いや、素晴らしいの一言ですよ」

 予想通り、腹の中も真っ黒だな。

「……アイリーンさんは、何故俺を学生自治会に入れたいんですか?」
「研究対象は出来るだけ近い場所に置きたいだけよ」
「黒の派閥であるウォレンさんが、俺を入れたい理由は?」
「学生自治会は学生達の象徴たる存在です。だからこそその象徴はバランスがとれていないと駄目なのです。前四年生が卒業してから、この自治会のバランスが少し崩れてましてね」
「つまり、黒の派閥と白の派閥の人数が偏り始めている、と? 俺に声を掛けたという事は、白の派閥の人数が少ない……という事ですか」

 ウォレンが眼鏡をクイと上げ、微笑む。

「そういう事です。既に一年生の中でアズリー君は問題児。であると同時に、首席であった事が公になっている。学生自治会に入れるだけの実力があり、その学生自治会も『問題児を管理する為』だと主張も出来る。そして何より、君は白の派閥です。こんな好物件、見逃すはずがありませんよ」
「……俺がこの自治会に入れば、その契約書を不問……いや、私に預けてくれますかね?」
「いいでしょう。たかが女学生の一人や二人の契約書等、会長の権限でなんとかするのは造作もありません」

 ウォレンはニヤリと笑いながら契約書を丸め、前に差し出した。
 俺はその巻物を受け取り、改めてその契約書を確認する。確かに俺が編集したものだった。

「ふふふ、決まり、という事ね」
「有能な人材は歓迎しますよ、アズリー君?」

 その日の内に、俺は学生自治会入りとなった。
 肩を落としながら救護室へポチを迎えに行くと、救護室の前の廊下でお腹の膨れたポチが幸せそうな顔で寝息を立てていた。
 俺は、寝ているポチの膨れたお腹をぐいぐい押しながら、苦しそうな声を出すのをしばらく聞いていた。
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