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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第五章 ~古の放浪編~

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◆170 悠久の連携

お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。


「アォオオオオオオオンッ!」


 ポチが威嚇を込めた遠吠えを発する。

 天獣となった今、魔力は狼という獣を超える。

 その圧倒的な存在感が放つ魔を込めた遠吠えに、炎龍たちがたじろぐ。

 しかし、相手は竜族。身体が反応しても誇りがそれを許さない。

 口元に広がる(くれない)は、巨大化して格好の的となったポチを狙い定める。


「「ガァアアアアアアアアアアアアッ!!」」


 一斉に放たれた煉獄のブレスは、瞬時にポチたちに迫る。


「ぬりゃ!」


 自身に喝を入れるようにアズリーが放った声。

 正面に出された両手に合わせるように魔力の壁が現れ、炎龍たちの圧を受け止める。


「ぬぎぎぎぎっ」

「ほらマスター! さっさと行きますよ!」


 ポチに後ろ襟を咥えられるアズリー。

 ようやく消えたブレス群にホッとひと息吐く。


「はい!」


 思い切り首を下から上まで振り上げ、アズリーを上空高くへ放り投げるポチ。


「うぉおおおおおっ!? ……くっ、ポチ・パッド・ボム!」


 肉球体の爆撃は二頭の炎龍を巻き込む。

 地に落ちていく二頭の最後を見た炎龍たちの、更なる咆哮がビリビリと伝わってくる。


「ガァアアアアアアアアアアッ!」


 しかし、その炎龍たちを出し抜くように、同時にポチの零度ブレスが届く。

 渦を巻くように数頭の炎龍を凍りつかせ、その命を奪っていく。


「マスター、乗ってください! まだまだいますよ! ここからは逃げます!」

「わか――――っ! いや待て、先にあの五頭の炎龍のところへ行ってくれ! ガイルさんの魔力がそろそろ尽きる!」

「かしこまりました!」


 着地を迎えるようにアズリーを乗せ、ポチがガイルの下へ走る。

 加速の衝撃に耐えるアズリーは、最初にガイルの頭上の炎龍を狙う。


「ほい、クロスウィンド!」


 下にはガイルがいる。

 魔法にそこまでの威力を求められないアズリーが中級系風魔法で牽制する。

 その接近に気付いたガイルを囲む四頭の炎龍がギロリとアズリーたちを睨む。

 しかしその瞬間には、ポチは既に炎龍の足下を避け、疲弊するガイルの側まで近寄っていた。


「お見事!」

「当然です!」


 この声に反応し、炎龍の視線がガイルに戻る時、ガイルはアズリーたちに距離を詰め、その最も近くにいた炎龍の首を切断した。

 ガイルの背中を抱えるようにアズリーの腕が伸びる。

 すぐにガイルを前に乗せるアズリー。

 既に死体となった首なし炎龍の身体を踏み台にし、ポチが跳び上がりながら上空の炎龍を零度ブレスで吹き飛ばし、アズリーは炎龍の囲いの中央に向かってポチ・パッド・ボムを放つ。

 ガイル、ポチ、アズリーの一瞬の攻撃で、五頭の炎龍は消え去った。


「ガッ! ハッ……ハァ…………よう、久し……ぶりだな……」

「ハイキュアー・アジャスト!」


 ほんの掠り傷程度だったが、アズリーはスウィフトマジックでの大魔法を使ってガイルを回復させた。

 無理をして見えない箇所に深手を負っている可能性を考慮したのだ。

 ガイルの無理やりの軽口にアズリーは何も答えられなかった。

 ただ背中を支え、勇敢な男を敬意の眼差しで見つめるだけ。


「マスター、アレを!」


 ポチの声で気付いたアズリーが懐からポチビタンデッドの瓶を取り出し、ガイルに差し出した。


「はぁはぁ……あぁ? 何だこれ、飲めってかっ?」

「毒薬ですよ! さっさと飲んでください!」


 先程の軽口にようやく答えたアズリーに、ガイルは口元を緩めて応え、瓶の中身を一気に飲み干した。

 騎手を気遣うように緩やかに着地したポチは、背後からの怒気を受け、弧を描くように脚を進めた。

 自分が、アズリーが側面からその接近を確認するためである。


「接近約四十!」

「距離、およそ百です!」

「狙いはいい! 全力で密集地帯の中央に向かって(きわみ)ブレス!」


 その指示に、ポチは一瞬で脚を止める。


「ひゅ~……ガァアアアアアアアアアアアアッ!」


 ガイルが目を点にして捉えた一筋の青光は、十頭もの炎龍を包み、そして消していった。

 口から煙が漏れるポチはまたすぐに駆け、ガイルの身体に強烈な負荷を掛ける。

 ポチの背中を掴み、それに耐えようと疲労した身体に鞭を打とうとした時、ガイルの身体に異変が起きる。


(…………疲れが……ない? っ!)


 ガイルが先程の瓶の中身の意味に気付き、はっとなって振り返った時、アズリーは背後で不可解な行動をしていたのだ。


「ほい! ほいのほい! ほほい! ほいのほいのほいの……ほい!」


 不可解……とは、無論ガイルにとってだ。

 アズリーはポチが作った時間を利用し、スウィフトマジックの再設定をしていたのだ。

 そしてポチは、その行動に気付き、再びアズリーに時間を作るために炎龍を倒し続けた。

 その時――――


「嘘……だろ?」


 ガイルが山の頂上を見据えて呟いた言葉には、驚きよりも絶望の方が多く含まれていた。

 山の山頂に蠢く黒い雲のような塊。

 それは決して雲ではなく、一つ一つ小さく上下に動いている。


「まだあんなにいやがったのか……」


 ガイルが見た炎龍の群れは、少なくとも百頭以上はいた。

 アズリーの魔法、ポチのブレスにより既に五十頭以上は炎龍を倒した。

 しかし、未だ追って来る炎龍は五十頭以上。

 山頂付近に百頭以上。

 ガイルの耳にはポチの切れた息の音が届いている。事実、ポチの動きが止まってしまえば勝ち目はない。


「お、おい! あの飲み物は!?」


 そう理解していたガイルの耳に、背後から奇妙な言葉が届く。


「へばったか、シロ!?」

「ぜっ、ゼぇ……どうって事…………あるわけないでしょう!」


 アズリーにポチビタンデッドのストックはもうなかった。

 それはポチも理解していた。

 あの段階でガイルに飲ませなければ、ガイルは振り落とされて死んでいたからだ。

 その理由に気付いたガイルは開いていた口を閉じ、唇を噛む事しか出来なかった。


「何とか奴らをまとめてくれ!」

「それが出来たら苦労はしません!」

「知ってた! ならこうだ! ほいのほい! グラビティロード&リモートコントロール!」


 アズリーの宙図(ちゅうず)から重力魔法が発動する。


「ぬ!? 何こんな時にふざけてるんですかっ!」


 そしてそれは炎龍の群れだけではなく、アズリーたちにも降り注いだ。


「ぐ! ……こ、の魔法は?」


 自身の身体の重さに耐えるガイル。

 ポチは悪態こそ吐いたが、アズリーがこの状況でふざけるとは思っていなかった。

 けれどその意図を理解出来ず、重力にあてられ、迫る炎龍たちを警戒する事しか出来ない。


「ぬぅ……こなくそ! ほほい! マジックカラー!」


 今度は空に魔法を放ち、弾けた魔法陣から虹色の光子が降り注ぐ。

 瞬間、ポチは目を見開き、アズリーの意図を知った。

 アズリーの魔法によって魔力が色付けされ、重力魔法グラビティロードの発生箇所が判明したのだ。

 それは、重力の道が炎龍たちの動きをコントロールし、その動きからポチが炎龍たちを引き連れ、一ヶ所にまとめる作戦だった。

 後はただ行動に移すだけだった。

 ポチは気力で駆け始め、避け、跳び、煉獄のブレスが届く中、針に糸を通すようにかわし、(はや)く動いた。

 不可解な重力壁を嫌い、炎龍たちはポチの術中に見事にはまった。

 道の渦の中心……四方が重力で覆われる囲いにポチが辿り着く。

 それになぞるように滑空し着陸した炎龍たちの数およそ八十。

 笑みにすら見える大きく開いた口から巨大な咆哮がガイルの心臓を掴む。


 しかし、

「フウァールウィンド!」


 宙図(ちゅうず)を成さないアズリーのスウィフトマジック。

 足下から吹き上がる風に乗り、ポチが跳躍。

 上空にはない重力魔法の効果を掻い潜る。

 無論翼のある炎龍たちは後を追おうと翼を広げ、砂塵を吹き上がらせ羽ばたこうとする。

 その一瞬、アズリーによるスウィフトマジックが再び発動する。


「グラビティスタンプ!」


 アズリー、ガイルを乗せたポチの跳躍で一足先に脱出した渦状の重力の道。

 蓋をされるように塞がれた見えない天井に炎龍たちの顔が歪む。

 逃げられる道はただ一つ。

 無数の同胞で埋め尽くされた往路。


「アースコントロール!」


 三つ目のスウィフトマジックで無数に現れる強固な土壁。

 完全に閉じ込められた炎龍たちの煉獄ブレスを、身体を捻ってかわすポチ。

 その背に乗ったアズリーが炎龍最大の好敵手、水龍の牙から作った杖を掲げた。


「ポチ・パッド・ブレスッ!!」


 狙い定めたのは渦の中心。

 小さな山かと思える肉球型の巨大な水の塊。

 ポチが着地し、そのフラフラの身体を小さくさせ横たわらせる。


「こへっ……こへっ!」

「おい……大丈――――おわっ!?」


 ガイルがポチを気遣う間もなかった。

 巨大化が解除されたポチはアズリーに担がれ、ガイルもまた持ち上げられてしまったのだ。

 アズリーが叫ぶ。


「逃げろ逃げろ逃げろーっ!」


 ポチ・パッド・ブレスの爆発時間が迫る。

 唯一魔法の威力を知るアズリーの顔は、ただ事ではない程、焦燥し、崩れ、歪み……そして泣いていた。

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