139 スプーンを持て
「ホントにやるんですか、マスター?」
「やっぱり今の戦闘方法だと、どうしても俺がモンスターに止めを刺すパターンになる。そうなると身体を張るシロにEXPがまわらないしな。今まではシロのレベルが最大になっていたからしなかっただけだ。となると…………これしかないだろう」
「マスターが私のレベルに追いつくまでは……って事でもいいんですよっ」
ふふんと鼻を鳴らしてポチは言った。
いつもは本当に皮肉に感じるが、こういう時のポチは真面目で、これが照れ隠しだという事はわかる。
ジョルノ、リーリアとともにソドムを出て半日。外敵から見つかりにくいワイバーンの巣を発見し、そこで休憩をとる。
後方は崖、前方は森以外細い獣道のみとなっている。本来この道を使う人間は少ないが、冒険者たちはブルネアに続く近道として好んで利用するようだ。
ランクCのワイバーンではあるが、群れを成すと脅威はランクSに匹敵し、そんな討伐が冒険者ギルドに依頼されると、当然それに見合った難度となる。
勿論そんな危険な場所で休憩する命知らずはいないが、つい今しがた、ジョルノの特殊技、《ブレイブレイド》で一瞬で一掃されたんだ。
あれこそ正に一閃という技だった。俺の目には単純な横払いに見えた攻撃は、後に聞いた話では縦横無尽の十二の斬撃を飛ばすものだと言っていた。
斬撃を飛ばす技は確かに存在するが、これだけの広範囲、高威力のものは初めてお目にかかった。
従来……と言うのもおかしいが、魔力を剣先に込め、剣速を上乗せして放つらしいが、俺の時代の戦士であれば、一撃を放つにしてもその「溜め」が絶対に必要だ。
だがジョルノは溜める素振りも見せず、一撃一撃を見えない速度で放ち、尚且つ威力は強力ととてもお得で気軽な感じでそれを使っていた。
かの黄竜もこの技で仕留めたのだとか言っていたが、これなら奴に速度負けしなかったのも理解出来る。
この時代の近接戦闘型の人間と、俺がいた時代の戦士の違いをレベル以外で上げるならば、こういった魔力操作によるものが大きいのかもしれない。
戦士としては余りある魔力を無駄なく利用し、戦闘に活かす。
本質的に言うならば、技を発動する際に魔力を使っているのがブルーツたちで、技の中にある動きの一つ一つにすら魔力を使うのがジョルノたちだ。
現代の魔法士よりも卓越した魔力操作技術。これだけで戦闘がいかに楽になるかが理解出来る。
勿論それには保有する魔力が強大でなければならないというのが実状だ。限界突破が出来るこの時代だからこそ伸びた力だろう。
ポチのレベルが三十二も上がった時に気付いたが、レベルが百を超えた段階でHPとMPの向上率が飛躍的に伸びていた。そしてそれは動きにまで顕著に表れ、攻撃力、速度、反応速度ともに劇的に変化した。
もうポチ一人でランクSのモンスターと対等に戦える程に。
しかし、まとまったモンスター群を一掃する時、強力なモンスターに止めを刺す時は、どうしても俺の魔法になりがちだ。
だから今回、ポチと話した末、使い魔契約の上書きをする事にした。
これは、互いが得るEXPを均等に分配するための必要項目を付け足すものだ。
これによって、俺がモンスターを倒そうが、ポチがモンスターを倒そうが関係なくEXPを得る事が出来る。
三年前、あのダンジョンから旅立つ時に、ポチのレベルを利用してこれを行おうとしたが、実戦経験なくレベルだけを上げる事を危惧したポチは当然それを断った。
だが今回はそうじゃない。俺もポチも理解しているからこそ「本当にいいのか?」と心配するポチと、「本当にいいんだ」と返答する構図が出来上がった訳だ。
「――これでよし……っと」
「おや? 案外すんなりとおわりましたね?」
「結構簡単なもんだからな。使い魔契約の公式の上書きと、シロの意思の確認だけだし。それに、こんな簡単な魔法を失敗する程、俺も馬鹿じゃないって事さ」
「おい、そこのお馬鹿」
はい、馬鹿です。
「なんでしょうリーリアさん……?」
「必要ない時に魔力を使うなんて非常識だぞ。近くにモンスターがいた場合、微弱な魔力だと判断されて捕食対象になるわよ」
「あ、あれ? ここら辺のモンスターは、そんなに魔力に対して敏感な感覚をもっているんですか?」
「魔王の胎動期が始まった時、国からそう発表されただろう?」
「あ、あぁ……えーっと…………ハハハ……」
俺の様子から察したのか、リーリアは呆れた顔で溜め息を吐いた。
なんだろう、いつも見ているアイリーンの溜め息とは違った、完全に呆れられた目と表情。美形なエルフの顔がここまで歪むのかという程の印象だ。
「おいジョルノッ、こんな護衛契約なんて破棄してさっさとブルネアに行こうよ!」
「はっはっは~、馬鹿言うんじゃないよリーリア。お前が大食い勝負で負けて場の支払いをさせられたからこその護衛だぞ。目的地にも向かえて尚且つ金も手に入る。一石二鳥だって喜んでたのはお前だった気がするけど、別人だったか~?」
ニヤニヤと皮肉るジョルノに、悔しそうな様子のリーリア。おそらく敗北した時の様子を思い出しているのだろう。
そうか、そんな理由があって……。
ジョルノたちの金が無くなり、その金を俺たちが得て、ジョルノたちへ支払う。
なるほど、世界の金はこんな身近なところでも回っているんだな。賢者のすゝめに書いておこう。
だがしかし、リーリアの視線だけは理解できない。何故俺を睨むのだろう? リーリアに勝利したポチにこそその視線を向けるべきではないのだろうか?
「だけど、ポーアさんがいると旅が遅くなるのは事実だ」
せめて俺のいないところで依頼主の愚痴をこぼして欲しいのだが、ジョルノ君?
「という訳で、ポーアさん。疲れてなければ付いて来て欲しいんだけど?」
「あ、えぇ。大丈夫ですけど……」
俺はポチを置き、案内されるがままにジョルノの後ろに付いて歩いた。
崖を軽く飛び下りるジョルノと、フウァールウィンドを使って下りる俺。一瞬自殺志願者かと思ったが、何でこんなに簡単に着地出来るんだ?
これもレベル差の問題か? それとも金剛体の技を使って?
そんな考えを巡らせていると、ジョルノは足を止めて崖の真下を指差した。
先に見えるのは広大な森林。そしてその中心にぽっかりと空いた広場のような草むらがある。そこには米粒のような存在が動いている。
あれは…………マスターゴブリンの群れ?
そう理解した俺はジョルノに向き直った。その時既にジョルノは、人差し指を立ててにっこりと笑っていた。
「一つ、マスターゴブリンは飛べない。一つ、マスターゴブリンはこの崖を上る術を持たない。一つ、マスターゴブリンはここまで攻撃を届かせる術を持たない――――」
「え、ちょっと――――」
「一つ、ポーアさんの魔法ならマスターゴブリンを一掃出来る。さぁ、頑張っていこ~」
にこやかに、それはそれはとてもにこやかに送られた言葉だった。
ランクAのマスターゴブリンの群れを、遠隔魔法攻撃で蹴散らせと言っているのだ。
あの数、とんでもない数だ。二百匹はいるだろう。
戦ってみて気付いたんだが、やはり胎動期のモンスターはとても強力になっている。
あの神の使いの爺さんが一段階力を上げると言っていた理由がわかった。ランクが丸々一段階あがるという訳ではないが、やはり強い。
しかし、それに伴って得られるEXPも増えていた。
ならば、ランクSに近い実力を持ったマスターゴブリンをこの数だけ倒せれば、俺もポチも、少しはレベルが上がる。ジョルノはそう判断したのだろう。
「でも、これでいいんですかね? 実戦を積まずしてレベルだけ上げるような事で……? それに先程リーリアさんに魔力を使うなと――」
「ポーアさん、今あなたは実戦の場に立つ事すら許されないレベルだ。赤ん坊が食事をする際、母親に食べさせてもらうように」
赤ん坊を例えに出されると、非常に情けなくなってくる。
「せめて、スプーンくらいは持てるように力をつける。これに関して……どこか間違ってるかい?」
ふーむ……複雑な気持ちだが、確かに一理ある。
ブルネアに付いたら二人とはまた別れるだろうし、それまでは勉強させてもらうか。
問題はブルネアに着いたらどれだけレベルが上がってるか……だな。
「僕もここで見物させてもらうから、危ないモンスターが近付いて来たら僕が変わろう。お金は多めに貰ってるからね。これくらいはサービスしとくよ」
「ははは、助かります」
俺の苦笑に笑顔で返答するジョルノは、「さぁ」と促して俺を見た。
この規模、この数ならばポチパッド・ブレスがいいんだろうが、周りの被害を考えると、的確に狙った方がいいだろうな。
「よぉおおおおっし! ……ほいのほい、オールアップ!」
ジョルノがにこやかに見守る中、お馴染みの強化魔法を使った俺は、杖先をゴブリンマスターの群れに向けた。
申し訳ありません。
発売初週故、しばらくCMさせてください。
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これからもアズリーとポチを宜しくお願い致します。
※初日のデータとしては好調だと連絡がありました。皆様、本当にありがとうございます!




