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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第四章 ~ランクS編~

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◆115 ほいのほい

 ―― 戦魔暦九十四年 三月三十一日 二十二時四十分 ――


 リナに呼ばれたライアンたちが、ポチズリー商店を訪れた。


「……心配したぞ、ティファ」

「長、お久しぶりです」


 ティファがライアンに頭を下げる。ただこれだけの動きに、大いに頬を膨らませたタラヲが目を丸くした。

 そしてライアンに羨望と畏怖を込めた眼差しを向けたのだ。

 肩をぽんと叩き、我が子を見るような瞳でライアンはティファを見る。

 周りの目からか、ティファは少し顔を赤らめて恥ずかしさを見せる。その微笑ましい視線から逃れるようにフードを被る。

 リードやマナ、レイナにアドルフが無言で恥ずかしがるティファの頭を撫でていると、リナは嬉しそうにそれを眺めていた。


「しっかし、ティファちゃんもアズリー繋がりとはね」


 けたけたと笑うブルーツ。


「リナさんの妹弟子でありんしたか。どうりで……」


 思い出すように春華が言う。

 すると応接間にいる皆がそれに反応した。どうやらその続きが気になるようだ。


「その…………魔法発動前の掛け声が――」


 春華が全てを言い終えるまでに応接間に「あー」という理解の声が響く。

 それはタラヲの頭の上に「?」を生み、リナの顔に喜びを生み出した。


「そういえばそれトレース先生も最近真似し始めたんだよっ」


 明るい声でナツが言った。ナツとトレースに接点を見いだせないリナは、その意味を周りに求めるように見回した。

 すると、ブレイザーが肩をすくめて言ったのだ。アイリーンの紹介で、ナツの魔法指導をトレースが行っている事を。

 この衝撃の事実に驚きを隠せないリナ。


「すまないな。私も先日知ったんだ。まったく、ナツには驚かされる」


 申し訳なさそうにブレイザーが付け加える。


「ナツ、魔法ならララが教えてやったぞー!」

「だってララの宙図(ちゅうず)って速くて覚えられないんだもん!」

「お師匠様ぁああああっ! 速ければ速い程いいと言ったのは間違いだったのですかっ!?」

「「いつの時代、どこの世でも例外はあるのだ」」


 ツァルの諭すような言葉にララが頭を抱え叫ぶ。


「ぅううううううっ! ではそのご指導を!」

「「明日だな」」

「わっかりましたー!」


 ツァルの言葉にリナがはっと驚きを見せ、リードが首を傾げた。


「どうしたリナ?」

「いけない。明日……魔法大学の入学式……」

「あ、そうだった」


 ティファが思い出したように言うと、タラヲがそれに続く。


「ティファ、お主明日『新入生代表の挨拶』とやらがあるのではなかったか?」

「もしかして、新入生代表のティーナって……ティファなの?」

「本名は……その、隠したほうがいいと思って」


 心配性なティファに苦笑するリナ。


「ほぉ、それでは我々も明日、入学式に参列するとしようか」

「それは名案ですわ、長っ」


 レイナが同意すると、ナツ、イツキ、そしてララとツァルが続き、銀の三人も同意したのだ。


「ちょっと、べ、別にそういうのしなくていいからっ。リードとかマナなんて、来たら引っ叩くから」

「おー! それじゃあ引っ叩かれる覚悟で行ってやらぁ!」

「そうね、慣れてるわ」


 応接間が笑いに包まれ、珍しくもティファが剥れている。するとタラヲはリードを見上げティファには聞こえないボリュームで囁くように言ったのだ。


「お主、()い胸をしているな」

「……ぁん?」


 それだけ言うとタラヲはトコトコと部屋の隅まで走って行った。

 リナはそれを追うようにタラヲの下へ行くと、しゃがみ込んで挨拶をしたのだ。


「久しぶりだね、タラヲちゃんっ」

「ほぉ、我輩を覚えていたか。もし忘れていた素振りを見せたのならばお主に明日はなかったぞ?」

「覚えてるよ~。ぅりぅりぅり~」

「ぉ? お? おほほほほほ。中々の指使いだ。うむ、入学式まで顎うりを続ける事を許す」

「あはははは、入学式までは無理かな~」

「そ、そうか? では可能な限り続けるのだ」

「ふふふふ、は~い」


 顎を撫で続けるリナを前に、薄目になって気持ち良さそうに尻尾を振るタラヲは、リナの肩から覗くララとイツキを見た。


「何の用だ女子(おなご)ども。我輩の背中ならば撫でるスペースがあるであろう。さぁ、どうだ?」

「この犬もばか可愛いなー!」

「な、この狼王ガルムを馬鹿と言うか貴様っ」

「あー、ララの言う『ばか』ってのは『凄い』って意味なのよ。ごめんねー、タラヲちゃん」


 イツキが許しを求めるように撫でて言うと、タラヲはすぐに元の表情に戻り「ならばよい」と呟いた。


「な、なっ! ララも撫でていいかっ? なっ?」

「うぅうぅうぅうぅ~……許す」

「おー!」


 ララがイツキの反対側からタラヲ撫で始めた頃、後ろでしていたブルーツたちの話がまとまった。


「おっし、そんじゃ明日はいっちょティファの晴れ姿を拝みにいくか!」

「もう…………勝手にして」


 小さく溜め息を吐いたティファの肩を再び後ろからライアンが触れる。

 見上げるティファの目には、とても嬉しそうな男の姿が映っていた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―― 四月一日 午前八時四十八分 魔法大学中央校舎 ――


 魔育館前ではクラリスとアンリが案内を務めていた。

 魔育館内ではむすっとしたイデアとミドルスが立ち、壇上の下に置かれた椅子に座るオルネルを睨んでいる。

 大方彼に無理を言われのだろう。


「イデアさん、ミドルス君。嫌々でも引き受けたのならばちゃんとしてください」

「でもよぉトレース先生。俺たちが引き受けたのは昨日までの準備だぜ?」

「一般席に着席しようとしたらオルネルに騙されてこのザマだよ。ったく、人使いが荒いよ」

「あら、そうでしたか。ふふふ、それだけオルネル君が有能な存在になったという事ですね」


 オルネルを見て微笑んだトレースはヒールを静かに鳴らして奥へ入って行った。


「はぁ……もう粗方入ったんじゃないか? そろそろ俺たちも戻って――」


 ミドルスがそう言いかけた時、入り口の方から大きな掛け声が響く。


「おっ! やってんな、イデア! ミドルス!」


 聞きなれた声に振り向いた二人。

 するとそこにはララの背負うリュックから飛び出たツァル。そしてララを肩車するブルーツの姿が見えた。

 アンリ、クラリスも気付き、見知った顔に明るい表情となる。


「「ブルーツさん、ブレイザーさんっ」」


 ブルーツと同じようにナツを肩車したブレイザーが後ろから現れ、更に春華、イツキと続き、その後方からはライアンたちが歩いて来る。

 そしてその異様さにミドルスの頬から一つ冷たい汗が垂れる。


「おい……ありゃあ何だ?」

「おそろしく鍛えこまれた集団だね。特にあの後ろにいる中年の男、やばいね」


 イデアも感想はミドルスと同じようだ。

 参列者の明記を終えたブルーツたちは、軽く挨拶しながら二人の間を通り抜ける。


「こちらをお使いください」


 クラリスがライアンに羽ペンを渡す。


「ありがとう」


 優しくほほ笑みかけるライアンに、クラリスは顔を赤らめた。息が詰まる瞬間を目撃したアンリがそれを見送ると、肘でクラリスを小突いた。


「ちょ、ちょっとっ。クラリス、アナタ大丈夫っ?」

「ふふ、ふふふ、歳上の男性って魅力的ですよねぇ……。アズリーさん然り。この……ライアンさん然り」


 記帳された名前を見てとろけた表情のクラリス。

 アンリはそれを見て呆れた様子で言った。


「ったく、アズリーさんはそこまで歳が離れてないだろう。まぁそう言いたい気持ちもわからないでもないけど。っと、そろそろ時間だね」

「そのようですわ。さ、私たちも参りましょう」


 ―― 四月一日 午前九時 魔法大学中央校舎 ――


 魔育館内ではざわついた声が止んだ。

 それは、魔法大学大学長のテンガロン率いる魔法大学の主要な面々が壇上にある席に着席したからである。

 その中には、アイリーン、トレース、リナ、オルネルの姿も見受けられる。

 学生自治会会長リナの起立とともに、在校生、講師陣が揃って立ち上がる。

 ピアノの鍵盤が弾かれ、校歌の斉唱が始まる。


『腕もげようとも 前に進め

 脚もげようとも 前に進め

 祖先の心 熱き魂

 魔法の心 希望の光

 白黒連鎖の果ての果て

 ベイラネーア ベイラネーア

 あゝ我等の 魔法大学 魔法大学』


 乱れぬ斉唱ではあったが、一般席で後方からそれを見るブルーツが呟く。


「歌い出しはどうかと思うぞ、これ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 入学式では、校歌斉唱の後、一年生担任紹介、大学長テンガロンの式辞、来賓であるドラガンとジェイコブの祝辞が送られた。

 在校生歓迎の言葉で、リナは学生自治会会長という姿のみならず、その教養に満ち溢れた姿、言葉、知識、経験を語りライアンたちを驚かせた。

 輝く光の中で雄弁と語る妹の姿にリードとマナは涙し、アドルフは顔を紅潮させてリナを見つめた。

 ナツとイツキの目は輝き、ララは早朝の畑仕事の疲れからかぐっすりと眠っていた。

 嬉しそうなライアンの手をレイナが微笑んで包み、ブレイザーは静かに、ブルーツは周囲をざわつかせる程泣いた。

 当然リナはそれに気づき、その一帯をネタとして使い、「この喜びの声を原動力とし、成長にいかし切磋琢磨してください」と対応力のある挨拶をまとめた。

 儀礼上の拍手ではないそれは、会場を揺らし、新入生席から見上げるティファの心を揺らした。

 新入生代表のティファ。ティーナという偽名で入学こそしたものの、リナが安全を約束し、名前が誤表記だったとしてしっかりとティファという名前に修正された。

 無論、そこにトレースの協力があったのは言うまでもない。


 新入生代表の挨拶では淡々と読み上げるティファの無気力さは、周りから「初々しさ」ととられ、ささやかだが背中を押す拍手が送られた。

 やはり使い魔を連れている事が周りの目に触れ、期待というざわめきが一瞬魔育館に響いた。

 微笑ましい様子をライアンたちは見守った。

 無事入学式を終えると、アズリーやリナがそうだったように、ティファたち新一年生はトレースに率いられ教室へと案内されたのだった。

①実は二巻の店舗特典でナツとトレースのお話「トレースの一日」があったのです。

そういったSSもいつか投稿出来るように担当さんに相談してみます。

いつか、たぶん、きっと。


②次回で「111 ベイラネーアへの帰還」に繋がると思います。

たぶん、きっと。


③こんな話が見たい! 読みたい 等、あれば是非聞かせてください。勿論、時系列に支障がない話ですが……。掘り下げて欲しいお話などあれば是非!



いつもご感想、ご指摘本当に助かっています。

本当にありがとうございます。

これからも応援宜しくお願い致します。


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